第48話

ー/ー



「おかえり~、ヤス。待ちくたびれちゃったよ」

 なんと、隣に住んでいる夏希姉だった。
 こないだと同じ服装だったけど――、平日ということもあって、そこら辺はご愛敬といったところか。
 夏希姉の体から漂う甘い香りと、ちらりと見えるブラが本能を刺激しそうだ。

「何だよ、夏希姉。どうして僕の家に居るんだよ?」
「ちょっと小母(おば)さんに呼ばれてね……」

 部屋の奥の方を見ると、ダイニングの入り口に居る母さんが手を振っていた。
 そういや、今日はシフトの都合上で休みだったな。

「ちょっと待ってくれ。今戻って来たばかりだし、一旦着替えてくるから」
「うん、分かった。廊下で待っているね」

 通学用の靴を脱いでスリッパに履き替えると、僕は自室に真っ先に入って私服のジーパンとコットンシャツに着替えた。
 この時期にこの時間となると外出するのにはもう一枚羽織らないと厳しいが、幸いここは気密性が高いマンションだ。夏希姉もあの格好だから、薄着で充分だ。

 それに、夏希姉がいきなり抱きついてくるから、ワイシャツとジャケットからデオドラントの匂いが染みつきそうじゃないか。
 ワイシャツはまだしも、ジャケットは滅多に洗濯しないからファブ〇ーズで消臭しておくか。

 それにしても、こないだのクールな夏希姉は何処に行ったんだ? あの時は猫かぶりして僕の窮地(ピンチ)を救っていたけれども、あれじゃあだだ甘のお姉ちゃんキャラじゃないか。
 夏希姉は経験済みだし、ときめくかというと唸らざるを得ない。

「お待たせ、夏希姉」

 自室のドアを開くと、待ちかねたように夏希姉が部屋に入ってきた。

「お邪魔しまーす! んー、久しぶりのヤスのベッド、気持ち()い〜!」
「おいおい、寝っ転がるなよ」

 先月頭にはベッドで寝っ転がる余裕すらなかった夏希姉だが、今日はいつもの夏希姉だ。
 山形から仙台に来て最初に知り合いになった夏希姉は、こうして僕の部屋に勝手に上がり込んでは漫画が無いとかラノベが無いとか文句ばかり言う。
 最近はそんな夏希姉に応えるべく少しずつ漫画を揃えるようにはしているけれども、それでも夏希姉は「ウチが読みたいのが無い」と愚痴をこぼしている。
 僕は決して多いとはいえない小遣いでやりくりしているから、その苦労もわかってほしい。

「ふんふ~ん、ふふふ~ん、ふ~ん、ふふふふ~ん♪」

 今日帰って来たばかりの答案用紙などを取り出していると、僕の気持ちを知ってか知らずか、夏希姉はベッドに寝転がり、鼻歌を歌いながらスマホゲーをやっている。
 その鼻歌、どこかで聞き覚えがあると思ったらタイムリープとヤンキーを組み合わせたアニメのオープニングテーマじゃないか。

 夏希姉が着ている服からはデカい胸の谷間と下着、それに太腿が見え隠れする。健全な高校生にとっては目の毒じゃないか。無防備にもほどがあるだろう。
 それに夏希姉の耳元にはピアスの穴が二つもある。うちの学校に居る朋恵と黒須さん、そして白浜さんもピアスをしているけれども、どれもノンホールピアスだった。
 夏希姉と別々の学校で良かったよ。仮に同じ学校だったとしても、愛未が見たら説教どころじゃ済まないぞ。

「夏希姉、今何やっているんだ?」
「うん、ちょっとブルアンをね」
「ブルアン?」
「知らないの? 『ブルーアンタッチャブル』っていって、学校の先生になってトラブルを解決していくゲームだよ」
「面白いのかな?」
「面白いよ。メインシナリオもさることながら、イベントストーリーも良いよ。こないだなんて、ミリアムのアスカとマリンがバニーガールで……」

 その手のゲームについては全く分からない僕は話半分に聞きながら通学用鞄の中にあるものを机に取り出し、所定の位置に置いた。
 僕はスマホ向けのゲームが苦手な一方で、夏希姉は大好きだ。僕に良く勧めるのだが、正直僕はやりたくない。金がかかるし、時間もかかる。
 ただ――、ちょっと疑問に思うことがある。
 何故夏希がこんな時間にここに居るんだろうか? 

「この時間からいるってことは、今は……、その、テストか? こないだ僕に迫った奴も鞄を携えていたから、ちょっと気になって」

 僕が問いかけると夏希姉はちょっと僕の方を見てコクッと頷いた。
 それからまたスマホでゲームに興じていた。

「今日は中間試験の一日目でね。家で勉強をしていたら、小母さんが顔を出したのよ。『今度修学旅行に行くそうじゃない? お土産の相談もしたいんだけど』って話になって、それで……ね」

 なるほど、そういうことか。
 試験期間は試験が終わると休みになるし、ずっと家に居て勉強するしかなくなる。
 ただ、二年生となると修学旅行のお土産のことが気になってしまう。
 桜花先輩達も試験が終わった日に土産物を何にしようか相談をしていたから、どこの学校も同じなのかもしれない。

「それならLINEを使って母さんとチャットすればいいだけの話じゃないか。どうして僕ん()まで来て……」

 すると夏希姉は目つきを変え、ベッドから起き上がって僕の方を向く。

「そう、もう一つ話があるんだけど……」
「話って?」

 一体何なんだよ、話って……。
 夏希姉は少し考える素振りをすると、少しずつ口を開く。

「……ヤスってさ……、彼女、居るの?」

 夏希姉は真顔で僕に問いかけた。

 知っている女の子だとまず筆頭になるのは朋恵と愛未の二人だ。その次にe-Sports愛好会の藤島さんと桃花先輩達が来る。その次には同じクラスの黒須さん、そして隣のクラスの白浜さんが来る。

 黒須さんは彼女が学校新聞のために書こうと思っている小説のことで手伝ってもらっている仲で、そんなに親しいとは思っていない。
 彼女とメッセージをやり取りしたとしても、先週の土曜日に「小説の初稿が出来た」報告があった程度だ。
 白浜さんとは隣のクラスということもあって、勉強会の時以来あまり顔を合わせていない。部室が隣同士だから、会う可能性はあるかもしれないけれど。

 e-Sports愛好会の部員たちは友達というよりは仲間だ。そのため、彼女の候補にはならないだろう。

 そうなると朋恵と愛未が彼女の候補だろう。
 朋恵はノリが軽い反面、僕と先生以外の男性とあまり話したことが無さそうだ。ただ、これは僕が見た限りなので、裏では僕以外の男性と話しているかもしれない。
 対して愛未は真面目で、それに妹思いだ。早川のように問題のある生徒に対してはきつく当たり、親しく出来る人に対しては親しげに話す。

 とはいえ、どちらが彼女なのかというと、まだ分からない。
 僕が好きなのは朋恵なのか、それとも愛未なのか……。

「居ることは居るけれど、一人に絞れないんだよ。それに、突然どうしてそういう事を訊くんだよ」

 僕はそう答えると、夏希姉はちょっと考え事をしてから僕に向かってこう答えた。

「だってさ、弟分であるヤスがずーっと付き合っていた女の子に振られたじゃない。弟分であるヤスが寂しい思いしているなら、女の子を紹介してあげようと思ってね」
「で、その女の子って誰なんだよ?」
「ウチの親友(マブダチ)で、円香って言うんだけど……」

 円香って、こないだ僕に突っかかってきたあの肉食獣!?
 本気かよ!

「ちょ、ちょっと待ってよ夏希姉! なんでそんな奴を紹介するんだよ!」
「だってさ、円香が『それだったら付き合ってもいいかな~』なんて言うからさ」
「だってそいつ、うちの学校にまで噂が広がっているんだよ! 超絶ビッチだとか言われていて……」
「でも、円香はいい子だよ? 可愛いし、スタイル良いし、それに経験豊富だし」
「経験豊富って、まさかの?」
もだけど、恋愛も経験豊富だよ。だから、心配しなくて大丈夫だよ」
「僕は()だからな、そいつと付き合うのは!」

 だって、付き合ったらそのまま食われて彼女と結婚させられる羽目になるじゃないか!

「ほー、そういうこと言うんだ~」
「? どういうことだ?」

 やばい! 夏希姉が不穏な笑みを浮かべている!
 こっちに来てから夏希姉は僕の幼馴染代わりとして付き合っているけれども、あの顔をした後にはとんでもないことが……!

「それだったら、この音声をネットに流しちゃおっかな~」

 夏希姉がスマホを操作して音声ファイルを開くと、何やら聞き覚えのある声が……!

『うぅ~……! うわ~~~~!! どうして、どうして心美があんなやつとくっつくんだよ! 僕じゃダメだったのかよ! 馬鹿野郎〜!!』

 こ、これは! 僕がこないだ泣きついた時の声じゃないか!
 どうしてこういうのを撮っていたんだよ、夏希姉!

「ど、どうしてそんなものを!」
「心配になって様子を見に来たんだけど、全然顔を出さないじゃん。それで部屋の前に居たら、女の子二人の声が聞こえてきたんだよね。そこでちょっと気になってボイスメモを起動して……」

 何てことしやがるんだよ、夏希姉!
 夏希姉のスマホって僕の持っているスマホとは別の基本ソフトだから、大抵のゲームはこなせるんだよな。それに、音声録音だって標準でついてくるアプリで出来るから……。
 これはe-Sports愛好会に入った時と同じパターンじゃないか。

「どうかな? ウチの言うこと、聞いてくれるかな?」
「……は、はい……」
「それじゃあ、ウチ等のテストが終わったら連絡するからさ。楽しみにしててね~♪」

 その一言を残し、夏希姉は颯爽と帰っていった。

 夏希姉が紹介したい加茂さんって、こないだ僕に迫ってきた奴だよな。
 あの時はテストの成績云々を聞き出そうとしていたけど、このままデートとなったら、多分僕は彼女に狩られるだろう。
 まずは今夜のうちに二人――朋恵と愛未――に話しておかないと!



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「おかえり~、ヤス。待ちくたびれちゃったよ」
 なんと、隣に住んでいる夏希姉だった。
 こないだと同じ服装だったけど――、平日ということもあって、そこら辺はご愛敬といったところか。
 夏希姉の体から漂う甘い香りと、ちらりと見えるブラが本能を刺激しそうだ。
「何だよ、夏希姉。どうして僕の家に居るんだよ?」
「ちょっと|小母《おば》さんに呼ばれてね……」
 部屋の奥の方を見ると、ダイニングの入り口に居る母さんが手を振っていた。
 そういや、今日はシフトの都合上で休みだったな。
「ちょっと待ってくれ。今戻って来たばかりだし、一旦着替えてくるから」
「うん、分かった。廊下で待っているね」
 通学用の靴を脱いでスリッパに履き替えると、僕は自室に真っ先に入って私服のジーパンとコットンシャツに着替えた。
 この時期にこの時間となると外出するのにはもう一枚羽織らないと厳しいが、幸いここは気密性が高いマンションだ。夏希姉もあの格好だから、薄着で充分だ。
 それに、夏希姉がいきなり抱きついてくるから、ワイシャツとジャケットからデオドラントの匂いが染みつきそうじゃないか。
 ワイシャツはまだしも、ジャケットは滅多に洗濯しないからファブ〇ーズで消臭しておくか。
 それにしても、こないだのクールな夏希姉は何処に行ったんだ? あの時は猫かぶりして僕の窮地《ピンチ》を救っていたけれども、あれじゃあだだ甘のお姉ちゃんキャラじゃないか。
 夏希姉は経験済みだし、ときめくかというと唸らざるを得ない。
「お待たせ、夏希姉」
 自室のドアを開くと、待ちかねたように夏希姉が部屋に入ってきた。
「お邪魔しまーす! んー、久しぶりのヤスのベッド、気持ち良《い》い〜!」
「おいおい、寝っ転がるなよ」
 先月頭にはベッドで寝っ転がる余裕すらなかった夏希姉だが、今日はいつもの夏希姉だ。
 山形から仙台に来て最初に知り合いになった夏希姉は、こうして僕の部屋に勝手に上がり込んでは漫画が無いとかラノベが無いとか文句ばかり言う。
 最近はそんな夏希姉に応えるべく少しずつ漫画を揃えるようにはしているけれども、それでも夏希姉は「ウチが読みたいのが無い」と愚痴をこぼしている。
 僕は決して多いとはいえない小遣いでやりくりしているから、その苦労もわかってほしい。
「ふんふ~ん、ふふふ~ん、ふ~ん、ふふふふ~ん♪」
 今日帰って来たばかりの答案用紙などを取り出していると、僕の気持ちを知ってか知らずか、夏希姉はベッドに寝転がり、鼻歌を歌いながらスマホゲーをやっている。
 その鼻歌、どこかで聞き覚えがあると思ったらタイムリープとヤンキーを組み合わせたアニメのオープニングテーマじゃないか。
 夏希姉が着ている服からはデカい胸の谷間と下着、それに太腿が見え隠れする。健全な高校生にとっては目の毒じゃないか。無防備にもほどがあるだろう。
 それに夏希姉の耳元にはピアスの穴が二つもある。うちの学校に居る朋恵と黒須さん、そして白浜さんもピアスをしているけれども、どれもノンホールピアスだった。
 夏希姉と別々の学校で良かったよ。仮に同じ学校だったとしても、愛未が見たら説教どころじゃ済まないぞ。
「夏希姉、今何やっているんだ?」
「うん、ちょっとブルアンをね」
「ブルアン?」
「知らないの? 『ブルーアンタッチャブル』っていって、学校の先生になってトラブルを解決していくゲームだよ」
「面白いのかな?」
「面白いよ。メインシナリオもさることながら、イベントストーリーも良いよ。こないだなんて、ミリアムのアスカとマリンがバニーガールで……」
 その手のゲームについては全く分からない僕は話半分に聞きながら通学用鞄の中にあるものを机に取り出し、所定の位置に置いた。
 僕はスマホ向けのゲームが苦手な一方で、夏希姉は大好きだ。僕に良く勧めるのだが、正直僕はやりたくない。金がかかるし、時間もかかる。
 ただ――、ちょっと疑問に思うことがある。
 何故夏希がこんな時間にここに居るんだろうか? 
「この時間からいるってことは、今は……、その、テストか? こないだ僕に迫った奴も鞄を携えていたから、ちょっと気になって」
 僕が問いかけると夏希姉はちょっと僕の方を見てコクッと頷いた。
 それからまたスマホでゲームに興じていた。
「今日は中間試験の一日目でね。家で勉強をしていたら、小母さんが顔を出したのよ。『今度修学旅行に行くそうじゃない? お土産の相談もしたいんだけど』って話になって、それで……ね」
 なるほど、そういうことか。
 試験期間は試験が終わると休みになるし、ずっと家に居て勉強するしかなくなる。
 ただ、二年生となると修学旅行のお土産のことが気になってしまう。
 桜花先輩達も試験が終わった日に土産物を何にしようか相談をしていたから、どこの学校も同じなのかもしれない。
「それならLINEを使って母さんとチャットすればいいだけの話じゃないか。どうして僕ん家《ち》まで来て……」
 すると夏希姉は目つきを変え、ベッドから起き上がって僕の方を向く。
「そう、もう一つ話があるんだけど……」
「話って?」
 一体何なんだよ、話って……。
 夏希姉は少し考える素振りをすると、少しずつ口を開く。
「……ヤスってさ……、彼女、居るの?」
 夏希姉は真顔で僕に問いかけた。
 知っている女の子だとまず筆頭になるのは朋恵と愛未の二人だ。その次にe-Sports愛好会の藤島さんと桃花先輩達が来る。その次には同じクラスの黒須さん、そして隣のクラスの白浜さんが来る。
 黒須さんは彼女が学校新聞のために書こうと思っている小説のことで手伝ってもらっている仲で、そんなに親しいとは思っていない。
 彼女とメッセージをやり取りしたとしても、先週の土曜日に「小説の初稿が出来た」報告があった程度だ。
 白浜さんとは隣のクラスということもあって、勉強会の時以来あまり顔を合わせていない。部室が隣同士だから、会う可能性はあるかもしれないけれど。
 e-Sports愛好会の部員たちは友達というよりは仲間だ。そのため、彼女の候補にはならないだろう。
 そうなると朋恵と愛未が彼女の候補だろう。
 朋恵はノリが軽い反面、僕と先生以外の男性とあまり話したことが無さそうだ。ただ、これは僕が見た限りなので、裏では僕以外の男性と話しているかもしれない。
 対して愛未は真面目で、それに妹思いだ。早川のように問題のある生徒に対してはきつく当たり、親しく出来る人に対しては親しげに話す。
 とはいえ、どちらが彼女なのかというと、まだ分からない。
 僕が好きなのは朋恵なのか、それとも愛未なのか……。
「居ることは居るけれど、一人に絞れないんだよ。それに、突然どうしてそういう事を訊くんだよ」
 僕はそう答えると、夏希姉はちょっと考え事をしてから僕に向かってこう答えた。
「だってさ、弟分であるヤスがずーっと付き合っていた女の子に振られたじゃない。弟分であるヤスが寂しい思いしているなら、女の子を紹介してあげようと思ってね」
「で、その女の子って誰なんだよ?」
「ウチの親友《マブダチ》で、円香って言うんだけど……」
 円香って、こないだ僕に突っかかってきたあの肉食獣!?
 本気かよ!
「ちょ、ちょっと待ってよ夏希姉! なんでそんな奴を紹介するんだよ!」
「だってさ、円香が『それだったら付き合ってもいいかな~』なんて言うからさ」
「だってそいつ、うちの学校にまで噂が広がっているんだよ! 超絶ビッチだとか言われていて……」
「でも、円香はいい子だよ? 可愛いし、スタイル良いし、それに経験豊富だし」
「経験豊富って、まさか《《そっち》》の?」
「《《そっち》》もだけど、恋愛も経験豊富だよ。だから、心配しなくて大丈夫だよ」
「僕は嫌《ヤ》だからな、そいつと付き合うのは!」
 だって、付き合ったらそのまま食われて彼女と結婚させられる羽目になるじゃないか!
「ほー、そういうこと言うんだ~」
「? どういうことだ?」
 やばい! 夏希姉が不穏な笑みを浮かべている!
 こっちに来てから夏希姉は僕の幼馴染代わりとして付き合っているけれども、あの顔をした後にはとんでもないことが……!
「それだったら、この音声をネットに流しちゃおっかな~」
 夏希姉がスマホを操作して音声ファイルを開くと、何やら聞き覚えのある声が……!
『うぅ~……! うわ~~~~!! どうして、どうして心美があんなやつとくっつくんだよ! 僕じゃダメだったのかよ! 馬鹿野郎〜!!』
 こ、これは! 僕がこないだ泣きついた時の声じゃないか!
 どうしてこういうのを撮っていたんだよ、夏希姉!
「ど、どうしてそんなものを!」
「心配になって様子を見に来たんだけど、全然顔を出さないじゃん。それで部屋の前に居たら、女の子二人の声が聞こえてきたんだよね。そこでちょっと気になってボイスメモを起動して……」
 何てことしやがるんだよ、夏希姉!
 夏希姉のスマホって僕の持っているスマホとは別の基本ソフトだから、大抵のゲームはこなせるんだよな。それに、音声録音だって標準でついてくるアプリで出来るから……。
 これはe-Sports愛好会に入った時と同じパターンじゃないか。
「どうかな? ウチの言うこと、聞いてくれるかな?」
「……は、はい……」
「それじゃあ、ウチ等のテストが終わったら連絡するからさ。楽しみにしててね~♪」
 その一言を残し、夏希姉は颯爽と帰っていった。
 夏希姉が紹介したい加茂さんって、こないだ僕に迫ってきた奴だよな。
 あの時はテストの成績云々を聞き出そうとしていたけど、このままデートとなったら、多分僕は彼女に狩られるだろう。
 まずは今夜のうちに二人――朋恵と愛未――に話しておかないと!