第50話

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 そして土曜日――。
 僕は仙台駅の正面西口にあるステンドグラス「杜の賛歌」の前に立っていた。

「やれやれ、夏希姉にやられたんじゃ仕方が無いか。嘘でもいいから、加茂さんに『僕には好きな人が居るんだ』と言って諦めてもらうしかないか……」

 何せ相手は他校生で夏希姉以上のギャル、しかもうちの学校まで噂が届いている肉食獣だ。
 下手したら、ここ最近朋恵達と付き合うことによって習得した会話スキルが役に立たない可能性だってあり得る。

「それにしても、夏希姉は強引すぎるんだよな……」

 僕はそう独り言ちると、ここ数日間のことを思い出した――。

 ☆

 夏希姉から加茂さんの連絡先が送られたのは火曜日の午後だった。

 加茂さんのアドレスを登録すると、彼女からは胸チラの写真や、男子生徒の上に載って動画を送りつけてきた。
 僕は見て見ぬふりをしたけれども、彼女からしつこく「見てよ」と催促が飛んでくるので仕方なく見た。
 ただ、見終わった後はなんというか、その……、見てはいけないものを見てしまった感じがした。正直、僕には刺激が強すぎた。

 それから水曜から金曜日までは朋恵や愛未、そして部活に明け暮れていた。
 黒澤先輩からは「お前、どうしたんだよ」と何度も声を掛けられたけど、その都度「何でもありません」とごまかした。
 さすがに先輩にも話すわけにはいかないもんな、御堂平の女子生徒とデートさせられるってことは、

 金曜日の夕方になって、加茂さんから「明日午前十時に仙台駅の構内で待ち合わせね」とのメッセージが入った。
 そこで昨日の晩は勉強した後で、今日着ていく私服なりを用意しておいた。
 カーディガンにコットンシャツ、そして洗いたてのジーンズ。これさえあれば、特に問題はないだろう。
 この間ララガーデンで買ったカーディガンが役に立つなんて、僕だって信じられない。

 朋恵達にデートの日時などを伝えたところ、二人とも僕に「面倒なことになったら逃げろ!」とのアドバイスを貰った。
 いざとなったら難癖付けて逃げるけど、僕がヘタレていた時のことを盾にされたら、その時はその時で対処しよう、うん。

 ☆

「まだかな……」

 僕はスマホをバッグに仕舞うと、腕時計を見ながら加茂さんがいつ来るかだけを気にしていた。
 朋恵や愛未だったらまだしも、今回一緒にデートするのはグイグイと食いついて放さない加茂さんだ。しかも、夏希姉に脅されてデートする羽目になったんだから。

「やれやれ、脅されたとあっては仕方ないからな」

 何せ夏希姉は中二の春にはじめて出会った時から僕の弱みを的確に突いてきやがるから、たまったもんじゃない。心美と付き合っている身の僕に対しても心の平穏をかき乱す真似をしていたのも、何を隠そう夏希姉だから。

 スマホを見ながら待っていると、ペデストリアンデッキの入り口に見覚えのあるメッシュの入ったツインテールの女性が駆け足で僕の下にやってきた。

「お待たせ~」

 黒のフラットヒールに、タイトで曲線美をそのまま表すような冬物っぽい黒のワンピース、そして白のショルダーバッグ。
 ゆったりとしたシルエットが特徴の朋恵や常にイケメンチックな――但し、この前の答え合わせの時は妙に女性らしい恰好だった――愛未とは全く違い、頭の先から足元までギャルファッションでキメているではないか。
 デカい胸が目立っているせいもあって、目のやり場に困るよ。

「ヤス君、待ったぁ?」
「いや、全然待っていませんよ」
「そう、良かったぁ。今日のデート、楽しみにしていたんだぁ」

 ねっとりとした喋り方をしているな、加茂さんは。
 それに、僕を見る目つきが……その、肉食獣が獣に襲い掛かるような眼つきをしている。

「それで、どこに行く予定ですか?」
「え~とね、プリチュアの映画を見てからぁ、その後は……ナ・イ・ショ♡」

 そう話すと、加茂さんは僕の右腕を絡めて肘を胸に当ててきた。
 慌てて僕は彼女の顔を見ると、妖艶な笑みを浮かべていた。

 このままだと今日のデートでそのまま加茂さんにお持ち帰りされてしまう。
 しかし、ここで逃げたらあの時泣きついたことが全世界にバレてしまう。
 究極の選択だなぁ、これは……。

 僕は加茂さんに腕を引っ張られたまま、映画館のあるビルに引っ張って行かれる。

「ふんふんふ~ん♪」

 隣に居る加茂さん、むちゃくちゃ上機嫌だ。
 このままだったらお持ち帰りされそうだ。

 ……いや、ここは我慢だ。
 夏希姉が見ているかもしれないし、ひょっとしたら他の誰かが……!


 それから二時間後――。

「面白かったね~」
「そ……、そうだね……」

 映画を見終わって加茂さんは意気揚々で気分もアゲアゲだったが、僕は二時間も女性声優のキンキンとした声について行けなかった。何度も退出しようと思ったことか……。アニメ映画と来れば山形の叔父(おじ)さんが好きだった長編ド〇えもん(それも初代)が先に来て、その次に昭和末期から平成に入る頃のスタジオジ〇リだというのに!

「やっぱりいつ見てもプリ〇ュアってサイコーだよね~、そう思わない?」
「う、うん……」

 僕にはプリ〇ュアの知識なんて皆無だ。それよりも加茂さんの圧が強すぎて……、倒れそうだ。
 正直、映画を見ている最中はずっと寝ていたからな。
 隣に座る加茂さんがキャーキャーはしゃいでいて、煩(うるさ)かった。
 正直、ここまで喧しい人だとは思わなかった。
 流石に夏希姉の友人といったところか。

 ……ん? 今、後ろから視線を感じたような……。
 気のせいか?

「ん? どうしたの、ヤス君」
「い、いや、何でも……ありません」
「変なのぉ」
「つ、次はドコに行きます?」
「そろそろお昼にしたいなぁ。富樫君、何処(ドコ)かいい店知らなぁい?」

 そう来ると思っていたよ。
 幸いPARCO2(このビル)は映画館だけでなく、一階と二階にはグルメストアになっている。こないだ朋恵達と一緒に行ったコーヒーショップも入っているし、ここは一つ……!

「い、一階のコーヒーショップに、い、行きませんか……?」

 緊張して挙動不審になったけど、何とかここは主導権を握ったぞ。偉いぞ、僕!
 すると加茂さんは、ちょっと首を傾げてスマホを取り出した。
 加茂さんのスマホケース、よく見たらこないだ僕の家でスマホゲーをしていた夏希姉のそれに似ているぞ。
 二人が持っているスマホって、ひょっとして――。

「これって、まさかAiPhone?」
「そうだよ」

 ケースに見覚えがあると思ったら、そういうことか。
 僕も高校に入った時に新しいスマホを買ってもらったけれど、ゲームがそれなりにしかできない性能だったので文句ばかり言ったのをよく覚えている。
 しかし、今となっては親の判断は当たっていたと思う。何せ今ではe-Sportsに夢中になりながら勉強しているのだから。

「ん~、ちょっと遠くなるけどネカフェにしない? そこだと二人っきりになれるしぃ~……」

 加茂さんはスマホをバッグに仕舞うと、舌を舐めずるなど意味深なしぐさを見せつけた。

 待てよ? 先週土曜日に見た夢って――。
 ああ、そうだ。カラオケボックスの一室で何者かに迫られる夢だった。
 ひょっとして、この間の夢は今日のことを予知していたのか。
 そうなると、僕が取るべき行動は――。

「いや、ここはカフェに行きましょう。幸いここからすぐの場所にありますから」

 主導権を握って、二人っきりになれる場所以外に誘うことだ!

「え~、だって二人きりになりた~い」

 加茂さんはまるで子供の様に駄々をこねているけれども、そうはいかないんだ。
 二人っきりになれる場所に行って成人向け漫画の様な真似をして、その様子を朋恵と愛未に見せつけられた時のことが頭をよぎる。
 二人から軽蔑されて、最後は加茂さんと付き合うなんて絶対にごめんだ。

「いいえ、ここはカフェに行きましょう」
「もしかして、あーしと居るのが嫌なの?」

 加茂さんは不満そうな顔で僕を見つめた。
 一緒に居て嫌なわけじゃなく、このまま加茂さんのペースに乗せられてずるずる引きずられるのが嫌なだけだ。

「そ、そんなことはありませんよ。行きましょう!」

 僕は加茂さんの手を取ると、猛ダッシュでエレベーターのあるところに向かった。

「え、ちょっと、ヤスくぅ~ん……」

 加茂さんはちょっと不満そうな顔をしていたけれども、言うべきことは言わないと!
 ここは男を見せて、最大の危機――僕自身の貞操の危機――を乗り越えねば!
 男を見せろ、富樫泰久!
 ヘタレじゃないんだ、富樫泰久!



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 そして土曜日――。
 僕は仙台駅の正面西口にあるステンドグラス「杜の賛歌」の前に立っていた。
「やれやれ、夏希姉にやられたんじゃ仕方が無いか。嘘でもいいから、加茂さんに『僕には好きな人が居るんだ』と言って諦めてもらうしかないか……」
 何せ相手は他校生で夏希姉以上のギャル、しかもうちの学校まで噂が届いている肉食獣だ。
 下手したら、ここ最近朋恵達と付き合うことによって習得した会話スキルが役に立たない可能性だってあり得る。
「それにしても、夏希姉は強引すぎるんだよな……」
 僕はそう独り言ちると、ここ数日間のことを思い出した――。
 ☆
 夏希姉から加茂さんの連絡先が送られたのは火曜日の午後だった。
 加茂さんのアドレスを登録すると、彼女からは胸チラの写真や、男子生徒の上に載って《《ナニをしていた》》動画を送りつけてきた。
 僕は見て見ぬふりをしたけれども、彼女からしつこく「見てよ」と催促が飛んでくるので仕方なく見た。
 ただ、見終わった後はなんというか、その……、見てはいけないものを見てしまった感じがした。正直、僕には刺激が強すぎた。
 それから水曜から金曜日までは朋恵や愛未、そして部活に明け暮れていた。
 黒澤先輩からは「お前、どうしたんだよ」と何度も声を掛けられたけど、その都度「何でもありません」とごまかした。
 さすがに先輩にも話すわけにはいかないもんな、御堂平の女子生徒とデートさせられるってことは、
 金曜日の夕方になって、加茂さんから「明日午前十時に仙台駅の構内で待ち合わせね」とのメッセージが入った。
 そこで昨日の晩は勉強した後で、今日着ていく私服なりを用意しておいた。
 カーディガンにコットンシャツ、そして洗いたてのジーンズ。これさえあれば、特に問題はないだろう。
 この間ララガーデンで買ったカーディガンが役に立つなんて、僕だって信じられない。
 朋恵達にデートの日時などを伝えたところ、二人とも僕に「面倒なことになったら逃げろ!」とのアドバイスを貰った。
 いざとなったら難癖付けて逃げるけど、僕がヘタレていた時のことを盾にされたら、その時はその時で対処しよう、うん。
 ☆
「まだかな……」
 僕はスマホをバッグに仕舞うと、腕時計を見ながら加茂さんがいつ来るかだけを気にしていた。
 朋恵や愛未だったらまだしも、今回一緒にデートするのはグイグイと食いついて放さない加茂さんだ。しかも、夏希姉に脅されてデートする羽目になったんだから。
「やれやれ、脅されたとあっては仕方ないからな」
 何せ夏希姉は中二の春にはじめて出会った時から僕の弱みを的確に突いてきやがるから、たまったもんじゃない。心美と付き合っている身の僕に対しても心の平穏をかき乱す真似をしていたのも、何を隠そう夏希姉だから。
 スマホを見ながら待っていると、ペデストリアンデッキの入り口に見覚えのあるメッシュの入ったツインテールの女性が駆け足で僕の下にやってきた。
「お待たせ~」
 黒のフラットヒールに、タイトで曲線美をそのまま表すような冬物っぽい黒のワンピース、そして白のショルダーバッグ。
 ゆったりとしたシルエットが特徴の朋恵や常にイケメンチックな――但し、この前の答え合わせの時は妙に女性らしい恰好だった――愛未とは全く違い、頭の先から足元までギャルファッションでキメているではないか。
 デカい胸が目立っているせいもあって、目のやり場に困るよ。
「ヤス君、待ったぁ?」
「いや、全然待っていませんよ」
「そう、良かったぁ。今日のデート、楽しみにしていたんだぁ」
 ねっとりとした喋り方をしているな、加茂さんは。
 それに、僕を見る目つきが……その、肉食獣が獣に襲い掛かるような眼つきをしている。
「それで、どこに行く予定ですか?」
「え~とね、プリチュアの映画を見てからぁ、その後は……ナ・イ・ショ♡」
 そう話すと、加茂さんは僕の右腕を絡めて肘を胸に当ててきた。
 慌てて僕は彼女の顔を見ると、妖艶な笑みを浮かべていた。
 このままだと今日のデートでそのまま加茂さんにお持ち帰りされてしまう。
 しかし、ここで逃げたらあの時泣きついたことが全世界にバレてしまう。
 究極の選択だなぁ、これは……。
 僕は加茂さんに腕を引っ張られたまま、映画館のあるビルに引っ張って行かれる。
「ふんふんふ~ん♪」
 隣に居る加茂さん、むちゃくちゃ上機嫌だ。
 このままだったらお持ち帰りされそうだ。
 ……いや、ここは我慢だ。
 夏希姉が見ているかもしれないし、ひょっとしたら他の誰かが……!
 それから二時間後――。
「面白かったね~」
「そ……、そうだね……」
 映画を見終わって加茂さんは意気揚々で気分もアゲアゲだったが、僕は二時間も女性声優のキンキンとした声について行けなかった。何度も退出しようと思ったことか……。アニメ映画と来れば山形の叔父《おじ》さんが好きだった長編ド〇えもん(それも初代)が先に来て、その次に昭和末期から平成に入る頃のスタジオジ〇リだというのに!
「やっぱりいつ見てもプリ〇ュアってサイコーだよね~、そう思わない?」
「う、うん……」
 僕にはプリ〇ュアの知識なんて皆無だ。それよりも加茂さんの圧が強すぎて……、倒れそうだ。
 正直、映画を見ている最中はずっと寝ていたからな。
 隣に座る加茂さんがキャーキャーはしゃいでいて、煩《うるさ》かった。
 正直、ここまで喧しい人だとは思わなかった。
 流石に夏希姉の友人といったところか。
 ……ん? 今、後ろから視線を感じたような……。
 気のせいか?
「ん? どうしたの、ヤス君」
「い、いや、何でも……ありません」
「変なのぉ」
「つ、次はドコに行きます?」
「そろそろお昼にしたいなぁ。富樫君、何処《ドコ》かいい店知らなぁい?」
 そう来ると思っていたよ。
 幸い|PARCO2《このビル》は映画館だけでなく、一階と二階にはグルメストアになっている。こないだ朋恵達と一緒に行ったコーヒーショップも入っているし、ここは一つ……!
「い、一階のコーヒーショップに、い、行きませんか……?」
 緊張して挙動不審になったけど、何とかここは主導権を握ったぞ。偉いぞ、僕!
 すると加茂さんは、ちょっと首を傾げてスマホを取り出した。
 加茂さんのスマホケース、よく見たらこないだ僕の家でスマホゲーをしていた夏希姉のそれに似ているぞ。
 二人が持っているスマホって、ひょっとして――。
「これって、まさかAiPhone?」
「そうだよ」
 ケースに見覚えがあると思ったら、そういうことか。
 僕も高校に入った時に新しいスマホを買ってもらったけれど、ゲームがそれなりにしかできない性能だったので文句ばかり言ったのをよく覚えている。
 しかし、今となっては親の判断は当たっていたと思う。何せ今ではe-Sportsに夢中になりながら勉強しているのだから。
「ん~、ちょっと遠くなるけどネカフェにしない? そこだと二人っきりになれるしぃ~……」
 加茂さんはスマホをバッグに仕舞うと、舌を舐めずるなど意味深なしぐさを見せつけた。
 待てよ? 先週土曜日に見た夢って――。
 ああ、そうだ。カラオケボックスの一室で何者かに迫られる夢だった。
 ひょっとして、この間の夢は今日のことを予知していたのか。
 そうなると、僕が取るべき行動は――。
「いや、ここはカフェに行きましょう。幸いここからすぐの場所にありますから」
 主導権を握って、二人っきりになれる場所以外に誘うことだ!
「え~、だって二人きりになりた~い」
 加茂さんはまるで子供の様に駄々をこねているけれども、そうはいかないんだ。
 二人っきりになれる場所に行って成人向け漫画の様な真似をして、その様子を朋恵と愛未に見せつけられた時のことが頭をよぎる。
 二人から軽蔑されて、最後は加茂さんと付き合うなんて絶対にごめんだ。
「いいえ、ここはカフェに行きましょう」
「もしかして、あーしと居るのが嫌なの?」
 加茂さんは不満そうな顔で僕を見つめた。
 一緒に居て嫌なわけじゃなく、このまま加茂さんのペースに乗せられてずるずる引きずられるのが嫌なだけだ。
「そ、そんなことはありませんよ。行きましょう!」
 僕は加茂さんの手を取ると、猛ダッシュでエレベーターのあるところに向かった。
「え、ちょっと、ヤスくぅ~ん……」
 加茂さんはちょっと不満そうな顔をしていたけれども、言うべきことは言わないと!
 ここは男を見せて、最大の危機――僕自身の貞操の危機――を乗り越えねば!
 男を見せろ、富樫泰久!
 ヘタレじゃないんだ、富樫泰久!