第22話

ー/ー



「それでね、間もなく来ることになっているんだけど……」

 桃花先輩がそう言うと、コンコン! と部室をノックする音が聞こえた。

「あ、来たみたいだね」
「ホントだ。どうぞ~」

 桃花先輩が扉を開けると、そこには藤島さんとネクタイの色から二年生の先輩と思われるチャラそうな見た目の黒澤先輩――2年3組の黒澤(くろさわ)駿(しゅん)――と身長が僕より高くてイケメン顔の那須君――1年4組の那須(なす)善彦(よしひこ)――、そして藤島さんがe-Sports愛好会の部屋に荷物を抱えて入ってきた。

「追加のパソコン、持ってきましたよ」
「こちらはキーボードとマウス、ヘッドセットを持ってきました」

 先輩がいる方向を見ると、カートにはゲーミングデスクトップPC二台とゲーミングモニター二台が載っていた。
 ここまでカートを持ってくるのは本当に大変そうで、先輩の額には汗が浮かんでいた。
 その一方で、一年生二人はデスクトップPCについてくるキーボードとマウス、そしてヘッドセットを二つ手に抱えていた。

「桃花と桜花、二人ともどうしてチア衣装なんだ?」

 開口一番、黒澤先輩がとんでもないことを口走った。
 いや、僕もそう思っていたところだよ。

「いや、その……。こないだ奏音ちゃんがチア衣装でヤス君を釣ってきたから、私達もと思って……、ね」
「別に変な意味じゃないんだよ?」

 桃花先輩と桜花先輩、黒澤先輩に突っ込まれて狼狽えている。
 僕としては、このままでもいいと思うけどね。
 
「まさか、俺たちが居ない間にこっそり着替えていたんじゃ……」
「そ、そうだけど……、そろそろ着替えようかなぁ~……、なんて」
「そうだね、モモ。……ほら、一年! 空き教室から机と椅子を持ってきて! それとシュン、アンタは私達が着替えている間は外に出ていなさい! 覗いたら親の権限を使ってまでも殺すからね!」
「「「「は、ハイ!」」」」

 桜花先輩の一声で黒澤先輩は外で待機となり、僕ら(当然藤島さんを含む)一年は桃花先輩からの命令で空き教室に向かうことになった……、んだけど、空いている椅子と机ってどこにあるのだろうか?

「空いている椅子や机ってどこに……?」
「南校舎の三階に空き教室があるから、そこに行って椅子と机を二つほど確保すればいいんじゃない?」
「そうですね、那須君」

 他校もそうだけど、うちの学校も少子化が影響して空き教室がある。
 いくら志願倍率が1.5倍以上とはいえ、この学校でもその影響は避けられず、仙台南地区からだけではなく北は栗原や大崎、南は角田や白石、東は仙石線を経由して石巻から来ている生徒も居るくらいだ。

 入学式の後の自己紹介でも「名取から来ました」とか、「岩沼から来ました」という生徒が居た。
 地元の中学校出身の生徒は同じクラスでは僕と黒須さん、我妻さん、それに飯田さんくらいだったなぁ……、なんて思っていると――。

「もう着きましたよ」

 藤島さんの声で我に返ると、空き教室に到着していた。
 空き教室はがらんとしていて、机と椅子がこれでもか、これでもかと積まれていた。
 空き教室の扉を開いてから、僕らは対岸に見える北校舎を眺めていた。
 いつもはここから南校舎を眺めているんだよなぁ。

「那須君、この机を運んでもらえますか? 私は椅子を二つほど持っていきますから、富樫君はこの机をお願いします」
「了解」

 藤島さんに言われた通りに学習机を持っていくと、上の階から合唱団の歌声が聞こえてきた。
 コンクールの練習が大詰めを迎えているらしく、大変そうだなぁ。
 ……映画愛好会は良かったけど、活動していない部員が多かったなぁ、ってブーメランじゃないか、これは(僕も幽霊会員だった)。

 ◇

 机を運びながら南校舎から西校舎に向かっていると、「ヤス君はどこに住んでいるの?」と、那須君が僕に話しかけてきた。
 学習机を持ち上げながら話すのって、意外と大変だけどね。

「僕? 僕はここから歩いて20分の二棟並んでいるマンションに住んでいるんだ」
「なるほど。僕が住んでいる街には高校野球の強豪校があるけど、学費が心配でこっちの高校を選んだんだ」
「僕がこの学校を選んだのは家が近いから……、かな。御堂平や緑町だと坂を上るのがきつそうだったし、それで必死で勉強して、ね。もともと僕は山形に居たけど……」
「あ、それ藤島さんから聞いたよ。大変だったね」
「うん。でもまぁ、過ぎたことだし」

 御堂平だと進路の幅が広い一方で山の中まで行くのが大変そうだし、かといって緑町はというと私服通学は魅力的だけど山の中にある。消去法でここを選んだけど、今となっては本当に正解だった。
 二年の夏から必死になって勉強し、委員会活動もやって、部員の少ない美術部でもある程度頑張ったから、今の僕がある。
 心美のことは……、まぁ、これは思い出ってことで良いだろう。

 南校舎にある空き教室から一階に降りて、そこから体育館の通路を経由すると、あっという間に部室のある西校舎に戻ってきた。
 机を運びながら階段を降りるのはしんどい……。

 到着するや否や、愛好会の部屋の入り口には黒澤先輩が居て、「おう、ご苦労さん」と涼しげな表情を浮かべていた。
 こっちは机を運びながら階段を下りたり登ったりで大変だったけど、黒澤先輩も梱包を外したり、設置場所を考えたりで大変だっただろう。

「中に入ってもいいですか?」
「着替えが終わっているから、入っても大丈夫だぞ」
「ありがとうございます」

 制服姿に戻った国分姉妹から「お疲れ様」と労われるや否や、僕らは机をPCが置かれている処の傍に配置した。
 後はPCのセッティングだけど……、これは桜花先輩に任せたほうが良いのかな?



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みんなのリアクション

「それでね、間もなく来ることになっているんだけど……」
 桃花先輩がそう言うと、コンコン! と部室をノックする音が聞こえた。
「あ、来たみたいだね」
「ホントだ。どうぞ~」
 桃花先輩が扉を開けると、そこには藤島さんとネクタイの色から二年生の先輩と思われるチャラそうな見た目の黒澤先輩――2年3組の黒澤《くろさわ》駿《しゅん》――と身長が僕より高くてイケメン顔の那須君――1年4組の那須《なす》善彦《よしひこ》――、そして藤島さんがe-Sports愛好会の部屋に荷物を抱えて入ってきた。
「追加のパソコン、持ってきましたよ」
「こちらはキーボードとマウス、ヘッドセットを持ってきました」
 先輩がいる方向を見ると、カートにはゲーミングデスクトップPC二台とゲーミングモニター二台が載っていた。
 ここまでカートを持ってくるのは本当に大変そうで、先輩の額には汗が浮かんでいた。
 その一方で、一年生二人はデスクトップPCについてくるキーボードとマウス、そしてヘッドセットを二つ手に抱えていた。
「桃花と桜花、二人ともどうしてチア衣装なんだ?」
 開口一番、黒澤先輩がとんでもないことを口走った。
 いや、僕もそう思っていたところだよ。
「いや、その……。こないだ奏音ちゃんがチア衣装でヤス君を釣ってきたから、私達もと思って……、ね」
「別に変な意味じゃないんだよ?」
 桃花先輩と桜花先輩、黒澤先輩に突っ込まれて狼狽えている。
 僕としては、このままでもいいと思うけどね。
「まさか、俺たちが居ない間にこっそり着替えていたんじゃ……」
「そ、そうだけど……、そろそろ着替えようかなぁ~……、なんて」
「そうだね、モモ。……ほら、一年! 空き教室から机と椅子を持ってきて! それとシュン、アンタは私達が着替えている間は外に出ていなさい! 覗いたら親の権限を使ってまでも殺すからね!」
「「「「は、ハイ!」」」」
 桜花先輩の一声で黒澤先輩は外で待機となり、僕ら(当然藤島さんを含む)一年は桃花先輩からの命令で空き教室に向かうことになった……、んだけど、空いている椅子と机ってどこにあるのだろうか?
「空いている椅子や机ってどこに……?」
「南校舎の三階に空き教室があるから、そこに行って椅子と机を二つほど確保すればいいんじゃない?」
「そうですね、那須君」
 他校もそうだけど、うちの学校も少子化が影響して空き教室がある。
 いくら志願倍率が1.5倍以上とはいえ、この学校でもその影響は避けられず、仙台南地区からだけではなく北は栗原や大崎、南は角田や白石、東は仙石線を経由して石巻から来ている生徒も居るくらいだ。
 入学式の後の自己紹介でも「名取から来ました」とか、「岩沼から来ました」という生徒が居た。
 地元の中学校出身の生徒は同じクラスでは僕と黒須さん、我妻さん、それに飯田さんくらいだったなぁ……、なんて思っていると――。
「もう着きましたよ」
 藤島さんの声で我に返ると、空き教室に到着していた。
 空き教室はがらんとしていて、机と椅子がこれでもか、これでもかと積まれていた。
 空き教室の扉を開いてから、僕らは対岸に見える北校舎を眺めていた。
 いつもはここから南校舎を眺めているんだよなぁ。
「那須君、この机を運んでもらえますか? 私は椅子を二つほど持っていきますから、富樫君はこの机をお願いします」
「了解」
 藤島さんに言われた通りに学習机を持っていくと、上の階から合唱団の歌声が聞こえてきた。
 コンクールの練習が大詰めを迎えているらしく、大変そうだなぁ。
 ……映画愛好会は良かったけど、活動していない部員が多かったなぁ、ってブーメランじゃないか、これは(僕も幽霊会員だった)。
 ◇
 机を運びながら南校舎から西校舎に向かっていると、「ヤス君はどこに住んでいるの?」と、那須君が僕に話しかけてきた。
 学習机を持ち上げながら話すのって、意外と大変だけどね。
「僕? 僕はここから歩いて20分の二棟並んでいるマンションに住んでいるんだ」
「なるほど。僕が住んでいる街には高校野球の強豪校があるけど、学費が心配でこっちの高校を選んだんだ」
「僕がこの学校を選んだのは家が近いから……、かな。御堂平や緑町だと坂を上るのがきつそうだったし、それで必死で勉強して、ね。もともと僕は山形に居たけど……」
「あ、それ藤島さんから聞いたよ。大変だったね」
「うん。でもまぁ、過ぎたことだし」
 御堂平だと進路の幅が広い一方で山の中まで行くのが大変そうだし、かといって緑町はというと私服通学は魅力的だけど山の中にある。消去法でここを選んだけど、今となっては本当に正解だった。
 二年の夏から必死になって勉強し、委員会活動もやって、部員の少ない美術部でもある程度頑張ったから、今の僕がある。
 心美のことは……、まぁ、これは思い出ってことで良いだろう。
 南校舎にある空き教室から一階に降りて、そこから体育館の通路を経由すると、あっという間に部室のある西校舎に戻ってきた。
 机を運びながら階段を降りるのはしんどい……。
 到着するや否や、愛好会の部屋の入り口には黒澤先輩が居て、「おう、ご苦労さん」と涼しげな表情を浮かべていた。
 こっちは机を運びながら階段を下りたり登ったりで大変だったけど、黒澤先輩も梱包を外したり、設置場所を考えたりで大変だっただろう。
「中に入ってもいいですか?」
「着替えが終わっているから、入っても大丈夫だぞ」
「ありがとうございます」
 制服姿に戻った国分姉妹から「お疲れ様」と労われるや否や、僕らは机をPCが置かれている処の傍に配置した。
 後はPCのセッティングだけど……、これは桜花先輩に任せたほうが良いのかな?