第40話
ー/ー e-Sports愛好会の部室で男子生徒二人と別れると、国分姉妹と僕をはじめとしたメンバーで一緒になって、我が家の近くにあるカラオケボックスで試験の打ち上げ会を開いていた。
なお、チア部からはもう一人副部長らしき二年生が加わった。
カラオケに行くメンバーは僕以外はすべて女性でチア部から四名、e-Sports愛好会からは四人となった。
僕一人だとハーレム状態じゃないか。
カラオケボックスへ行く道の途中で男子生徒とすれ違わなかったのは幸いだったが、もしこれが他の男子生徒に見られたらとんでもないうわさになっていたかもしれない。
何せ七人が七人とも可愛いし、藤島さんを除いて胸が……その、デカいというか、何というか。
e-Sports愛好会の先輩達はそこそこのデカさだけど、朋恵と愛未、それに……もう一人の先輩はそれなりというか……。
イカンイカン! こんなこと考えて何になるんだ、僕は! これからカラオケだぞ! 人生で初めての!
「どうしました、冨樫君」
「いや、ちょっとね……」
「ひょっとして、先輩達の胸を見ていたんですか?」
藤島さんの鋭い目が突き刺さる。
僕だって男だし、胸くらい気にするよ。
すると藤島さんはやや俯き加減になって、「もうちょっと胸があったら、富樫君は私に振り向いてくれるのかな……」と愚痴をこぼした。
藤島さんの胸は標準かやや小さめだけど、僕がいつも相手をしている女の子に比べるとかなり小さいためか、ちょっとコンプレックスになっているようだった。
僕は藤島さんの頭を撫でながら「大丈夫だよ」と励ますと、ちょっとだけ藤島さんが笑顔になった。
「おーおー、青春しちゃって!」
「う、うるさいです……」
後ろから国分先輩の知り合いに冷やかされると、藤島さんとちょっと距離を取って先輩達と一緒にカラオケボックスのあるところに向かった。
◇
学校から歩いて二十分とだいぶ時間がかかったけれど、カラオケボックスの入っている建物前に到着した。
ここにはお目当てのカラオケだけではなく、プールなどがある大規模なフィットネスジムが入っている。ただ、一ヶ月の会員料金が高いんだよなぁ……。
「八名様でお願いします」
フロントで桃花先輩が店員さんに話すと、僕たちは割と大きい部屋に通された。
今日は金曜日で混んでいるのか気になったが、時間帯が良かったからなのか、たいして混んでいなかった。
カラオケとなるとクラスの陽キャな連中が歌って騒いで――、というイメージを思い浮かべるかもしれない。事実、僕もそうだった。
うちの学校は進学校で部活は全員参加なのに……って、イカンイカン、今日は試験が終わったばかりなんだ。少しはリラックスしないと!
店員さんに通された部屋は割と大きめの部屋で、これならちょっと騒いでも大丈夫だろう。
それにしても、人生初のカラオケか~。
男女比率が一対七で僕だけ男子なのはちょっと厳しいけど、楽しめるかな。
各自席に座るや否や、マイクを取ったのは桃花先輩だった。
「本日は皆さまお集まりいただき、ありがとうございました! 今日は試験お疲れ様ということで、私とその友達とでささやかながら打ち上げをしようと思います」
桃花先輩の挨拶が終わると、桜花先輩がマイクを握った。
すると、「桜花ちゃ~ん」と二年生の先輩方が囃し立てた。
カラオケに行ったことがないけど、こんなものなのかな?
「まずは私から行きます。聞いてください!」
間もなくしてイントロが流れ始め、桜花先輩が歌い出した。
桜花先輩が最初に選んだ曲は、週刊少年漫画誌で大ブレイクして社会現象を巻き起こしたアニメのオープニングテーマだ。
作品自体は知っていたけど、アニメは見ていないんだよな。これを機に原作を読んでみたい……けど、時間があるか分からないんだよな。
「ヒューヒュー、いいぞ~、サクラ~!」
歌い終わると、サラサラとしたロングヘアの先輩がノリ良さそうに声をかけていた。
先輩に続くように朋恵達も拍手喝采を浴び、満面の笑みでマイクを置いた。
「先輩、お疲れさまでした。次は私で大丈夫ですか?」
「じゃあ奏音ちゃん、お願い!」
「は、はいです。それでは不肖ながら藤島、歌います」
藤島さんがマイクを手に取ると、ドォン! とバスドラムかティンパニの様な音が鳴り響き、戦いに挑むような雰囲気が感じられる。
これって、原作が終わってもまだなお人気の漫画……だよな。
「あ、あの、今日のカラオケって……」
僕は隣に座っているロングヘアの先輩に恐る恐る話しかけてみた。
「そう、アニソン縛りだよ。キミ、知らないのかい? サクラにモモはああ見えてアニソン好きだから」
参ったなぁ。僕が知っている曲は精々劇場版ドラえもんの主題歌、しかも原作者が健在だった時代の作品しか知らない。
最近のアニメは作品数が多すぎてさっぱり見ていないし、何が面白いのか全く分からない。若いくせして、心が更けているなぁ。
「あ、あの……名前は……?」
「ん、私? 私は井上明楽、二年で理系コース所属。チア部では部長をしているよ。私のことは明楽と呼んでも構わないから、よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
井上先輩、か。割と話しやすそうな感じがするな。
すると、井上先輩の隣に座った美少女……、というか見た目がやや美女寄りで、髪は臍の辺りまであり、やたら自信家で胸の育ちが井上先輩よりも良い先輩が僕を見るなり詰め寄ってきた。
「あたしは副部長の高田美礼。アキラちゃんと学年は一緒だけど文系コースだよ。気軽に美礼姉って呼んでもいいからね!」
先月の今頃、朋恵達から話は聞いていたけど、彼女もまた話しやすそうな感じ……、なのかどうか分からないな。
少なくとも、押しの強そうな感じがする。
「美礼、人が自己紹介している時に割って入らないでよ」
「む~! あたしだって目立ちたいのに!」
「まぁまぁ、先輩達落ち着いてください」
朋恵が高田先輩と井上先輩に割って入ると、急に二人はしおらしくなった。
朋恵、助かったよ。
美礼姉と井上先輩は水と油といった感じなのに、二人とも仲が好いようだ。次はどの曲を歌うのか話し合っているようだし。
先輩達と少し話していると、僕の後ろで拍手が鳴り響いていた。
どうやら藤島さんが歌い終わったようだ。
「ありがとうございました。次は……富樫君、お願いします」
「頑張って」
「お姉ちゃんが見ているからね!」
二人に送り出されて僕はマイクを手に取ることになる。
ただ富田先輩、その台詞はちょっとやめてください。
正直……、性欲を持て余しそうだ。
僕は曲を選ぶと、黙って立ち上がり、少し深呼吸をしながら歌う準備に入る。
柔らかなイントロが流れると、ゆっくり深呼吸をしながら少しずつ歌い出す。
曲は『天までとどけ』、今から三十一年前のアニメ映画の主題歌だ。
主人公がピンクの靄をくぐって見知らぬ世界に迷い込んでしまうが、そこは動物たちが独自の進化を経ていた異世界だった。最近話題となった漫画と違い、猫型ロボット――作品内では狸に間違えられているけど――の元居た世界の延長線上に描かれていたな。
原作はこちらのブッ〇オフで見つけてからずっと読み続けていて、僕のお気に入りの漫画となっている。僕が産まれる前にこういう素晴らしい作品があったなんて、信じられないよ。
「いいぞ~、ヤス~!」
「素晴らしかったですよ、富樫君」
歌い終わると、藤島さんを含めた三人から熱烈な拍手で出迎えられた。
恥ずかしながら、カラオケなんて今まで一回も行ったことが無いから! それに、修学旅行や遠足の時も歌いたくても我慢していたから!
「皆、ありがとう。さて次は我妻さん、お願いします」
次はチア部の朋恵達の出番だと言わんばかりに、朋恵達の居る方に目を向ける。
僕は歌って汗だくになったため、席に戻るとドリンクを片手に歌い始めた朋恵達を見つめた。
朋恵達が選んだのは、バンド活動をする女の子たちが出てくるアニメの楽曲だった。愛未が歌唱パート、朋恵がラップパート担当で、上手く役割分担していた。
クールそうに見える愛未も、実は意外とアニメを見ているのかもしれないな。
「カッコいいよ、朋恵~!」
「愛未も負けるな~!」
井上先輩と美礼姉が囃し立てると、愛未達はさらにノリノリとなって踊りだす。
何せエレクトロニカにハードコアパンクをミックスした感じの楽曲だからなぁ。
それにしても、さっきは緊張したよ。朋恵達が歌い終わったら、トイレに行こう。
「ねえ」
後ろから何やら甘ったるい声が聞こえたので振り返ると、そこには美礼姉が居た。
「な、何ですか?」
「さっきの歌、良かったよ。いやぁ~、まさかリニューアル前の大長編ドラ〇もんのテーマ曲を持ってくるなんてね~」
「美礼姉、知っているんですか?」
「うん、あたしは映画を見るのが好きなんだ。昔からレンタルビデオ屋さんに行ってアニメや洋画を良く借りたよ。あたしが産まれる前の大長編ド〇えもんは何度も見たなぁ~。特に九十年代前半の大長編は最高!」
「本当ですよ。僕は山形に住んでいる叔父から映画主題歌集をプレゼントされたんですが、エンディングテーマがどれもこれも名曲揃いで……」
「だよね~。最近はJ-POPばかりだからね」
美礼姉、話が分かるじゃないか。
僕は現在放送されているアニメよりも、父さんが子供の頃に公開された大長編が最高だった。叔父さんが好きで、何度も見たことか。
美礼姉と話していると、いつの間にか拍手喝采が沸き起こった。
次は井上先輩が歌うらしいが、その隙にトイレに行っておかないと。
「ちょっとトイレに行ってきます!」
僕は美礼姉にそう話すと、トイレに向かって一目散に走った。
自信たっぷりだけど話しやすい美礼姉に、井上先輩も話しやすくていい人だな。
ただ僕としては、やっぱり愛未と一緒になって歌った朋恵のことが気になる。
あの時僕に親し気に話しかけたのは、何を隠そう朋恵なのだから。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
e-Sports愛好会の部室で男子生徒二人と別れると、国分姉妹と僕をはじめとしたメンバーで一緒になって、我が家の近くにあるカラオケボックスで試験の打ち上げ会を開いていた。
なお、チア部からはもう一人副部長らしき二年生が加わった。
カラオケに行くメンバーは僕以外はすべて女性でチア部から四名、e-Sports愛好会からは四人となった。
僕一人だとハーレム状態じゃないか。
カラオケボックスへ行く道の途中で男子生徒とすれ違わなかったのは幸いだったが、もしこれが他の男子生徒に見られたらとんでもないうわさになっていたかもしれない。
何せ七人が七人とも可愛いし、藤島さんを除いて胸が……その、デカいというか、何というか。
e-Sports愛好会の先輩達はそこそこのデカさだけど、朋恵と愛未、それに……もう一人の先輩はそれなりというか……。
イカンイカン! こんなこと考えて何になるんだ、僕は! これからカラオケだぞ! 人生で初めての!
「どうしました、冨樫君」
「いや、ちょっとね……」
「ひょっとして、先輩達の胸を見ていたんですか?」
藤島さんの鋭い目が突き刺さる。
僕だって男だし、胸くらい気にするよ。
すると藤島さんはやや俯き加減になって、「もうちょっと胸があったら、富樫君は私に振り向いてくれるのかな……」と愚痴をこぼした。
藤島さんの胸は標準かやや小さめだけど、僕がいつも相手をしている女の子に比べるとかなり小さいためか、ちょっとコンプレックスになっているようだった。
僕は藤島さんの頭を撫でながら「大丈夫だよ」と励ますと、ちょっとだけ藤島さんが笑顔になった。
「おーおー、青春しちゃって!」
「う、うるさいです……」
後ろから国分先輩の知り合いに冷やかされると、藤島さんとちょっと距離を取って先輩達と一緒にカラオケボックスのあるところに向かった。
◇
学校から歩いて二十分とだいぶ時間がかかったけれど、カラオケボックスの入っている建物前に到着した。
ここにはお目当てのカラオケだけではなく、プールなどがある大規模なフィットネスジムが入っている。ただ、一ヶ月の会員料金が高いんだよなぁ……。
「八名様でお願いします」
フロントで桃花先輩が店員さんに話すと、僕たちは割と大きい部屋に通された。
今日は金曜日で混んでいるのか気になったが、時間帯が良かったからなのか、たいして混んでいなかった。
カラオケとなるとクラスの陽キャな連中が歌って騒いで――、というイメージを思い浮かべるかもしれない。事実、僕もそうだった。
うちの学校は進学校で部活は全員参加なのに……って、イカンイカン、今日は試験が終わったばかりなんだ。少しはリラックスしないと!
店員さんに通された部屋は割と大きめの部屋で、これならちょっと騒いでも大丈夫だろう。
それにしても、人生初のカラオケか~。
男女比率が一対七で僕だけ男子なのはちょっと厳しいけど、楽しめるかな。
各自席に座るや否や、マイクを取ったのは桃花先輩だった。
「本日は皆さまお集まりいただき、ありがとうございました! 今日は試験お疲れ様ということで、私とその友達とでささやかながら打ち上げをしようと思います」
桃花先輩の挨拶が終わると、桜花先輩がマイクを握った。
すると、「桜花ちゃ~ん」と二年生の先輩方が囃し立てた。
カラオケに行ったことがないけど、こんなものなのかな?
「まずは私から行きます。聞いてください!」
間もなくしてイントロが流れ始め、桜花先輩が歌い出した。
桜花先輩が最初に選んだ曲は、週刊少年漫画誌で大ブレイクして社会現象を巻き起こしたアニメのオープニングテーマだ。
作品自体は知っていたけど、アニメは見ていないんだよな。これを機に原作を読んでみたい……けど、時間があるか分からないんだよな。
「ヒューヒュー、いいぞ~、サクラ~!」
歌い終わると、サラサラとしたロングヘアの先輩がノリ良さそうに声をかけていた。
先輩に続くように朋恵達も拍手喝采を浴び、満面の笑みでマイクを置いた。
「先輩、お疲れさまでした。次は私で大丈夫ですか?」
「じゃあ奏音ちゃん、お願い!」
「は、はいです。それでは不肖ながら藤島、歌います」
藤島さんがマイクを手に取ると、ドォン! とバスドラムかティンパニの様な音が鳴り響き、戦いに挑むような雰囲気が感じられる。
これって、原作が終わってもまだなお人気の漫画……だよな。
「あ、あの、今日のカラオケって……」
僕は隣に座っているロングヘアの先輩に恐る恐る話しかけてみた。
「そう、アニソン縛りだよ。キミ、知らないのかい? サクラにモモはああ見えてアニソン好きだから」
参ったなぁ。僕が知っている曲は精々劇場版ドラえもんの主題歌、しかも原作者が健在だった時代の作品しか知らない。
最近のアニメは作品数が多すぎてさっぱり見ていないし、何が面白いのか全く分からない。若いくせして、心が更けているなぁ。
「あ、あの……名前は……?」
「ん、私? 私は井上《いのうえ》明楽《あきら》、二年で理系コース所属。チア部では部長をしているよ。私のことは明楽と呼んでも構わないから、よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
井上先輩、か。割と話しやすそうな感じがするな。
すると、井上先輩の隣に座った美少女……、というか見た目がやや美女寄りで、髪は臍《へそ》の辺りまであり、やたら自信家で胸の育ちが井上先輩よりも良い先輩が僕を見るなり詰め寄ってきた。
「あたしは副部長の高田《たかだ》美礼《みゆき》。アキラちゃんと学年は一緒だけど文系コースだよ。気軽に美礼《みゆ》姉って呼んでもいいからね!」
先月の今頃、朋恵達から話は聞いていたけど、彼女もまた話しやすそうな感じ……、なのかどうか分からないな。
少なくとも、押しの強そうな感じがする。
「美礼、人が自己紹介している時に割って入らないでよ」
「む~! あたしだって目立ちたいのに!」
「まぁまぁ、先輩達落ち着いてください」
朋恵が高田先輩と井上先輩に割って入ると、急に二人はしおらしくなった。
朋恵、助かったよ。
美礼姉と井上先輩は水と油といった感じなのに、二人とも仲が好いようだ。次はどの曲を歌うのか話し合っているようだし。
先輩達と少し話していると、僕の後ろで拍手が鳴り響いていた。
どうやら藤島さんが歌い終わったようだ。
「ありがとうございました。次は……富樫君、お願いします」
「頑張って」
「お姉ちゃんが見ているからね!」
二人に送り出されて僕はマイクを手に取ることになる。
ただ富田先輩、その台詞はちょっとやめてください。
正直……、性欲を持て余しそうだ。
僕は曲を選ぶと、黙って立ち上がり、少し深呼吸をしながら歌う準備に入る。
柔らかなイントロが流れると、ゆっくり深呼吸をしながら少しずつ歌い出す。
曲は『天までとどけ』、今から三十一年前のアニメ映画の主題歌だ。
主人公がピンクの靄《もや》をくぐって見知らぬ世界に迷い込んでしまうが、そこは動物たちが独自の進化を経ていた異世界だった。最近話題となった漫画と違い、猫型ロボット――作品内では狸に間違えられているけど――の元居た世界の延長線上に描かれていたな。
原作はこちらのブッ〇オフで見つけてからずっと読み続けていて、僕のお気に入りの漫画となっている。僕が産まれる前にこういう素晴らしい作品があったなんて、信じられないよ。
「いいぞ~、ヤス~!」
「素晴らしかったですよ、富樫君」
歌い終わると、藤島さんを含めた三人から熱烈な拍手で出迎えられた。
恥ずかしながら、カラオケなんて今まで一回も行ったことが無いから! それに、修学旅行や遠足の時も歌いたくても我慢していたから!
「皆、ありがとう。さて次は我妻さん、お願いします」
次はチア部の朋恵達の出番だと言わんばかりに、朋恵達の居る方に目を向ける。
僕は歌って汗だくになったため、席に戻るとドリンクを片手に歌い始めた朋恵達を見つめた。
朋恵達が選んだのは、バンド活動をする女の子たちが出てくるアニメの楽曲だった。愛未が歌唱パート、朋恵がラップパート担当で、上手く役割分担していた。
クールそうに見える愛未も、実は意外とアニメを見ているのかもしれないな。
「カッコいいよ、朋恵~!」
「愛未も負けるな~!」
井上先輩と美礼姉が囃し立てると、愛未達はさらにノリノリとなって踊りだす。
何せエレクトロニカにハードコアパンクをミックスした感じの楽曲だからなぁ。
それにしても、さっきは緊張したよ。朋恵達が歌い終わったら、トイレに行こう。
「ねえ」
後ろから何やら甘ったるい声が聞こえたので振り返ると、そこには美礼姉が居た。
「な、何ですか?」
「さっきの歌、良かったよ。いやぁ~、まさかリニューアル前の大長編ドラ〇もんのテーマ曲を持ってくるなんてね~」
「美礼姉、知っているんですか?」
「うん、あたしは映画を見るのが好きなんだ。昔からレンタルビデオ屋さんに行ってアニメや洋画を良く借りたよ。あたしが産まれる前の大長編ド〇えもんは何度も見たなぁ~。特に九十年代前半の大長編は最高!」
「本当ですよ。僕は山形に住んでいる叔父から映画主題歌集をプレゼントされたんですが、エンディングテーマがどれもこれも名曲揃いで……」
「だよね~。最近はJ-POPばかりだからね」
美礼姉、話が分かるじゃないか。
僕は現在放送されているアニメよりも、父さんが子供の頃に公開された大長編が最高だった。叔父さんが好きで、何度も見たことか。
美礼姉と話していると、いつの間にか拍手喝采が沸き起こった。
次は井上先輩が歌うらしいが、その隙にトイレに行っておかないと。
「ちょっとトイレに行ってきます!」
僕は美礼姉にそう話すと、トイレに向かって一目散に走った。
自信たっぷりだけど話しやすい美礼姉に、井上先輩も話しやすくていい人だな。
ただ僕としては、やっぱり愛未と一緒になって歌った朋恵のことが気になる。
あの時僕に親し気に話しかけたのは、何を隠そう朋恵なのだから。