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第27話

ー/ー



 試合開始から四十分近くが過ぎた。
 主審のホイッスルとともに、観客席は一気に緊張が解けたかのような雰囲気に包まれた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、葛西君」
 ハーフタイムに入ると、林先生と一緒になってチア部の部員たちに飲み物のおすそわけをした。
 先生が持ってきたクーラーボックスから、部員それぞれのマイボトルを配っていく。もちろん、生徒会の分も含めてだ。
「チア部に男子部員が入ったの?」
「うん、マネージャーとしてだけどね」
 僕のすぐ近くでは、菅原部長と生徒会長が仲良く話をしている。
 ポニーテールにしている菅原部長と丁寧に結った生徒会長を見ていると、ひなたちゃんたちを見ているような気分だ。
「さてと……」
 飲み物を配り終え、観客席に座ってバッグからマイボトルを取り出す。
 カメラのバッテリーの確認や日誌の執筆など、やることは盛りだくさんだ。
「少しだけ休むか」
 この前買ったばかりのスポーツバッグからマイボトルに手を伸ばすと、汗とシトラスの香りが鼻をくすぐる。
「優人君、お疲れ様」
 後ろを振り向くと、ひなたちゃんが僕の顔を見つめていた。
 三十五分以上もダンスをしているにもかかわらず、疲労の色はまったく見えない。
「お疲れ様。前半戦はどうだった?」
「順調だよ! 選手のみんなが頑張っているところを見てると、私も頑張れる気がするよ」
 ひなたちゃんが僕の隣に座る。マイボトルを口にしながら軽く汗を拭う姿を見ていると、一瞬胸がドキッとした。
「それより後半戦、大丈夫?」
「大丈夫だよ! 選手のみんなが頑張ってるから、去年の新人戦でベスト8まで進んだ西多賀なんて目じゃないよ!」
「果たしてそうかしら?」
 疲れを見せないひなたちゃんが後半の意気込みを語ると、清楚なフローラルの香りがする。
 いつの間にか、僕たちの後ろに風香ちゃんがベンチに座っていた。
「風香ちゃん、どういうこと?」
 ひなたちゃんが不安そうな顔をしながら口を開く。
「西多賀、前半終了間際にコーナーキックを決めて一点を返してるよ。この調子だと、後半で逆転されるかも」
「そんな~。フーカ、脅さないで」
「ううん、私にはわかるの。西多賀の選手が積極的に仕掛けてたところをはっきりと見たよ」
 チアダンスを教えているときの真剣な表情のまま、風香ちゃんが語りかけた。
 サッカーは全くわからない僕にとって、彼女の解説は実にわかりやすい。
「そうなんだ……」
 ひととおり状況説明をし終えると、マイボトルを口につけようとしたひなたちゃんの手が止まる。
 顔つきも不安で、今にも泣き出しそうだ。
 マネージャーになってより深く知ったことがある。それは二人の親密さだ。
 風香ちゃんはいつもひなたちゃんのことを気にかけているし、ひなたちゃんは風香ちゃんの言葉を素直に受け入れる。
 幼稚園の頃からの幼なじみであり、同じチームで苦楽を共にしたバディでもある。ひなたちゃんと風香ちゃんを言い表すのにふさわしい言葉だ。
 最初はチアを推す母さんを恨みはした。しかし、今ではふたりを結びつけてくれた母さんを尊敬している。
「ひなた、最後まで頑張ろう。私もみんなと一緒に頑張るから」
 チームが勝てるか不安を感じているひなたちゃんに、風香ちゃんが後ろからそっとひなたちゃんの手を握った。
「ありがとう、フーカ! サッカー部のみんなのために、最後まで応援するよ!」
 ひなたちゃんの顔に、いつもの前向きな笑顔が戻る。
 風香ちゃんの手を強く握り返しているのが何よりの証拠だ。
「うん、それでこそひなたよ!」
 風香ちゃんも感心しながら力強くうなずく。この前見た動画とまったく変わらない、二人の絆がそこにあった。
 そんなひなたちゃんを見つめながら、風香ちゃんが少し寂しそうにほほ笑む。
「それと……」
「なあに、フーカ?」
「いつものことだけど、決して無理はしないでね。無理を重ねた末にチアを辞めた子もいるから、ひなたはそうならないで」
 風香ちゃんが真剣なまなざしで語ると、汗を拭いたタオルを僕に手渡してポンポンを手に取った。
「もちろん!」
 彼女の後を追うようにして、ひなたちゃんも観客席の最前列へと向かう。ハーフタイムも終わりだ。
 カメラを構え直して、後半戦に備える。
 バッテリーはまだしも、SDカードの残り容量がどれだけ残っているかが心配だ。
 それだけではない。ここにカイが話していた杜英の生徒が来ていたら……。
 ひなたちゃんたちの姿を見ながら、何となく胸騒ぎを感じる。
 頭を振り払いながら自分に「そんなことを考えるな」と言い聞かせると、審判のホイッスルが後半の始まりを告げた。
「ゴー、ファイ、ウィン! ゴー、ファイ、ウィン! ゴー、ファイ、根岸! ゴー、ファイ、ウィン!」
 不安を振り払い、コールしながら踊るひなたちゃんたちの姿を見つめる。
 スタンドからはチア部の黄色い声援が飛び交い、華やかなラインダンスが彩りを添える。
「皆さん、頑張ってください!」
 生徒会長も前半と同じように左手はチア部とお揃いのポンポンを、右手はメガホンを片手に声を張り上げる。
 一方で、西多賀サイドからは特徴的なコーラスが聞こえてきた。ポップな曲が得意なバンドにしては攻撃的な歌詞が漫画の雰囲気そのままだ。エゴを出してきたか!
 風香ちゃんの指摘どおり、相手も負けていない。
 試合は残り三十五分、アディショナルタイムを加えればそれ以上だ。PK戦が加われば、さらに帰るのが遅くなる。
 平穏に終われば、それで構わない。余計なトラブルをこのピッチに持ち込まないでくれ!



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みんなのリアクション

 試合開始から四十分近くが過ぎた。
 主審のホイッスルとともに、観客席は一気に緊張が解けたかのような雰囲気に包まれた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、葛西君」
 ハーフタイムに入ると、林先生と一緒になってチア部の部員たちに飲み物のおすそわけをした。
 先生が持ってきたクーラーボックスから、部員それぞれのマイボトルを配っていく。もちろん、生徒会の分も含めてだ。
「チア部に男子部員が入ったの?」
「うん、マネージャーとしてだけどね」
 僕のすぐ近くでは、菅原部長と生徒会長が仲良く話をしている。
 ポニーテールにしている菅原部長と丁寧に結った生徒会長を見ていると、ひなたちゃんたちを見ているような気分だ。
「さてと……」
 飲み物を配り終え、観客席に座ってバッグからマイボトルを取り出す。
 カメラのバッテリーの確認や日誌の執筆など、やることは盛りだくさんだ。
「少しだけ休むか」
 この前買ったばかりのスポーツバッグからマイボトルに手を伸ばすと、汗とシトラスの香りが鼻をくすぐる。
「優人君、お疲れ様」
 後ろを振り向くと、ひなたちゃんが僕の顔を見つめていた。
 三十五分以上もダンスをしているにもかかわらず、疲労の色はまったく見えない。
「お疲れ様。前半戦はどうだった?」
「順調だよ! 選手のみんなが頑張っているところを見てると、私も頑張れる気がするよ」
 ひなたちゃんが僕の隣に座る。マイボトルを口にしながら軽く汗を拭う姿を見ていると、一瞬胸がドキッとした。
「それより後半戦、大丈夫?」
「大丈夫だよ! 選手のみんなが頑張ってるから、去年の新人戦でベスト8まで進んだ西多賀なんて目じゃないよ!」
「果たしてそうかしら?」
 疲れを見せないひなたちゃんが後半の意気込みを語ると、清楚なフローラルの香りがする。
 いつの間にか、僕たちの後ろに風香ちゃんがベンチに座っていた。
「風香ちゃん、どういうこと?」
 ひなたちゃんが不安そうな顔をしながら口を開く。
「西多賀、前半終了間際にコーナーキックを決めて一点を返してるよ。この調子だと、後半で逆転されるかも」
「そんな~。フーカ、脅さないで」
「ううん、私にはわかるの。西多賀の選手が積極的に仕掛けてたところをはっきりと見たよ」
 チアダンスを教えているときの真剣な表情のまま、風香ちゃんが語りかけた。
 サッカーは全くわからない僕にとって、彼女の解説は実にわかりやすい。
「そうなんだ……」
 ひととおり状況説明をし終えると、マイボトルを口につけようとしたひなたちゃんの手が止まる。
 顔つきも不安で、今にも泣き出しそうだ。
 マネージャーになってより深く知ったことがある。それは二人の親密さだ。
 風香ちゃんはいつもひなたちゃんのことを気にかけているし、ひなたちゃんは風香ちゃんの言葉を素直に受け入れる。
 幼稚園の頃からの幼なじみであり、同じチームで苦楽を共にしたバディでもある。ひなたちゃんと風香ちゃんを言い表すのにふさわしい言葉だ。
 最初はチアを推す母さんを恨みはした。しかし、今ではふたりを結びつけてくれた母さんを尊敬している。
「ひなた、最後まで頑張ろう。私もみんなと一緒に頑張るから」
 チームが勝てるか不安を感じているひなたちゃんに、風香ちゃんが後ろからそっとひなたちゃんの手を握った。
「ありがとう、フーカ! サッカー部のみんなのために、最後まで応援するよ!」
 ひなたちゃんの顔に、いつもの前向きな笑顔が戻る。
 風香ちゃんの手を強く握り返しているのが何よりの証拠だ。
「うん、それでこそひなたよ!」
 風香ちゃんも感心しながら力強くうなずく。この前見た動画とまったく変わらない、二人の絆がそこにあった。
 そんなひなたちゃんを見つめながら、風香ちゃんが少し寂しそうにほほ笑む。
「それと……」
「なあに、フーカ?」
「いつものことだけど、決して無理はしないでね。無理を重ねた末にチアを辞めた子もいるから、ひなたはそうならないで」
 風香ちゃんが真剣なまなざしで語ると、汗を拭いたタオルを僕に手渡してポンポンを手に取った。
「もちろん!」
 彼女の後を追うようにして、ひなたちゃんも観客席の最前列へと向かう。ハーフタイムも終わりだ。
 カメラを構え直して、後半戦に備える。
 バッテリーはまだしも、SDカードの残り容量がどれだけ残っているかが心配だ。
 それだけではない。ここにカイが話していた杜英の生徒が来ていたら……。
 ひなたちゃんたちの姿を見ながら、何となく胸騒ぎを感じる。
 頭を振り払いながら自分に「そんなことを考えるな」と言い聞かせると、審判のホイッスルが後半の始まりを告げた。
「ゴー、ファイ、ウィン! ゴー、ファイ、ウィン! ゴー、ファイ、根岸! ゴー、ファイ、ウィン!」
 不安を振り払い、コールしながら踊るひなたちゃんたちの姿を見つめる。
 スタンドからはチア部の黄色い声援が飛び交い、華やかなラインダンスが彩りを添える。
「皆さん、頑張ってください!」
 生徒会長も前半と同じように左手はチア部とお揃いのポンポンを、右手はメガホンを片手に声を張り上げる。
 一方で、西多賀サイドからは特徴的なコーラスが聞こえてきた。ポップな曲が得意なバンドにしては攻撃的な歌詞が漫画の雰囲気そのままだ。エゴを出してきたか!
 風香ちゃんの指摘どおり、相手も負けていない。
 試合は残り三十五分、アディショナルタイムを加えればそれ以上だ。PK戦が加われば、さらに帰るのが遅くなる。
 平穏に終われば、それで構わない。余計なトラブルをこのピッチに持ち込まないでくれ!