第24話
ー/ー ゲームのインストール作業をしていると、もう日が暮れて周りは真っ暗だ。腕時計を見ると、もう既に午後六時になろうとしている。
回線が空いていたせいもあって、気がついたら愛好会で練習することになるゲームのインストールが終わった。
途端、胸ポケットに入れていたスマホからブーッと振動音が鳴った。
誰からだろう? と思ってスリープを解除して通知を見ると――。
「ん? 『着替えが終わったよ、一緒に帰ろう』か」
朋恵からだ。
僕は「ちょっと待ってて、先輩と相談するから」と返答すると、すぐに既読がついて「了解」のスタンプが返ってきた。
必要なソフトのインストールは終わったし、後は帰っていいのか気になるなぁ。
「どうしたの、ヤス君? そわそわしちゃって」
すると、一番南側の席に座っていた桜花先輩が僕の後ろ側に来ていた。
「いや、実は友達からLINEが入りましてね、部活の練習が終わったから一緒に帰らないかって……」
「ん~、顔がにやけておりますぞ〜? さてはオンナですかね~」
桜花先輩、鋭すぎる。確かに女の子だけど、クラスメイトだよ。
「まぁ、そうですけどね……」
「ほうほう、先々週の金曜日に『僕なんてぇ~、勉強以外得意なものなんて何にもないんです~』って落ち込んでいた君が女の子とは、ずいぶんなご身分ですなぁ~」
「いや、もう吹っ切れていますから! それとこれとは話が別ですから!!」
桜花先輩の圧が強すぎる! しかも声真似までして!
これじゃ帰ろうにも帰れないじゃないか!
「まぁまぁ桜花ちゃん、そこまでにしてあげなよぉ。今日はヤス君も色々と大変だったから、帰してあげて」
「……まぁ、桃花ちゃんがそう言うなら。……ホントーは部活終了の時間になるまでギャロの練習したかったんだけどなぁ……」
「ありがとうございます」
桃花先輩、助かった。
一方で、桜花先輩は物足りなそうな表情で自分の席に戻った……とはいっても、ここは狭いからな。
まあ、あの二人が練習を終えたというのであれば待たせるのも良くないだろう。
「それでは、これでお暇します。お疲れ様でした」
「おう、お疲れ」
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
「「おつかれー!」」
僕は鞄を取って、部屋を後にした。
すると、部屋の前に居たのは――。
「遅いよ、ヤス!」
「待ちくたびれて、西校舎まで来たんだ」
なんと、制服姿の朋恵達だった。
着替えが終わって、もうこっちまで来ていたのか。
朋恵はちょっと怒っている表情を見せる一方で、愛未は相変わらず涼しげな顔をしていた。
「ごめん、ゲーミングPCのセットアップが手間取っちゃって……」
「ごめんで済んだら警察は要らないよ!」
何せ僕と那須君が使う予定のゲームソフトをまとめてダウンロードしていたからかなり時間がかかった……といっても分からないだろうなぁ。
「まぁまぁ、朋恵も落ち着いたらどうだ? ここは部室があるところだぞ。他の生徒に訊かれたら……」
「あ、ごめんね」
愛未に諭されると、朋恵はなんだか照れくさそうに、それにちょっと申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「一緒に帰る? もう暗くなったし」
「「うん」」
二人が黙って頷いたので、僕は一緒に西校舎から昇降口に向かった。
◇
昇降口を出ると、もうすでに辺りは暗くなっていた。
学校の周辺は住宅街で、街頭の灯りと建物から漏れている光が僕たちの足元を明るく照らしていた。
「ところで、チア部の方はどう?」
「井上部長と高田先輩……と言っても君には分からないか。二年生の先輩達が相変わらず元気に頑張っているよ」
「井上部長はクールだし、高田先輩は自信家である一方で聡明な感じかな~。高田先輩、ああ見えてタンブリングやダンスが凄いんだよ」
「へー、ちょっと見てみたいかも」
愛未に似ているかもしれない井上部長と、自信家でありながら聡明な高田先輩か。この間じっくり見ておくべきだったけど、あの後に倒れたから見ることはかなわなかった。
あの時に思い立ってチア部の練習を見に行かなければ、僕は改めて入り直すことがなかっただろう。
この間一緒に帰った時はなかなか共通の話題がなかったけれども、今日は何とか僕から話題を振ることが出来た。
高校に入って男子の知り合いはおろか、女子の知り合いが全く居なかった僕としては、一歩前進だ。
「ところで、e-Sports愛好会の女の子とは上手くやっているかい?」
唐突に愛未から聞かれた僕は、「上手くやっているよ」と答えた。
「今日はパソコンが新しく二台来てね、それでセットアップにかかりきりだったよ」
「大変だったね」
「まぁね」
「二年の国分姉妹が居るところか。ところで、あの二人の父親のことは知っているか?」
「ああ、それはうちの父さんから聞いたよ。隣町で会社の社長をやっているとか」
「そうだな。ただ、あの子たちも悪い子ではないから心配する必要は無いよ」
「そうそう、ちょっとワガママだけど可愛いから」
二人の話を聞いてほっとした。
親の影響力があったとしても、学校のために新しい風を吹かせようとしているのだろう。
それだったら、僕は彼女達と共に居たほうが良いのかもしれないな。
◇
他愛のない話をしていると、あっという間に小学校の入り口に辿りついた。後はお互いの住むマンションまでは一直線だ。
すると、朋恵がふと立ち止まって交差点の方向を指し示した。
「ねえ、折角だから寄り道してコンビニに行こうよ。新しいスイーツがあるかもしれないし」
「別に明日でも良いだろ。どうせ明日は練習もないことだし」
「え~、いいじゃん。甘いものは別腹って言うでしょ」
「カロリーを取った分、運動しないとならなくなるから大変だぞ。それに今の時期だと家に戻る時間にはもう真っ暗になるから明日にしよう」
「はぁ~い」
「その間の抜けた喋り方はやめろと何度も言っているだろ」
「分かったわよぉ」
スイーツを食べたい朋恵と、そうはさせまいとする愛未のやり取りを聞いていると、思わず僕も笑いそうになってしまう。
結構頭を使ったし、甘いものは僕も食べたい気がする。
それに、愛未が帰宅時間や口癖を気にしているところは流石風紀委員だなと思ったりもした。
僕と二人のやり取りは、愛未のマンションが見えるころまで続いた。
二人とも小学校の頃からの付き合いなのかと思うと、僕はサッカーで天狗になって友人作りが上手くいかなかったことをちょっとだけ悔やんでいた。
もう少し謙虚になっていれば、僕も友人が出来たのかな。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
ゲームのインストール作業をしていると、もう日が暮れて周りは真っ暗だ。腕時計を見ると、もう既に午後六時になろうとしている。
回線が空いていたせいもあって、気がついたら愛好会で練習することになるゲームのインストールが終わった。
途端、胸ポケットに入れていたスマホからブーッと振動音が鳴った。
誰からだろう? と思ってスリープを解除して通知を見ると――。
「ん? 『着替えが終わったよ、一緒に帰ろう』か」
朋恵からだ。
僕は「ちょっと待ってて、先輩と相談するから」と返答すると、すぐに既読がついて「了解」のスタンプが返ってきた。
必要なソフトのインストールは終わったし、後は帰っていいのか気になるなぁ。
「どうしたの、ヤス君? そわそわしちゃって」
すると、一番南側の席に座っていた桜花先輩が僕の後ろ側に来ていた。
「いや、実は友達からLINEが入りましてね、部活の練習が終わったから一緒に帰らないかって……」
「ん~、顔がにやけておりますぞ〜? さてはオンナですかね~」
桜花先輩、鋭すぎる。確かに女の子だけど、クラスメイトだよ。
「まぁ、そうですけどね……」
「ほうほう、先々週の金曜日に『僕なんてぇ~、勉強以外得意なものなんて何にもないんです~』って落ち込んでいた君が女の子とは、ずいぶんなご身分ですなぁ~」
「いや、もう吹っ切れていますから! それとこれとは話が別ですから!!」
桜花先輩の圧が強すぎる! しかも声真似までして!
これじゃ帰ろうにも帰れないじゃないか!
「まぁまぁ桜花ちゃん、そこまでにしてあげなよぉ。今日はヤス君も色々と大変だったから、帰してあげて」
「……まぁ、桃花ちゃんがそう言うなら。……ホントーは部活終了の時間になるまでギャロの練習したかったんだけどなぁ……」
「ありがとうございます」
桃花先輩、助かった。
一方で、桜花先輩は物足りなそうな表情で自分の席に戻った……とはいっても、ここは狭いからな。
まあ、あの二人が練習を終えたというのであれば待たせるのも良くないだろう。
「それでは、これでお暇します。お疲れ様でした」
「おう、お疲れ」
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
「「おつかれー!」」
僕は鞄を取って、部屋を後にした。
すると、部屋の前に居たのは――。
「遅いよ、ヤス!」
「待ちくたびれて、西校舎まで来たんだ」
なんと、制服姿の朋恵達だった。
着替えが終わって、もうこっちまで来ていたのか。
朋恵はちょっと怒っている表情を見せる一方で、愛未は相変わらず涼しげな顔をしていた。
「ごめん、ゲーミングPCのセットアップが手間取っちゃって……」
「ごめんで済んだら警察は要らないよ!」
何せ僕と那須君が使う予定のゲームソフトをまとめてダウンロードしていたからかなり時間がかかった……といっても分からないだろうなぁ。
「まぁまぁ、朋恵も落ち着いたらどうだ? ここは部室があるところだぞ。他の生徒に訊かれたら……」
「あ、ごめんね」
愛未に諭されると、朋恵はなんだか照れくさそうに、それにちょっと申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「一緒に帰る? もう暗くなったし」
「「うん」」
二人が黙って頷いたので、僕は一緒に西校舎から昇降口に向かった。
◇
昇降口を出ると、もうすでに辺りは暗くなっていた。
学校の周辺は住宅街で、街頭の灯りと建物から漏れている光が僕たちの足元を明るく照らしていた。
「ところで、チア部の方はどう?」
「井上部長と高田先輩……と言っても君には分からないか。二年生の先輩達が相変わらず元気に頑張っているよ」
「井上部長はクールだし、高田先輩は自信家である一方で聡明な感じかな~。高田先輩、ああ見えてタンブリングやダンスが凄いんだよ」
「へー、ちょっと見てみたいかも」
愛未に似ているかもしれない井上部長と、自信家でありながら聡明な高田先輩か。この間じっくり見ておくべきだったけど、あの後に倒れたから見ることはかなわなかった。
あの時に思い立ってチア部の練習を見に行かなければ、僕は改めて入り直すことがなかっただろう。
この間一緒に帰った時はなかなか共通の話題がなかったけれども、今日は何とか僕から話題を振ることが出来た。
高校に入って男子の知り合いはおろか、女子の知り合いが全く居なかった僕としては、一歩前進だ。
「ところで、e-Sports愛好会の女の子とは上手くやっているかい?」
唐突に愛未から聞かれた僕は、「上手くやっているよ」と答えた。
「今日はパソコンが新しく二台来てね、それでセットアップにかかりきりだったよ」
「大変だったね」
「まぁね」
「二年の国分姉妹が居るところか。ところで、あの二人の父親のことは知っているか?」
「ああ、それはうちの父さんから聞いたよ。隣町で会社の社長をやっているとか」
「そうだな。ただ、あの子たちも悪い子ではないから心配する必要は無いよ」
「そうそう、ちょっとワガママだけど可愛いから」
二人の話を聞いてほっとした。
親の影響力があったとしても、学校のために新しい風を吹かせようとしているのだろう。
それだったら、僕は彼女達と共に居たほうが良いのかもしれないな。
◇
他愛のない話をしていると、あっという間に小学校の入り口に辿りついた。後はお互いの住むマンションまでは一直線だ。
すると、朋恵がふと立ち止まって交差点の方向を指し示した。
「ねえ、折角だから寄り道してコンビニに行こうよ。新しいスイーツがあるかもしれないし」
「別に明日でも良いだろ。どうせ明日は練習もないことだし」
「え~、いいじゃん。甘いものは別腹って言うでしょ」
「カロリーを取った分、運動しないとならなくなるから大変だぞ。それに今の時期だと家に戻る時間にはもう真っ暗になるから明日にしよう」
「はぁ~い」
「その間の抜けた喋り方はやめろと何度も言っているだろ」
「分かったわよぉ」
スイーツを食べたい朋恵と、そうはさせまいとする愛未のやり取りを聞いていると、思わず僕も笑いそうになってしまう。
結構頭を使ったし、甘いものは僕も食べたい気がする。
それに、愛未が帰宅時間や口癖を気にしているところは流石風紀委員だなと思ったりもした。
僕と二人のやり取りは、愛未のマンションが見えるころまで続いた。
二人とも小学校の頃からの付き合いなのかと思うと、僕はサッカーで天狗になって友人作りが上手くいかなかったことをちょっとだけ悔やんでいた。
もう少し謙虚になっていれば、僕も友人が出来たのかな。