第19話

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「飯田さんからすべて話は伺いました。富樫君、いじめられた末にサッカーを辞めたそうですね」

 藤島さんがいきなり核心をついてきた。

 中学校でサッカー部に入ったのは良いけど、上下関係の厳しさで先輩に殴られ、顧問には嫌がらせをされ、学校は問題を先送りにして……。
 その結果が山形から逃げるように引っ越してきたことに繋がる。

 しかし、藤島さんは僕のことは意に介せず、さらに話を続けた。

「それに、折角付き合った彼女さんにも捨てられて……。富樫君、いじめられたことが原因で自分の殻に閉じこもっている感じがします。今のままでは、富樫君はダメだと思います」
「そうだよ! 君の顔をよく見てみたら? 多分、『僕は勉強しかやることが無いんです~』って顔をしているよ? それじゃあこの学校ではやっていけないよ。うちの学校は勉強だけじゃなくて部活動も活発なんだから!」

 藤島さんの言葉が胸に突き刺さる。
 自分の殻に閉じこもったまま、彼女に甘えた末に寝取られて失恋したんだ。

 おまけに、藤島さんだけでなく、僕の傍に居る桜花先輩までも――。
 そんなに僕は酷い顔をしているのか?

 僕はスマホを取り出してロックを解除すると、前方カメラを起動して自分の顔を眺めてみた。
 カメラ越しで見る僕の顔は、悲しげな顔をしていた。

 中学校にサッカー部でいじめに遭った結果、大好きだったサッカーを捨てた。
 高校になって、転校してからずっと傍に居た心美をチャラ男に取られた。

 今の僕は、勉強以外は何にもない。
 朋恵達に泣きついたときは忘れたものの、それでも黒須さんのインタビューに応じた時にはフラッシュバックをしてしまった。
 そして今も――。

「無理なんです。僕なんて、勉強以外得意なものなんて何にもないんです。精々ゲーム実況者やVtuberの配信を見て、スパチャを送るくらいしかやることがないです」
「それで残り二年半の高校生活を過ごすなんて、つまらないですよ。さっき教室で話したとおり、富樫君もゲームをやればいいんです。私達と一緒にやれば、怖くないですよ」
e-Sports愛好会(ここ)には男子生徒も居るけど、そんなに怯える必要は無いから大丈夫だよ」
「そうだよ! だから迷わず入りなよ!」

 諦めの表情を見せる僕に対して、淡々とした口調の藤島さんにやんわりした桃花先輩、活発そうな桜花先輩の圧が――!
 辛い記憶が三人の圧で吹き飛ばされそうだ!

 僕の心の中の悪魔が「入っちゃえよ、ユー」と囁く一方で、僕の心の天使が「入ったら終わりだぞ! 勉強時間が削られるぞ!」と囁いてくる。
 どっちにすればいいんだよ!

 すると、優柔不断な僕に追い打ちをかけるように桜花先輩が耳元に近寄ってきた。

「入らなかったら、奏音ちゃんから聞いた話を皆にばらしちゃおうかな~」

 ……ま、マジか?
 寝取られたことまでばらされたら、ただでさえ空気な僕の高校生活は一気に終わってしまう!

「……それだけは! それだけはやめて!!」
「噂話が広まったら、あっという間に飛びつくよ? そうなったら君は悪い意味で有名になっちゃうかもね~」
「そうなると、この学校に居られなくなるよ?」
「富樫君、どうします? 入りますか?」

 必死の抵抗むなしく、桜花先輩だけでなく、桃花先輩に藤島さんまでもが――!

 ――入っちゃいなよ。

 心の中の声が幻聴となってこだました瞬間、僕は屈した。

 僕はロボットのような表情を見せるなり、三人の方を向いて「入部シマス。ドーカ、ヨロシクオネガイシマス」と宣言した。

「良かった~! それじゃあ、この書類に名前などを書いてもらって、親御さんからの了解を得てもらってちょうだい。私が責任をもって顧問の先生に提出するからね! それと、他の愛好会に入っているならば退会届を提出してね。うちの部は基本掛け持ちはNGだから」

 桜花先輩が僕の目の前に突きつけたのは、部活の欄に「e-Sports愛好会」と書かれた入部届だった。
 これで、もう後戻りはできないな……。

 今から新しいスポーツをやっても覚えられる自信が無いし、それだったら父さんが買ってもらったパソコンを活用するためにもゲームに勤しもうじゃないか。

 覚悟を決めた僕は、入会届に自分の名前を書いて鞄に入れた。

 こうなったら、新しい道を歩もう。
 例え最初から仕組まれていたとしても良いじゃないか。
 結果さえ良ければどうとでもなる。
 すべては、これからの僕次第だ。



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「飯田さんからすべて話は伺いました。富樫君、いじめられた末にサッカーを辞めたそうですね」
 藤島さんがいきなり核心をついてきた。
 中学校でサッカー部に入ったのは良いけど、上下関係の厳しさで先輩に殴られ、顧問には嫌がらせをされ、学校は問題を先送りにして……。
 その結果が山形から逃げるように引っ越してきたことに繋がる。
 しかし、藤島さんは僕のことは意に介せず、さらに話を続けた。
「それに、折角付き合った彼女さんにも捨てられて……。富樫君、いじめられたことが原因で自分の殻に閉じこもっている感じがします。今のままでは、富樫君はダメだと思います」
「そうだよ! 君の顔をよく見てみたら? 多分、『僕は勉強しかやることが無いんです~』って顔をしているよ? それじゃあこの学校ではやっていけないよ。うちの学校は勉強だけじゃなくて部活動も活発なんだから!」
 藤島さんの言葉が胸に突き刺さる。
 自分の殻に閉じこもったまま、彼女に甘えた末に寝取られて失恋したんだ。
 おまけに、藤島さんだけでなく、僕の傍に居る桜花先輩までも――。
 そんなに僕は酷い顔をしているのか?
 僕はスマホを取り出してロックを解除すると、前方カメラを起動して自分の顔を眺めてみた。
 カメラ越しで見る僕の顔は、悲しげな顔をしていた。
 中学校にサッカー部でいじめに遭った結果、大好きだったサッカーを捨てた。
 高校になって、転校してからずっと傍に居た心美をチャラ男に取られた。
 今の僕は、勉強以外は何にもない。
 朋恵達に泣きついたときは忘れたものの、それでも黒須さんのインタビューに応じた時にはフラッシュバックをしてしまった。
 そして今も――。
「無理なんです。僕なんて、勉強以外得意なものなんて何にもないんです。精々ゲーム実況者やVtuberの配信を見て、スパチャを送るくらいしかやることがないです」
「それで残り二年半の高校生活を過ごすなんて、つまらないですよ。さっき教室で話したとおり、富樫君もゲームをやればいいんです。私達と一緒にやれば、怖くないですよ」
「|e-Sports愛好会《ここ》には男子生徒も居るけど、そんなに怯える必要は無いから大丈夫だよ」
「そうだよ! だから迷わず入りなよ!」
 諦めの表情を見せる僕に対して、淡々とした口調の藤島さんにやんわりした桃花先輩、活発そうな桜花先輩の圧が――!
 辛い記憶が三人の圧で吹き飛ばされそうだ!
 僕の心の中の悪魔が「入っちゃえよ、ユー」と囁く一方で、僕の心の天使が「入ったら終わりだぞ! 勉強時間が削られるぞ!」と囁いてくる。
 どっちにすればいいんだよ!
 すると、優柔不断な僕に追い打ちをかけるように桜花先輩が耳元に近寄ってきた。
「入らなかったら、奏音ちゃんから聞いた話を皆にばらしちゃおうかな~」
 ……ま、マジか?
 寝取られたことまでばらされたら、ただでさえ空気な僕の高校生活は一気に終わってしまう!
「……それだけは! それだけはやめて!!」
「噂話が広まったら、あっという間に飛びつくよ? そうなったら君は悪い意味で有名になっちゃうかもね~」
「そうなると、この学校に居られなくなるよ?」
「富樫君、どうします? 入りますか?」
 必死の抵抗むなしく、桜花先輩だけでなく、桃花先輩に藤島さんまでもが――!
 ――入っちゃいなよ。
 心の中の声が幻聴となってこだました瞬間、僕は屈した。
 僕はロボットのような表情を見せるなり、三人の方を向いて「入部シマス。ドーカ、ヨロシクオネガイシマス」と宣言した。
「良かった~! それじゃあ、この書類に名前などを書いてもらって、親御さんからの了解を得てもらってちょうだい。私が責任をもって顧問の先生に提出するからね! それと、他の愛好会に入っているならば退会届を提出してね。うちの部は基本掛け持ちはNGだから」
 桜花先輩が僕の目の前に突きつけたのは、部活の欄に「e-Sports愛好会」と書かれた入部届だった。
 これで、もう後戻りはできないな……。
 今から新しいスポーツをやっても覚えられる自信が無いし、それだったら父さんが買ってもらったパソコンを活用するためにもゲームに勤しもうじゃないか。
 覚悟を決めた僕は、入会届に自分の名前を書いて鞄に入れた。
 こうなったら、新しい道を歩もう。
 例え最初から仕組まれていたとしても良いじゃないか。
 結果さえ良ければどうとでもなる。
 すべては、これからの僕次第だ。