第43話
ー/ー 目が覚めると、僕は昨日に行ったカラオケボックスの一室に居た。
部屋の中には先輩達が居ない。居るのは僕だけだった。
おかしいな。みんなどこに行ったんだろう?
不審に思った時、不意に後ろの方からドアが開く音がした。
そこに居たのは、
『君、ドーテーなの?』
誰だ? 僕のことを童貞だというのは?
僕は後ろを振り返った。
――なんだ、朋恵……、じゃない。
釣り目をしていて胸が大きく、肩甲骨の辺りまで伸びている髪をツインテールにしていて、所々にピンク色のメッシュが入っていた。
制服の上着は全てボタンを外していて、スカートは太腿が見えるくらいに短い。
しかも、うちの学校の生徒ではない証拠にリボンが見られない。
金曜日にカラオケボックスで男子生徒を喰らっていた女だ。
一体全体、なぜこんなところに居るんだ?
『フフッ、気がつかないの? ここにはアタシとアンタしか居ないんだよぉ? そうなるとぉ、やることは一つ……だよね?』
一つって、つまりは、その……?
『決まっているじゃないのよぉ、アタシとイイコトしない?』
彼女が近寄って僕に抱きついてきた。
甘いミントのデオドラントが鼻腔をくすぐる。
このままだと僕はどうにかなってしまいそうだ――。
☆
ピピピ、ピピピ、ピピピ……
「う~ん……、もう朝か……」
土曜日だというのに、いつもの時刻にセットしていたんだな。早く目が覚めてしまったよ。
周囲は……まだ暗いな。十一月後半となると、この時間はまだ日が昇る前だ。
「さて、今日はテストの答え合わせだな……」
眠気眼でスマホを取り出してスケジュール表を確認すると、今日九時半に朋恵のマンション入り口で待ち合わせになっている。
今回のテストは自分でもやりごたえがあった。
二か月前のことはあまりよく覚えていないが、今回は総合学習で一緒だった橋本や朋恵達と一緒にテスト勉強をしたから、いいところまでは行けたはずだ。
自己ベストを更新する可能性は高いだろう。
最初は橋本も誘おうとしたけど、アイツはあっさりと「面倒だからいい」と断ってきた。愛未は成績トップクラスだというのに。
「折角だし、こないだ買ったばかりのカーディガンを着ておこうかな」
僕は着替えや身支度、朝食を済ませると、バッグに中間テストの問題用紙と学校指定のパソコンを詰め込むなどして外出の準備を整えた。
つくづく朋恵と愛未が近所同士で良かったと思う。橋本も南仙台から電車に乗ってバスに乗ればここまですぐ来られるというのに、何を勿体ぶっているんだろうか。
◇
「行ってきまーす」
リビングでくつろいでいる両親に声をかけてから、外出用鞄を手に取ってこの間のデートや勉強会と同じように階段を降り、マンションの外に出る。
「少し寒いな」
外の空気はまだ冷たく、三か月前の夏の日が嘘のようだ。
空は気持ちよく晴れているけれども、お昼を過ぎたら曇り空になるとのことで西から空が迫ってきている。
朋恵の家までは歩いてすぐだ。
待たせるのも良くない。さっさと行こう。
◇
「ヤス、おはよう」
マンションの入り口辺りに来ると、こないだと同じような大きめのトップスにぴっちりのボトムスでまとめた朋恵が出迎えてくれた。
特段流行りに聡いわけではない僕だけど、朋恵ってこういうファッションが好きだな。
「おはよう。いつも私服となるとゆとりがあるのを選んでいるね」
「アタシ、トップスはぴっちりしたものよりもオーバーサイズのものが好きだからね。ヤスも服を見る目が出来たじゃない!」
「朋恵のお陰だね」
「くすっ、そう言ってくれると助かるよ。愛未も待たせているから、早く行こう」
朋恵が微笑む姿を見ていると、僕も嬉しくなってつい微笑みで返した。
僕はこないだと同じように朋恵にマンションのロックを解いてもらい、後をついて歩く。
同じクラスに居るだけの存在からいつの間にか友人になって一ヶ月半、表情でやり取りができるようになって良かった。
寝取られた彼女のことをすっかり忘れているけれども……、今朝の夢のこと、話していいのかな?
朋恵の住んでいる家に到着して、こないだと同じように朋恵の部屋に入ると――。
「やあ、ヤス君」
そこにはこないだと違ってロングスカートと暖かそうなソックス、そしてカーディガンにブラウスといった女性らしい恰好をした愛未が居た。
こないだのイケメンチックな衣装とは違って、これはこれで――。
「おはよう……ございます。それにしても今日はちょっと普通の女性らしい恰好で……」
「気に入っていた服を洗濯に出しちゃってね、それで今日はこれにしたんだけど……似合わないかな?」
「似合いますよ! 素敵ですよ!」
ちょっとオーバーリアクション気味に答えると、愛未はちょっと照れくさそうな顔を浮かべて「あ、ありがとう……」と答えた。
いつもはイケメンで通している愛未が可愛いところを見せるなんて、不思議だな。
「さ、早速だけど昨日までのテストの答え合わせをしよう?」
「そ、そうだね。まずはオーラルから始めるか」
「ぼ、僕もそちらから……」
愛未の女性らしい恰好に戸惑ったのか、それとも照れくさかったのか分からなかったけれど、こうして僕たちは初めての試験の答え合わせをすることになった。
やっぱり自分で出来ているつもりでも、他の人だと出来ていないところってあるんだなぁ。
◇
「ふ~、やっと終わった~! 今回は好成績行けそうだよ~!」
「よく頑張ったね、マナ」
「何を言ってんのよ、妹さんの面倒を見ながら好成績なんてそうそう出せるもんじゃないよ」
「ふっ、それもそうだね」
「僕も好成績になりそうだよ!」
「やるじゃん、ヤス!」
「私達と頑張ったおかげだな」
「そうだね! マナも協力してくれたからだよ!」
愛未の服装に戸惑ったものの、無事自己採点が終わったのはお昼すぎだった。
僕と朋恵、愛未とも前期期末に比べるとランクアップが期待できそうだ。
特に英語の二科目はこないだの実力テスト対策が効いたためか、僕と朋恵は大幅アップに繋がりそうだ。
「ところで、さっき少しだけアタシが話題にした妹さんはどうなの?」
「香澄か? 努力を重ねたお陰で、もう私が面倒見なくても大丈夫になったよ」
「へぇ~、それならうちの学校に来れそうじゃん」
「ただね、香澄はこないだ『もうちょっとランクの高い八幡にしたい!』と言い出したんだ。私は『志望校を決めて、後は一直線にしろ!』と止めたけどね」
「あそこはジャズダンス部があるけど、妹さんだと――」
「トモの考えているとおりだよ。やはりうちの学校がいいのかな」
「そうだね。チア部も部員が大会に出られるぎりぎりのところで頑張っているし、ダンスの素養がある妹さんが入ればアタシももっと頑張れそうだよ」
すると、いつの間にか話は愛未の妹のことになった。
愛未も妹のことで色々と苦労をしているんだな。
来年入ることになったら、彼女にうちの学校の色々なところを案内できれば……!
「さて、もうお昼過ぎちゃったけど、どうする?」
「朋恵の家に久しぶりに来たから、ご馳走になろうかな」
「あ、僕もそうするよ」
家に戻って食べるというのもあるけど、朋恵のお母さんの料理も気になるところだ。
僕の母さんだと家に居ると大抵麺類になるけど、朋恵の家はどうなんだろ?
「じゃあ決まりね。今日はママが居るから、二人とも安心していいよ」
「それでは、お昼をご馳走になるかな」
「僕も!」
「それじゃあ、ダイニングに行く?」
「「うん」」
二人が一斉に頷くと、僕たちは揃ってダイニングに向かうことにした。
お昼を用意している母さんには何て言おうかな。
「どうしたの? 行かないの?」
「い、いやちょっとね。うちの親に連絡しておこうかなと」
「しょうがないなぁ。早くダイニングに来てね」
「分かったよ」
僕は廊下に出ると、母さんに「お昼は要らないから」とLINEを送った。
母さんからは「OK」のスタンプと、「楽しんでらっしゃい」と返信が届いたので、すぐにダイニングに向かった。
女の子の家でお昼にするのは、一体いつ以来だ? 心美と一緒に受験勉強をしていたのが去年だから……、一年振りだな。
ただ、今回の相手は心美じゃなくて朋恵と愛未だけど。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
目が覚めると、僕は昨日に行ったカラオケボックスの一室に居た。
部屋の中には先輩達が居ない。居るのは僕だけだった。
おかしいな。みんなどこに行ったんだろう?
不審に思った時、不意に後ろの方からドアが開く音がした。
そこに居たのは、
『君、ドーテーなの?』
誰だ? 僕のことを童貞だというのは?
僕は後ろを振り返った。
――なんだ、朋恵……、じゃない。
釣り目をしていて胸が大きく、肩甲骨の辺りまで伸びている髪をツインテールにしていて、所々にピンク色のメッシュが入っていた。
制服の上着は全てボタンを外していて、スカートは太腿が見えるくらいに短い。
しかも、うちの学校の生徒ではない証拠にリボンが見られない。
金曜日にカラオケボックスで男子生徒を喰らっていた女《ヤツ》だ。
一体全体、なぜこんなところに居るんだ?
『フフッ、気がつかないの? ここにはアタシとアンタしか居ないんだよぉ? そうなるとぉ、やることは一つ……だよね?』
一つって、つまりは、その……?
『決まっているじゃないのよぉ、アタシとイイコトしない?』
彼女が近寄って僕に抱きついてきた。
甘いミントのデオドラントが鼻腔をくすぐる。
このままだと僕はどうにかなってしまいそうだ――。
☆
ピピピ、ピピピ、ピピピ……
「う~ん……、もう朝か……」
土曜日だというのに、いつもの時刻にセットしていたんだな。早く目が覚めてしまったよ。
周囲は……まだ暗いな。十一月後半となると、この時間はまだ日が昇る前だ。
「さて、今日はテストの答え合わせだな……」
眠気眼《ねむけまなこ》でスマホを取り出してスケジュール表を確認すると、今日九時半に朋恵のマンション入り口で待ち合わせになっている。
今回のテストは自分でもやりごたえがあった。
二か月前のことはあまりよく覚えていないが、今回は総合学習で一緒だった橋本や朋恵達と一緒にテスト勉強をしたから、いいところまでは行けたはずだ。
自己ベストを更新する可能性は高いだろう。
最初は橋本も誘おうとしたけど、アイツはあっさりと「面倒だからいい」と断ってきた。愛未は成績トップクラスだというのに。
「折角だし、こないだ買ったばかりのカーディガンを着ておこうかな」
僕は着替えや身支度、朝食を済ませると、バッグに中間テストの問題用紙と学校指定のパソコンを詰め込むなどして外出の準備を整えた。
つくづく朋恵と愛未が近所同士で良かったと思う。橋本も南仙台から電車に乗ってバスに乗ればここまですぐ来られるというのに、何を勿体ぶっているんだろうか。
◇
「行ってきまーす」
リビングでくつろいでいる両親に声をかけてから、外出用鞄を手に取ってこの間のデートや勉強会と同じように階段を降り、マンションの外に出る。
「少し寒いな」
外の空気はまだ冷たく、三か月前の夏の日が嘘のようだ。
空は気持ちよく晴れているけれども、お昼を過ぎたら曇り空になるとのことで西から空が迫ってきている。
朋恵の家までは歩いてすぐだ。
待たせるのも良くない。さっさと行こう。
◇
「ヤス、おはよう」
マンションの入り口辺りに来ると、こないだと同じような大きめのトップスにぴっちりのボトムスでまとめた朋恵が出迎えてくれた。
特段流行りに聡いわけではない僕だけど、朋恵ってこういうファッションが好きだな。
「おはよう。いつも私服となるとゆとりがあるのを選んでいるね」
「アタシ、トップスはぴっちりしたものよりもオーバーサイズのものが好きだからね。ヤスも服を見る目が出来たじゃない!」
「朋恵のお陰だね」
「くすっ、そう言ってくれると助かるよ。愛未も待たせているから、早く行こう」
朋恵が微笑む姿を見ていると、僕も嬉しくなってつい微笑みで返した。
僕はこないだと同じように朋恵にマンションのロックを解いてもらい、後をついて歩く。
同じクラスに居るだけの存在からいつの間にか友人になって一ヶ月半、表情でやり取りができるようになって良かった。
寝取られた彼女のことをすっかり忘れているけれども……、今朝の夢のこと、話していいのかな?
朋恵の住んでいる家に到着して、こないだと同じように朋恵の部屋に入ると――。
「やあ、ヤス君」
そこにはこないだと違ってロングスカートと暖かそうなソックス、そしてカーディガンにブラウスといった女性らしい恰好をした愛未が居た。
こないだのイケメンチックな衣装とは違って、これはこれで――。
「おはよう……ございます。それにしても今日はちょっと普通の女性らしい恰好で……」
「気に入っていた服を洗濯に出しちゃってね、それで今日はこれにしたんだけど……似合わないかな?」
「似合いますよ! 素敵ですよ!」
ちょっとオーバーリアクション気味に答えると、愛未はちょっと照れくさそうな顔を浮かべて「あ、ありがとう……」と答えた。
いつもはイケメンで通している愛未が可愛いところを見せるなんて、不思議だな。
「さ、早速だけど昨日《きのう》までのテストの答え合わせをしよう?」
「そ、そうだね。まずはオーラルから始めるか」
「ぼ、僕もそちらから……」
愛未の女性らしい恰好に戸惑ったのか、それとも照れくさかったのか分からなかったけれど、こうして僕たちは初めての試験の答え合わせをすることになった。
やっぱり自分で出来ているつもりでも、他の人だと出来ていないところってあるんだなぁ。
◇
「ふ~、やっと終わった~! 今回は好成績行けそうだよ~!」
「よく頑張ったね、マナ」
「何を言ってんのよ、妹さんの面倒を見ながら好成績なんてそうそう出せるもんじゃないよ」
「ふっ、それもそうだね」
「僕も好成績になりそうだよ!」
「やるじゃん、ヤス!」
「私達と頑張ったおかげだな」
「そうだね! マナも協力してくれたからだよ!」
愛未の服装に戸惑ったものの、無事自己採点が終わったのはお昼すぎだった。
僕と朋恵、愛未とも前期期末に比べるとランクアップが期待できそうだ。
特に英語の二科目はこないだの実力テスト対策が効いたためか、僕と朋恵は大幅アップに繋がりそうだ。
「ところで、さっき少しだけアタシが話題にした妹さんはどうなの?」
「香澄か? 努力を重ねたお陰で、もう私が面倒見なくても大丈夫になったよ」
「へぇ~、それならうちの学校に来れそうじゃん」
「ただね、香澄はこないだ『もうちょっとランクの高い八幡にしたい!』と言い出したんだ。私は『志望校を決めて、後は一直線にしろ!』と止めたけどね」
「あそこはジャズダンス部があるけど、妹さんだと――」
「トモの考えているとおりだよ。やはりうちの学校がいいのかな」
「そうだね。|チア部《アタシ達》も部員が大会に出られるぎりぎりのところで頑張っているし、ダンスの素養がある妹さんが入ればアタシももっと頑張れそうだよ」
すると、いつの間にか話は愛未の妹のことになった。
愛未も妹のことで色々と苦労をしているんだな。
来年入ることになったら、彼女にうちの学校の色々なところを案内できれば……!
「さて、もうお昼過ぎちゃったけど、どうする?」
「朋恵の家に久しぶりに来たから、ご馳走になろうかな」
「あ、僕もそうするよ」
家に戻って食べるというのもあるけど、朋恵のお母さんの料理も気になるところだ。
僕の母さんだと家に居ると大抵麺類になるけど、朋恵の家はどうなんだろ?
「じゃあ決まりね。今日はママが居るから、二人とも安心していいよ」
「それでは、お昼をご馳走になるかな」
「僕も!」
「それじゃあ、ダイニングに行く?」
「「うん」」
二人が一斉に頷くと、僕たちは揃ってダイニングに向かうことにした。
お昼を用意している母さんには何て言おうかな。
「どうしたの? 行かないの?」
「い、いやちょっとね。うちの親に連絡しておこうかなと」
「しょうがないなぁ。早くダイニングに来てね」
「分かったよ」
僕は廊下に出ると、母さんに「お昼は要らないから」とLINEを送った。
母さんからは「OK」のスタンプと、「楽しんでらっしゃい」と返信が届いたので、すぐにダイニングに向かった。
女の子の家でお昼にするのは、一体いつ以来だ? 心美と一緒に受験勉強をしていたのが去年だから……、一年振りだな。
ただ、今回の相手は心美じゃなくて朋恵と愛未だけど。