第30話

ー/ー



 火曜日の七時間目は、定例となっている総合学習だ。
 総合学習では、個別に研究をやるもよし、グループを組むもよしで様々なテーマについての探索と研究を行っている。

 僕の斜め向かいの席を見ると――。

「アタシ達が産まれる前にショッピングモールが出来たお陰でこの街が発展したんじゃない? それに北欧の家具屋さんやテレビ局もこっちに来たし……」
「ただ、昔はエッチな店があったと聞いているよ。何でも、ストリップ劇場があったとか……」
「本当か?」
「マジだよ。なにせ父さん、学生時代からこの街に住んでいるからね」

 朋恵と愛未は黒須さんと一緒になって、商店街の活性化とこれからの街づくりについて論じていた。
 その一方で僕はというと――。

「それでさ、ここ最近うちの親父の実家で読んでいる新聞に……。富樫、聞いているか?」
「は、はいっ!」
「まったく、普段授業を真剣に聞いているのに、総合学習となるとすぐこれだからなぁ」

 橋本と一緒に、ここ三十年間の新聞小説で扱っているテーマと、そこから見えてくる自分たちの課題について探求をしていた。

 橋本こと橋本(はしもと)逸雄(はやお)は174センチある僕よりも身長が高い。
 顔はいわゆるモブ顔で、有名人でいうと暑苦しい松岡〇造をややマイルドにした感じ……、かな。
 バスケ部に所属していて、こないだの新人戦では途中出場して活躍を見せたらしく、その時の模様を収めた写真をスマホに送られてきたこともある。

 橋本との付き合いが始まったのは一学期のグループ分けの時だった。
 小説が好きだからと思って軽いノリで付き合うことになったのはいいけれど、いざ始めるとなると様々な作品に触れることが出来てとても有意義な時間を過ごせている。

「ああ、ごめんごめん。最近は朋恵の事ばかり見ていて」
「朋恵って、我妻さんのことか?」
「そうだけど」

 しかも、こないだ三人でコンビニに行ってデートしたばかりだ。
 僕が頷くや否や、橋本は耳打ちするように小声で話しかけてきた。

「授業中に話すのもなんだけど、我妻さんは狙っている男子も多いって噂だぜ? チアやっているし、スタイル良いし、スポーツ万能だからな」
「マジか?」
「ああ、マジだとも。俺と同じバスケ部に居る先輩や同級生、バレー部に……、テニス部の先輩が狙っているって話を聞くぜ」
「そうなんだ」

 ついため息が漏れた。
 僕に対して友達のように接してくれる我妻さんだけど、やはり人気があるんだな。
 それなのに、僕が親しくしていいのか……って、イカン! 何考えているんだ、僕は!
 ここ最近は我妻さんの事ばかり考えていて、ちょっとヘタレそうな感じになっているじゃないか。
 しっかりしろよ、僕。昨日藤島さんに「仲良くなってみたらどうです?」と言われたばかりじゃないか!

「おいおい、最近どうしたんだ富樫? 急に気合い入れるようになったりして、ちょっと変だぞ?」
「いや、ごめんな。ここ最近はちょっと……ね」
「おかしな奴だなぁ」

 橋本の言う通り、僕はちょっと浮かれている感じがする。
 久しぶりに女の子と会話できるようになり、入り直した部活でも友達に恵まれるようになったけど、同じクラスの友人は……、橋本がいれば大丈夫……かな。

 ◇

 総合学習の時間が終わるとそのままSHR(ショートホームルーム)となり、そのまま多くの生徒が部活になだれ込む。
 橋本は支度をして部活に向かおうとしていたが、それは僕も同じだ。

「なあ、橋本」
「ん、なんだ?」

 いつもだったらそのまま部室に行くところだけど、今日はちょっと違った。

「一緒に部活に行くか?」
「なんだよ、藪から棒に」
「僕は西校舎、お前は体育館だろ? 歩きながらでも話は出来るから」
「そうだな」

 橋本は軽く頷くと、鞄を持って立ち上がった。

「実はここ最近調子いいのは、とも……、我妻さん達と親しくなったからだよ」
「マジか?」
「うん、我妻さんと僕は住んでいる場所が近いからね」
「ちょ、お前……」
「本当だとも。こないだは一緒に勉強したんだから」
「うわ~、マジか!?」
「しかも学年一位の黒須さんに、隣のクラスの白浜さんと一緒だったよ」
「文芸部所属の見た目がギャルっぽい子と、隣のクラスに居る活発系ギャルと?」
「しっ、声がデカいぞ」
「あ、ごめんな。それで、三人ともどうだった?」
「どうだったって、まぁ……。白浜さんはああ見えて英語が得意で、黒須さんに至っては何でもそつなくこなしてしまうって感じだったな」
「そりゃあなぁ、黒須さんは父親が有名な私立大学の出で、作家もやっているだろ? それに母親も美人で聡明だから、俺達にとっては過ぎたる相手に見えるんだよな」
「ふんふん」
「それで、白浜さんに至ってはな……」

 こんな調子で、声を落としながらも体育館の入り口に至るまで二人で朋恵達の話に耳を傾けていた。

 それにしても、世の中って不思議だな。
 普通恋人が寝取られたならば、しばらくは立ち直れないのが普通だろう。僕だってそうだった。
 しかし、僕があの時チア部の練習を見学したお陰で――その後ぶっ倒れたけど――朋恵と口を利くことになり、そこから一気にe-Sports愛好会への移籍に繋がった。

 心美が同じ学校に居て、寝取った男が同じ学校であったら、相手に対する復讐も視野に入れていただろう。
 ただ、復讐を成功に導くには利害関係が一致する人間が居ない限りは不可能だ。
 ましてや心美や間男が居る学校が別ならば、尚更だ。
 僕にはあちらの学校に知っている同級生が居ない以上、手出しをすることは不可能だ。相手が自滅することを待つしかない。

 それに、僕には運があった。
 朋恵と愛未と知り合ったおかげで、色々といい方向に回っている。
 このまま良い方向に向かえば、僕だって心美のことをいつか忘れるだろう。否、いじめの事とセットで忘れたい。

 今は前を向きたい。それが今の僕にとって必要なことだ。



次のエピソードへ進む 第31話


みんなのリアクション

 火曜日の七時間目は、定例となっている総合学習だ。
 総合学習では、個別に研究をやるもよし、グループを組むもよしで様々なテーマについての探索と研究を行っている。
 僕の斜め向かいの席を見ると――。
「アタシ達が産まれる前にショッピングモールが出来たお陰でこの街が発展したんじゃない? それに北欧の家具屋さんやテレビ局もこっちに来たし……」
「ただ、昔はエッチな店があったと聞いているよ。何でも、《《致せる》》ストリップ劇場があったとか……」
「本当か?」
「マジだよ。なにせ父さん、学生時代からこの街に住んでいるからね」
 朋恵と愛未は黒須さんと一緒になって、商店街の活性化とこれからの街づくりについて論じていた。
 その一方で僕はというと――。
「それでさ、ここ最近うちの親父の実家で読んでいる新聞に……。富樫、聞いているか?」
「は、はいっ!」
「まったく、普段授業を真剣に聞いているのに、総合学習となるとすぐこれだからなぁ」
 橋本と一緒に、ここ三十年間の新聞小説で扱っているテーマと、そこから見えてくる自分たちの課題について探求をしていた。
 橋本こと橋本《はしもと》逸雄《はやお》は174センチある僕よりも身長が高い。
 顔はいわゆるモブ顔で、有名人でいうと暑苦しい松岡〇造をややマイルドにした感じ……、かな。
 バスケ部に所属していて、こないだの新人戦では途中出場して活躍を見せたらしく、その時の模様を収めた写真をスマホに送られてきたこともある。
 橋本との付き合いが始まったのは一学期のグループ分けの時だった。
 小説が好きだからと思って軽いノリで付き合うことになったのはいいけれど、いざ始めるとなると様々な作品に触れることが出来てとても有意義な時間を過ごせている。
「ああ、ごめんごめん。最近は朋恵の事ばかり見ていて」
「朋恵って、我妻さんのことか?」
「そうだけど」
 しかも、こないだ三人でコンビニに行ってデートしたばかりだ。
 僕が頷くや否や、橋本は耳打ちするように小声で話しかけてきた。
「授業中に話すのもなんだけど、我妻さんは狙っている男子も多いって噂だぜ? チアやっているし、スタイル良いし、スポーツ万能だからな」
「マジか?」
「ああ、マジだとも。俺と同じバスケ部に居る先輩や同級生、バレー部に……、テニス部の先輩が狙っているって話を聞くぜ」
「そうなんだ」
 ついため息が漏れた。
 僕に対して友達のように接してくれる我妻さんだけど、やはり人気があるんだな。
 それなのに、僕が親しくしていいのか……って、イカン! 何考えているんだ、僕は!
 ここ最近は我妻さんの事ばかり考えていて、ちょっとヘタレそうな感じになっているじゃないか。
 しっかりしろよ、僕。昨日藤島さんに「仲良くなってみたらどうです?」と言われたばかりじゃないか!
「おいおい、最近どうしたんだ富樫? 急に気合い入れるようになったりして、ちょっと変だぞ?」
「いや、ごめんな。ここ最近はちょっと……ね」
「おかしな奴だなぁ」
 橋本の言う通り、僕はちょっと浮かれている感じがする。
 久しぶりに女の子と会話できるようになり、入り直した部活でも友達に恵まれるようになったけど、同じクラスの友人は……、橋本がいれば大丈夫……かな。
 ◇
 総合学習の時間が終わるとそのまま|SHR《ショートホームルーム》となり、そのまま多くの生徒が部活になだれ込む。
 橋本は支度をして部活に向かおうとしていたが、それは僕も同じだ。
「なあ、橋本」
「ん、なんだ?」
 いつもだったらそのまま部室に行くところだけど、今日はちょっと違った。
「一緒に部活に行くか?」
「なんだよ、藪から棒に」
「僕は西校舎、お前は体育館だろ? 歩きながらでも話は出来るから」
「そうだな」
 橋本は軽く頷くと、鞄を持って立ち上がった。
「実はここ最近調子いいのは、とも……、我妻さん達と親しくなったからだよ」
「マジか?」
「うん、我妻さんと僕は住んでいる場所が近いからね」
「ちょ、お前……」
「本当だとも。こないだは一緒に勉強したんだから」
「うわ~、マジか!?」
「しかも学年一位の黒須さんに、隣のクラスの白浜さんと一緒だったよ」
「文芸部所属の見た目がギャルっぽい子と、隣のクラスに居る活発系ギャルと?」
「しっ、声がデカいぞ」
「あ、ごめんな。それで、三人ともどうだった?」
「どうだったって、まぁ……。白浜さんはああ見えて英語が得意で、黒須さんに至っては何でもそつなくこなしてしまうって感じだったな」
「そりゃあなぁ、黒須さんは父親が有名な私立大学の出で、作家もやっているだろ? それに母親も美人で聡明だから、俺達にとっては過ぎたる相手に見えるんだよな」
「ふんふん」
「それで、白浜さんに至ってはな……」
 こんな調子で、声を落としながらも体育館の入り口に至るまで二人で朋恵達の話に耳を傾けていた。
 それにしても、世の中って不思議だな。
 普通恋人が寝取られたならば、しばらくは立ち直れないのが普通だろう。僕だってそうだった。
 しかし、僕があの時チア部の練習を見学したお陰で――その後ぶっ倒れたけど――朋恵と口を利くことになり、そこから一気にe-Sports愛好会への移籍に繋がった。
 心美が同じ学校に居て、寝取った男が同じ学校であったら、相手に対する復讐も視野に入れていただろう。
 ただ、復讐を成功に導くには利害関係が一致する人間が居ない限りは不可能だ。
 ましてや心美や間男が居る学校が別ならば、尚更だ。
 僕にはあちらの学校に知っている同級生が居ない以上、手出しをすることは不可能だ。相手が自滅することを待つしかない。
 それに、僕には運があった。
 朋恵と愛未と知り合ったおかげで、色々といい方向に回っている。
 このまま良い方向に向かえば、僕だって心美のことをいつか忘れるだろう。否、いじめの事とセットで忘れたい。
 今は前を向きたい。それが今の僕にとって必要なことだ。