第9話

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 授業が終わり、後は掃除を済ませて帰るだけとなった。

 僕達は掃除当番ではなかったために教室を掃除している間は図書室で時間を潰し、終わったのを見計らってから教室に戻り、スマホを片手に朋恵が来るのを待っていた。ちなみに、読んでいるのはちょっとエッチな漫画だ。

 父さんが高校生の頃は成人向けの漫画を手に入れるのも一苦労だったと聞いた。しかし、今では軽い性描写が描かれている漫画なんて出版社が公開している無料漫画サイトを通していくらでも読める。いい時代だなぁ。

 ただ、クラスメイトが居るところでこんなことをしたら、「キモイ」と軽蔑の目で見られるのが関の山だ。誰も居ないところでこっそりと読むのであれば、ひたすら勉強することで築いてきた僕のクラス内での地位は安泰なわけだが――。

 僕の座席があるのは、教壇から前の方にある窓際の席だ。
 窓際からはベランダがあり、中庭を見渡すことが出来る。
 中庭は昼休みになるとカップルや友人連れで賑わうが、友人の居ない――それどころか、ガールフレンドすら他校に行った――僕にとっては縁のない場所だ。
 僕は昼休みになると中庭を眺めながら、とあるラノベの主人公の如く「何が青春だ。爆発しろ」と独り言ちるのが定番となっていた。

 だけど今日からは少しだけ違う。
 いつもは隣でおしゃべりに興じている朋恵達を見ていたら、その輪の中に入りたいと思えるようになった。
 まぁ彼女達が騒がしいのは事実だとして、その話を聞く限りでは部活と勉強のことばかりで、定番のコイバナや合コンの話は一言も口にしていなかった。
 成績が割と良い僕としては、勉強の話だけでもいいから加わりたい。

 僕がスマホ経由でちょっとエッチな漫画に夢中になっていると、前の方から教室の引き戸が開く音が聞こえてきた。
 音のする方を向くと、入り口に我妻さんともう一人のギャルが居た。
 僕はスマホを制服の胸ポケットに仕舞い、彼女達が居る方向に向かった。

「ごめんね、待たせちゃった?」
「全然待っていないよ」
「そっか、なら良かった。この子が紹介したい子だよ」

 朋恵が彼女に掌を向けると、もう一人のギャルが軽く頭を下げた。

 金色に染まった艶やかなロングストレートの髪。
 やや高めの身長に重力に逆らうような豊満な胸、そして読者モデルにも引けを取らない体つき。
 そして、朋恵にも似た感じの目つきをしていた。

 間違いない、いつも朋恵たちの輪の中に居るギャルのうちの一人だ。

「アタシは黒須(くろす)侑里(ゆうり)。トモとは最近になって知り合ったんだ。よろしく~」
「同じクラスの富樫泰久です、よろしくお願いします」

 挨拶すると、黒須さんはペコっとお辞儀を交わした。

 僕は彼女に向かって挨拶をすると、黒須さんが「そんなに畏まらなくていいよ」と気さくに話しかけてくれた。
 小学校の時のようにサッカーが好きで、中学、高校とサッカーを続けていた僕ならば彼女と付き合うことが出来そうだけど、今の僕みたいな人は……と一瞬思った。
 しかし、彼女は僕と同類の匂いがする。
 この間の前期期末試験の成績表が廊下に貼りだされていたのだが、僕はギリギリ五十位以内に入れたのに対して、彼女に至っては見事に一位だった。
 見た目に反して真面目というのか、もしくは何らかの匂いを感じずにはいられなかった。

「朋恵、どうして黒須さんを紹介しようと……?」
「まぁ、最初はその事なんだけどね。ヤス君は文芸部のことは知っている?」
「いや、知らない」
「じゃあ、そこから説明したほうが早いかもね。ユウ、説明お願い」
「アイ、アイ、マム!」

 黒須さんがビシッと敬礼すると、朋恵は「ユウってノリが良いね」と苦笑いを浮かべながらフォローしてくれた。

 すると、黒須さんは鞄から一冊の冊子を取り出して、僕に渡した。
 表紙には震災の後の閖上港の模様を映し出していて、その写真の上に「長町高校文芸部誌『ひろせがわ』」と毛筆フォントで書かれていた。

「これって、文芸部の部誌?」
「そうだよ。わざわざ部室から持ってきたんだよ」

 中を読んでみると、そこには震災をテーマにした小説が二つ掲載されていた。
 それと、後書きには震災から十年という節目の年になったこと、幼い頃に震災を経験した我々に何が出来るのかということ、そして五月から準備を進めていたことなどが記されていた。

「結構頑張りましたね」
「まぁね。普段は夏休み期間のうちに準備するのが通例だけど、今年は先生の強い後押しがあって早いうちから準備したんだ。その甲斐あって評判が良くてね、新聞委員から『ぜひ学校新聞に小説を書いてくれ!』と頼まれたんだよね」
「そうそう。それで昨日アタシのところにユウから『どういう話にしようか悩んでいるんだけど!』って電話があったのよ。それで、アタシがヤス君の話をしたら『ぜひ会いたい!』と言い出してね、この際だから取材に応じてくれないかなぁ~って……」

 二人が矢継ぎ早に話していて僕は一瞬面食らったが、要はこういうことだ。

 部誌の評判を聞いた新聞委員会から文芸部に新聞小説の執筆依頼があった。
 黒須さんはどのような小説を書こうか迷っていた。
 そこで、中学校でいじめに遭った僕の話が聞きたくなった、と。

 ……って、待てよ? それって、僕の話を題材にさせてくれってことか?



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 授業が終わり、後は掃除を済ませて帰るだけとなった。
 僕達は掃除当番ではなかったために教室を掃除している間は図書室で時間を潰し、終わったのを見計らってから教室に戻り、スマホを片手に朋恵が来るのを待っていた。ちなみに、読んでいるのはちょっとエッチな漫画だ。
 父さんが高校生の頃は成人向けの漫画を手に入れるのも一苦労だったと聞いた。しかし、今では軽い性描写が描かれている漫画なんて出版社が公開している無料漫画サイトを通していくらでも読める。いい時代だなぁ。
 ただ、クラスメイトが居るところでこんなことをしたら、「キモイ」と軽蔑の目で見られるのが関の山だ。誰も居ないところでこっそりと読むのであれば、ひたすら勉強することで築いてきた僕のクラス内での地位は安泰なわけだが――。
 僕の座席があるのは、教壇から前の方にある窓際の席だ。
 窓際からはベランダがあり、中庭を見渡すことが出来る。
 中庭は昼休みになるとカップルや友人連れで賑わうが、友人の居ない――それどころか、ガールフレンドすら他校に行った――僕にとっては縁のない場所だ。
 僕は昼休みになると中庭を眺めながら、とあるラノベの主人公の如く「何が青春だ。爆発しろ」と独り言ちるのが定番となっていた。
 だけど今日からは少しだけ違う。
 いつもは隣でおしゃべりに興じている朋恵達を見ていたら、その輪の中に入りたいと思えるようになった。
 まぁ彼女達が騒がしいのは事実だとして、その話を聞く限りでは部活と勉強のことばかりで、定番のコイバナや合コンの話は一言も口にしていなかった。
 成績が割と良い僕としては、勉強の話だけでもいいから加わりたい。
 僕がスマホ経由でちょっとエッチな漫画に夢中になっていると、前の方から教室の引き戸が開く音が聞こえてきた。
 音のする方を向くと、入り口に我妻さんともう一人のギャルが居た。
 僕はスマホを制服の胸ポケットに仕舞い、彼女達が居る方向に向かった。
「ごめんね、待たせちゃった?」
「全然待っていないよ」
「そっか、なら良かった。この子が紹介したい子だよ」
 朋恵が彼女に掌を向けると、もう一人のギャルが軽く頭を下げた。
 金色に染まった艶やかなロングストレートの髪。
 やや高めの身長に重力に逆らうような豊満な胸、そして読者モデルにも引けを取らない体つき。
 そして、朋恵にも似た感じの目つきをしていた。
 間違いない、いつも朋恵たちの輪の中に居るギャルのうちの一人だ。
「アタシは黒須《くろす》侑里《ゆうり》。トモとは最近になって知り合ったんだ。よろしく~」
「同じクラスの富樫泰久です、よろしくお願いします」
 挨拶すると、黒須さんはペコっとお辞儀を交わした。
 僕は彼女に向かって挨拶をすると、黒須さんが「そんなに畏まらなくていいよ」と気さくに話しかけてくれた。
 小学校の時のようにサッカーが好きで、中学、高校とサッカーを続けていた僕ならば彼女と付き合うことが出来そうだけど、今の僕みたいな人は……と一瞬思った。
 しかし、彼女は僕と同類の匂いがする。
 この間の前期期末試験の成績表が廊下に貼りだされていたのだが、僕はギリギリ五十位以内に入れたのに対して、彼女に至っては見事に一位だった。
 見た目に反して真面目というのか、もしくは何らかの匂いを感じずにはいられなかった。
「朋恵、どうして黒須さんを紹介しようと……?」
「まぁ、最初はその事なんだけどね。ヤス君は文芸部のことは知っている?」
「いや、知らない」
「じゃあ、そこから説明したほうが早いかもね。ユウ、説明お願い」
「アイ、アイ、マム!」
 黒須さんがビシッと敬礼すると、朋恵は「ユウってノリが良いね」と苦笑いを浮かべながらフォローしてくれた。
 すると、黒須さんは鞄から一冊の冊子を取り出して、僕に渡した。
 表紙には震災の後の閖上港の模様を映し出していて、その写真の上に「長町高校文芸部誌『ひろせがわ』」と毛筆フォントで書かれていた。
「これって、文芸部の部誌?」
「そうだよ。わざわざ部室から持ってきたんだよ」
 中を読んでみると、そこには震災をテーマにした小説が二つ掲載されていた。
 それと、後書きには震災から十年という節目の年になったこと、幼い頃に震災を経験した我々に何が出来るのかということ、そして五月から準備を進めていたことなどが記されていた。
「結構頑張りましたね」
「まぁね。普段は夏休み期間のうちに準備するのが通例だけど、今年は先生の強い後押しがあって早いうちから準備したんだ。その甲斐あって評判が良くてね、新聞委員から『ぜひ学校新聞に小説を書いてくれ!』と頼まれたんだよね」
「そうそう。それで昨日アタシのところにユウから『どういう話にしようか悩んでいるんだけど!』って電話があったのよ。それで、アタシがヤス君の話をしたら『ぜひ会いたい!』と言い出してね、この際だから取材に応じてくれないかなぁ~って……」
 二人が矢継ぎ早に話していて僕は一瞬面食らったが、要はこういうことだ。
 部誌の評判を聞いた新聞委員会から文芸部に新聞小説の執筆依頼があった。
 黒須さんはどのような小説を書こうか迷っていた。
 そこで、中学校でいじめに遭った僕の話が聞きたくなった、と。
 ……って、待てよ? それって、僕の話を題材にさせてくれってことか?