第57話
ー/ー 同日、京都のとあるホテルにて――。
「おー、ヤス君からLINEだ」
「どうしたの、桜ちゃん」
「『今日もチア部の先輩達と盛り上がっています!』だって」
「やるじゃない、ヤス君」
桃花のLINEには、朋恵と泰久を中心としてチア部の一年生が勢ぞろいした写真が送られていた。
何気に楽しそうだけど、泰久はちょっと疲れた印象だった。
「へー、ヤス君からLINEが来ていたの?」
二人の会話に加わったのは、桃花と同じクラスでチア部に居る美礼だ。
何を隠そう桃花と桜花とは同じ班で、寝室も一緒だ。
「ほら、美礼も見てみる?」
「もちろんだよ! ……へー、ヤス君が一年生の子たちに囲まれているね。ヤス君ってこういうのが好きなのかな?」
「美礼、久しぶりに決まり文句を言ったね」
「止してよ、それはぁ」
三人がキャッキャしていると、同じ班の生徒が声を掛けてきた。
「美礼、そろそろお風呂に入らない?」
「あ、は~い!」
それぞれお風呂の用意を取り出すと、浴衣を羽織った三人はそれぞれ浴室に向かって歩みを進める。
「お風呂か~。そういえば昨日、御堂平の男好きな女子生徒が男子生徒と派手にヤリまくったって聞いたな」
「マジ?」
「マジよ。御堂平に居るあたしの同級生から、今朝LINEが届いていたの」
「その子ってひょっとして……」
「カモって子?」
国分姉妹が口をそろえて言う。
「そう、加茂円香。とびっきりの美人にして、御堂平一の問題児。昨年の夏に男子大学生と一夜を過ごしてから、失恋した男や童貞クンを見つけては食いまくっているそうよ」
「「うわ~」」
国分姉妹が顔を真っ赤にすると、美礼は二人ともまだまだ子供だなと思った。
それもそのはず、この間御堂平の生徒であり、彼女自身の幼馴染と付き合うようになったからだ。
(そういや、ソータもアイツに食われたのよね……)
チャラ男に幼馴染を食われ、スマホゲーに興じていたら問題児に初めてを奪われた美礼の幼馴染だったが、最近は少しずつ立ち直っているとのことだ。部活に時々顔を出しながらも毎日勉強を重ねていて、今は中間試験の真っ最中で必死に頑張っている――と、今朝美礼宛てにLINEが届いた。
(こないだ一緒の大学に行けば一緒に居られるって話したばかりだから、多分大丈夫よ。うん、大丈夫……!)
自らの身長が高いせいもあって妹分の様な印象を受ける国分姉妹と一緒に浴場への道を歩きながら、美礼は自分自身の想いを改めて感じ取った。
◇
一方その頃、男子生徒だけの八人部屋に居た駿は……。
「あー、あの二人が居ねぇと静かでいいな~」
完全ワイヤレスイヤホンをセットしながら、ホテルのWi-Fiを利用してひたすらゲーム実況動画を堪能していた。
しかし、周囲の会話はどうしても聞こえるというもの。
年頃の男子生徒の話と来れば、下ネタは外せないものだった。
「なぁ、御堂平に加茂って生徒が居るだろ? アイツさ、こないだうちの学校の生徒をひっかけたらしいぜ」
「マジか?」
「ああ、マジらしいぜ。スタイル抜群で、キリッと引き締まった目つきをしていて、何せエロい奴だろ? ただ、そいつは彼女とマンキツに行くのを断ったそうだぜ。なんでそんな奴の誘いを断ったんだか、不思議でならねぇよ」
「なんでも、二人彼女が居るって噂らしいぜ。しかも、うちの学校のチア部に居る子とだよ」
「うひゃ~、羨ましい!」
(チア部……? ひょっとして……)
見ず知らずの他人と話す真似なんて出来ないと思い込んでいた駿だったが、チア部と聞いて黙っているわけにはいかなかった。
駿はアプリを閉じてイヤホンを充電器にしまい、同じ班の生徒の輪に飛び込んだ。
「なぁ、ちょっといいかお前ら」
「あ、黒澤。お前も気になるのか」
「まぁな。チア部の辺りで気になってな」
「不思議なこともあるもんだな、普段はコミュ障全開でなかなか話の輪に入らないお前が飛びつくなんて」
「それとこれとは話が別だろ」
そう、駿は人見知りするタイプなのだ。
小学校の頃から人見知りする性格だったためか、友達と呼べる人物はあまり居なかった。居たとしても家族や隣人、そしていつも冷たくあしらう妹くらいなものだった。
昨年の五月頃にe-Sports愛好会を設立するために力を貸してくれ、と国分姉妹に誘われたとき、駿は「冗談だろ、なんで俺が」と思った。
最初は二人の誘いを断ったが、その後も二人は何かにつけて駿に話しかけてきた。最終的に駿はこの二人の誘いに乗って、e-Sports愛好会の発起人になることにした。目標は高校生のe-Sports競技会に出場して、長町高校の名を挙げることだった。
いまだに大会では思うような結果を出してはいないけれども、愛好会の名はいつの間にか知られるようになった。
ゲームを通じて駿は人との会話に慣れるようになり、今こうして噂話の輪の中に混じっている。
変な噂だったら、火消しをしておくのが先輩のやれることだろう――、そう思って、駿は同室の生徒達に彼の事情を話し始めた。
「そいつはうちの部員だぜ。しかも、こないだ入ったばかりの新人でさ、本当に大変な思いをしているんだぜ」
「へー、どんな?」
「そいつのことを悪く言わないことを約束するならば話しても良いけど」
「い、言わないから大丈夫だよ」
「よし。――そいつはな、中学校の頃にいじめられて仙台の街に来たんだ。こっちに来てから付き合っていた彼女が居たけど、そいつにもフラれたらしい。ちょうどチア部の後輩がそいつに目をつけて引っ張ってきて、e-Sports愛好会で世話しているってわけよ」
「なるほど」
「ただ、そいつとチア部の一年生とは本気で付き合っているわけじゃないぜ。ただの友達だから気にするなよ。まぁ、一つだけ言えることは――」
「? 何だよ?」
「そいつ、今が一番輝いているぜ。こそこそ噂話する暇があったら、そいつのことは黙って見守ろうやってことで、よろしく頼む」
(うひゃ~、我ながら格好いい事言ったな……)
すると、噂話をしていた連中が「駿、カッコイイことを言ったな」と駿を褒めたたえた。
「おいおい止せよ、褒めても何にも出ねぇぞ」
そう照れくさそうに話しながらも、駿の表情はどことなく眩しく、明るかった。
陰キャでコミュ障であることを自覚していた駿だが、まさかクラスの男子とこういう話をするなんて夢にも思わなかった。
(クラスに一人か二人程度の文化部員である俺が運動部の連中にモノ言えるたぁ、成長したな。桃花、桜花、改めてありがとよ)
「ほら、早く風呂入らないと消灯時間になるぞ! さっさと入ろうぜ」
心の中で二人に感謝しながら、駿は班の皆と一緒に浴場に向かうよう促した。
頭の中では自由行動のことをただひたすら考えながら――。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
同日、京都のとあるホテルにて――。
「おー、ヤス君からLINEだ」
「どうしたの、桜ちゃん」
「『今日もチア部の先輩達と盛り上がっています!』だって」
「やるじゃない、ヤス君」
桃花のLINEには、朋恵と泰久を中心としてチア部の一年生が勢ぞろいした写真が送られていた。
何気に楽しそうだけど、泰久はちょっと疲れた印象だった。
「へー、ヤス君からLINEが来ていたの?」
二人の会話に加わったのは、桃花と同じクラスでチア部に居る美礼だ。
何を隠そう桃花と桜花とは同じ班で、寝室も一緒だ。
「ほら、美礼《みゆ》も見てみる?」
「もちろんだよ! ……へー、ヤス君が一年生の子たちに囲まれているね。ヤス君って《《こういうの》》が好きなのかな?」
「美礼、久しぶりに決まり文句を言ったね」
「止《よ》してよ、それはぁ」
三人がキャッキャしていると、同じ班の生徒が声を掛けてきた。
「美礼、そろそろお風呂に入らない?」
「あ、は~い!」
それぞれお風呂の用意を取り出すと、浴衣を羽織った三人はそれぞれ浴室に向かって歩みを進める。
「お風呂か~。そういえば昨日、御堂平の男好きな女子生徒が男子生徒と派手にヤリまくったって聞いたな」
「マジ?」
「マジよ。御堂平に居るあたしの同級生から、今朝LINEが届いていたの」
「その子ってひょっとして……」
「カモって子?」
国分姉妹が口をそろえて言う。
「そう、加茂円香。とびっきりの美人にして、御堂平一の問題児。昨年の夏に男子大学生と一夜を過ごしてから、失恋した男や童貞クンを見つけては食いまくっているそうよ」
「「うわ~」」
国分姉妹が顔を真っ赤にすると、美礼は二人ともまだまだ子供だなと思った。
それもそのはず、この間御堂平の生徒であり、彼女自身の幼馴染と付き合うようになったからだ。
(そういや、ソータもアイツに食われたのよね……)
チャラ男に幼馴染を食われ、スマホゲーに興じていたら問題児に初めてを奪われた美礼の幼馴染だったが、最近は少しずつ立ち直っているとのことだ。部活に時々顔を出しながらも毎日勉強を重ねていて、今は中間試験の真っ最中で必死に頑張っている――と、今朝美礼宛てにLINEが届いた。
(こないだ一緒の大学に行けば一緒に居られるって話したばかりだから、多分大丈夫よ。うん、大丈夫……!)
自らの身長が高いせいもあって妹分の様な印象を受ける国分姉妹と一緒に浴場への道を歩きながら、美礼は自分自身の想いを改めて感じ取った。
◇
一方その頃、男子生徒だけの八人部屋に居た駿は……。
「あー、あの二人が居ねぇと静かでいいな~」
完全ワイヤレスイヤホンをセットしながら、ホテルのWi-Fiを利用してひたすらゲーム実況動画を堪能していた。
しかし、周囲の会話はどうしても聞こえるというもの。
年頃の男子生徒の話と来れば、下ネタは外せないものだった。
「なぁ、御堂平に加茂って生徒が居るだろ? アイツさ、こないだうちの学校の生徒をひっかけたらしいぜ」
「マジか?」
「ああ、マジらしいぜ。スタイル抜群で、キリッと引き締まった目つきをしていて、何せエロい奴だろ? ただ、そいつは彼女とマンキツに行くのを断ったそうだぜ。なんでそんな奴の誘いを断ったんだか、不思議でならねぇよ」
「なんでも、二人彼女が居るって噂らしいぜ。しかも、うちの学校のチア部に居る子とだよ」
「うひゃ~、羨ましい!」
(チア部……? ひょっとして……)
見ず知らずの他人と話す真似なんて出来ないと思い込んでいた駿だったが、チア部と聞いて黙っているわけにはいかなかった。
駿はアプリを閉じてイヤホンを充電器にしまい、同じ班の生徒の輪に飛び込んだ。
「なぁ、ちょっといいかお前ら」
「あ、黒澤。お前も気になるのか」
「まぁな。チア部の辺りで気になってな」
「不思議なこともあるもんだな、普段はコミュ障全開でなかなか話の輪に入らないお前が飛びつくなんて」
「それとこれとは話が別だろ」
そう、駿は人見知りするタイプなのだ。
小学校の頃から人見知りする性格だったためか、友達と呼べる人物はあまり居なかった。居たとしても家族や隣人、そしていつも冷たくあしらう妹くらいなものだった。
昨年の五月頃にe-Sports愛好会を設立するために力を貸してくれ、と国分姉妹に誘われたとき、駿は「冗談だろ、なんで俺が」と思った。
最初は二人の誘いを断ったが、その後も二人は何かにつけて駿に話しかけてきた。最終的に駿はこの二人の誘いに乗って、e-Sports愛好会の発起人になることにした。目標は高校生のe-Sports競技会に出場して、長町高校の名を挙げることだった。
いまだに大会では思うような結果を出してはいないけれども、愛好会の名はいつの間にか知られるようになった。
ゲームを通じて駿は人との会話に慣れるようになり、今こうして噂話の輪の中に混じっている。
変な噂だったら、火消しをしておくのが先輩のやれることだろう――、そう思って、駿は同室の生徒達に彼の事情を話し始めた。
「そいつはうちの部員だぜ。しかも、こないだ入ったばかりの新人でさ、本当に大変な思いをしているんだぜ」
「へー、どんな?」
「そいつのことを悪く言わないことを約束するならば話しても良いけど」
「い、言わないから大丈夫だよ」
「よし。――そいつはな、中学校の頃にいじめられて仙台の街に来たんだ。こっちに来てから付き合っていた彼女が居たけど、そいつにもフラれたらしい。ちょうどチア部の後輩がそいつに目をつけて引っ張ってきて、|e-Sports愛好会《うちら》で世話しているってわけよ」
「なるほど」
「ただ、そいつとチア部の一年生とは本気で付き合っているわけじゃないぜ。ただの友達だから気にするなよ。まぁ、一つだけ言えることは――」
「? 何だよ?」
「そいつ、今が一番輝いているぜ。こそこそ噂話する暇があったら、そいつのことは黙って見守ろうやってことで、よろしく頼む」
(うひゃ~、我ながら格好いい事言ったな……)
すると、噂話をしていた連中が「駿、カッコイイことを言ったな」と駿を褒めたたえた。
「おいおい止せよ、褒めても何にも出ねぇぞ」
そう照れくさそうに話しながらも、駿の表情はどことなく眩しく、明るかった。
陰キャでコミュ障であることを自覚していた駿だが、まさかクラスの男子とこういう話をするなんて夢にも思わなかった。
(クラスに一人か二人程度の文化部員である俺が運動部の連中にモノ言えるたぁ、成長したな。桃花、桜花、改めてありがとよ)
「ほら、早く風呂入らないと消灯時間になるぞ! さっさと入ろうぜ」
心の中で二人に感謝しながら、駿は班の皆と一緒に浴場に向かうよう促した。
頭の中では自由行動のことをただひたすら考えながら――。