第47話

ー/ー



「よお、富樫。どうしたんだ?」

 その日の放課後。
 部室に入るや否や、明後日から修学旅行で関西方面に向かう黒澤先輩に声を掛けられた。
 隣のクラスに居る那須君と藤島さんは掃除当番で遅くなるらしいとのことだった。
 それに、今日はまだ国分姉妹が来ていない。

 さて、朝のホームルームの時に担任の先生から定期試験の結果を掲示したから見るようにとの話があった。授業が始まる前に見に行ったら、僕は自己ベストを更新して280人中38位と10ランクもアップした。
 朋恵達と一緒になって勉強したお陰で少しだけアップしたのは嬉しかった一方で、自分自身で肉食獣に対して餌をばらまいていたことに気がついて自己嫌悪の表情を浮かべていたのは……、まぁ、情けないというか、何というか。

 一方で280人中49位と自己最高をマークした朋恵はちょっと喜んでいる一方で複雑な表情を浮かべ、280人中12位で少しランクダウンした愛未は少し落ち込んでいた。
 二人とも僕と橋本の席の傍で会話していたから、僕達の会話も耳に入ったのかもしれない。

「……別に、何ともないです」
「何ともないってのはないだろ? お前、顔に書いてあるぜ。彼女二人に冷たくされたってな」

 鋭い。
 結局は自分で蒔いた種なんだから、仕方が無いけれど。

「……まぁ、先輩に気づかれたなら仕方ないです。先月、以前付き合っていた彼女を他校の生徒に取られたんですよ。そのことをちょっと隣の家の人に話したら、隣の家の人が通っている学校の友人にバレまして……」
「ハハッ、そういうことか。お前も随分間抜けなことをしたもんだなぁ~」

 黒澤先輩は笑いながら話しているが、それで肉食獣を呼び込んじゃったからなぁ。

「ええ。それで、二人にはちゃんと謝ったほうが良いのかなと思いまして……」
「そうしろよ。……今ならきっと間に合うぜ」

 僕はスマホを開くと、LINEのルームチャットに「今朝はごめん」とメッセージを送った。
 既読がすぐつくと、「気にしていないよ」と二人からメッセージが入った。
 続けて「今日は久しぶりに一緒に帰らない?」とメッセージを送ると、二人から当然ながらOKのスタンプが飛び交った。
 練習前とはいえ、返答があって良かった。
 まぁ、細かいことは帰りにでも聞いてみよう。
 まずはエイムの練習から――と思い、僕はAIM Trainerを起動して練習に勤しんだ。

 ◇

 今日の部活が終わるタイミングでチア部も練習が終わった。
 外は既に暗く、昇降口には人だかりができていた。

「お待たせ~、ヤス」
「ヤス君、お疲れ」

 まだ中履きのままの朋恵達が来ると、なんだかホッとした気分になった。
 次第に寒くなると思ったのか、コートもやや厚手のモノを着用している。
 来月になればもっと寒くなるだろうし、

「二人ともお疲れ。さっきLINEした通り、一緒に帰ろうか」
「そうだね」
「うん」

 二人が一斉に頷くと、僕たちはお互いの家に向かって歩みはじめた。
 ただ、僕には真っ先に話さなきゃならないことがあって――。

「朋恵、そして愛未、今朝は本当にごめん!」

 そう、真っ先に今朝の事を謝りたかったのだ。
 朋恵達に橋本との会話を聞かれていたとなると、僕と朋恵達の関係が危うくなりかねない。
 朋恵は「大丈夫だよ、アタシは全然気にしていないから」といつものように笑顔で応じてくれた。
 一方、愛未はというと――。

「別にヤス君が気にすることはないよ。ただ……」
「ただ?」
「ただ、こないだ私が言った通りじゃないかって思っただけだよ」

 ふと、僕はこないだ図書室で勉強していた時に二人が話していたこと思い出した。

 ――ヤス君、女子のネットワークを舐めないほうが良いよ。
 ――そうそう、君の噂は下手すれば他校に広まっているかもよ?

 夏希姉に話していたことが、夏希姉を通して肉食獣(加茂さん)にも伝わっていたなんて……!
 恥ずかしい。穴があったら入りたいよ!
 弱気になった時に何を言ったんだ、僕は!
 ……だけど、誰かに話さない限りは不登校になっていた可能性だってあったわけだし、夏希姉には感謝しかないけど!

「あの時は心が弱っていたからね。お恥ずかしい限りで」
「そうだね。あの時のことを振り返る余裕ができるならば、大丈夫だよ」
「そうそう。君は今の君が一番輝いているよ、ヤス君」

 二人が微笑みながら僕の方を見た。
 僕は本当に良いガールフレンドを持って良かったよ。
 ただ、いつも表情を変えない愛未が顔を曇らせたのはどういうことなんだろうか。

「愛未、今朝表情を変えていたけどそれって……」
「ああ、それか? ちょっと成績が下がったからね」
「中間試験の結果のこと?」
「うん。二月の学年末では挽回したいよ」
「それでもかなりの位置に居るじゃない? 心配する必要は無いよ」
「フフッ、ありがとう。気持ちだけ取っておくよ」

 そう話すと、愛未はいつもの様な憂いを帯びた表情に戻った。

「テストのことで思い出したんだけど、トモがテスト前に高田先輩に呼び出されたことがあったじゃないか。なんて言われたか覚えているか?」
「アタシ、前期期末の結果が280人中68位だったじゃない。前期期末の後でそのことを先輩に話したら『せめてチア部の部員たるもの、ベスト50に入りなよ! エマちゃんとミイちゃんがベスト50に入ったんだから、トモちゃんだってやれるよ!』って発破を掛けられたんだよね~」

 スイーツを食べに行った時に顔が一瞬で曇ったのは、先輩に指摘されたからなのか。
 こないだカラオケで一緒になった美礼姉と井上先輩のお二人は、見た目以上に成績が良さそうな感じだった。チア部の部員は他の生徒の模範になるために勉強を頑張っているのかな。

「フフッ」
「何がおかしいのよ、マナ」
「いや、トモらしくて、つい、ね」
「あ~! 人のことを馬鹿にして~!」
「いや、申し訳ない。……でも、今回は頑張ったじゃないか、トモ」
「そ、そうだね! これで高田先輩にも認めてもらえるかな?」
「ま、まぁ、大丈夫だと思うよ」
「やったぁ! ヤスがそう言ってくれると嬉しいよ」
「こら、トモ! 調子に乗るんじゃないよ」
「何よマナ、文句あるの?」
「いやぁ、別に……」
「もう!」

 朋恵がふくれっ面をすると、途端に僕たち二人は大笑いしながら夕暮れが過ぎて暗くなりつつある住宅街を歩いていた。

「それじゃあ、また明後日ね!」
「またね」

 門前高校の第二グラウンド前で愛未と別れ、そこからマンションの玄関口で朋恵と別れの挨拶をすると、僕はいつも通りに家族の住む301号室に向かった。
 そして、そこに待ち受けていたのは――。



次のエピソードへ進む 第48話


みんなのリアクション

「よお、富樫。どうしたんだ?」
 その日の放課後。
 部室に入るや否や、明後日から修学旅行で関西方面に向かう黒澤先輩に声を掛けられた。
 隣のクラスに居る那須君と藤島さんは掃除当番で遅くなるらしいとのことだった。
 それに、今日はまだ国分姉妹が来ていない。
 さて、朝のホームルームの時に担任の先生から定期試験の結果を掲示したから見るようにとの話があった。授業が始まる前に見に行ったら、僕は自己ベストを更新して280人中38位と10ランクもアップした。
 朋恵達と一緒になって勉強したお陰で少しだけアップしたのは嬉しかった一方で、自分自身で肉食獣に対して餌をばらまいていたことに気がついて自己嫌悪の表情を浮かべていたのは……、まぁ、情けないというか、何というか。
 一方で280人中49位と自己最高をマークした朋恵はちょっと喜んでいる一方で複雑な表情を浮かべ、280人中12位で少しランクダウンした愛未は少し落ち込んでいた。
 二人とも僕と橋本の席の傍で会話していたから、僕達の会話も耳に入ったのかもしれない。
「……別に、何ともないです」
「何ともないってのはないだろ? お前、顔に書いてあるぜ。彼女二人に冷たくされたってな」
 鋭い。
 結局は自分で蒔いた種なんだから、仕方が無いけれど。
「……まぁ、先輩に気づかれたなら仕方ないです。先月、以前付き合っていた彼女を他校の生徒に取られたんですよ。そのことをちょっと隣の家の人に話したら、隣の家の人が通っている学校の友人にバレまして……」
「ハハッ、そういうことか。お前も随分間抜けなことをしたもんだなぁ~」
 黒澤先輩は笑いながら話しているが、それで肉食獣を呼び込んじゃったからなぁ。
「ええ。それで、二人にはちゃんと謝ったほうが良いのかなと思いまして……」
「そうしろよ。……今ならきっと間に合うぜ」
 僕はスマホを開くと、LINEのルームチャットに「今朝はごめん」とメッセージを送った。
 既読がすぐつくと、「気にしていないよ」と二人からメッセージが入った。
 続けて「今日は久しぶりに一緒に帰らない?」とメッセージを送ると、二人から当然ながらOKのスタンプが飛び交った。
 練習前とはいえ、返答があって良かった。
 まぁ、細かいことは帰りにでも聞いてみよう。
 まずはエイムの練習から――と思い、僕はAIM Trainerを起動して練習に勤しんだ。
 ◇
 今日の部活が終わるタイミングでチア部も練習が終わった。
 外は既に暗く、昇降口には人だかりができていた。
「お待たせ~、ヤス」
「ヤス君、お疲れ」
 まだ中履きのままの朋恵達が来ると、なんだかホッとした気分になった。
 次第に寒くなると思ったのか、コートもやや厚手のモノを着用している。
 来月になればもっと寒くなるだろうし、
「二人ともお疲れ。さっきLINEした通り、一緒に帰ろうか」
「そうだね」
「うん」
 二人が一斉に頷くと、僕たちはお互いの家に向かって歩みはじめた。
 ただ、僕には真っ先に話さなきゃならないことがあって――。
「朋恵、そして愛未、今朝は本当にごめん!」
 そう、真っ先に今朝の事を謝りたかったのだ。
 朋恵達に橋本との会話を聞かれていたとなると、僕と朋恵達の関係が危うくなりかねない。
 朋恵は「大丈夫だよ、アタシは全然気にしていないから」といつものように笑顔で応じてくれた。
 一方、愛未はというと――。
「別にヤス君が気にすることはないよ。ただ……」
「ただ?」
「ただ、こないだ私が言った通りじゃないかって思っただけだよ」
 ふと、僕はこないだ図書室で勉強していた時に二人が話していたこと思い出した。
 ――ヤス君、女子のネットワークを舐めないほうが良いよ。
 ――そうそう、君の噂は下手すれば他校に広まっているかもよ?
 夏希姉に話していたことが、夏希姉を通して肉食獣《加茂さん》にも伝わっていたなんて……!
 恥ずかしい。穴があったら入りたいよ!
 弱気になった時に何を言ったんだ、僕は!
 ……だけど、誰かに話さない限りは不登校になっていた可能性だってあったわけだし、夏希姉には感謝しかないけど!
「あの時は心が弱っていたからね。お恥ずかしい限りで」
「そうだね。あの時のことを振り返る余裕ができるならば、大丈夫だよ」
「そうそう。君は今の君が一番輝いているよ、ヤス君」
 二人が微笑みながら僕の方を見た。
 僕は本当に良いガールフレンドを持って良かったよ。
 ただ、いつも表情を変えない愛未が顔を曇らせたのはどういうことなんだろうか。
「愛未、今朝表情を変えていたけどそれって……」
「ああ、それか? ちょっと成績が下がったからね」
「中間試験の結果のこと?」
「うん。二月の学年末では挽回したいよ」
「それでもかなりの位置に居るじゃない? 心配する必要は無いよ」
「フフッ、ありがとう。気持ちだけ取っておくよ」
 そう話すと、愛未はいつもの様な憂いを帯びた表情に戻った。
「テストのことで思い出したんだけど、トモがテスト前に高田先輩に呼び出されたことがあったじゃないか。なんて言われたか覚えているか?」
「アタシ、前期期末の結果が280人中68位だったじゃない。前期期末の後でそのことを先輩に話したら『せめてチア部の部員たるもの、ベスト50に入りなよ! エマちゃんとミイちゃんがベスト50に入ったんだから、トモちゃんだってやれるよ!』って発破を掛けられたんだよね~」
 スイーツを食べに行った時に顔が一瞬で曇ったのは、先輩に指摘されたからなのか。
 こないだカラオケで一緒になった美礼姉と井上先輩のお二人は、見た目以上に成績が良さそうな感じだった。チア部の部員は他の生徒の模範になるために勉強を頑張っているのかな。
「フフッ」
「何がおかしいのよ、マナ」
「いや、トモらしくて、つい、ね」
「あ~! 人のことを馬鹿にして~!」
「いや、申し訳ない。……でも、今回は頑張ったじゃないか、トモ」
「そ、そうだね! これで高田先輩にも認めてもらえるかな?」
「ま、まぁ、大丈夫だと思うよ」
「やったぁ! ヤスがそう言ってくれると嬉しいよ」
「こら、トモ! 調子に乗るんじゃないよ」
「何よマナ、文句あるの?」
「いやぁ、別に……」
「もう!」
 朋恵がふくれっ面をすると、途端に僕たち二人は大笑いしながら夕暮れが過ぎて暗くなりつつある住宅街を歩いていた。
「それじゃあ、また明後日ね!」
「またね」
 門前高校の第二グラウンド前で愛未と別れ、そこからマンションの玄関口で朋恵と別れの挨拶をすると、僕はいつも通りに家族の住む301号室に向かった。
 そして、そこに待ち受けていたのは――。