第31話
ー/ー あっという間に十月も終わり、いよいよこの街にも落ち葉の季節がやってくる頃となった。
早いもので、心美を取られてから一ヶ月が過ぎようとしている。
ここ一ヶ月は様々なことがあった。
まずは朋恵と愛未との出会いがあり、文芸部に居る侑里からのインタビュー、e-Sports愛好会への加入、朋恵達とコンビニでのデート、勉強会、そして総合学習で一緒になっている橋本と話すようになったこと――と、高校に入ってからの半年間が何だったのかと思えるほどに充実していた。
考えれば考えるほど、いかに僕の中学校生活が心美に依存しきっていたのかが良く分かった。
そして、今日は――。
「おーい、ヤス! こっちだよ~!」
「ヤス君、おはよう」
なんと、休日を利用して朋恵と愛未の三人でデートすることになった。
しかも待ち合わせ場所は僕のマンションの前だ。
何故三人でデートすることになったのかというと、それは模擬試験があった先週の土曜日のこと――。
☆
「やっと終わった~! これで遊びに行ける~!」
三教科の模擬試験が終わり、英語や数学、国語の小テストから始まったテスト漬けの一週間から解放されるや否や、隣の席に居る朋恵が生き生きとした顔を見せながら背伸びをしていた。
「トモ、来月に入ると中間考査があるだろ? もう少し頑張ろうよ」
「マナ、やっと模試から解放されたんだから、今日くらい休んでもバチは当たらないよ」
「全く……、トモは試験が終わるといつもこうだからなぁ」
朋恵は試験に次ぐ試験が終わって少し休みたい気もあるが、それは僕も同感だ。
最近ではだんだんと射撃の腕が上がっているし、デスマッチやスパイクラッシュでも上手く立ち回れるようになった。
高校生で出場できる大会が出来たら僕もぜひ参加してみたい……、と思うけど、その前に勉強をしっかりやって志望校に合格するだけの学力をつけないといけないのも悩ましいところだ。
父さんと同じように私立大学を受験するか、もしくはもうちょっと頑張って隣の県にある国立大か県立大、さらに頑張ってうちの学校では入るのが難しいとされる旧帝大に入るか――。
「何難しいこと考えてんのよ、ヤス」
すると、通学用の鞄を手にしていた二人が僕の目の前に居た。
今日は二人とも部活が無く、弁当袋やスポーツバッグなどは見当たらない。それもそうか、普段は部活が休みの日だ。
ちなみに、黒澤先輩から「今日はテストで疲れているから、休んでいいぞ」とDiscordにメッセージが入っていた。
「いや、ちょっとね。e-Sports愛好会で頑張るのもさることながら、勉強もしっかりやらないと、と思ってね」
「そんな根詰めて物事を考えていると、ストレスで体がズタズタになっちゃうよ。とりま、もう少し気楽に行こうよ」
笑顔を振りまきながら朋恵が話すと、愛未が腕を組んで頷いた。
気楽に行くといっても、どうすればいいんだか……。
「そうはいってもね……」
「トモの言う通りだ。ヤス君はもう少し心にゆとりを持ったほうが良いよ」
「そうそう。小テストや模試が終わったし、今日くらい――」
「だからといって今日カラオケに行くのはナシだぞ」
「なんで分かるのよ、マナ」
「顔に書いてあるぞ」
「えー、いいじゃん、別に! ヤスも行く?」
「僕はちょっと……」
何を隠そう、僕はカラオケに行ったことがないし、合唱コンクールの時以外は人前で歌ったことがない。しかも、いじめが原因で陽キャから陰キャになってしまった僕にとって、カラオケボックスはちょっと行きづらい場所だ。
カラオケボックスは陽キャ連中が騒がしくする場所としか思えない……んだけど、うちの学校から近い場所にはそういった店が無い。行くとしても、他校生の……って、言い訳じみているじゃないか自分! そういうところが駄目だというのに!
すると、行こうかどうか悩んでいる僕に愛未が「だったら」と話を続けた。
「今度の文化の日に一緒に行ってみないか? その日は部活も休みだし、ね」
「文化の日か~。良いね! ヤスも行く?」
参ったな。ここまで外堀を埋められているのであれば、行くしかない。
「もちろんだよ」
そう答えると、朋恵がむちゃくちゃ嬉しそうに両手を挙げた。
「やった~! ヤスとカラオケだ~!」
「こら、トモ! 行くのは今日じゃなくて文化の日だぞ」
「ごめんね、マナ。それじゃあ、文化の日の午前九時半にヤスのマンション入り口前で待ち合わせしよう? カラオケボックスって、歩いてすぐでしょ?」
「そうだね。うちのマンション、カラオケボックスとジムの裏手だから」
「じゃあ、決まりだね」
☆
――ということで、デートが決まった次第となった。
ここ三、四日間は二人……いや、黒須さんを含めて三人が教室で話している姿を見てはそわそわしていた。
「あれ? ヤス、こないだ勉強した時とほとんど変わらない格好しているね」
真っ先に僕に話しかけてきたのは、こないだ勉強会をした時とほぼ同じ格好の朋恵だった。履いている靴がロングブーツなのは季節柄だろう。
そして、肝心の愛未は――。
「上下ともウニクロで買った感じがするね、君は」
シャツに女性向けの秋色のジャケットにチノパン、そしてローファーと、胸が無ければイケメン男性にしか見えない感じの服装だった。
シャツの下からは黒のブラジャーが透けて見えていて、健全な青少年である僕にとっては目の毒だ。
ギャルっぽい恰好とイケメン女子の二人にそう詰め寄られたために自分の恰好を見てみると、その通りだから何にも言えない。
我が家はいつもモールの隣にあるウニクロで服を買っている。安いし、品質も良いし。
「まぁ、父さんの趣味だし」
「ふ~ん、そうなんだ」
「父さんはあまり服に金を掛けない感じでね、僕も父さんの血を引いたのかな」
「なるほどね。君の元カノはどうだったんだ?」
元カノか――。
中学校の頃は何度も元カノと近所の映画館や駅前の映画館に行ったことがあるけど、その時はモールの店で買ったって話していたな。
「元カノは今僕が着ているのと同じ感じの服が多かったよ」
「なるほどね~。この際だから、アタシ達でヤスに合いそうな服を見繕ってあげよっか?」
「トモにしてはいい考えだね。未練を断ち切るなら、見た目を替えるのもよさそうだね」
「それじゃあ、予定変更! モールに行って、男モノの衣装を見繕っちゃう?」
「良いね。私も丁度新しい服を探していたところだったよ」
予定変更で僕たちは家の近くにあるカラオケから、急遽モールに向かうことになった。
まぁ、通路を挟んでウニクロがあることだし、いざとなればウニクロに行けばいい……かな?
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
あっという間に十月も終わり、いよいよこの街にも落ち葉の季節がやってくる頃となった。
早いもので、心美を取られてから一ヶ月が過ぎようとしている。
ここ一ヶ月は様々なことがあった。
まずは朋恵と愛未との出会いがあり、文芸部に居る侑里からのインタビュー、e-Sports愛好会への加入、朋恵達とコンビニでのデート、勉強会、そして総合学習で一緒になっている橋本と話すようになったこと――と、高校に入ってからの半年間が何だったのかと思えるほどに充実していた。
考えれば考えるほど、いかに僕の中学校生活が心美に依存しきっていたのかが良く分かった。
そして、今日は――。
「おーい、ヤス! こっちだよ~!」
「ヤス君、おはよう」
なんと、休日を利用して朋恵と愛未の三人でデートすることになった。
しかも待ち合わせ場所は僕のマンションの前だ。
何故三人でデートすることになったのかというと、それは模擬試験があった先週の土曜日のこと――。
☆
「やっと終わった~! これで遊びに行ける~!」
三教科の模擬試験が終わり、英語や数学、国語の小テストから始まったテスト漬けの一週間から解放されるや否や、隣の席に居る朋恵が生き生きとした顔を見せながら背伸びをしていた。
「トモ、来月に入ると中間考査があるだろ? もう少し頑張ろうよ」
「マナ、やっと模試から解放されたんだから、今日くらい休んでもバチは当たらないよ」
「全く……、トモは試験が終わるといつもこうだからなぁ」
朋恵は試験に次ぐ試験が終わって少し休みたい気もあるが、それは僕も同感だ。
最近ではだんだんと射撃の腕が上がっているし、デスマッチやスパイクラッシュでも上手く立ち回れるようになった。
高校生で出場できる大会が出来たら僕もぜひ参加してみたい……、と思うけど、その前に|勉強《先立つもの》をしっかりやって志望校に合格するだけの学力をつけないといけないのも悩ましいところだ。
父さんと同じように私立大学を受験するか、もしくはもうちょっと頑張って隣の県にある国立大か県立大、さらに頑張ってうちの学校では入るのが難しいとされる旧帝大に入るか――。
「何難しいこと考えてんのよ、ヤス」
すると、通学用の鞄を手にしていた二人が僕の目の前に居た。
今日は二人とも部活が無く、弁当袋やスポーツバッグなどは見当たらない。それもそうか、普段は部活が休みの日だ。
ちなみに、黒澤先輩から「今日はテストで疲れているから、休んでいいぞ」とDiscordにメッセージが入っていた。
「いや、ちょっとね。e-Sports愛好会で頑張るのもさることながら、勉強もしっかりやらないと、と思ってね」
「そんな根詰めて物事を考えていると、ストレスで体がズタズタになっちゃうよ。とりま、もう少し気楽に行こうよ」
笑顔を振りまきながら朋恵が話すと、愛未が腕を組んで頷いた。
気楽に行くといっても、どうすればいいんだか……。
「そうはいってもね……」
「トモの言う通りだ。ヤス君はもう少し心にゆとりを持ったほうが良いよ」
「そうそう。小テストや模試が終わったし、今日くらい――」
「だからといって今日カラオケに行くのはナシだぞ」
「なんで分かるのよ、マナ」
「顔に書いてあるぞ」
「えー、いいじゃん、別に! ヤスも行く?」
「僕はちょっと……」
何を隠そう、僕はカラオケに行ったことがないし、合唱コンクールの時以外は人前で歌ったことがない。しかも、いじめが原因で陽キャから陰キャになってしまった僕にとって、カラオケボックスはちょっと行きづらい場所だ。
カラオケボックスは陽キャ連中が騒がしくする場所としか思えない……んだけど、うちの学校から近い場所にはそういった店が無い。行くとしても、他校生の……って、言い訳じみているじゃないか自分! そういうところが駄目だというのに!
すると、行こうかどうか悩んでいる僕に愛未が「だったら」と話を続けた。
「今度の文化の日に一緒に行ってみないか? その日は部活も休みだし、ね」
「文化の日か~。良いね! ヤスも行く?」
参ったな。ここまで外堀を埋められているのであれば、行くしかない。
「もちろんだよ」
そう答えると、朋恵がむちゃくちゃ嬉しそうに両手を挙げた。
「やった~! ヤスとカラオケだ~!」
「こら、トモ! 行くのは今日じゃなくて文化の日だぞ」
「ごめんね、マナ。それじゃあ、文化の日の午前九時半にヤスのマンション入り口前で待ち合わせしよう? カラオケボックスって、歩いてすぐでしょ?」
「そうだね。うちのマンション、カラオケボックスとジムの裏手だから」
「じゃあ、決まりだね」
☆
――ということで、デートが決まった次第となった。
ここ三、四日間は二人……いや、黒須さんを含めて三人が教室で話している姿を見てはそわそわしていた。
「あれ? ヤス、こないだ勉強した時とほとんど変わらない格好しているね」
真っ先に僕に話しかけてきたのは、こないだ勉強会をした時とほぼ同じ格好の朋恵だった。履いている靴がロングブーツなのは季節柄だろう。
そして、肝心の愛未は――。
「上下ともウニクロで買った感じがするね、君は」
シャツに女性向けの秋色のジャケットにチノパン、そしてローファーと、胸が無ければイケメン男性にしか見えない感じの服装だった。
シャツの下からは黒のブラジャーが透けて見えていて、健全な青少年である僕にとっては目の毒だ。
ギャルっぽい恰好とイケメン女子の二人にそう詰め寄られたために自分の恰好を見てみると、その通りだから何にも言えない。
我が家はいつもモールの隣にあるウニクロで服を買っている。安いし、品質も良いし。
「まぁ、父さんの趣味だし」
「ふ~ん、そうなんだ」
「父さんはあまり服に金を掛けない感じでね、僕も父さんの血を引いたのかな」
「なるほどね。君の元カノはどうだったんだ?」
元カノか――。
中学校の頃は何度も元カノと近所の映画館や駅前の映画館に行ったことがあるけど、その時はモールの店で買ったって話していたな。
「元カノは今僕が着ているのと同じ感じの服が多かったよ」
「なるほどね~。この際だから、アタシ達でヤスに合いそうな服を見繕ってあげよっか?」
「トモにしてはいい考えだね。未練を断ち切るなら、見た目を替えるのもよさそうだね」
「それじゃあ、予定変更! モールに行って、男モノの衣装を見繕っちゃう?」
「良いね。私も丁度新しい服を探していたところだったよ」
予定変更で僕たちは家の近くにあるカラオケから、急遽モールに向かうことになった。
まぁ、通路を挟んでウニクロがあることだし、いざとなればウニクロに行けばいい……かな?