第39話
ー/ー「みんな、掃除お疲れ様。皆各自の席に座って。PC起動したらGYALORANTにログインして。これより、テスト打ち上げを兼ねてのアンレートマラソンを行いま~す!」
部室の掃除が終わると、さあこれから本番とばかりに桃花先輩が動いた。今日は部活のメンバーでGYALORANTのアンレートをやることになりそうだ。メンバーは僕と黒澤先輩、藤島さん、那須君、そして桜花先輩の五人だ。
アンレートは五対五で行われるチーム戦で、攻撃側と防衛側に分かれて爆弾を爆破するか、もしくは爆破を阻止したチームがラウンドの勝者となる。
ラウンドは購入フェーズとバトルフェーズの二つに分かれていて、購入フェーズでは所持クレジットを使って武器やシールド、アビリティを購入してバトルフェーズに備える。
十二ラウンドが終了すると攻守交替となり、先に十三ラウンド先取したほうが勝者となる。
コンペティティブではそこに「取得ラウンド数が十二対十二になった際に二ラウンド先取した陣営が勝利する」というオーバータイムルールが設けられている。サッカーや野球でいうところの延長戦だ。
オーバータイム中はラウンドごとに攻守が交代となり、マップによるアタッカーやディフェンダーの有利不利が極力排除されており、可能な限り公平な条件で勝敗が決まる。
コンペティティブだと延長戦が長引くと一試合当たり一時間はザラにかかる一方で、アンレートでは延長戦が存在しない分気軽に楽しめる。
但し、アンレートでも一試合につき三十分から四十分はかかる。
そのため、うちの部では月曜日は調整日として銃撃練習を行い、暇があればスパイクラッシュやデスマッチを行っている。
水曜日は一試合当たり八分から十二分で終わるスパイクラッシュを数戦やって、金曜日はアンレートを一戦やることにしている(なお、うちの部は火曜日と木曜日はお休みだ)。
そして今日は試験が終わって午後は空いているということもあり――。
「今日は打ち上げということで、フルパーティーでのアンレート耐久会を開催します」
「いつもだったら一戦か二戦やって終わりだけど、今日は時間が許す限り付き合ってもらうよ~」
――と、桃花先輩と桜花先輩の発案でアンレート耐久マラソンをやると言い出した。
ゲームに没頭したいのは分かるけど、勘弁してくれ~。
『練習が早く終わるから一緒に帰ろう』と朋恵からLINEが来ているというのに。
「どうしたの、富樫君」
絶望しきったところに、諸悪の根源である桃花先輩が近寄って来る。
しかも、天然成分満載のデオドラントが……!
「チア部に居るうちの友達から『練習が早く終わるから一緒に帰ろう』ってLINEが来ていまして……」
「ん~? もしかして彼女ですか~?」
「な、何ですか桃花先輩?」
「だって顔がニヤついているからね~」
朋恵や愛未とはここ最近勉強したり一緒に買い物に行ったりしているけど、彼女と言えばそうでもない。
どちらかというとまだ友人……かな?
「悪いけど、そうはさせないよ? 久しぶりに思いっきり部活する時間が取れたから、覚悟してもらうからね~」
桃花先輩の顔が今までに見たことがないくらいにニヤついている!
これはもう午後六時半まで頑張らなきゃいけないコースだな……。
「あ、私も明楽からLINEが来ていたよ。『いつ終わるの? たまにはカラオケに行こう』ってさ」
え? まさか、こんなところで謎の第三者からの援軍が!
「も~、桜花まで……! 仕方ないなぁ、桜花は明楽ちゃんに連絡して」
「それじゃあ、『三~四十分後にまた連絡をお願い』って送るね」
誰だか知らないけど、グッジョブ。
もし一戦で終わるならば、それはそれで!
後はゲームを起動してDiscordのVCチャンネルに入り、ヘッドセットを用意して、いざ戦闘準備!
◇
それから一時間後。
見事にどっぷりとアンレートをやっていた僕達五人と、その模様を見ている桃花先輩が居た。
アンレート一戦目は九対九で互角だったが相手に逆転を許してしまい、見事に我々の敗北となった。
第二戦目は十二対五でこちらが有利に進めていたが、そんな時にコンコン! と、部室のドアがノックする音がヘッドセット越しに聞こえた。
「はーい」
桃花先輩と入れ替わって監督をしている桜花先輩がドアの方に向かうと、入り口には朋恵達のほかに、もう一人先輩と思われる女子生徒が見えていた。
少しだけ豊かな胸元の先まで伸びている前髪に、愛未にも似た若干不愛想な表情。それでいて身長は朋恵よりも小さく、桜花先輩達よりはやや大きい感じだ。
後ろには美少女……、というか見た目がやや美女寄りで、身長はやや高めで髪は臍の辺りまであり、やたら自信家で胸の育ちが井上先輩よりも良い先輩が居た。
「桜花、あまりにも遅いから私達の方から来たよ」
「早くカラオケ行こうよ~、暗くなっちゃうよ」
「明楽に美礼、もうすぐ終わるから部屋の中で待ってもらっていいかな? 後輩の子を含めて」
「うん。朋恵、愛未、入っていいよ」
そう話すと、少し大人びて見える先輩二人は朋恵達と一緒に部屋の中に入り、試合が終わるのを待っていた。
ちなみにこのラウンド、僕とは早々と相手チームに倒されてしまい、開幕早々暇していた。
その一方で藤島さんをはじめとした生き残ったチームメンバーはうまく連携をしたうえで相手チームを四人撃破していた。
二週間近くゲームから離れていたにもかかわらず、好調をキープするなんて信じられるか? 僕だって信じられない。
そうしていると那須君が倒され、その次に黒澤先輩が相手に倒された。一方で藤島さんと桜花先輩は着実に相手に食らいつき、少しずつ差を詰めていった。
最後は残り一人が迷子になっている隙を見て爆弾を起動させ、見事に僕らの勝利となった。
本日の成績は一勝一敗。
朋恵達が居なければもうちょっと続けられたけど、こればかりは仕方が無いか。
後ろで見ていた先輩達が軽く拍手すると、付き合わされていた二人もそれに続いて拍手した。
ギャラリーが居る中で戦うのは緊張したけど、楽しかったな。
「良かったね、勝てて」
「ありがとう、そう言って貰えると助かるよ」
先に僕に声をかけたのは、何を隠そう朋恵だった。
朋恵に褒められて嬉しいけど、最後のラウンドは上手く集中できなかったな。こればかりはどうしようもないか。
その一方で那須君は最後まで冷静沈着にゲームを進めていた。やっぱりこれも経験の差なのだろうか。
僕は軽く頷くと、桜花先輩達の方を向いた。
「最後は見事勝てて良かったじゃない」
「ありがと、そう言ってくれて。明楽もたまにはGYALORANTのアンレートをやったら? 息抜きになるよ」
「一試合につき最大で四十分かかるから苦手なんだ、そっちは。それならばスパイクラッシュが性に合うよ」
「またまたそんなこと言っちゃって~。テストが終わったから、少しは肩の力を抜こうよ」
「そうだよアキラ、勉強と練習ばかりだと体に毒だよ?」
桜花先輩は桃花先輩と一緒にアキラとミユと呼ばれている先輩と仲良く会話していた。
チア部とe-Sports愛好会というのは異色の組み合わせだろうけど、三人は親しい友人同士だなと見ていて思った。
もちろん、朋恵と付き合いがある僕もだけど。
「ヤス、井上先輩からカラオケに行かないかって誘われているけど、行ってみない? こないだ行こうとしたらヤスの服を買いに行ったでしょ」
すると、髪がちょっと長めの先輩と言葉を交わしていた朋恵が戻ってきた。
あの時はカラオケに行こうとしたら服の話になって、それで急遽ララガーデンに行くことになった。
その時買った服はちゃんと愛用しているし、これから寒くなる季節にはありがたい。カネを出して良かったよ。
「そうだね。折角だし行ってみるか」
「やった! ……愛未も行く?」
「ふっ、もちろんだよ。風紀委員の見回りもないからね」
愛未は表情をあまり変えていなさそうだが、声のトーンから判断する限りではちゃんと喜んでいた。
「それじゃあ、これからカラオケに行く人、手を挙げて!」
桜花先輩が勢いよく手を挙げると、桃花先輩と明楽先輩達、そして朋恵達が続いた。もちろん、僕も手を挙げた。一方で手を挙げなかったのは一年生の那須君、そして二年の黒澤先輩だった。
手を挙げなかった二人はというと――。
「俺は良いや。女性陣と富樫で楽しんできてくれ」
「そうそう、富樫君と我妻さん達は家が近いでしょ。それだったら一緒に行かなきゃ損じゃないか」
黒澤先輩と那須君、気を遣ってくれたのかな。
那須君は地下鉄南北線から仙石線に乗り継がなければいけないから遅くなると大変だとして、黒澤先輩ってどこに住んでいるのだろうか?
「黒澤先輩ってどこに住んでいますか?」
「俺か? 俺は国分姉妹と同じ名取だよ。バスに乗って通学しているから付き合おうと思えばいくらでも付き合うぜ。けど、どうするよ?」
「いや、僕だけで行ってきます」
「そうしとけ。ただ……」
「ただ?」
そういうと黒澤先輩が僕の耳元に近寄って、囁く声で「国分姉妹、カラオケはいつもアニソン縛りだからな。覚悟しとけよ」と忠告された。
黒澤先輩の顔がやたら冷や汗たらたらだったが、以前二人に付き合わされて散々な目に遭ったのだろうな。学校からカラオケボックスまでは歩いて十五分くらい掛かるとして、そこから家までは四分程度で済むから、大丈夫……かな?
こうして、僕は試験打ち上げという名目で人生初のカラオケボックスに向かうことになったのだけれど……。
「カラオケ、楽しみだね~」
「こないだのショッピングデートの代わりと思って楽しめればいいさ」
楽しそうな朋恵達が居る反面――。
「何時までカラオケする予定?」
「う~ん、そうだなぁ。店から家まですぐだし、六時まで居ようかな」
「じゃあ、六時まで歌い倒すぞ~!」
恐ろしいことを考えている先輩達が居た。
一体どんなことになるか心配だけど、乗り掛かった舟だ。
……月曜日に橋本にどんな顔したらいいのだろうか、僕は?
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
「みんな、掃除お疲れ様。皆各自の席に座って。PC起動したらGYALORANTにログインして。これより、テスト打ち上げを兼ねてのアンレートマラソンを行いま~す!」
部室の掃除が終わると、さあこれから本番とばかりに桃花先輩が動いた。今日は部活のメンバーでGYALORANTのアンレートをやることになりそうだ。メンバーは僕と黒澤先輩、藤島さん、那須君、そして桜花先輩の五人だ。
アンレートは五対五で行われるチーム戦で、攻撃側と防衛側に分かれて爆弾を爆破するか、もしくは爆破を阻止したチームがラウンドの勝者となる。
ラウンドは購入フェーズとバトルフェーズの二つに分かれていて、購入フェーズでは所持クレジットを使って武器やシールド、アビリティを購入してバトルフェーズに備える。
十二ラウンドが終了すると攻守交替となり、先に十三ラウンド先取したほうが勝者となる。
コンペティティブではそこに「取得ラウンド数が十二対十二になった際に二ラウンド先取した陣営が勝利する」というオーバータイムルールが設けられている。サッカーや野球でいうところの延長戦だ。
オーバータイム中はラウンドごとに攻守が交代となり、マップによるアタッカーやディフェンダーの有利不利が極力排除されており、可能な限り公平な条件で勝敗が決まる。
コンペティティブだと延長戦が長引くと一試合当たり一時間はザラにかかる一方で、アンレートでは延長戦が存在しない分気軽に楽しめる。
但し、アンレートでも一試合につき三十分から四十分はかかる。
そのため、うちの部では月曜日は調整日として銃撃練習を行い、暇があればスパイクラッシュやデスマッチを行っている。
水曜日は一試合当たり八分から十二分で終わるスパイクラッシュを数戦やって、金曜日はアンレートを一戦やることにしている(なお、うちの部は火曜日と木曜日はお休みだ)。
そして今日は試験が終わって午後は空いているということもあり――。
「今日は打ち上げということで、フルパーティーでのアンレート耐久会を開催します」
「いつもだったら一戦か二戦やって終わりだけど、今日は時間が許す限り付き合ってもらうよ~」
――と、桃花先輩と桜花先輩の発案でアンレート耐久マラソンをやると言い出した。
ゲームに没頭したいのは分かるけど、勘弁してくれ~。
『練習が早く終わるから一緒に帰ろう』と朋恵からLINEが来ているというのに。
「どうしたの、富樫君」
絶望しきったところに、諸悪の根源である桃花先輩が近寄って来る。
しかも、天然成分満載のデオドラントが……!
「チア部に居るうちの友達から『練習が早く終わるから一緒に帰ろう』ってLINEが来ていまして……」
「ん~? もしかして彼女ですか~?」
「な、何ですか桃花先輩?」
「だって顔がニヤついているからね~」
朋恵や愛未とはここ最近勉強したり一緒に買い物に行ったりしているけど、彼女と言えばそうでもない。
どちらかというとまだ友人……かな?
「悪いけど、そうはさせないよ? 久しぶりに思いっきり部活《ゲーム》する時間が取れたから、覚悟してもらうからね~」
桃花先輩の顔が今までに見たことがないくらいにニヤついている!
これはもう午後六時半まで頑張らなきゃいけないコースだな……。
「あ、私も明楽からLINEが来ていたよ。『いつ終わるの? たまにはカラオケに行こう』ってさ」
え? まさか、こんなところで謎の第三者からの援軍が!
「も~、桜花まで……! 仕方ないなぁ、桜花は明楽ちゃんに連絡して」
「それじゃあ、『三~四十分後にまた連絡をお願い』って送るね」
誰だか知らないけど、グッジョブ。
もし一戦で終わるならば、それはそれで!
後はゲームを起動してDiscordの|VC《ボイスチャット》チャンネルに入り、ヘッドセットを用意して、いざ戦闘準備!
◇
それから一時間後。
見事にどっぷりとアンレートをやっていた僕達五人と、その模様を見ている桃花先輩が居た。
アンレート一戦目は九対九で互角だったが相手に逆転を許してしまい、見事に我々の敗北となった。
第二戦目は十二対五でこちらが有利に進めていたが、そんな時にコンコン! と、部室のドアがノックする音がヘッドセット越しに聞こえた。
「はーい」
桃花先輩と入れ替わって監督をしている桜花先輩がドアの方に向かうと、入り口には朋恵達のほかに、もう一人先輩と思われる女子生徒が見えていた。
少しだけ豊かな胸元の先まで伸びている前髪に、愛未にも似た若干不愛想な表情。それでいて身長は朋恵よりも小さく、桜花先輩達よりはやや大きい感じだ。
後ろには美少女……、というか見た目がやや美女寄りで、身長はやや高めで髪は臍《へそ》の辺りまであり、やたら自信家で胸の育ちが井上先輩よりも良い先輩が居た。
「桜花、あまりにも遅いから私達の方から来たよ」
「早くカラオケ行こうよ~、暗くなっちゃうよ」
「明楽《あきら》に美礼《みゆき》、もうすぐ終わるから部屋の中で待ってもらっていいかな? 後輩の子を含めて」
「うん。朋恵、愛未、入っていいよ」
そう話すと、少し大人びて見える先輩二人は朋恵達と一緒に部屋の中に入り、試合が終わるのを待っていた。
ちなみにこのラウンド、僕とは早々と相手チームに倒されてしまい、開幕早々暇していた。
その一方で藤島さんをはじめとした生き残ったチームメンバーはうまく連携をしたうえで相手チームを四人撃破していた。
二週間近くゲームから離れていたにもかかわらず、好調をキープするなんて信じられるか? 僕だって信じられない。
そうしていると那須君が倒され、その次に黒澤先輩が相手に倒された。一方で藤島さんと桜花先輩は着実に相手に食らいつき、少しずつ差を詰めていった。
最後は残り一人が迷子になっている隙を見て爆弾を起動させ、見事に僕らの勝利となった。
本日の成績は一勝一敗。
朋恵達が居なければもうちょっと続けられたけど、こればかりは仕方が無いか。
後ろで見ていた先輩達が軽く拍手すると、付き合わされていた二人もそれに続いて拍手した。
ギャラリーが居る中で戦うのは緊張したけど、楽しかったな。
「良かったね、勝てて」
「ありがとう、そう言って貰えると助かるよ」
先に僕に声をかけたのは、何を隠そう朋恵だった。
朋恵に褒められて嬉しいけど、最後のラウンドは上手く集中できなかったな。こればかりはどうしようもないか。
その一方で那須君は最後まで冷静沈着にゲームを進めていた。やっぱりこれも経験の差なのだろうか。
僕は軽く頷くと、桜花先輩達の方を向いた。
「最後は見事勝てて良かったじゃない」
「ありがと、そう言ってくれて。明楽もたまにはGYALORANTのアンレートをやったら? 息抜きになるよ」
「一試合につき最大で四十分かかるから苦手なんだ、|そっち《アンレート》は。それならばスパイクラッシュが性に合うよ」
「またまたそんなこと言っちゃって~。テストが終わったから、少しは肩の力を抜こうよ」
「そうだよアキラ、勉強と練習ばかりだと体に毒だよ?」
桜花先輩は桃花先輩と一緒にアキラとミユと呼ばれている先輩と仲良く会話していた。
チア部とe-Sports愛好会というのは異色の組み合わせだろうけど、三人は親しい友人同士だなと見ていて思った。
もちろん、朋恵と付き合いがある僕もだけど。
「ヤス、井上先輩からカラオケに行かないかって誘われているけど、行ってみない? こないだ行こうとしたらヤスの服を買いに行ったでしょ」
すると、髪がちょっと長めの先輩と言葉を交わしていた朋恵が戻ってきた。
あの時はカラオケに行こうとしたら服の話になって、それで急遽ララガーデンに行くことになった。
その時買った服はちゃんと愛用しているし、これから寒くなる季節にはありがたい。カネを出して良かったよ。
「そうだね。折角だし行ってみるか」
「やった! ……愛未も行く?」
「ふっ、もちろんだよ。風紀委員の見回りもないからね」
愛未は表情をあまり変えていなさそうだが、声のトーンから判断する限りではちゃんと喜んでいた。
「それじゃあ、これからカラオケに行く人、手を挙げて!」
桜花先輩が勢いよく手を挙げると、桃花先輩と明楽先輩達、そして朋恵達が続いた。もちろん、僕も手を挙げた。一方で手を挙げなかったのは一年生の那須君、そして二年の黒澤先輩だった。
手を挙げなかった二人はというと――。
「俺は良いや。女性陣と富樫で楽しんできてくれ」
「そうそう、富樫君と我妻さん達は家が近いでしょ。それだったら一緒に行かなきゃ損じゃないか」
黒澤先輩と那須君、気を遣ってくれたのかな。
那須君は地下鉄南北線から仙石線に乗り継がなければいけないから遅くなると大変だとして、黒澤先輩ってどこに住んでいるのだろうか?
「黒澤先輩ってどこに住んでいますか?」
「俺か? 俺は国分姉妹と同じ名取だよ。バスに乗って通学しているから付き合おうと思えばいくらでも付き合うぜ。けど、どうするよ?」
「いや、僕だけで行ってきます」
「そうしとけ。ただ……」
「ただ?」
そういうと黒澤先輩が僕の耳元に近寄って、囁く声で「国分姉妹《アイツら》、カラオケはいつもアニソン縛りだからな。覚悟しとけよ」と忠告された。
黒澤先輩の顔がやたら冷や汗たらたらだったが、以前二人に付き合わされて散々な目に遭ったのだろうな。学校からカラオケボックスまでは歩いて十五分くらい掛かるとして、そこから家までは四分程度で済むから、大丈夫……かな?
こうして、僕は試験打ち上げという名目で人生初のカラオケボックスに向かうことになったのだけれど……。
「カラオケ、楽しみだね~」
「こないだのショッピングデートの代わりと思って楽しめればいいさ」
楽しそうな朋恵達が居る反面――。
「何時までカラオケする予定?」
「う~ん、そうだなぁ。店から家まですぐだし、六時まで居ようかな」
「じゃあ、六時まで歌い倒すぞ~!」
恐ろしいことを考えている先輩達が居た。
一体どんなことになるか心配だけど、乗り掛かった舟だ。
……月曜日に橋本にどんな顔したらいいのだろうか、僕は?