第55話
ー/ー 12月1日。
「今日から十二月か……、今年もあっという間だったな」
窓を見ながら、僕はため息交じりに呟いた。
「そうだね。富樫君がここの部室に来てもう二か月経つね」
那須君に言われるがまま、僕は壁に貼ってあるカレンダーを眺めた。
今年も残すところ12月だけとなり、もうすぐ今年も終わりだと感じさせる。
あの時――ここの部室に初めて入った時――はまだ桜の木に葉っぱが生い茂っていたのに、ここ一、二か月であっという間に全て散ってしまった。
ほぼ毎日少しずつGYALORANTをプレイしているけれども、まだレベル20には到達していない。早くコンペティティブに参加したいなぁ~……、と思ったら――。
「「お邪魔します!!」」
……昨日と同じく米沢&片倉コンビが押し寄せた。
「片倉さんに米沢さん、いらっしゃい。我妻さん達は?」
「マナ姐さんは掃除当番だって話していましたよ。トモちゃんはマナ姐さん待ちですね」
ああ、確か今週は愛未達のグループが掃除当番だったな。
愛未は掃除当番となると、サボっている奴を引っ張っては真面目にやらせようとする。さすがクラスのまとめ役といったところか。
「『もうすぐ来るから』だって」
「本当ですね」
僕の左脇に座っていた藤島さんがこちらを覗き込むと、「それじゃあ、昨日と同じように五人でアンレートを回しますか?」と二人に話しかけて全員が昨日と同じ位置に座ろうとした。
すると、廊下からパタパタと足音が聞こえてきた。何者か? と思ったら――。
「お邪魔します!」
「すまない、ちょっと掃除で遅くなった」
ふわっとしたツインテールにイケメンチックなショートヘアは――、間違いない、朋恵と愛未だ。
二人とも大変そうだったな。
「アタシ達のPCは?」
「すぐ使えるように、さっき私が起動しておきました。今日も六人、いや、七人居ますが、どうします?」
「それだったら、アタシと愛未がお試しでこのゲームをやってみるというのはどうかな?」
「そうだな。昨日はずっと横目で見ていたから、今日は私もちょっとだけその……、やってみようかな……って」
朋恵はやけに張り切っている一方で、愛未がもじもじしている。
ひょっとして、愛未はFPSどころかパソコンでゲームをやること自体は初めてなのだろうか。
「マナさんもやるの? やろうよ! 面白いよ!」
「そ、そうか? それじゃあ恵麻ちゃん、教えてもらっていいかな?」
「よ、喜んで!」
片倉さんがぱぁっと笑顔を見せると、制服のすそをまくって本気を出していた。
一方で、朋恵はというと――。
「それじゃあ、朋恵は私が教えてあげようかな?」
「ありがと、瑞希! お礼は新作のコンビニスイーツね」
「どういたしまして。ただ、甘いものを食べすぎると太るから、ほどほどにね」
「うっ……! 善処しますっ……」
ギャルはギャル同士惹かれ合うのかな、米沢さんが教えてあげることになった。
運動しているせいもあってスリムなのはいいけれど、食べすぎという自覚はあるのかな。
そして右向かいの席では、片倉さんと愛未が基本操作について教わっていた。
「それじゃあ、まずは射撃訓練場から行きましょう」
「射撃訓練って、ここか?」
「そうです。まずはここで基本的な操作から覚えましょうか」
「操作?」
「ええ。まずはWで前進、Sで後退、Aで左方向に歩き、Dで右方向に動きます。歩きは左シフトキーで、しゃがみは左コントロールキー、スペースキーでジャンプです」
「カーソルキーで移動するものかと思っていたけど、それとは違うのか」
「そうですね、ファーストパーソンシューティングのみならず、PC向けのゲームはたいていWSADに操作を割り当てているものが多いです。ところで、なぜそういうことを知っているのですか?」
「実は父さんが若い頃パソコンでDOMEをやっていたことがあってね……」
「ひょっとして、四、五年前に出たモンスターをぶん殴ったりする方のですか?」
「いいや、父さんがやったのは大分昔のものだよ。今と違って上下に視点移動ができずに迷路の中をひたすら歩く感じ……かな」
「マナさんのお父様ってゲームに詳しいですね」
「父さんは子供のころからゲームをやっていたからね。今ではさっぱりだけど」
射撃練習場で練習をしながら片倉さんと愛未の会話を聞いていると、愛未のお父様ってゲームにやたらと詳しいんだなと思った。
普段は真面目なのに、意外だな。
その一方で、米沢さんと組んでいる朋恵は――。
「なかなか思うように当たらないなぁ~……」
「ストッピングを覚えたほうが良くない?」
「何? その、『ストッピング』って」
「要は『止まってから銃を撃つ』ってことだね。移動キーをいったん離すか、移動している方向とは逆のキーを押してからその後で銃を撃てば……」
米沢さんから撃ち方のコツを教えてもらっていた。
朋恵の落ち込んでいる表情は、ここに来て一ヶ月前の自分を見ているようだ。
あの時はまだパソコンが四台しかなくて、那須君と交代しながら撃ち方のれんしゅうをしていたなぁ。
今は自分のパソコンがあるから練習できるようになったけど、ブレがない射撃ができる先輩達に比べるとまだブレがあるんだよな……。
「フフッ」
「ん? 何笑っているのよ、ヤス」
「いや、一ヶ月前の僕を思い出したんだよ」
「ふーん、じゃあヤスはどうなのよ?」
朋恵はそう話すと、ちょっと不満そうな顔をして僕を睨んだ。
ここはちゃんと話さないと。
「ぼ、僕は……、その、この前からちょっと練習しているから、ある程度はやれるようになったよ」
「ふーん、そういうんだったらヤスがお手本を見せてよ」
「ぼ、僕が?」
まだ始めて一ヶ月もない僕が手本を? 冗談だろう。
左隣で黙々と何かに打ち込んでいる藤島さんは止めないのかよ。
「せっかくですから、ぜひ見せてやってください。私は今デスマッチで忙しいので……、あーっ、あと一歩だったのに~!」
藤島さんが悔しさを滲ませた苦渋の表情をすると、「その……ドンマイ……」と朋恵の様子を見ていた米沢さんが声を掛けた。
ちょっと気になって画面を見ると、藤島さんは19キルで二位だった。
「凄いや、19キルなんて。僕だってまだ8キルがやっとなのに」
藤島さんに話しかけると、「ありがとうございます」とお辞儀をした。
先程は悔しがっていた表情を見せた藤島さんだけど、お辞儀をした途端いつものポーカーフェイスな藤島さんの表情に戻っていた。
やっぱり、藤島さんは表情が変わらないほうが良いな。
「ちょっと、ヤス~! アタシに手本を見せてよ~!」
「ハイハイ、今行きますよ~」
やれやれ、朋恵に呼ばれたならば仕方ないな。
那須君は今日もソロで射撃場での練習とデスマッチをしているから、ここは大人しく朋恵のところに向かってここ一ヶ月の修行の成果を見せようかな。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
12月1日。
「今日から十二月か……、今年もあっという間だったな」
窓を見ながら、僕はため息交じりに呟いた。
「そうだね。富樫君がここの部室に来てもう二か月経つね」
那須君に言われるがまま、僕は壁に貼ってあるカレンダーを眺めた。
今年も残すところ12月だけとなり、もうすぐ今年も終わりだと感じさせる。
あの時――ここの部室に初めて入った時――はまだ桜の木に葉っぱが生い茂っていたのに、ここ一、二か月であっという間に全て散ってしまった。
ほぼ毎日少しずつGYALORANTをプレイしているけれども、まだレベル20には到達していない。早くコンペティティブに参加したいなぁ~……、と思ったら――。
「「お邪魔します!!」」
……昨日と同じく米沢&片倉コンビが押し寄せた。
「片倉さんに米沢さん、いらっしゃい。我妻さん達は?」
「マナ姐さんは掃除当番だって話していましたよ。トモちゃんはマナ姐さん待ちですね」
ああ、確か今週は愛未達のグループが掃除当番だったな。
愛未は掃除当番となると、サボっている奴を引っ張っては真面目にやらせようとする。さすがクラスのまとめ役といったところか。
「『もうすぐ来るから』だって」
「本当ですね」
僕の左脇に座っていた藤島さんがこちらを覗き込むと、「それじゃあ、昨日と同じように五人でアンレートを回しますか?」と二人に話しかけて全員が昨日と同じ位置に座ろうとした。
すると、廊下からパタパタと足音が聞こえてきた。何者か? と思ったら――。
「お邪魔します!」
「すまない、ちょっと掃除で遅くなった」
ふわっとしたツインテールにイケメンチックなショートヘアは――、間違いない、朋恵と愛未だ。
二人とも大変そうだったな。
「アタシ達のPCは?」
「すぐ使えるように、さっき私が起動しておきました。今日も六人、いや、七人居ますが、どうします?」
「それだったら、アタシと愛未がお試しでこのゲームをやってみるというのはどうかな?」
「そうだな。昨日はずっと横目で見ていたから、今日は私もちょっとだけその……、やってみようかな……って」
朋恵はやけに張り切っている一方で、愛未がもじもじしている。
ひょっとして、愛未はFPSどころかパソコンでゲームをやること自体は初めてなのだろうか。
「マナさんもやるの? やろうよ! 面白いよ!」
「そ、そうか? それじゃあ恵麻ちゃん、教えてもらっていいかな?」
「よ、喜んで!」
片倉さんがぱぁっと笑顔を見せると、制服のすそをまくって本気を出していた。
一方で、朋恵はというと――。
「それじゃあ、朋恵は私が教えてあげようかな?」
「ありがと、瑞希! お礼は新作のコンビニスイーツね」
「どういたしまして。ただ、甘いものを食べすぎると太るから、ほどほどにね」
「うっ……! 善処しますっ……」
ギャルはギャル同士惹かれ合うのかな、米沢さんが教えてあげることになった。
運動しているせいもあってスリムなのはいいけれど、食べすぎという自覚はあるのかな。
そして右向かいの席では、片倉さんと愛未が基本操作について教わっていた。
「それじゃあ、まずは射撃訓練場から行きましょう」
「射撃訓練って、ここか?」
「そうです。まずはここで基本的な操作から覚えましょうか」
「操作?」
「ええ。まずはWで前進、Sで後退、Aで左方向に歩き、Dで右方向に動きます。歩きは左シフトキーで、しゃがみは左コントロールキー、スペースキーでジャンプです」
「カーソルキーで移動するものかと思っていたけど、それとは違うのか」
「そうですね、ファーストパーソンシューティングのみならず、PC向けのゲームはたいていWSADに操作を割り当てているものが多いです。ところで、なぜそういうことを知っているのですか?」
「実は父さんが若い頃パソコンで|DOME《ドーム》をやっていたことがあってね……」
「ひょっとして、四、五年前に出たモンスターをぶん殴ったりする方のですか?」
「いいや、父さんがやったのは大分昔のものだよ。今と違って上下に視点移動ができずに迷路の中をひたすら歩く感じ……かな」
「マナさんのお父様ってゲームに詳しいですね」
「父さんは子供のころからゲームをやっていたからね。今ではさっぱりだけど」
射撃練習場で練習をしながら片倉さんと愛未の会話を聞いていると、愛未のお父様ってゲームにやたらと詳しいんだなと思った。
普段は真面目なのに、意外だな。
その一方で、米沢さんと組んでいる朋恵は――。
「なかなか思うように当たらないなぁ~……」
「ストッピングを覚えたほうが良くない?」
「何? その、『ストッピング』って」
「要は『止まってから銃を撃つ』ってことだね。移動キーをいったん離すか、移動している方向とは逆のキーを押してからその後で銃を撃てば……」
米沢さんから撃ち方のコツを教えてもらっていた。
朋恵の落ち込んでいる表情は、ここに来て一ヶ月前の自分を見ているようだ。
あの時はまだパソコンが四台しかなくて、那須君と交代しながら撃ち方のれんしゅうをしていたなぁ。
今は自分のパソコンがあるから練習できるようになったけど、ブレがない射撃ができる先輩達に比べるとまだブレがあるんだよな……。
「フフッ」
「ん? 何笑っているのよ、ヤス」
「いや、一ヶ月前の僕を思い出したんだよ」
「ふーん、じゃあヤスはどうなのよ?」
朋恵はそう話すと、ちょっと不満そうな顔をして僕を睨んだ。
ここはちゃんと話さないと。
「ぼ、僕は……、その、この前からちょっと練習しているから、ある程度はやれるようになったよ」
「ふーん、そういうんだったらヤスがお手本を見せてよ」
「ぼ、僕が?」
まだ始めて一ヶ月もない僕が手本を? 冗談だろう。
左隣で黙々と何かに打ち込んでいる藤島さんは止めないのかよ。
「せっかくですから、ぜひ見せてやってください。私は今デスマッチで忙しいので……、あーっ、あと一歩だったのに~!」
藤島さんが悔しさを滲ませた苦渋の表情をすると、「その……ドンマイ……」と朋恵の様子を見ていた米沢さんが声を掛けた。
ちょっと気になって画面を見ると、藤島さんは19キルで二位だった。
「凄いや、19キルなんて。僕だってまだ8キルがやっとなのに」
藤島さんに話しかけると、「ありがとうございます」とお辞儀をした。
先程は悔しがっていた表情を見せた藤島さんだけど、お辞儀をした途端いつものポーカーフェイスな藤島さんの表情に戻っていた。
やっぱり、藤島さんは表情が変わらないほうが良いな。
「ちょっと、ヤス~! アタシに手本を見せてよ~!」
「ハイハイ、今行きますよ~」
やれやれ、朋恵に呼ばれたならば仕方ないな。
那須君は今日もソロで射撃場での練習とデスマッチをしているから、ここは大人しく朋恵のところに向かってここ一ヶ月の修行の成果を見せようかな。