第58話

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 12月2日、修学旅行三日目。
 明日の夕方には先輩達が仙台に戻って来る。一年生と三年生しか居ない学校とももうすぐお別れだ。
 先輩達、お土産話を持ち帰ってくるのだろうか――とお昼を食べながら物思いに耽っていると――。

「ねえヤス、今日はどうするの?」

 朋恵が僕に話しかけてきた。

「何って、今日もいつも通り西校舎に行って練習をしようかと思うんだけど、それがどうかしたの?」

 何せ、僕はまだe-Sports愛好会に入って一、二か月しか経っていない新人だ。一にも二にも練習するしか、先輩達や藤島さん、そして那須君に追いつけない。
 しかし、そんなことはお構いなしに朋恵が僕に向かって話し掛けてくる。
 それに、胸を強調するのはちょっと控えてくれ。目のやり場に困る。

「実を言うとね、ここ二日間e-Sports愛好会にお世話になったじゃない。今日と明日はそのお礼として、チア部の練習を見学してもらいたいかなぁ~、なんて」
「チア部の練習? 冗談、顔だけにしてくれよ」
「いや、それが冗談じゃないのよね~。e-Sports愛好会には体力のありそうなヤスに那須君がいるそうじゃない? 藤島さんもだけど」

 そういや、藤島さんは今どうしているのだろうか? 僕は藤島さんの座っている方向に目を向けた。
 ……相変わらず、学校指定のタブレットPCを片手に動画を見ていたな。ご丁寧にイヤホンをつけてまで。ただ、弁当は流石に食べ終えていたみたいだけど。

「……別に良いけど」

 昨日射撃のお手本を見せたんだ。これくらいどうってことない。

「やったぁ! 早速マナとコーチにも伝えておくね!」

 朋恵はそう話すと、壁際からちょっと離れた席に座っている愛未の方に向かっていった。
 一昨日と昨日の件があるし、チア部の練習に付き合っても良いかな。

 ◇

 その日の放課後、授業が終わってから僕と那須君はe-Sports部の部室で着替えてから体育館に向かった。なお、藤島さんからは「チア部の部室で着替えてきます」とLINEが入った。
 キャッキャウフフしながら着替えしている様子を思い浮かべると、『羨ましい、あぁ羨ましい、羨ましい!』と叫びたくなりそうだ。

 僕達二人が体育館に辿りつくと、着替えを済ませた米沢さん達はマットなどの用意をしていたところだ。
 約二ヶ月前に気まぐれを起こしてチア部の練習を見に行った時は一言、二言話しかけられた後に倒れたけど、その……ちょっと刺激的だなと思う。

 米沢さんと朋恵、愛未はともかくとして、片倉さんや見学に来ている藤島さんまでもが胸元が開いたタンクトップに胸元から見えるスポーツブラ、短めのフレアスカート、ストライプの入ったアームリスト、ネックバンド、右脚の太腿を飾るレッグバンド、そして足元を覆うハイソックスと、女子高生が身につけるには刺激的なコスチュームに身を包んでいた。
 藤島さんは胸がそんなに膨らんでいないせいもあってか目立たないけれども、米沢さん達――もちろん、片倉さんも含む――までも胸のところが際立っている。
 他の学校はもうちょっと大人しい感じがするが、うちの学校は何故かこう、ちょっと露出が激しいのはどうしてなんだろうか。

「米沢さん」
「ん? 何?」
「衣装が随分派手だけど、どうして?」

 米沢さんは微笑みながら僕の方を向くと、「そりゃ、ちょっと派手なのがみんな見てくれるからでしょ」と答えた。
 泉第一と泉第二にもチア部はあるけれども、そちらはずいぶん大人しかったような……。

「以前は泉の高校と似たようなものだったけど、差別化する意味合いもあって去年からこのようなユニフォームになったんだ。……ちょっと恥ずかしいけどね」
「まぁまぁ、堅いこと言わないでよマナ。アタシは結構気に入っているよ、この格好」
「トモがそう言うならば良いけど……全く」

 愛未が恥ずかしそうな表情を浮かべていると、「お待たせ~!」という声と共に朋恵達と同じコスチュームをしている女性がステージのすそにやってきた。
 身長は160センチ台中頃で、身体はある程度出るところは出て引き締まるところは引き締まっていて、それに臀部まであるさらさらとしたロングヘアーをポニーテールのリボンでまとめていた。リボンの柄はコスチュームに合わせる形にしているのかな?
 一方で、顔つきは藤島さんをちょっと大人にして、表情を豊かにした感じ……かな。

「蘭さん、お久しぶりです」
「久しぶりだね~。……ん? ひょっとして今日はチア部の体験入部かな?」
「ええと、その……」

 蘭さんと呼ばれる女性に問いかけられてちょっと戸惑う藤島さんだったが、そこに僕たちの後ろに居る朋恵達が割って入る。

「二日間一緒に遊んでくれたお礼に、アタシが誘いました」
「e-Sports愛好会の藤島さんから月曜日に『遊びに来てくれないか』とお誘いがありまして、今日はそのお礼です」
「そうなんだ~。でも、チア部の体験入部なんて意外じゃない?」
「昨日まで楽しませていただきましたから、これくらいどうってことありません」

 朋恵達が説明すると、蘭さんは「なるほどね」とにこやかに頷いた。

「あぁ、自己紹介がまだだったね。私は長門(ながと)(らん)、ここのチア部のOGで今は泉にある大学の二年生だよ。よろしくね」

 そう話すと、蘭さんは僕に向かって握手を求めてきた。

「e-Sports愛好会所属で1年3組の富樫泰久です。よろしく……お願いします」
「泰久、か……。ヤス君って呼んで構わないかな?」
「ええ、それで構いません」

 自己紹介をすると、僕は彼女の手を握り返した。
 蘭さんの手は温かくて所々ゴツゴツしているものの、柔らかくて握り心地が良かった。
 最近は朋恵や愛未にも「ヤス」、もしくは「ヤス君」と呼ばれているから、蘭さんにそう呼ばれても抵抗感はないんだよな。

 蘭さんは那須君の方を向くと、「君って、ヤス君の知り合いなん?」と那須君に問いかけてきた。

「ぼ、僕ですか? ええ、富樫君と同じe-Sports愛好会所属で1年4君の那須義彦です」
「クスッ、よろしくね、よっしー」

 そう言って握手を求められた那須君だが、いきなり渾名(あだな)で呼ばれるのには驚いた様子だった。

「よ、よっしーって……照れるなぁ。でも、どうしてです?」
「義彦だから、よっしーで良いかなぁ~って思ったの。ダメ?」
「い、いや、そう呼ばれるの嫌いじゃないです!」
「照れちゃって、可愛いなぁ」
「か、可愛いだなんて、そんな……」

 二人のやり取りを見ていると、僕の後ろに居る朋恵がクスッと笑った。

「蘭さん、渾名をつけるのが好きだね」

 僕が話しかけると、朋恵は「そうだね」と答えた。

「蘭先輩はね、皆に親しみやすく接したいと思って、はじめて会った人には渾名をつけるようにしているんだ。アタシも先輩からは『トモ』って呼ばれているからね」

 なるほど、蘭さんってそういう人なのか。
 チアは体育会系なところがあるからちょっと心配したけど、彼女と一緒ならば頑張れるかもしれないな。

「それじゃあ、皆一列に並んで体育座りをして! 今日やることについて話しをするよ」
「「「「「「「は、はい!」」」」」」」

 蘭さんの掛け声とともに、僕らはステージの端から少し離れたところに横一列に並んで、一斉に体育座りをした。
 僕たちの後ろでは、男子バスケ部と女子バレー部が練習で汗を流している。そして、僕も同じように汗を流すのか――。
 こうなるのは実に三年半ぶりだけど、まさかそれがチアだとは思わなかったよ。



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 12月2日、修学旅行三日目。
 明日の夕方には先輩達が仙台に戻って来る。一年生と三年生しか居ない学校とももうすぐお別れだ。
 先輩達、お土産話を持ち帰ってくるのだろうか――とお昼を食べながら物思いに耽っていると――。
「ねえヤス、今日はどうするの?」
 朋恵が僕に話しかけてきた。
「何って、今日もいつも通り西校舎に行って練習をしようかと思うんだけど、それがどうかしたの?」
 何せ、僕はまだe-Sports愛好会に入って一、二か月しか経っていない新人だ。一にも二にも練習するしか、先輩達や藤島さん、そして那須君に追いつけない。
 しかし、そんなことはお構いなしに朋恵が僕に向かって話し掛けてくる。
 それに、胸を強調するのはちょっと控えてくれ。目のやり場に困る。
「実を言うとね、ここ二日間e-Sports愛好会にお世話になったじゃない。今日と明日はそのお礼として、チア部の練習を見学してもらいたいかなぁ~、なんて」
「チア部の練習? 冗談、顔だけにしてくれよ」
「いや、それが冗談じゃないのよね~。e-Sports愛好会には体力のありそうなヤスに那須君がいるそうじゃない? 藤島さんもだけど」
 そういや、藤島さんは今どうしているのだろうか? 僕は藤島さんの座っている方向に目を向けた。
 ……相変わらず、学校指定のタブレットPCを片手に動画を見ていたな。ご丁寧にイヤホンをつけてまで。ただ、弁当は流石に食べ終えていたみたいだけど。
「……別に良いけど」
 昨日射撃のお手本を見せたんだ。これくらいどうってことない。
「やったぁ! 早速マナとコーチにも伝えておくね!」
 朋恵はそう話すと、壁際からちょっと離れた席に座っている愛未の方に向かっていった。
 一昨日と昨日の件があるし、チア部の練習に付き合っても良いかな。
 ◇
 その日の放課後、授業が終わってから僕と那須君はe-Sports部の部室で着替えてから体育館に向かった。なお、藤島さんからは「チア部の部室で着替えてきます」とLINEが入った。
 キャッキャウフフしながら着替えしている様子を思い浮かべると、『羨ましい、あぁ羨ましい、羨ましい!』と叫びたくなりそうだ。
 僕達二人が体育館に辿りつくと、着替えを済ませた米沢さん達はマットなどの用意をしていたところだ。
 約二ヶ月前に気まぐれを起こしてチア部の練習を見に行った時は一言、二言話しかけられた後に倒れたけど、その……ちょっと刺激的だなと思う。
 米沢さんと朋恵、愛未はともかくとして、片倉さんや見学に来ている藤島さんまでもが胸元が開いたタンクトップに胸元から見えるスポーツブラ、短めのフレアスカート、ストライプの入ったアームリスト、ネックバンド、右脚の太腿を飾るレッグバンド、そして足元を覆うハイソックスと、女子高生が身につけるには刺激的なコスチュームに身を包んでいた。
 藤島さんは胸がそんなに膨らんでいないせいもあってか目立たないけれども、米沢さん達――もちろん、片倉さんも含む――までも胸のところが際立っている。
 他の学校はもうちょっと大人しい感じがするが、うちの学校は何故かこう、ちょっと露出が激しいのはどうしてなんだろうか。
「米沢さん」
「ん? 何?」
「衣装が随分派手だけど、どうして?」
 米沢さんは微笑みながら僕の方を向くと、「そりゃ、ちょっと派手なのがみんな見てくれるからでしょ」と答えた。
 泉第一と泉第二にもチア部はあるけれども、そちらはずいぶん大人しかったような……。
「以前は泉の高校と似たようなものだったけど、差別化する意味合いもあって去年からこのようなユニフォームになったんだ。……ちょっと恥ずかしいけどね」
「まぁまぁ、堅いこと言わないでよマナ。アタシは結構気に入っているよ、この格好」
「トモがそう言うならば良いけど……全く」
 愛未が恥ずかしそうな表情を浮かべていると、「お待たせ~!」という声と共に朋恵達と同じコスチュームをしている女性がステージのすそにやってきた。
 身長は160センチ台中頃で、身体はある程度出るところは出て引き締まるところは引き締まっていて、それに臀部まであるさらさらとしたロングヘアーをポニーテールのリボンでまとめていた。リボンの柄はコスチュームに合わせる形にしているのかな?
 一方で、顔つきは藤島さんをちょっと大人にして、表情を豊かにした感じ……かな。
「蘭さん、お久しぶりです」
「久しぶりだね~。……ん? ひょっとして今日はチア部の体験入部かな?」
「ええと、その……」
 蘭さんと呼ばれる女性に問いかけられてちょっと戸惑う藤島さんだったが、そこに僕たちの後ろに居る朋恵達が割って入る。
「二日間一緒に遊んでくれたお礼に、アタシが誘いました」
「e-Sports愛好会の藤島さんから月曜日に『遊びに来てくれないか』とお誘いがありまして、今日はそのお礼です」
「そうなんだ~。でも、チア部の体験入部なんて意外じゃない?」
「昨日まで楽しませていただきましたから、これくらいどうってことありません」
 朋恵達が説明すると、蘭さんは「なるほどね」とにこやかに頷いた。
「あぁ、自己紹介がまだだったね。私は長門《ながと》蘭《らん》、ここのチア部のOGで今は泉にある大学の二年生だよ。よろしくね」
 そう話すと、蘭さんは僕に向かって握手を求めてきた。
「e-Sports愛好会所属で1年3組の富樫泰久です。よろしく……お願いします」
「泰久、か……。ヤス君って呼んで構わないかな?」
「ええ、それで構いません」
 自己紹介をすると、僕は彼女の手を握り返した。
 蘭さんの手は温かくて所々ゴツゴツしているものの、柔らかくて握り心地が良かった。
 最近は朋恵や愛未にも「ヤス」、もしくは「ヤス君」と呼ばれているから、蘭さんにそう呼ばれても抵抗感はないんだよな。
 蘭さんは那須君の方を向くと、「君って、ヤス君の知り合いなん?」と那須君に問いかけてきた。
「ぼ、僕ですか? ええ、富樫君と同じe-Sports愛好会所属で1年4君の那須義彦です」
「クスッ、よろしくね、よっしー」
 そう言って握手を求められた那須君だが、いきなり渾名《あだな》で呼ばれるのには驚いた様子だった。
「よ、よっしーって……照れるなぁ。でも、どうしてです?」
「義彦だから、よっしーで良いかなぁ~って思ったの。ダメ?」
「い、いや、そう呼ばれるの嫌いじゃないです!」
「照れちゃって、可愛いなぁ」
「か、可愛いだなんて、そんな……」
 二人のやり取りを見ていると、僕の後ろに居る朋恵がクスッと笑った。
「蘭さん、渾名をつけるのが好きだね」
 僕が話しかけると、朋恵は「そうだね」と答えた。
「蘭先輩はね、皆に親しみやすく接したいと思って、はじめて会った人には渾名をつけるようにしているんだ。アタシも先輩からは『トモ』って呼ばれているからね」
 なるほど、蘭さんってそういう人なのか。
 チアは体育会系なところがあるからちょっと心配したけど、彼女と一緒ならば頑張れるかもしれないな。
「それじゃあ、皆一列に並んで体育座りをして! 今日やることについて話しをするよ」
「「「「「「「は、はい!」」」」」」」
 蘭さんの掛け声とともに、僕らはステージの端から少し離れたところに横一列に並んで、一斉に体育座りをした。
 僕たちの後ろでは、男子バスケ部と女子バレー部が練習で汗を流している。そして、僕も同じように汗を流すのか――。
 こうなるのは実に三年半ぶりだけど、まさかそれがチアだとは思わなかったよ。