第56話
ー/ー 僕は朋恵に急かされるように桃花先輩の席に座る。
桃花先輩の机の上には、彼女が愛用している東南アジアのゲーミングデバイスメーカーのキーボードとマウスが光っていた。
マウスパットまで同じメーカーで統一している辺り、ここのメーカーが好きだな。
マウスは女性の手でも握りやすいサイズで、ちょっとだけ手が大きい僕だと少しだけ持て余しそうだ。
「ところで、これって米沢さんのIDで入っていますか?」
「そうだよ」
ユーザーIDを見ると、確かに米沢さんだとわかるものが表示されていた。
「あ、本当だ。桃花先輩達だと末尾に『_nesc』をつけているから、一発で分かりましたよ」
「nescって何なの?」
「先輩達の話によると、僕たちの学校名を英訳したSendai Naga-machi Senior High Schoolとe-Sports愛好会の英訳であるe-Sports clubから取ったものだそうです。一ヶ月くらい先輩達のワガママなどの付き合っていますから、これくらいは」
そう話すと、米沢さんはちょっと考え事をしてから僕に話しかけてくる。
米沢さんの胸が僕の顔の近くに当たっていて、謎の重力を否応なく感じてしまう!
「ワガママといえば、こないだはウチらの部長たちとカラオケに行ったって聞いたよ。その時はどうだったの?」
「そ、その時は……、その、皆で盛り上がりましたよ。テストの後だったし」
「クスッ。私もあの時参加しようと思ったけど、遠慮したんだ」
「どうしてですか?」
「テスト明けの練習が終わった後だったかな、カラオケと聞いて私も参加しようとしたの。そしたら、『桃花先輩と桜花先輩が揃うと手が付けられなくなるぞ』って部長に諭されてね、それで遠慮したの」
「ああ、確かに……」
その日は桃花先輩の発案でテスト終了お疲れ様アンレート耐久会を覚悟したけれども、井上先輩達が入ってきたお陰で窮地を脱した。
ただ、その後のカラオケはカオスだった。全曲アニソン縛りで、熱唱の連続だった。僕は何とか正気を保ったけど、他のメンツが……。
朋恵がこっそりのど飴を買っておいたお陰で、全員が喉を傷めるって真似はしなくて済んだ。朋恵には頭が上がらないよ。
「ヤス、早く!」
……と、油を売っていないで朋恵にお手本を見せないと。
朋恵の座っている席に座ると、僕はマウス感度などを確認した。
僕の場合はマウスのDPIを800に、ゲーム内の感度を0.27にそれぞれ設定している。マウスのDPIとゲーム内の感度を掛けると、実質の感度は216eDPIとなる。
米沢さんの設定は……、感度が0.27になっている。それに、マウスの感度も800に設定されている。僕と一緒だ。
「米沢さん、良い感じの設定にしているんですね」
「うん、ネットの記事を見ながら設定したの。富樫君は見たことがある?」
「もちろんです。黒澤先輩から散々教えられましたから」
黒澤先輩の話によると、ファーストパーソンシューティングでは感度調整が勝敗の行方を握るそうだ。
先月に入ってパソコンが割り当てられた時には「GYALORANTで勝ちたければ、まずはマウスのDPIとゲーム内の感度を掛けて実質感度を216DPIにするところから始めて、自分に合う設定に調整していけ」と教えられたからね。
「お待たせ。それじゃ、ちょっとだけ……」
「ヤス、ゴメンね」
「何、どうってことないさ。行くぞ!」
僕は射撃場にて射撃訓練を開始めると、左右に表示されるダミーを止まりながら次々とマシンガンで倒していく。
Dキーを押して離し、マウスクリックしながらマウスをドラッグしてリコイルコントロール、それからまた元の位置に戻す、Aキーを押して離し、……を繰り返していくと、一体、また一体とダミーが破壊していく。
時折操作がおぼつかなくてミスすることもあるが、こないだ黒澤先輩に見せたら「大分いいじゃないか」と褒められた。ただ、上手い人に比べればというと……まだまだかな。
「凄いよ、ヤス! 上手く当てるなんて」
朋恵が僕の後ろに立って、僕の動きを見て拍手していた。
「富樫君、上手いじゃない。ゲームを始めて一ヶ月しか経っていないって思えないほどの動きだよ」
経験者の米沢さんも僕の動きを見て感心していた。
「ありがとうございます、二人とも。まだこれでも初心者ですけど」
「いや、リコイルコントロールがある程度出来ているから、プロでも十分通用するよ」
ちなみに、リコイルコントロールというのは射撃を行った際に発生する反動とは反対方向にマウスを操作して狙った場所に銃弾を当て続けるテクニックのことだ。
「これも黒澤先輩から教わりましたよ。『反動を制御して、止まりながら撃つと良い』ってね」
そう話すと、武器切り替えなどの操作で四苦八苦していた愛未が僕の方を向いて話しかけてきた。
「ふむ、反動を制御して、動きを止めてから銃撃するのか」
「マナさん、聞いていたんですか」
「ちょっと気になって、ね」
愛未は操作のやり方を覚えながらも、その一方で僕たちの話を聞いていたのか。
だとしたら、愛未にも見せてあげないと。
「愛未も見てみる? 一応どういう風に動くかを」
「そうだね。ヤス君がやっている姿を私も見てみたいな」
そう話すと、愛未と片倉さんが黒澤さんの席の辺りにやって来る。
左隣には愛未と片倉さん、右側には朋恵と米沢さんが僕を囲んでいる。
これはヘマが出来ないぞ……。
「よ、よし……行くぞ……!」
また僕は射撃訓練を始めると、先程と同じような手つきでダミーを倒していく。
緊張のあまりリコイルコントロールをミスったりしたけれども、概ね先程と同じように上手く行った……のかな?
「すごーい!」
「トモ、語彙力が落ちているぞ。……上手く出来ているじゃないか、ヤス君」
「ちょっとミスしているけれど、上手いですね」
「恵麻ちゃんと同じ、かな。さっきよりも正確性が落ちているけれども、相手の頭を狙えているね」
ダミーを一通り倒すと、四人から絶賛の言葉が僕に向かって飛び交った。
米沢さんと愛未に見せた時に比べるとちょっとだけ腕は落ちたけれども、それでも相手の頭を狙って銃撃できるようになったのは大きな進歩……だよな。
その後も僕達は愛未と朋恵の練習に付き合ってあげたけれども、最後の方は二人ともうまく動けるようになった。
朋恵の発案で練習中の模様を自撮りして先輩達に送ったけど、喜んでくれるかな?
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
僕は朋恵に急かされるように桃花先輩の席に座る。
桃花先輩の机の上には、彼女が愛用している東南アジアのゲーミングデバイスメーカーのキーボードとマウスが光っていた。
マウスパットまで同じメーカーで統一している辺り、ここのメーカーが好きだな。
マウスは女性の手でも握りやすいサイズで、ちょっとだけ手が大きい僕だと少しだけ持て余しそうだ。
「ところで、これって米沢さんのIDで入っていますか?」
「そうだよ」
ユーザーIDを見ると、確かに米沢さんだとわかるものが表示されていた。
「あ、本当だ。桃花先輩達だと末尾に『_nesc』をつけているから、一発で分かりましたよ」
「nescって何なの?」
「先輩達の話によると、僕たちの学校名を英訳したSendai 《《N》》aga-machi Senior High Schoolとe-Sports愛好会の英訳である《《e》》-《《S》》ports 《《c》》lubから取ったものだそうです。一ヶ月くらい先輩達のワガママなどの付き合っていますから、これくらいは」
そう話すと、米沢さんはちょっと考え事をしてから僕に話しかけてくる。
米沢さんの胸が僕の顔の近くに当たっていて、謎の重力を否応なく感じてしまう!
「ワガママといえば、こないだはウチらの部長たちとカラオケに行ったって聞いたよ。その時はどうだったの?」
「そ、その時は……、その、皆で盛り上がりましたよ。テストの後だったし」
「クスッ。私もあの時参加しようと思ったけど、遠慮したんだ」
「どうしてですか?」
「テスト明けの練習が終わった後だったかな、カラオケと聞いて私も参加しようとしたの。そしたら、『桃花先輩と桜花先輩が揃うと手が付けられなくなるぞ』って部長に諭されてね、それで遠慮したの」
「ああ、確かに……」
その日は桃花先輩の発案でテスト終了お疲れ様アンレート耐久会を覚悟したけれども、井上先輩達が入ってきたお陰で窮地を脱した。
ただ、その後のカラオケはカオスだった。全曲アニソン縛りで、熱唱の連続だった。僕は何とか正気を保ったけど、他のメンツが……。
朋恵がこっそりのど飴を買っておいたお陰で、全員が喉を傷めるって真似はしなくて済んだ。朋恵には頭が上がらないよ。
「ヤス、早く!」
……と、油を売っていないで朋恵にお手本を見せないと。
朋恵の座っている席に座ると、僕はマウス感度などを確認した。
僕の場合はマウスのDPIを800に、ゲーム内の感度を0.27にそれぞれ設定している。マウスのDPIとゲーム内の感度を掛けると、実質の感度は216eDPIとなる。
米沢さんの設定は……、感度が0.27になっている。それに、マウスの感度も800に設定されている。僕と一緒だ。
「米沢さん、良い感じの設定にしているんですね」
「うん、ネットの記事を見ながら設定したの。富樫君は見たことがある?」
「もちろんです。黒澤先輩から散々教えられましたから」
黒澤先輩の話によると、ファーストパーソンシューティングでは感度調整が勝敗の行方を握るそうだ。
先月に入ってパソコンが割り当てられた時には「GYALORANTで勝ちたければ、まずはマウスのDPIとゲーム内の感度を掛けて実質感度を216DPIにするところから始めて、自分に合う設定に調整していけ」と教えられたからね。
「お待たせ。それじゃ、ちょっとだけ……」
「ヤス、ゴメンね」
「何、どうってことないさ。行くぞ!」
僕は射撃場にて射撃訓練を開始《はじ》めると、左右に表示されるダミーを止まりながら次々とマシンガンで倒していく。
Dキーを押して離し、マウスクリックしながらマウスをドラッグしてリコイルコントロール、それからまた元の位置に戻す、Aキーを押して離し、……を繰り返していくと、一体、また一体とダミーが破壊していく。
時折操作がおぼつかなくてミスすることもあるが、こないだ黒澤先輩に見せたら「大分いいじゃないか」と褒められた。ただ、上手い人に比べればというと……まだまだかな。
「凄いよ、ヤス! 上手く当てるなんて」
朋恵が僕の後ろに立って、僕の動きを見て拍手していた。
「富樫君、上手いじゃない。ゲームを始めて一ヶ月しか経っていないって思えないほどの動きだよ」
経験者の米沢さんも僕の動きを見て感心していた。
「ありがとうございます、二人とも。まだこれでも初心者ですけど」
「いや、リコイルコントロールがある程度出来ているから、プロでも十分通用するよ」
ちなみに、リコイルコントロールというのは射撃を行った際に発生する反動とは反対方向にマウスを操作して狙った場所に銃弾を当て続けるテクニックのことだ。
「これも黒澤先輩から教わりましたよ。『反動を制御して、止まりながら撃つと良い』ってね」
そう話すと、武器切り替えなどの操作で四苦八苦していた愛未が僕の方を向いて話しかけてきた。
「ふむ、反動を制御して、動きを止めてから銃撃するのか」
「マナさん、聞いていたんですか」
「ちょっと気になって、ね」
愛未は操作のやり方を覚えながらも、その一方で僕たちの話を聞いていたのか。
だとしたら、愛未にも見せてあげないと。
「愛未も見てみる? 一応どういう風に動くかを」
「そうだね。ヤス君がやっている姿を私も見てみたいな」
そう話すと、愛未と片倉さんが黒澤さんの席の辺りにやって来る。
左隣には愛未と片倉さん、右側には朋恵と米沢さんが僕を囲んでいる。
これはヘマが出来ないぞ……。
「よ、よし……行くぞ……!」
また僕は射撃訓練を始めると、先程と同じような手つきでダミーを倒していく。
緊張のあまりリコイルコントロールをミスったりしたけれども、概ね先程と同じように上手く行った……のかな?
「すごーい!」
「トモ、語彙力が落ちているぞ。……上手く出来ているじゃないか、ヤス君」
「ちょっとミスしているけれど、上手いですね」
「恵麻ちゃんと同じ、かな。さっきよりも正確性が落ちているけれども、相手の頭を狙えているね」
ダミーを一通り倒すと、四人から絶賛の言葉が僕に向かって飛び交った。
米沢さんと愛未に見せた時に比べるとちょっとだけ腕は落ちたけれども、それでも相手の頭を狙って銃撃できるようになったのは大きな進歩……だよな。
その後も僕達は愛未と朋恵の練習に付き合ってあげたけれども、最後の方は二人ともうまく動けるようになった。
朋恵の発案で練習中の模様を自撮りして先輩達に送ったけど、喜んでくれるかな?