第35話

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 僕たちが図書室に向かうと、そこには多くの生徒が参考書や問題集、電子辞書などを手にしながらテスト勉強に励んでいた。
 図書室のカウンターで座っている当番の生徒も貸出業務はそっちのけで、これまた他の生徒たちと同じ……ではなく、ちゃんと本を読んでいた。テスト一週間前なのに大丈夫なのか?

 愛未は図書室の中を見渡すと、朋恵が座っている場所を見つけるなり彼女に合図を送った。
 朋恵も手を振って応じたので、僕たちは朋恵が座っているところに座った。
 僕と女性陣はお互い近い距離になるのを避けるために向かい側の席に陣取った。
 僕一人だけ男性というのは、こないだの勉強会と似ているな。

「待たせたね、掃除に手間取って」
「ご苦労様。席は取っておいたよ。無論、ヤスの分もね」
「ありがとう、朋恵」
「お礼はテスト明けに……」
「こら、ちゃっかり奢ってもらうなんて言うんじゃないよ」
「あはは、ごめんねマナ」
「全く、調子に乗るといつもこれだからな」

 ここ最近はe-Sports愛好会の活動が忙しくなって図書室に立ち寄る暇がなかったけど、テスト前にこうして来てみると、図書室の雰囲気は独特だと思う。静かで勉強に集中できるからね。
 但し、図書室は午後六時になると司書の先生が帰るために閉館となるので、テスト期間中に僕達が学校に居られるのは実質午後六時までとなる。
 ここに居られる時間は短いから、うかうかしていられない。

「それじゃあ、どの教科から始めようか」

 愛未がテキストなどを広げると、どの教科からやろうかという話になった。

「僕は数学からかな。今度のテストでもうちょっといい点を取りたいんだよね」

 英語は英会話を主に扱うコミュニケーションと英文法や長文読解などの表現に分かれている上に、覚えることが多い。
 ただ、小学校の頃に母親から英会話を習うように言われてラジオの英会話を聞いているせいもあって、僕は特段苦手意識がない。

 国語に関しては文脈を読み取る力が身についていないが、その反面漢字や文学史、古典の単語や文法である程度稼ぐことが出来る。
 現代社会は暗記が多いからこちらは国語同様に何とかなりそうだ。
 化学基礎は生物基礎は赤点を取らないように踏みとどまるとして、数学だけは何とかしたい。現状維持どころか、もうちょっと頑張らないとなぁ。

「アタシは数学が苦手だからそっちからやりたいな。後は化学と生物も!」

 僕が色々と考えていると、向かいの左側に座っている朋恵も理系科目に手を挙げた。理系科目が苦手なのは僕と一緒だな。
 真正面に座っている愛未が僕たちの要望を聞くと、「それでは、数学からやるか」と言って鞄から数学の教科書と問題集を取り出した。

「じゃあ、まずは二次関数から始めよう。今度のテストで先生が『ここはテストに出すから』といったポイントを挙げるから、各自メモしておくように。それと、勉強会中はスマホはしまうように」
「マナがそういうなら、仕方ないか」
「分かったよ」

 一旦勉強会が始まると、愛未はスイッチが入ったかのように集中していた。
 ここ最近は家で勉強しているとスマホでVtuberの配信を見る癖がついていたから、スマホなしで勉強するのは久しぶりだ。

 勉強会の間は愛未の指導の下でスマホは一切使わず、テストに出てくるポイントを重点的に教えてもらった。
 九月の前期期末でも愛未は学年で五位だったことを考えると、授業をしっかり聞いているんだなとさえ思った。

 ◇

 勉強会をしていると、いつの間にか車やバイク、自転車の灯りや住宅街の灯りが目に入る。

「そろそろ図書室を閉めるので、残っている生徒は退出してくださ~い」

 司書室に居る先生が生徒にそう告げると、周りの生徒達が帰り支度を始めた。

「アタシ達も帰ろっか?」

 朋恵が愛未にそう問いかけると、「そうだな」と言って帰り支度を始めた。
 今日の勉強会もこれで終わりだ。家に帰ったら、出来なかったところなどを復習しないといけない。
 それにしても、愛未は教えるのがすごく上手かった。
 分からないところがあったら逐一このように解いたほうが良いと明確にアドバイスしてくれる。
 ひょっとしたら彼女、先生に向いているのかもしれないな。

 会話をしながらあっという間に校舎を出ると、周りは電灯や車のライトに包まれていた。

「もうすっかり暗くなったね」
「そうだね~。こないだ一緒にコンビニに行った時とはまるで違うね」
「あの時は今の時間でも少し明るかったからな」
「いつも通り一緒に帰ろうか?」
「「うん」」

 二人が頷くと、右手に愛未、左手側に朋恵が並んで歩く。
 気がついたら、三人一緒で帰ることが当たり前のようになった。

「こないだコンビニスイーツを食べたと思ったら、もうテストなんだね」
「そうだな。それに……」

 愛未は何かを言いたそうに、僕の方を向く。
 そして、「ヤス君と出会ってもう一ヶ月が過ぎたね」と話しかけた。

 そう言われるとそんなイケメン口調で言われると、照れるじゃないか。

 よく考えれば、この一ヶ月は色々なことがあったな。
 朋恵達との出会いをはじめ、黒須さんのインタビューに応じたこと、そして部活に入り直したこと――。
 彼女達のおかげで、心美を失った心の傷はだいぶ良くなった。今では思い出すことすらなくなった。この間モンブランを一緒に食べたと思ったら、もうテスト前だ。

「そうだね、あの時はこのまま消え去りたいとも思ったよ」
「あの当時のヤス、生きる希望がなかったもんね」

 そう、もしこのままだったら僕自身はどうなったか全く分からなかった。
 もしあの時チア部の練習を見学していなかったら、今よりも悪い方向に向かっていったのかもしれない。
 今の僕には朋恵が居る。そして、愛未が居る。
 いずれどちらかを選択せねばならない時期が来るかもしれないが、その時までは三人で清い関係を続けよう――心からそう思っている。

「うん。今は――そうだな、朋恵達と一緒に居たいと思っているよ」
「え、それはどうして?」
「内緒」
「えー、いいじゃん! 教えてよ~!」
「私にも教えてくれたっていいだろ?」
「まだ教えたくないからね」

 二人には申し訳ないけど、今は心の中にしまっておこう。
 いつかその時が来たら、必ず伝えるから。



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 僕たちが図書室に向かうと、そこには多くの生徒が参考書や問題集、電子辞書などを手にしながらテスト勉強に励んでいた。
 図書室のカウンターで座っている当番の生徒も貸出業務はそっちのけで、これまた他の生徒たちと同じ……ではなく、ちゃんと本を読んでいた。テスト一週間前なのに大丈夫なのか?
 愛未は図書室の中を見渡すと、朋恵が座っている場所を見つけるなり彼女に合図を送った。
 朋恵も手を振って応じたので、僕たちは朋恵が座っているところに座った。
 僕と女性陣はお互い近い距離になるのを避けるために向かい側の席に陣取った。
 僕一人だけ男性というのは、こないだの勉強会と似ているな。
「待たせたね、掃除に手間取って」
「ご苦労様。席は取っておいたよ。無論、ヤスの分もね」
「ありがとう、朋恵」
「お礼はテスト明けに……」
「こら、ちゃっかり奢ってもらうなんて言うんじゃないよ」
「あはは、ごめんねマナ」
「全く、調子に乗るといつもこれだからな」
 ここ最近はe-Sports愛好会の活動が忙しくなって図書室に立ち寄る暇がなかったけど、テスト前にこうして来てみると、図書室の雰囲気は独特だと思う。静かで勉強に集中できるからね。
 但し、図書室は午後六時になると司書の先生が帰るために閉館となるので、テスト期間中に僕達が学校に居られるのは実質午後六時までとなる。
 ここに居られる時間は短いから、うかうかしていられない。
「それじゃあ、どの教科から始めようか」
 愛未がテキストなどを広げると、どの教科からやろうかという話になった。
「僕は数学からかな。今度のテストでもうちょっといい点を取りたいんだよね」
 英語は英会話を主に扱うコミュニケーションと英文法や長文読解などの表現に分かれている上に、覚えることが多い。
 ただ、小学校の頃に母親から英会話を習うように言われてラジオの英会話を聞いているせいもあって、僕は特段苦手意識がない。
 国語に関しては文脈を読み取る力が身についていないが、その反面漢字や文学史、古典の単語や文法である程度稼ぐことが出来る。
 現代社会は暗記が多いからこちらは国語同様に何とかなりそうだ。
 化学基礎は生物基礎は赤点を取らないように踏みとどまるとして、数学だけは何とかしたい。現状維持どころか、もうちょっと頑張らないとなぁ。
「アタシは数学が苦手だからそっちからやりたいな。後は化学と生物も!」
 僕が色々と考えていると、向かいの左側に座っている朋恵も理系科目に手を挙げた。理系科目が苦手なのは僕と一緒だな。
 真正面に座っている愛未が僕たちの要望を聞くと、「それでは、数学からやるか」と言って鞄から数学の教科書と問題集を取り出した。
「じゃあ、まずは二次関数から始めよう。今度のテストで先生が『ここはテストに出すから』といったポイントを挙げるから、各自メモしておくように。それと、勉強会中はスマホはしまうように」
「マナがそういうなら、仕方ないか」
「分かったよ」
 一旦勉強会が始まると、愛未はスイッチが入ったかのように集中していた。
 ここ最近は家で勉強しているとスマホでVtuberの配信を見る癖がついていたから、スマホなしで勉強するのは久しぶりだ。
 勉強会の間は愛未の指導の下でスマホは一切使わず、テストに出てくるポイントを重点的に教えてもらった。
 九月の前期期末でも愛未は学年で五位だったことを考えると、授業をしっかり聞いているんだなとさえ思った。
 ◇
 勉強会をしていると、いつの間にか車やバイク、自転車の灯りや住宅街の灯りが目に入る。
「そろそろ図書室を閉めるので、残っている生徒は退出してくださ~い」
 司書室に居る先生が生徒にそう告げると、周りの生徒達が帰り支度を始めた。
「アタシ達も帰ろっか?」
 朋恵が愛未にそう問いかけると、「そうだな」と言って帰り支度を始めた。
 今日の勉強会もこれで終わりだ。家に帰ったら、出来なかったところなどを復習しないといけない。
 それにしても、愛未は教えるのがすごく上手かった。
 分からないところがあったら逐一このように解いたほうが良いと明確にアドバイスしてくれる。
 ひょっとしたら彼女、先生に向いているのかもしれないな。
 会話をしながらあっという間に校舎を出ると、周りは電灯や車のライトに包まれていた。
「もうすっかり暗くなったね」
「そうだね~。こないだ一緒にコンビニに行った時とはまるで違うね」
「あの時は今の時間でも少し明るかったからな」
「いつも通り一緒に帰ろうか?」
「「うん」」
 二人が頷くと、右手に愛未、左手側に朋恵が並んで歩く。
 気がついたら、三人一緒で帰ることが当たり前のようになった。
「こないだコンビニスイーツを食べたと思ったら、もうテストなんだね」
「そうだな。それに……」
 愛未は何かを言いたそうに、僕の方を向く。
 そして、「ヤス君と出会ってもう一ヶ月が過ぎたね」と話しかけた。
 そう言われるとそんなイケメン口調で言われると、照れるじゃないか。
 よく考えれば、この一ヶ月は色々なことがあったな。
 朋恵達との出会いをはじめ、黒須さんのインタビューに応じたこと、そして部活に入り直したこと――。
 彼女達のおかげで、心美を失った心の傷はだいぶ良くなった。今では思い出すことすらなくなった。この間モンブランを一緒に食べたと思ったら、もうテスト前だ。
「そうだね、あの時はこのまま消え去りたいとも思ったよ」
「あの当時のヤス、生きる希望がなかったもんね」
 そう、もしこのままだったら僕自身はどうなったか全く分からなかった。
 もしあの時チア部の練習を見学していなかったら、今よりも悪い方向に向かっていったのかもしれない。
 今の僕には朋恵が居る。そして、愛未が居る。
 いずれどちらかを選択せねばならない時期が来るかもしれないが、その時までは三人で清い関係を続けよう――心からそう思っている。
「うん。今は――そうだな、朋恵達と一緒に居たいと思っているよ」
「え、それはどうして?」
「内緒」
「えー、いいじゃん! 教えてよ~!」
「私にも教えてくれたっていいだろ?」
「まだ教えたくないからね」
 二人には申し訳ないけど、今は心の中にしまっておこう。
 いつかその時が来たら、必ず伝えるから。