第10話
ー/ー 確かに僕はいじめられていたけど、それをネタにされるのはちょっと困る。
もしそのことをネタにされたら、山形から逃げてこっちに来た僕の行き場が全くなくなってしまうではないか。
僕は止めてくれと言わんばかりに二人に視線を向けたが、目をキラキラと輝かせていた。
これは参ったな。
「ん? ひょっとして名前を出すかとか、そういうこと?」
真っ先に僕に尋ねてきたのは、何を隠そう黒須さんだった。
「ええ、そうです。もしそうするのであれば取材は……」
「その事? 心配しなくても大丈夫だよ。フィクションとして書くつもりだし、絶対に富樫君の名前を出さないから。約束するよ」
「いや、それでもいじめのことは僕としてもあまり知られたくない過去なので……」
黒須さんは「心配しないで」と言わんばかりに僕を宥めようとするが、本当は彼女を寝取られたことを話しかねないのが心配なのだ。
あの事を他の人に知られたら、ただでさえ吹けば飛ぶような将棋の駒のような僕の立場が揺らぎかねない。
しかし、そんな僕のことを知っているのか分からないが、朋恵が口を開いた。
「それは分かるよ。だけど心配する必要は無いからね。アタシ達はそんなことで他人のことを馬鹿にしたりしないから。それに、自分の体験を他人に話すのって案外悪くないと思うんだよね」
「そうそう。それに、いじめられた生徒の実体験をもとにしてアタシが小説を書いて、それを読んだ生徒たちはどう思うかな? 間違いなく『人をいじめるのは良くないことだ』と思うんだよね」
二人の言うことはごもっともだ。
僕の実体験を交えた小説が学校新聞に掲載されて、それを読んだとしよう。
きっと誰もが「いじめるのは良くない」と思うだろう。
とはいえ、学校でそう教えても実際には山形に居た時に誰も助けてくれなかったことがあるから何ともいえないけど。
「それに、富樫君は凄いと思うんだよね。何があったのか知らないけど、自分の辛かったことを周りの人に話せるってところが」
黒須さんがそこまで僕を評価してくれるとは――!
ここまで来たら、引き下がるわけにはいかない。
例えどういう結果になろうが、ここは応じなければ!
「僕で良ければ協力します。実名を挙げなければ、ですが」
「えっ、いいの!?」
「もちろんです」
「良かった~、最初は断られるかと思ったよ」
黒須さんにここまで迫られたら断る義理がないし、体験談を元にしてフィクションを書くのであれば大歓迎だ。
僕としてもどんな小説になるか読んでみたいし、楽しみだ。
ふと二人の顔を見ると、心なしか笑顔がこぼれていた。
後はインタビューを受けるだけだけど、昨日我妻さん達に話した調子で喋れば、きっと向こうも納得いくはずだ。
「じゃ、あたしはチア部の練習に行ってくるから。また明日ね~」
「おっつ~!」
「それとヤス君、後でアタシにも話を聞かせてね」
「もちろんだよ」
朋恵は僕らに向かって手を振ると、一目散に教室から去っていった。
朋恵が去った後で、僕は黒須さんにチア部のことについてちょっと聞いてみた。
「ねえ、黒須さん」
「ん、何?」
「朋恵の入っているチア部って毎日練習しているんですか?」
「ん~、トモの話だと月曜と水曜、金曜は必ず練習しているみたいだよ。チア部の顧問の先生が居てね。身長は割と高くて顔つきや声が幼いって言っていたなぁ」
黒須さんの話を聞いて思い出した。
昨日体育館にふらっと足を運んだ時に、顔が幼く見える一方で、成熟しきった体形の女性が居た。声はアニメに出てくる声優さんにも似てこれまた幼い一方で、大人としての魅力があったような――。
「もしかして、ウチ等とは別の学年の先生……?」
「そうだね。二年の英語をやっている先生が顧問をしているんだよ。生徒から人気があるけど、まだ結婚していないんだよね~」
どうりで僕が分からないのも無理はないな。
謎が解けてよかったよ。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
確かに僕はいじめられていたけど、それをネタにされるのはちょっと困る。
もしそのことをネタにされたら、山形から逃げてこっちに来た僕の行き場が全くなくなってしまうではないか。
僕は止めてくれと言わんばかりに二人に視線を向けたが、目をキラキラと輝かせていた。
これは参ったな。
「ん? ひょっとして名前を出すかとか、そういうこと?」
真っ先に僕に尋ねてきたのは、何を隠そう黒須さんだった。
「ええ、そうです。もしそうするのであれば取材は……」
「その事? 心配しなくても大丈夫だよ。フィクションとして書くつもりだし、絶対に富樫君の名前を出さないから。約束するよ」
「いや、それでもいじめのことは僕としてもあまり知られたくない過去なので……」
黒須さんは「心配しないで」と言わんばかりに僕を宥めようとするが、本当は彼女《心美》を寝取られたことを話しかねないのが心配なのだ。
あの事を他の人に知られたら、ただでさえ吹けば飛ぶような将棋の駒のような僕の立場が揺らぎかねない。
しかし、そんな僕のことを知っているのか分からないが、朋恵が口を開いた。
「それは分かるよ。だけど心配する必要は無いからね。アタシ達はそんなことで他人のことを馬鹿にしたりしないから。それに、自分の体験を他人に話すのって案外悪くないと思うんだよね」
「そうそう。それに、いじめられた生徒の実体験をもとにしてアタシが小説を書いて、それを読んだ生徒たちはどう思うかな? 間違いなく『人をいじめるのは良くないことだ』と思うんだよね」
二人の言うことはごもっともだ。
僕の実体験を交えた小説が学校新聞に掲載されて、それを読んだとしよう。
きっと誰もが「いじめるのは良くない」と思うだろう。
とはいえ、学校でそう教えても実際には山形に居た時に誰も助けてくれなかったことがあるから何ともいえないけど。
「それに、富樫君は凄いと思うんだよね。何があったのか知らないけど、自分の辛かったことを周りの人に話せるってところが」
黒須さんがそこまで僕を評価してくれるとは――!
ここまで来たら、引き下がるわけにはいかない。
例えどういう結果になろうが、ここは応じなければ!
「僕で良ければ協力します。実名を挙げなければ、ですが」
「えっ、いいの!?」
「もちろんです」
「良かった~、最初は断られるかと思ったよ」
黒須さんにここまで迫られたら断る義理がないし、体験談を元にしてフィクションを書くのであれば大歓迎だ。
僕としてもどんな小説になるか読んでみたいし、楽しみだ。
ふと二人の顔を見ると、心なしか笑顔がこぼれていた。
後はインタビューを受けるだけだけど、昨日我妻さん達に話した調子で喋れば、きっと向こうも納得いくはずだ。
「じゃ、あたしはチア部の練習に行ってくるから。また明日ね~」
「おっつ~!」
「それとヤス君、後でアタシにも話を聞かせてね」
「もちろんだよ」
朋恵は僕らに向かって手を振ると、一目散に教室から去っていった。
朋恵が去った後で、僕は黒須さんにチア部のことについてちょっと聞いてみた。
「ねえ、黒須さん」
「ん、何?」
「朋恵の入っているチア部って毎日練習しているんですか?」
「ん~、トモの話だと月曜と水曜、金曜は必ず練習しているみたいだよ。チア部の顧問の先生が居てね。身長は割と高くて顔つきや声が幼いって言っていたなぁ」
黒須さんの話を聞いて思い出した。
昨日体育館にふらっと足を運んだ時に、顔が幼く見える一方で、成熟しきった体形の女性が居た。声はアニメに出てくる声優さんにも似てこれまた幼い一方で、大人としての魅力があったような――。
「もしかして、ウチ等とは別の学年の先生……?」
「そうだね。二年の英語をやっている先生が顧問をしているんだよ。生徒から人気があるけど、まだ結婚していないんだよね~」
どうりで僕が分からないのも無理はないな。
謎が解けてよかったよ。