第14話
ー/ー 昇降口に向かい、昨日と同じようにローファーに履き替えると、黒須さんが「ねえ」と先程と同じように話しかけてきた。
「富樫君って、何処に住んでいるのかな?」
「ぼ、僕ですか? 八丁目のマンションです」
朋恵のマンションからは歩いてすぐだし、飯田さんのマンションもこれまた歩いて行ける距離にある。
それに何故か知らないけど、愛未は公園の近くにあるやたらと大きいマンションに住んでいる。東方向や北方向に建物が配置されていて、日当たりが大丈夫なのか気になる。
「へ~、マナやトモの近所じゃない。後でアタシも遊びに行っていいかな?」
「ちょっと待ってくださいよ! そんなに気軽に行って大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。八丁目の辺りは分かるよ。歩いて七分くらいだし」
「七分くらいというと、黒須さんは何処に住んでいますか?」
「アタシ? アタシは五丁目にあるマンションかな? ほら、三棟が連なっている建物があるでしょ? そこだね」
交通局のすぐ近くなのか。八丁目からでも歩いて行ける距離にある。それならば、途中まで一緒に帰っても悪くなさそうだ。
昨日は愛未が一緒に帰る話を振ってきたから、今日は勇気を出して僕の方から持っていこう。
「あ、あの、黒須さん!」
「ん、何?」
「と、途中までで良いから一緒に帰りませんか?」
やった。上手く言えた。
ここまで自分の気持ちを素直に言えたのは、中学校の卒業式の日に心美に告白をした時以来だ。
僕の気持ちに応えたのか、黒須さんは一瞬迷いながらも、「うん、いいよ」と答えてくれた。
一昨日の時点ではトラウマをずっと引きずるだろうと思っていたけれど、少しずつトラウマが解消されているのだろうか。
「それにしても、不思議だね。辛いことを経験したのに、アタシを誘うなんて」
「いや、……これでも頑張ったほうです」
「そんなことないよ。キミは酷い失恋をしたのに、こうして新しい一歩を踏み出そうとしているんだよ? それって凄いことだと思うな」
「……ありがとう」
僕は照れ臭くなり、頬をポリポリと掻いた。
ひょっとして、僕は新しい一歩を少しずつ踏み出しているのだろうか。
とはいえ、それで良かったかというと――。
「アタシね、ラノベと小説って大して変わらないと思っているんだよね。だってそうじゃない? 『ハ〇ヒ』シリーズは一般文芸として文庫本になっているし、『ニド〇ツ』なんてラノベレーベルから出ているにもかかわらず実写映画化されているじゃない? ただ、そう思われても仕方ない作品が多いのも事実なんだよね……」
黒須さんは帰り道の間、ずっとラノベ語りをしていた。
僕はラノベを買ってまで読んでいない――というか、むしろ読んでいるのはなろう系のネット小説ばかりだったりする――けど、この熱量で話されたら買いたくなりそうじゃないか。
「ハーレム要素が多いラブコメも良いけどさ、やっぱり『ニド〇ツ』や『ロ〇きゅーぶ!』の著者が書いた高校野球モノもあって然るべきだよね。もともとラノベって中高校生がターゲットじゃない? もうちょっとアタシ達の年代にアプローチしてもらえるものがあっても良いんだよね~……」
黒須さんの見た目とは相反するラノベ語りは、小学校が見える交差点の辺りまで続いた。
最後は業界の行く末をしゃべっていたけど、黒須さんって本当に女子高生なのか疑いたくなりそうだ。
「じゃ、またね~」
小学校の曲がり角で黒須さんと別れたけれども、その間はラノベのことを一方的に喋るわ喋るわ……。ギャルっぽい見た目とは相反して、絡んだら面倒臭い子だった。
本当に彼女はギャルなのか? 下手したらギャルの面を被ったオタクかもしれない。う~む、女の子ってミステリアスだ。
まぁ、同人誌をこっそり買っている時点で僕もお察しだけど。あの日のサッカー少年は何処に行ったんだろう?
結局、マンションに着いたのは午後六時近くになってからだった。
遅く帰ってきた息子を見て、母さんは「部活にでも入ったの?」と尋ねてきたけど、「そんなんじゃないよ。友達と話していただけ」と答えるに止めた。
しかし、失恋(というか寝取られ)のどん底に居るのに、二日連続で女の子と会話するなんてどういうことだよ。
昨日はイケメン女子とギャル、そして今日はギャルだけどオタクも若干入っている感じの子だった。
ひょっとして、寝取られたことを気にモテ期に入ったんじゃないか、僕は?
――などと思いながら室内着に着替えてからスマホを見ると、僕宛にメッセージが入っていた。
「なになに……、『明日の放課後も空けておくように』か。この文章だと、愛未からかな?」
今日は黒須さんに付き合わされて大変な一日だった。インタビューの後はラノベ談義だから、精神的には堪えた。
明日、どのような出会いがあるのだろうか? ちょっと気になるところだ。
黒須さんの様な面倒くさいオタクだったら嫌だけど。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
昇降口に向かい、昨日と同じようにローファーに履き替えると、黒須さんが「ねえ」と先程と同じように話しかけてきた。
「富樫君って、何処に住んでいるのかな?」
「ぼ、僕ですか? 八丁目のマンションです」
朋恵のマンションからは歩いてすぐだし、飯田さんのマンションもこれまた歩いて行ける距離にある。
それに何故か知らないけど、愛未は公園の近くにあるやたらと大きいマンションに住んでいる。東方向や北方向に建物が配置されていて、日当たりが大丈夫なのか気になる。
「へ~、マナやトモの近所じゃない。後でアタシも遊びに行っていいかな?」
「ちょっと待ってくださいよ! そんなに気軽に行って大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。八丁目の辺りは分かるよ。歩いて七分くらいだし」
「七分くらいというと、黒須さんは何処に住んでいますか?」
「アタシ? アタシは五丁目にあるマンションかな? ほら、三棟が連なっている建物があるでしょ? そこだね」
交通局のすぐ近くなのか。八丁目《僕の住んでいるところ》からでも歩いて行ける距離にある。それならば、途中まで一緒に帰っても悪くなさそうだ。
昨日は愛未が一緒に帰る話を振ってきたから、今日は勇気を出して僕の方から持っていこう。
「あ、あの、黒須さん!」
「ん、何?」
「と、途中までで良いから一緒に帰りませんか?」
やった。上手く言えた。
ここまで自分の気持ちを素直に言えたのは、中学校の卒業式の日に心美に告白をした時以来だ。
僕の気持ちに応えたのか、黒須さんは一瞬迷いながらも、「うん、いいよ」と答えてくれた。
一昨日の時点ではトラウマをずっと引きずるだろうと思っていたけれど、少しずつトラウマが解消されているのだろうか。
「それにしても、不思議だね。辛いことを経験したのに、アタシを誘うなんて」
「いや、……これでも頑張ったほうです」
「そんなことないよ。キミは酷い失恋をしたのに、こうして新しい一歩を踏み出そうとしているんだよ? それって凄いことだと思うな」
「……ありがとう」
僕は照れ臭くなり、頬をポリポリと掻いた。
ひょっとして、僕は新しい一歩を少しずつ踏み出しているのだろうか。
とはいえ、それで良かったかというと――。
「アタシね、ラノベと小説って大して変わらないと思っているんだよね。だってそうじゃない? 『ハ〇ヒ』シリーズは一般文芸として文庫本になっているし、『ニド〇ツ』なんてラノベレーベルから出ているにもかかわらず実写映画化されているじゃない? ただ、そう思われても仕方ない作品が多いのも事実なんだよね……」
黒須さんは帰り道の間、ずっとラノベ語りをしていた。
僕はラノベを買ってまで読んでいない――というか、むしろ読んでいるのはなろう系のネット小説ばかりだったりする――けど、この熱量で話されたら買いたくなりそうじゃないか。
「ハーレム要素が多いラブコメも良いけどさ、やっぱり『ニド〇ツ』や『ロ〇きゅーぶ!』の著者が書いた高校野球モノもあって然るべきだよね。もともとラノベって中高校生がターゲットじゃない? もうちょっとアタシ達の年代にアプローチしてもらえるものがあっても良いんだよね~……」
黒須さんの見た目とは相反するラノベ語りは、小学校が見える交差点の辺りまで続いた。
最後は業界の行く末をしゃべっていたけど、黒須さんって本当に女子高生なのか疑いたくなりそうだ。
「じゃ、またね~」
小学校の曲がり角で黒須さんと別れたけれども、その間はラノベのことを一方的に喋るわ喋るわ……。ギャルっぽい見た目とは相反して、絡んだら面倒臭い子だった。
本当に彼女はギャルなのか? 下手したらギャルの面を被ったオタクかもしれない。う~む、女の子ってミステリアスだ。
まぁ、同人誌をこっそり買っている時点で僕もお察しだけど。あの日のサッカー少年は何処に行ったんだろう?
結局、マンションに着いたのは午後六時近くになってからだった。
遅く帰ってきた息子を見て、母さんは「部活にでも入ったの?」と尋ねてきたけど、「そんなんじゃないよ。友達と話していただけ」と答えるに止めた。
しかし、失恋(というか寝取られ)のどん底に居るのに、二日連続で女の子と会話するなんてどういうことだよ。
昨日はイケメン女子とギャル、そして今日はギャルだけどオタクも若干入っている感じの子だった。
ひょっとして、寝取られたことを気にモテ期に入ったんじゃないか、僕は?
――などと思いながら室内着に着替えてからスマホを見ると、僕宛にメッセージが入っていた。
「なになに……、『明日の放課後も空けておくように』か。この文章だと、愛未からかな?」
今日は黒須さんに付き合わされて大変な一日だった。インタビューの後はラノベ談義だから、精神的には堪えた。
明日、どのような出会いがあるのだろうか? ちょっと気になるところだ。
黒須さんの様な面倒くさいオタクだったら嫌だけど。