第45話
ー/ー「あの女性は……?」
僕の住んでいるマンションの出入り口付近に、同年代と思われる女性の姿が見えた。
獲物を狙っているような鋭い目つき。
肩甲骨まである髪はツインテールにまとめていて、髪の色は栗色を基調に、前髪の所々にピンク色のメッシュが入っている。
服は上に秋から冬への移り変わりを反映してか短めのコートを羽織っていて、トップスはボディラインを強調した暗めの色をしたトップスと暗めの色をしたタイトなミニスカートを穿いていた。
オーバーニーソックスから見え隠れする太腿は肉づきが良く、体つきはさっきまで一緒に居た朋恵や愛未に似て出るところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。
そして、手には駅前にある北欧の家具やインテリア雑貨店で買ったと思われるバッグを携えていた。
しかし――、何故ここのマンションの入り口に居るんだろうか?
ひょっとしたら友達が住んでいるのだろうか?
関わるのも面倒だし、ここは無視して階段に向かわないと。
僕は知らないふりをして入り口に入ろうとすると、女性の方から声を掛けてきた。
「ねぇ、君ぃ」
へ? ひょっとして、僕の事か?
「ぼ、僕?」
「君だよ、君ぃ。ひょっとして君がなっつん……、いや、あーしの友達が話していた子なのかなぁ?」
友達? 何のことだかさっぱり分からない。
「な、何なんですか? 人のことをじろじろと見て!」
すると彼女は柱に手をつけて、いわゆる壁ドンのような体勢を取ると、僕の顔と服などをじろじろと眺めていた。
「ふーん、彼女を寝取られた感じには見えないなぁ。見た目がちょっと自信ありげだしぃ」
何だ、彼女は。僕のことを知っているのか?
しかも、体からは朋恵と同様にデオドラントの甘い香りがする。
「あの、放してもらえますか?」
「そ、そうね」
すると彼女は僕を解放するなり、彼女は妖しげな表情を浮かべた。
「噂に聞いたのとはちょっと違う感じがするけど、まあいいか。あーしは加茂円香。こっから西の方にある御堂平に通っているんだぁ。ここには友達が住んでいてねぇ」
友達? ひょっとして、夏希姉のことか?
「その、友達ってまさか夏……、西條さんの?」
「そうだよ。あーしとなっつんは高校が一緒でね~」
「ひょっとして御堂平?」
「正解~!」
夏希姉が御堂平に通っていることは知っていたけれども、なんだかノリが軽い……というよりは、朋恵よりもノリが軽いじゃないか!
朋恵だったらぎりぎり行けるけど、ちょっとついていけないよ。
「それでぇ、君は何をしていたのかなぁ?」
「じ、実を言うと中間試験が終わったばかりで、友達のところで答え合わせをしていました」
「ふ~ん、そっかぁ。それで、どうだったのかなぁ~?」
彼女の顔を見ると、妙にニヤついていた。
先程まで朋恵達と答え合わせをして抜群の手ごたえを感じたけど、そのことを話したら何をされるか分からない。だけど話さないと帰してもらえない可能性が……!
「そ、その……、大分、良かった、です……」
僕はそう返答すると、鞄を持って一目散に逃げようとする。
しかし、彼女は僕の様子を見透かしてさらに追い打ちをかける。
「ふ~ん、どこがどう良かったのかなぁ~?」
彼女は納得する答えが欲しくて、さらに僕に食いついてくる。
早く部屋に戻りたいのに、これじゃあ帰りたくても……!
「ちょっと円香、その子を放してあげてよ! 困っているじゃないの」
後ろを振り向くと、そこには隣に住んでいる夏希姉の姿があった。
夏希姉は目つきや髪型こそ愛未に似ている一方で、髪の長さは僕に絡んでいる加茂さんと同じくらいあるだろうか。内側にはピンクのメッシュが入っていて、明らかに遊んでいる可能性は否定できないだろう。
トップスはこの間朋恵が着ていたものと似た感じで、少しオーバーサイズなオフショルダーで、少しだけブラジャーのストラップが見え隠れしている。
ボトムスはお尻を強調するショートパンツで、健全な青年が見たら速攻でノックアウトされそうだ。
夏希姉に叱られて分が悪いと感じたからなのか、加茂さんは僕から離れると「ごめーん、なっつん。アタシ、このままお暇するね。またね~」と言って、マンションから去っていった。
やっとこれで家に帰れる。助かったよ。
「ごめんね、ヤス。面倒掛けさせちゃって」
「いえ、ありがとうございます。お陰で助かりました」
夏希姉は僕の方を見るなり、ニコッと微笑んだ。
「せっかくだし、一緒に部屋に戻ろう?」
僕が無言で頷くと、夏希姉は踵を返して入り口に向かって歩いて行った。
「ごめんね。ウチのところも来週からテストだから、円香と一緒に勉強していたんだ」
「夏希姉のところって来週からテスト?」
「そうだよ。それが終わったら、楽しみにしている修学旅行なんだ」
そういえば、e-Sports愛好会の先輩達も再来週から修学旅行だって話していた。
夏希姉達のところも僕たちの高校と同じ関西方面なので、愛好会のどこかで出くわす可能性は……、多分ないだろう。
「ヤスのところ、昨日までテストだったっしょ。どうだった?」
「先に受けた模試に小テストが良かったので、今回は上手く行きそうです。英語はほぼ満点ですし、苦手だった数学もかなりいい出来でした」
「凄いじゃん! それでこそ我が弟!」
「弟だなんて、そんな。褒めても何も出ませんから」
「またまたぁ、ケンソンしちゃって!」
夏希姉はそう言って僕の肩をバンバンと叩く。
そういえば、夏希姉って大学はどうするんだろうか? 名取にある大学か、それとも北東学院になるのか――、ちょっと気になる。
◇
「ただいま」
「お帰り、泰久」
自分たちの部屋に戻ると、母さんと父さんはリビングでテレビを見ていた。
うちの母さんは同年代にしては若く見える一方で、父さんはというと同年代の人とほとんど変わらない印象だ。
「どうだった、試験の答え合わせの結果は?」
「ばっちりだったよ。今回はいい線行きそうだ」
そう答えると、父さんが「よく頑張ったじゃないか」と褒めてくれた。
僕は「うん」と一言だけ返事をすると、自分の部屋に戻った。
人によっては冷淡な反応と思われるかもしれないが、僕は父さんや母さんに喜んで貰うために勉強しているわけではない。
僕の場合は高校を卒業した後のこと、大学に入ってからの基礎学力をつけて、その上で公務員なり有名企業で働けるような環境を整えるために頑張っている。
ただ、父さんに新しいガールフレンドが出来たということは内緒にしておこうかな。何せ父さん、高校時代はあんまりもてなかったってこぼしていたから。
それにしても、時が経つのは早いな。
朋恵と愛未に泣きついた後でインタビューを受け、部活に入り直し、勉強会にデート……。
僕にとっては、この一ヶ月半が一年のように感じる。
ただ、今日出会ったばかりの加茂さんは……、ちょっと怪しい。
夏希姉の友達とはいえ、突然絡まれるなんて思いもよらなかった。
僕のことを知っている可能性はあるけど、はてさて、いつだったかな――?
イカン、イカン! 考え事をする暇があったら、少しでもいいからエイムの練習をしないと!
僕は黒澤先輩から勧められたAIM Trainerを起動して、エイムの練習を始めた。
黒澤先輩、昨日のアンレートでは上手く立ち回っていたからな。僕も先輩と同じように立ち回れれば……。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
「あの女性は……?」
僕の住んでいるマンションの出入り口付近に、同年代と思われる女性の姿が見えた。
獲物を狙っているような鋭い目つき。
肩甲骨まである髪はツインテールにまとめていて、髪の色は栗色を基調に、前髪の所々にピンク色のメッシュが入っている。
服は上に秋から冬への移り変わりを反映してか短めのコートを羽織っていて、トップスはボディラインを強調した暗めの色をしたトップスと暗めの色をしたタイトなミニスカートを穿いていた。
オーバーニーソックスから見え隠れする太腿は肉づきが良く、体つきはさっきまで一緒に居た朋恵や愛未に似て出るところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。
そして、手には駅前にある北欧の家具やインテリア雑貨店で買ったと思われるバッグを携えていた。
しかし――、何故ここのマンションの入り口に居るんだろうか?
ひょっとしたら友達が住んでいるのだろうか?
関わるのも面倒だし、ここは無視して階段に向かわないと。
僕は知らないふりをして入り口に入ろうとすると、女性の方から声を掛けてきた。
「ねぇ、君ぃ」
へ? ひょっとして、僕の事か?
「ぼ、僕?」
「君だよ、君ぃ。ひょっとして君がなっつん……、いや、あーしの友達が話していた子なのかなぁ?」
友達? 何のことだかさっぱり分からない。
「な、何なんですか? 人のことをじろじろと見て!」
すると彼女は柱に手をつけて、いわゆる壁ドンのような体勢を取ると、僕の顔と服などをじろじろと眺めていた。
「ふーん、彼女を寝取られた感じには見えないなぁ。見た目がちょっと自信ありげだしぃ」
何だ、彼女は。僕のことを知っているのか?
しかも、体からは朋恵と同様にデオドラントの甘い香りがする。
「あの、放してもらえますか?」
「そ、そうね」
すると彼女は僕を解放するなり、彼女は妖しげな表情を浮かべた。
「噂に聞いたのとはちょっと違う感じがするけど、まあいいか。あーしは加茂円香。こっから西の方にある御堂平に通っているんだぁ。ここには友達が住んでいてねぇ」
友達? ひょっとして、夏希姉のことか?
「その、友達ってまさか夏……、西條さんの?」
「そうだよ。あーしとなっつんは高校が一緒でね~」
「ひょっとして御堂平?」
「正解~!」
夏希姉が御堂平に通っていることは知っていたけれども、なんだかノリが軽い……というよりは、朋恵よりもノリが軽いじゃないか!
朋恵だったらぎりぎり行けるけど、ちょっとついていけないよ。
「それでぇ、君は何をしていたのかなぁ?」
「じ、実を言うと中間試験が終わったばかりで、友達のところで答え合わせをしていました」
「ふ~ん、そっかぁ。それで、どうだったのかなぁ~?」
彼女の顔を見ると、妙にニヤついていた。
先程まで朋恵達と答え合わせをして抜群の手ごたえを感じたけど、そのことを話したら何をされるか分からない。だけど話さないと帰してもらえない可能性が……!
「そ、その……、大分、良かった、です……」
僕はそう返答すると、鞄を持って一目散に逃げようとする。
しかし、彼女は僕の様子を見透かしてさらに追い打ちをかける。
「ふ~ん、どこがどう良かったのかなぁ~?」
彼女は納得する答えが欲しくて、さらに僕に食いついてくる。
早く部屋に戻りたいのに、これじゃあ帰りたくても……!
「ちょっと円香、その子を放してあげてよ! 困っているじゃないの」
後ろを振り向くと、そこには隣に住んでいる夏希姉の姿があった。
夏希姉は目つきや髪型こそ愛未に似ている一方で、髪の長さは僕に絡んでいる加茂さんと同じくらいあるだろうか。内側にはピンクのメッシュが入っていて、明らかに遊んでいる可能性は否定できないだろう。
トップスはこの間朋恵が着ていたものと似た感じで、少しオーバーサイズなオフショルダーで、少しだけブラジャーのストラップが見え隠れしている。
ボトムスはお尻を強調するショートパンツで、健全な青年が見たら速攻でノックアウトされそうだ。
夏希姉に叱られて分が悪いと感じたからなのか、加茂さんは僕から離れると「ごめーん、なっつん。アタシ、このままお暇するね。またね~」と言って、マンションから去っていった。
やっとこれで家に帰れる。助かったよ。
「ごめんね、ヤス。面倒掛けさせちゃって」
「いえ、ありがとうございます。お陰で助かりました」
夏希姉は僕の方を見るなり、ニコッと微笑んだ。
「せっかくだし、一緒に部屋に戻ろう?」
僕が無言で頷くと、夏希姉は踵を返して入り口に向かって歩いて行った。
「ごめんね。ウチのところも来週からテストだから、円香と一緒に勉強していたんだ」
「夏希姉のところって来週からテスト?」
「そうだよ。それが終わったら、楽しみにしている修学旅行なんだ」
そういえば、e-Sports愛好会の先輩達も再来週から修学旅行だって話していた。
夏希姉達のところも僕たちの高校と同じ関西方面なので、愛好会のどこかで出くわす可能性は……、多分ないだろう。
「ヤスのところ、昨日までテストだったっしょ。どうだった?」
「先に受けた模試に小テストが良かったので、今回は上手く行きそうです。英語はほぼ満点ですし、苦手だった数学もかなりいい出来でした」
「凄いじゃん! それでこそ我が弟!」
「弟だなんて、そんな。褒めても何も出ませんから」
「またまたぁ、ケンソンしちゃって!」
夏希姉はそう言って僕の肩をバンバンと叩く。
そういえば、夏希姉って大学はどうするんだろうか? 名取にある大学か、それとも北東学院になるのか――、ちょっと気になる。
◇
「ただいま」
「お帰り、泰久」
自分たちの部屋に戻ると、母さんと父さんはリビングでテレビを見ていた。
うちの母さんは同年代にしては若く見える一方で、父さんはというと同年代の人とほとんど変わらない印象だ。
「どうだった、試験の答え合わせの結果は?」
「ばっちりだったよ。今回はいい線行きそうだ」
そう答えると、父さんが「よく頑張ったじゃないか」と褒めてくれた。
僕は「うん」と一言だけ返事をすると、自分の部屋に戻った。
人によっては冷淡な反応と思われるかもしれないが、僕は父さんや母さんに喜んで貰うために勉強しているわけではない。
僕の場合は高校を卒業した後のこと、大学に入ってからの基礎学力をつけて、その上で公務員なり有名企業で働けるような環境を整えるために頑張っている。
ただ、父さんに新しいガールフレンドが出来たということは内緒にしておこうかな。何せ父さん、高校時代はあんまりもてなかったってこぼしていたから。
それにしても、時が経つのは早いな。
朋恵と愛未に泣きついた後でインタビューを受け、部活に入り直し、勉強会にデート……。
僕にとっては、この一ヶ月半が一年のように感じる。
ただ、今日出会ったばかりの加茂さんは……、ちょっと怪しい。
夏希姉の友達とはいえ、突然絡まれるなんて思いもよらなかった。
僕のことを知っている可能性はあるけど、はてさて、いつだったかな――?
イカン、イカン! 考え事をする暇があったら、少しでもいいからエイムの練習をしないと!
僕は黒澤先輩から勧められたAIM Trainerを起動して、エイムの練習を始めた。
黒澤先輩、昨日のアンレートでは上手く立ち回っていたからな。僕も先輩と同じように立ち回れれば……。