第37話

ー/ー



 キーン、コーン、カーン、コーン……。

「やっと終わった~!」
「お疲れ様~」

 背伸びする僕を労っているのは、ちょっと疲れた様子でありながらスッキリとした表情を見せていた朋恵だった。

 そう、今日は十一月十九日。中間試験の最終日だ。
 三時間目に割り当てられた最後の教科が終わり、これにて十日間に及ぶ禁欲……、もとい、禁ゲーム生活ともおさらばだ。

 試験期間中はずっとゲームのことを考えず、ひたすら勉強の事だけを考えていた。朋恵や愛未と図書室で一緒に勉強することはもちろんのこと、先週の土曜は橋本の家に行って勉強をしてきた。

 橋本は塾に通っているらしく、部活と塾の両立は大変だとこぼしていた。
 一方の僕は中学校の頃から通信講座のお世話になりっぱなしで、通信講座なくして今の高校に入ることはなかった。

 通信講座をやっていなければ今頃は御堂平の高校に通っていただろうと思うと、あの講座を取ると決断した父さんの判断は間違っていなかった。

「お疲れ様、ヤス君」

 すると、後ろから声の低い女性の声が聞こえてきた。
 高い身長に柔らかな胸、そして憂いを帯びた表情。間違いない、愛未だ。
 愛未も大変だっただろうけど、表情を一つ変えずに淡々としている。
 チアをやりながら学年トップクラスの秀才で居るというのは大変だろうな。

「愛未、お疲れ様。愛未のお陰で、今回はいい線行けそうだよ」
「ありがとう、そう言ってくれると助かるよ」
「アタシも。マナが熱心に教えてくれたおかげで頑張れたよ」
「おいおい、トモもそんなことを言うのか? 褒めたって何にも出ないぞ」

 僕にはお礼を言う割に、愛未は朋恵相手だとちょっと冷たい感じを取った。

「ちょっとマナぁ~、アタシとヤスで態度違うけどぉ~」
「ハァ~……。トモ、お前と私とはいつからの付き合いだ?」
「小学校の頃からだけど」
「それだったら、もうちょっと私の気持ちを汲んだらどうだ」
「んもう、わかったわよぉ」

 二人の微笑ましいやり取りを見ていると、担任の先生が入ってきて今日の重点清掃日についての話になった。
 重点清掃の日は生徒全員が掃除をすることになり、普段はあまり掃除しない教室なども掃除の対象となる。
 先生からそのことを告げられると、クラスに居る生徒達からはどよめきが響いた。

 そりゃそうだ。
 テスト最終日となると真っ先に帰るか、部活に行くかのどちらかだからだ。
 うちの学校は部活に全員入らなければならないため、自然と後者になるだろうけど。

 すると担任の堀江先生(国語担当の3(ピー)歳、男性の既婚者。うちのクラスの担任)が――。

「富樫、お前は飯田と我妻と一緒に教室の掃除でいいか? 最近お前ら親しくしているから、丁度いいじゃないか」

 な、何をおっしゃる……! まぁ、朋恵達と一緒に居られるから嬉しいけど。

「じゃあ、皆持ち場について掃除をするように。俺はこれから採点だからまた月曜日に会おう」

 先生が教室から去ると、掃除当番となった生徒たちはそれぞれの持ち場についた。僕は朋恵と愛未、そして黒須さんと一緒に教室掃除をすることになったけど――、こないだの勉強会のメンツから白浜さんを抜いて愛未を加えただけじゃないか。

「ほらヤス君、バケツと雑巾をここに置くからトモと一緒に窓掃除をしてくれ」

 愛未はバケツを僕の目の前に置くと、黒板の掃除に取り掛かった。
 マスクをして上着を脱ぐなど、準備万端だ。粉塵を吸い込んだら大変なことになるからな。

 そういや、アメリカでもチョークを使った黒板がまだ使われていたなぁ……と蛇足ながら思ったりもした。
 映画愛好会の先輩から「怖いホラー映画があるから見ないか?」と誘われたのが前期の中間試験だったから……、六月の中旬~下旬ごろだったような気がする。
 序盤から伏線を散りばめて最後の方で全て回収するストーリー展開もさることながら、常に鳴り響く低音を基調とした音楽もこれまた素晴らしかった。
 もう一回見たいか? というと、それはさすがに勘弁してくれよとしか言えなかったね。

「ヤス、物思いに耽っていないで手伝ってよ!」

 振り返ると上着を脱いで着崩している朋恵が少しだけ顔を膨らませていた。
 ごめん、朋恵。今からきちんと掃除するから。

「ここを拭けばいいんだね」
「そうだよ。アタシも手伝うから」

 雑巾を絞って窓を拭くと、あっという間に雑巾が校庭の砂ぼこりや車の粉塵などで真っ黒になる。
 桟には虫の死骸がうようよしていて、朋恵は触れる度に「うわぁ」と声にもならない声を上げていた。
 僕は虫の死骸を(ちり)取りに入れると、ゴミ箱にまとめて投げ入れた。
 もう十一月だし、そろそろ虫も冬眠する季節になるからしばらく掃除しなくても助かるよな。

「しばらく掃除していないと、汚れが溜まるよね」

 そう言いながら、朋恵は汚くなった雑巾を水洗いした。
 バケツの水はいつの間にか土埃(つちぼこり)や自動車の排気ガスで濁っていた。

「本当だ」
「ここは道路が近いから、自動車の排気ガスが多いから大変なんだよね~。せめて大掃除を月一回やってくれないかなぁ」

 さっき虫を見ただけでヒィヒィ言っていた朋恵だったが、ある程度掃除が進むといつものような表情を見せた。
 あっという間に窓ガラスを拭き終わると、次から次へと掃除の手を伸ばしていく。
 掃除があると押し付けそうなタイプなのに、意外だな。

「結構掃除するのが好きなんだね」
「うん、アタシは結構キレイ好きだからね。こないだアタシん家で勉強した時も念入りに掃除しておいたんだ。……ほら、ぼーっと突っ立っていないで、早く終わらせよう!」
「は、はい!」

 朋恵に促されるように手を動かすと、あっという間にすべての窓を拭き終えた。

「ふぅ、こんなものかな」
「お疲れ様、ヤス」

 教室掃除と後片付けが終わると、愛未と朋恵達は弁当やスポーツバッグを手にしていた。

「これから部活?」
「そうだよ。久しぶりに先輩達に会えるからね」
「君も藤島さんと顔を合わせられなかったから、寂しい思いしているだろ?」
「うん、まぁそうだけど……」

 藤島さん、今回のテストはどうだったのかな。
 テスト前に「私も富樫君と同じ様に通信講座を始めました」って話していたから、ひょっとしたら……、いや、どうなのだろう?

「今日は部活に行くよ。弁当も持ってきたから」
「ぜひそうしてくれ」
「帰る時には連絡するからね~」

 朋恵は手を振って、教室内から去っていった。

 同じクラスの藤島さんはともかくとして、二年生の桃花先輩達ともしばらく顔を合わせていない。
 久しぶりに顔を出しますか、e-Sports愛好会に!



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 キーン、コーン、カーン、コーン……。
「やっと終わった~!」
「お疲れ様~」
 背伸びする僕を労っているのは、ちょっと疲れた様子でありながらスッキリとした表情を見せていた朋恵だった。
 そう、今日は十一月十九日。中間試験の最終日だ。
 三時間目に割り当てられた最後の教科が終わり、これにて十日間に及ぶ禁欲……、もとい、禁ゲーム生活ともおさらばだ。
 試験期間中はずっとゲームのことを考えず、ひたすら勉強の事だけを考えていた。朋恵や愛未と図書室で一緒に勉強することはもちろんのこと、先週の土曜は橋本の家に行って勉強をしてきた。
 橋本は塾に通っているらしく、部活と塾の両立は大変だとこぼしていた。
 一方の僕は中学校の頃から通信講座のお世話になりっぱなしで、通信講座なくして今の高校に入ることはなかった。
 通信講座をやっていなければ今頃は御堂平の高校に通っていただろうと思うと、あの講座を取ると決断した父さんの判断は間違っていなかった。
「お疲れ様、ヤス君」
 すると、後ろから声の低い女性の声が聞こえてきた。
 高い身長に柔らかな胸、そして憂いを帯びた表情。間違いない、愛未だ。
 愛未も大変だっただろうけど、表情を一つ変えずに淡々としている。
 チアをやりながら学年トップクラスの秀才で居るというのは大変だろうな。
「愛未、お疲れ様。愛未のお陰で、今回はいい線行けそうだよ」
「ありがとう、そう言ってくれると助かるよ」
「アタシも。マナが熱心に教えてくれたおかげで頑張れたよ」
「おいおい、トモもそんなことを言うのか? 褒めたって何にも出ないぞ」
 僕にはお礼を言う割に、愛未は朋恵相手だとちょっと冷たい感じを取った。
「ちょっとマナぁ~、アタシとヤスで態度違うけどぉ~」
「ハァ~……。トモ、お前と私とはいつからの付き合いだ?」
「小学校の頃からだけど」
「それだったら、もうちょっと私の気持ちを汲んだらどうだ」
「んもう、わかったわよぉ」
 二人の微笑ましいやり取りを見ていると、担任の先生が入ってきて今日の重点清掃日についての話になった。
 重点清掃の日は生徒全員が掃除をすることになり、普段はあまり掃除しない教室なども掃除の対象となる。
 先生からそのことを告げられると、クラスに居る生徒達からはどよめきが響いた。
 そりゃそうだ。
 テスト最終日となると真っ先に帰るか、部活に行くかのどちらかだからだ。
 うちの学校は部活に全員入らなければならないため、自然と後者になるだろうけど。
 すると担任の堀江先生(国語担当の3〇《ピー》歳、男性の既婚者。うちのクラスの担任)が――。
「富樫、お前は飯田と我妻と一緒に教室の掃除でいいか? 最近お前ら親しくしているから、丁度いいじゃないか」
 な、何をおっしゃる……! まぁ、朋恵達と一緒に居られるから嬉しいけど。
「じゃあ、皆持ち場について掃除をするように。俺はこれから採点だからまた月曜日に会おう」
 先生が教室から去ると、掃除当番となった生徒たちはそれぞれの持ち場についた。僕は朋恵と愛未、そして黒須さんと一緒に教室掃除をすることになったけど――、こないだの勉強会のメンツから白浜さんを抜いて愛未を加えただけじゃないか。
「ほらヤス君、バケツと雑巾をここに置くからトモと一緒に窓掃除をしてくれ」
 愛未はバケツを僕の目の前に置くと、黒板の掃除に取り掛かった。
 マスクをして上着を脱ぐなど、準備万端だ。粉塵を吸い込んだら大変なことになるからな。
 そういや、アメリカでもチョークを使った黒板がまだ使われていたなぁ……と蛇足ながら思ったりもした。
 映画愛好会の先輩から「怖いホラー映画があるから見ないか?」と誘われたのが前期の中間試験だったから……、六月の中旬~下旬ごろだったような気がする。
 序盤から伏線を散りばめて最後の方で全て回収するストーリー展開もさることながら、常に鳴り響く低音を基調とした音楽もこれまた素晴らしかった。
 もう一回見たいか? というと、それはさすがに勘弁してくれよとしか言えなかったね。
「ヤス、物思いに耽っていないで手伝ってよ!」
 振り返ると上着を脱いで着崩している朋恵が少しだけ顔を膨らませていた。
 ごめん、朋恵。今からきちんと掃除するから。
「ここを拭けばいいんだね」
「そうだよ。アタシも手伝うから」
 雑巾を絞って窓を拭くと、あっという間に雑巾が校庭の砂ぼこりや車の粉塵などで真っ黒になる。
 桟には虫の死骸がうようよしていて、朋恵は触れる度に「うわぁ」と声にもならない声を上げていた。
 僕は虫の死骸を塵《ちり》取りに入れると、ゴミ箱にまとめて投げ入れた。
 もう十一月だし、そろそろ虫も冬眠する季節になるからしばらく掃除しなくても助かるよな。
「しばらく掃除していないと、汚れが溜まるよね」
 そう言いながら、朋恵は汚くなった雑巾を水洗いした。
 バケツの水はいつの間にか土埃《つちぼこり》や自動車の排気ガスで濁っていた。
「本当だ」
「ここは道路が近いから、自動車の排気ガスが多いから大変なんだよね~。せめて大掃除を月一回やってくれないかなぁ」
 さっき虫を見ただけでヒィヒィ言っていた朋恵だったが、ある程度掃除が進むといつものような表情を見せた。
 あっという間に窓ガラスを拭き終わると、次から次へと掃除の手を伸ばしていく。
 掃除があると押し付けそうなタイプなのに、意外だな。
「結構掃除するのが好きなんだね」
「うん、アタシは結構キレイ好きだからね。こないだアタシん家で勉強した時も念入りに掃除しておいたんだ。……ほら、ぼーっと突っ立っていないで、早く終わらせよう!」
「は、はい!」
 朋恵に促されるように手を動かすと、あっという間にすべての窓を拭き終えた。
「ふぅ、こんなものかな」
「お疲れ様、ヤス」
 教室掃除と後片付けが終わると、愛未と朋恵達は弁当やスポーツバッグを手にしていた。
「これから部活?」
「そうだよ。久しぶりに先輩達に会えるからね」
「君も藤島さんと顔を合わせられなかったから、寂しい思いしているだろ?」
「うん、まぁそうだけど……」
 藤島さん、今回のテストはどうだったのかな。
 テスト前に「私も富樫君と同じ様に通信講座を始めました」って話していたから、ひょっとしたら……、いや、どうなのだろう?
「今日は部活に行くよ。弁当も持ってきたから」
「ぜひそうしてくれ」
「帰る時には連絡するからね~」
 朋恵は手を振って、教室内から去っていった。
 同じクラスの藤島さんはともかくとして、二年生の桃花先輩達ともしばらく顔を合わせていない。
 久しぶりに顔を出しますか、e-Sports愛好会に!