第38話

ー/ー



「こんにちは〜」

 久しぶりに来たe-Sports愛好会の部室には、既に別の場所の掃除を終えて真っ先に部室に向かった藤島さんと隣のクラスに居る那須君が座っていた。

「ほんひちはでふ、ほがしふん(こんにちはです、富樫君)」
「あ、ヤス君お久しぶり」
「藤島さん、こんにちは。それと那須君、お久」

 藤島さんはちょっと口の中にものが入っているらしく、不明瞭な喋り方をしていた。
 藤島さんの弁当箱はちょっと可愛らしく、あまり表情を変えない彼女とのギャップがすさまじかった。

 その一方で那須君は僕が使っているのと同じタイプの弁当箱とマイボトルを持参して、お茶を口にしながら優雅に昼食を堪能していた。

 それと藤島さん、口の中に物を入れたまま喋るのは不作法だよ。手元にあるペットボトルのお茶で流したから問題はないけど。
 藤島さんの目の前には、教室の中でお昼を食べている時と同じようにスマホとタブレット端末が置いてある。
 いったい何を見ているのだろうか? 見た感じではVtuberの配信をチェックしているようだけど。

「……先程は失礼しました。富樫君、テストはどうでした?」

 椅子に座って弁当箱を広げようとするや否や、お昼を食べていた藤島さんが僕に話しかけてきた。

 前回までと違い、今回は朋恵達と橋本の家に行って勉強をしたおかげで、いい手ごたえを感じた。かつて山形に居た時に同じクラスの男子の家に遊びに行った時の感覚を思い出したよ。

「今回は絶好調、かな。橋本とも仲良くなれたし、それに我妻さん達とも一緒に勉強できたから、ね」
「そう、それは良かったですね。私も母さんが通信講座を申し込んで、それで少しずつ勉強をしていました。今回は結構いい線行けそうです」
「ひょっとしてそれって……」

 僕は鞄から通信講座の参考書を取り出すと、藤島さんも同じものを取り出して僕に見せた。

真剣ゼミ(僕と同じところ)?」
「そうです。黒須さんから勧められました」

 こないだ黒須さんと一緒に勉強していた時にも、真剣ゼミの単語集を見たような気がするな。
 塾通いも良いけど、これだと自分のペースで勉強できそうだな。
 ん、待てよ? 僕と同じように頑張っていれば、藤島さんの成績も良くなっているはずじゃ……?

「多分、富樫君が思っている通りですね。私も今回頑張ったので、大分いいところまで行くと思いますよ」

 ということは、今回は藤島さんの結果も期待していい、のかな?
 とりあえず、藤島さんの学力を心配する必要は無くなりそうだ。

「さて、僕もお昼にしよう」

 久しぶりの弁当箱を広げて食べようとすると、部室の部屋をノックする音が聞こえた。
 部室の入り口にはご無沙汰振りに顔を合わせた黒澤先輩と桃花先輩、桜花先輩が立っていた。

「オッス、お前ら久しぶり」
「「おひさー!」」

 先輩達も掃除が終わった後らしく、額には汗が零れ落ちていた。
 三人の鞄もそれなりの大きさということは、部活動をやることを見越して弁当を用意してもらったのだろう。

「先輩達もここでお昼ですか?」
「そうだよ。今日から部活再開だし、それに……」
「部室も掃除しとかないとな。何せ一週間以上留守にしちまったし」

 ここしばらくは放課後になると図書室に入り浸っていたから、ここに来るのをすっかり忘れていたよ。窓を開けているために部屋に入って来る空気は新鮮だけど、何処か埃の匂いがする。
 部活をやりたい気持ちはあるけど、食べてから掃除したほうが良いかな。

「まぁ、その前にお昼を食べて体力をつけないとね」
「そうそう。腹が減っては戦が出来ず! さっさと食べて、部室の掃除もしちゃおうよ!」

 桃花先輩達がいつも座っている席に就くと、それぞれ弁当箱を取り出してお昼に手を出した。
 その一方で、先輩達とくれば……。

「もうすぐ修学旅行だね~、サクラ、お土産は何にするか決めた?」
「定番の生八つ橋はマストとして、いろいろあるんだよね~。京都だけじゃなくて大阪にも行くから、堂島ロールも欲しいところだね」
「サクラは私達同じ班になっているでしょ? それなら、時間がある時に新大阪駅のマルシェでじっくり見とかない?」
「え~っ、それはちょっと……いろんなところも見ておきたいし、道頓堀にも行ってみたいなぁ」
「おいおい桜花、俺も一緒の班に居るのを忘れないでくれよ」
「分かっているよ~」

 掃除や部活の事よりも、再来週に迫っている修学旅行のことで浮足立っていた。
 来年は僕らも関西方面に行くことになるのだろうけど、その時は後輩たちの面倒を見なければならなくなる。ただ、その前に後輩が来てくれるか、それだけが気がかりだ。

「どうした富樫、箸が止まっているぜ」

 やばい、黒澤先輩に気づかれてしまったか。

「いや、ちょっと来年のことを……」
「お前なぁ、来年の今頃の事はまだ考えなくてもいいぜ。まずは今何ができるのかを考えて……」
「その前に掃除だけどね~。一週間以上ご無沙汰しているし」
「そ、そうだった、まずは掃除だな。その前にメシ食っておこうぜ」

 黒澤先輩はそう言うと、また弁当箱に向かった。もちろん僕もだけど。
 試験期間中は朋恵達、そして橋本と良く喋っていたけど、部活の先輩達や那須君達ともおしゃべりしたかったんだなこうして色々と他愛ないおしゃべりがしたかったんだな。

 そんな那須君はご飯を既に食べ終わっていて、スマホを片手にしていた。

「那須君、どうしたんだ?」
「ん? 先輩達がまだ食べている最中だし、今のうちにGYALORANTの実況アーカイブを漁っておこうと思って」
「へー、那須君はゲーム実況を見ていたんだ」
「そうだよ? この実況者さん、ポンコツけど見た目が可愛いし、それに何より強いよ」
「見せてもらってもいいか?」
「いいよ」

 那須君の許可を貰うと、僕は那須君の席に回り込んで後ろからGYALORANTの実況を覗いてみた。
 実況者さんは女性で、アバターを用意しながら配信をしていた。

 自分の位置が分からないようにマップを隠している一方で、対戦相手のクリアリングも上手くやっている。しかし、時折ポンコツをやらかしてすぐにキルを取られるのはご愛敬と言った感じだった。

「どうして彼女の実況を見るようになったんだ?」
「実はSNSにtwitchの公式アカウントがあってね、そこでお勧め配信者を紹介しているんだよ」
「なるほど、それで見始めたと」
「その通り。ヤス君も見たほうが良いよ。この人は結構いい線行っているし、他のゲームもたまにやっているから」

 僕は那須君から教えてもらった実況者さんのtwitchアカウントをフォローすると、自分のスマホで彼女の配信を見てみた。

 確かに良い線は行っているけど、ちょっとやらかして速攻で負けているところがあるんだよなぁ。それに、声が可愛い。

 程なくして彼女のSNSアカウントをフォローして判ったんだけど、彼女は体力的にも仕事すること出来ずに配信者の道を選んだそうだ。
 安定志向の僕には考えられないや。
 配信者をやってみない手はないんだけど、何十時間、何百時間ゲームばかりやって居られるかどうか、それがちょっとね。




次のエピソードへ進む 第39話


みんなのリアクション

「こんにちは〜」
 久しぶりに来たe-Sports愛好会の部室には、既に別の場所の掃除を終えて真っ先に部室に向かった藤島さんと隣のクラスに居る那須君が座っていた。
「ほんひちはでふ、ほがしふん(こんにちはです、富樫君)」
「あ、ヤス君お久しぶり」
「藤島さん、こんにちは。それと那須君、お久」
 藤島さんはちょっと口の中にものが入っているらしく、不明瞭な喋り方をしていた。
 藤島さんの弁当箱はちょっと可愛らしく、あまり表情を変えない彼女とのギャップがすさまじかった。
 その一方で那須君は僕が使っているのと同じタイプの弁当箱とマイボトルを持参して、お茶を口にしながら優雅に昼食を堪能していた。
 それと藤島さん、口の中に物を入れたまま喋るのは不作法だよ。手元にあるペットボトルのお茶で流したから問題はないけど。
 藤島さんの目の前には、教室の中でお昼を食べている時と同じようにスマホとタブレット端末が置いてある。
 いったい何を見ているのだろうか? 見た感じではVtuberの配信をチェックしているようだけど。
「……先程は失礼しました。富樫君、テストはどうでした?」
 椅子に座って弁当箱を広げようとするや否や、お昼を食べていた藤島さんが僕に話しかけてきた。
 前回までと違い、今回は朋恵達と橋本の家に行って勉強をしたおかげで、いい手ごたえを感じた。かつて山形に居た時に同じクラスの男子の家に遊びに行った時の感覚を思い出したよ。
「今回は絶好調、かな。橋本とも仲良くなれたし、それに我妻さん達とも一緒に勉強できたから、ね」
「そう、それは良かったですね。私も母さんが通信講座を申し込んで、それで少しずつ勉強をしていました。今回は結構いい線行けそうです」
「ひょっとしてそれって……」
 僕は鞄から通信講座の参考書を取り出すと、藤島さんも同じものを取り出して僕に見せた。
「|真剣ゼミ《僕と同じところ》?」
「そうです。黒須さんから勧められました」
 こないだ黒須さんと一緒に勉強していた時にも、真剣ゼミの単語集を見たような気がするな。
 塾通いも良いけど、これだと自分のペースで勉強できそうだな。
 ん、待てよ? 僕と同じように頑張っていれば、藤島さんの成績も良くなっているはずじゃ……?
「多分、富樫君が思っている通りですね。私も今回頑張ったので、大分いいところまで行くと思いますよ」
 ということは、今回は藤島さんの結果も期待していい、のかな?
 とりあえず、藤島さんの学力を心配する必要は無くなりそうだ。
「さて、僕もお昼にしよう」
 久しぶりの弁当箱を広げて食べようとすると、部室の部屋をノックする音が聞こえた。
 部室の入り口にはご無沙汰振りに顔を合わせた黒澤先輩と桃花先輩、桜花先輩が立っていた。
「オッス、お前ら久しぶり」
「「おひさー!」」
 先輩達も掃除が終わった後らしく、額には汗が零れ落ちていた。
 三人の鞄もそれなりの大きさということは、部活動をやることを見越して弁当を用意してもらったのだろう。
「先輩達もここでお昼ですか?」
「そうだよ。今日から部活再開だし、それに……」
「部室も掃除しとかないとな。何せ一週間以上留守にしちまったし」
 ここしばらくは放課後になると図書室に入り浸っていたから、ここに来るのをすっかり忘れていたよ。窓を開けているために部屋に入って来る空気は新鮮だけど、何処か埃の匂いがする。
 部活をやりたい気持ちはあるけど、食べてから掃除したほうが良いかな。
「まぁ、その前にお昼を食べて体力をつけないとね」
「そうそう。腹が減っては戦が出来ず! さっさと食べて、部室の掃除もしちゃおうよ!」
 桃花先輩達がいつも座っている席に就くと、それぞれ弁当箱を取り出してお昼に手を出した。
 その一方で、先輩達とくれば……。
「もうすぐ修学旅行だね~、サクラ、お土産は何にするか決めた?」
「定番の生八つ橋はマストとして、いろいろあるんだよね~。京都だけじゃなくて大阪にも行くから、堂島ロールも欲しいところだね」
「サクラは私達同じ班になっているでしょ? それなら、時間がある時に新大阪駅のマルシェでじっくり見とかない?」
「え~っ、それはちょっと……いろんなところも見ておきたいし、道頓堀にも行ってみたいなぁ」
「おいおい桜花、俺も一緒の班に居るのを忘れないでくれよ」
「分かっているよ~」
 掃除や部活の事よりも、再来週に迫っている修学旅行のことで浮足立っていた。
 来年は僕らも関西方面に行くことになるのだろうけど、その時は後輩たちの面倒を見なければならなくなる。ただ、その前に後輩が来てくれるか、それだけが気がかりだ。
「どうした富樫、箸が止まっているぜ」
 やばい、黒澤先輩に気づかれてしまったか。
「いや、ちょっと来年のことを……」
「お前なぁ、来年の今頃の事はまだ考えなくてもいいぜ。まずは今何ができるのかを考えて……」
「その前に掃除だけどね~。一週間以上ご無沙汰しているし」
「そ、そうだった、まずは掃除だな。その前にメシ食っておこうぜ」
 黒澤先輩はそう言うと、また弁当箱に向かった。もちろん僕もだけど。
 試験期間中は朋恵達、そして橋本と良く喋っていたけど、部活の先輩達や那須君達ともおしゃべりしたかったんだなこうして色々と他愛ないおしゃべりがしたかったんだな。
 そんな那須君はご飯を既に食べ終わっていて、スマホを片手にしていた。
「那須君、どうしたんだ?」
「ん? 先輩達がまだ食べている最中だし、今のうちにGYALORANTの実況アーカイブを漁っておこうと思って」
「へー、那須君はゲーム実況を見ていたんだ」
「そうだよ? この実況者さん、ポンコツけど見た目が可愛いし、それに何より強いよ」
「見せてもらってもいいか?」
「いいよ」
 那須君の許可を貰うと、僕は那須君の席に回り込んで後ろからGYALORANTの実況を覗いてみた。
 実況者さんは女性で、アバターを用意しながら配信をしていた。
 自分の位置が分からないようにマップを隠している一方で、対戦相手のクリアリングも上手くやっている。しかし、時折ポンコツをやらかしてすぐにキルを取られるのはご愛敬と言った感じだった。
「どうして彼女の実況を見るようになったんだ?」
「実はSNSにtwitchの公式アカウントがあってね、そこでお勧め配信者を紹介しているんだよ」
「なるほど、それで見始めたと」
「その通り。ヤス君も見たほうが良いよ。この人は結構いい線行っているし、他のゲームもたまにやっているから」
 僕は那須君から教えてもらった実況者さんのtwitchアカウントをフォローすると、自分のスマホで彼女の配信を見てみた。
 確かに良い線は行っているけど、ちょっとやらかして速攻で負けているところがあるんだよなぁ。それに、声が可愛い。
 程なくして彼女のSNSアカウントをフォローして判ったんだけど、彼女は体力的にも仕事すること出来ずに配信者の道を選んだそうだ。
 安定志向の僕には考えられないや。
 配信者をやってみない手はないんだけど、何十時間、何百時間ゲームばかりやって居られるかどうか、それがちょっとね。