表示設定
表示設定
目次 目次




第28話

ー/ー



「ありがとうございました!」
 互いの高校の挨拶がピッチに響き渡る。
 結果は二対一で、僕たちの高校は無事に二回戦進出を決めた。
 最後はエゴとエゴのぶつかり合いで、まるで漫画のワンシーンを見ているかのようだった。
 即興で踊り出す高橋さん、それについていく後輩たち。僕もそれについていくように何回もタオルを振り回した。
 サッカー部の部員たちのみならず、チア部の顧問や生徒会長までもが無我夢中だった。
 ピッチとベンチからは土の匂いや選手たちの汗の匂いが伝わってくる。
「お疲れ様でした、葛西さん」
 後片付けをしていると、チアのユニフォーム姿の生徒会長が声をかけた。
「こちらこそ、お疲れ様です。最後のダンスはお見事でしたよ」
「いえ。チア部の皆さんに比べると、私なんてたいしたことありません」
 顔をほんのり赤く染めて、会長が答える。
 後半の終わり頃になると、会長は菅原先輩と一緒になって踊った。
 部員たちと並んでも違和感はまったく感じない。むしろ、経験者にしか見えなかった。
「そんなことないですよ、素晴らしかったです」
「ありがとうございます」
 軽くお礼を伝えると、生徒会長は軽くお辞儀をして、腰の辺りまである髪を揺らしながら立ち去った。
 林先生、菅原先輩、そして生徒会長……。どうして僕の周りには美女ばかり寄ってくるのだろうか。
「ちょっと、この荷物を持ってもらえます?」
 ピッチを去る生徒会長に見とれていると、執行部の生徒に声をかけられた。
 チアのユニフォームを着ているせいもあって色っぽく見えるが、見た感じは普通の女の子だった。
 安心する間もなく、彼女が手にした段ボールの中身を見る。
 先ほどまで使っていたメガホンやポンポンばかりだ。これなら、自分の荷物と一緒に持って行けるだろう。
「もちろんですよ」
 そう返すと、執行部の生徒が笑顔を見せる。生徒会長と同じユニフォームが実に愛らしい。
 彼女たちの手伝いをしながらバスの前にたどり着くと、チア部の部員たちが仲睦まじく話をしていた。
 先ほどまでのユニフォーム姿から制服姿になると、一気に現実に引き戻された気がする。
「優人君、お疲れ様!」
 真っ先に声をかけたのはひなたちゃんだ。薄日が差す空の中、とびきりのまぶしい笑顔を見せている。
「お疲れ様」
 次に声をかけたのは風香ちゃんだ。穏やかな春の風を思わせる一方で、ひなたちゃんにも負けない活発な女の子といった感じだ。
「ありがとう。二人とも頑張ったよ」
 ねぎらいの言葉をかけると、二人とも笑顔で返してくれた。
 生徒会の執行部から預かった荷物を貸し切りバスの中に荷物を詰め込む。チア部と執行部が同じバスに乗り込めば、後は高校へ一直線だ。
「良い試合だったな」
「いやいや、こっちもだよ」
 バスの近くでは、僕たちの高校のサッカー部員と西多賀のサッカー部員が互いの健闘を称え合っていた。
 親しげな口調で話しているということは、同じ中学校の出身なのだろうか。
「まさにノーサイドといった感じだね」と風香ちゃんが軽く口にする。
「そうだね」とひなたちゃんが後を追うようにつぶやく。
「公立高校同士だからね」
 僕がそう答えると、風香ちゃんの顔が今の空模様と同じように少しだけ曇る。
「私立相手だとこうはいかないよ。特に杜英と……」
 風香ちゃんが何か言いかけた、まさにそのときだ。
「秋山先輩!」
 かわいらしい後輩の子の声が聞こえてくる。
「どうしたの?」
 振り向きざまに目を丸くするひなたちゃん。
「杜英の生徒が秋山先輩と顔を合わせたいそうです」と後輩の子が答える。走りながら僕たちの方へ向かってきたらしく、息も途切れがちだ。
「杜英? 今日は別の会場で試合をしているはずなのに、どうしてこちらに来てるのかしら」
 風香ちゃんがハッとした表情で後輩に声をかける。
「それが、『仲間とはぐれた』と言ってました」
 息を整えながら後輩の子が答える。表情が硬く、切羽詰まった感じだ。
「一体どうした……」
 前に出ようとすると、風香ちゃんが前に出て僕を制した。
「まずは私が話を聞くから、ひなたはバスに乗って。何があっても、バスから一歩も出ないで!」
 真剣な面持ちのまま、風香ちゃんがひなたちゃんに声をかける。
「わかった! 風香ちゃん、後はお願い!」
 焦りの色を隠せないまま、ひなたちゃんは貸し切りバスへと乗り込む。
「それで、今はどうしてるの?」
「部長たちが止めていますが、このままだと押し切られそうです」
「相手は一人だけ?」
「一人だけです」
「執行部の男子は?」
「サッカー部の部員たちと一緒です」
「林先生は?」
「サッカー部の顧問の先生と話しています。このままだったら……」
 一歩前に出た高橋さんが矢継ぎ早に質問をすると、そのたびに後輩の子が答える。
 後輩の顔は先ほどよりも赤みが増し、手汗がにじみ出ている。
 もはや猶予はない。ひなたちゃんを守るため、いや、チア部の全員を守るためだ。マネージャーである僕が行こう。
「僕が止めに行くよ」
「先輩、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。その代わり、僕の荷物を預かってくれてもいい?」
「お任せください!」
 後輩の子が胸を張って答える。
 ひなたちゃんと仲直りを果たした夜のことを思い出す。カイから聞いた情報を元にすれば、撃退の糸口はつかめるはずだ。
 そいつには同郷の友人たちと違って彼女がいない。しかも、学校をサボってまでナンパしようとして失敗している。
 それなら個人情報で先制してプライドを砕き、過去の失敗を暴露してとどめの一撃を放ってやればいい。
 幸い、気仙沼にはおばあちゃんの面倒を見ている父さんがいる。ペンは剣より強し。やれるだけやってみよう。
「それじゃあ、行ってくるね。……ひなたちゃんのこと、頼んだよ」
「わかりました。そちらはお任せください」
 彼女に荷物を預けると、直ちに部長たちの元へと向かう。
 カイから教わったことを実行するだけだ。大丈夫、僕ならできる。



次のエピソードへ進む 第29話


みんなのリアクション

「ありがとうございました!」
 互いの高校の挨拶がピッチに響き渡る。
 結果は二対一で、僕たちの高校は無事に二回戦進出を決めた。
 最後はエゴとエゴのぶつかり合いで、まるで漫画のワンシーンを見ているかのようだった。
 即興で踊り出す高橋さん、それについていく後輩たち。僕もそれについていくように何回もタオルを振り回した。
 サッカー部の部員たちのみならず、チア部の顧問や生徒会長までもが無我夢中だった。
 ピッチとベンチからは土の匂いや選手たちの汗の匂いが伝わってくる。
「お疲れ様でした、葛西さん」
 後片付けをしていると、チアのユニフォーム姿の生徒会長が声をかけた。
「こちらこそ、お疲れ様です。最後のダンスはお見事でしたよ」
「いえ。チア部の皆さんに比べると、私なんてたいしたことありません」
 顔をほんのり赤く染めて、会長が答える。
 後半の終わり頃になると、会長は菅原先輩と一緒になって踊った。
 部員たちと並んでも違和感はまったく感じない。むしろ、経験者にしか見えなかった。
「そんなことないですよ、素晴らしかったです」
「ありがとうございます」
 軽くお礼を伝えると、生徒会長は軽くお辞儀をして、腰の辺りまである髪を揺らしながら立ち去った。
 林先生、菅原先輩、そして生徒会長……。どうして僕の周りには美女ばかり寄ってくるのだろうか。
「ちょっと、この荷物を持ってもらえます?」
 ピッチを去る生徒会長に見とれていると、執行部の生徒に声をかけられた。
 チアのユニフォームを着ているせいもあって色っぽく見えるが、見た感じは普通の女の子だった。
 安心する間もなく、彼女が手にした段ボールの中身を見る。
 先ほどまで使っていたメガホンやポンポンばかりだ。これなら、自分の荷物と一緒に持って行けるだろう。
「もちろんですよ」
 そう返すと、執行部の生徒が笑顔を見せる。生徒会長と同じユニフォームが実に愛らしい。
 彼女たちの手伝いをしながらバスの前にたどり着くと、チア部の部員たちが仲睦まじく話をしていた。
 先ほどまでのユニフォーム姿から制服姿になると、一気に現実に引き戻された気がする。
「優人君、お疲れ様!」
 真っ先に声をかけたのはひなたちゃんだ。薄日が差す空の中、とびきりのまぶしい笑顔を見せている。
「お疲れ様」
 次に声をかけたのは風香ちゃんだ。穏やかな春の風を思わせる一方で、ひなたちゃんにも負けない活発な女の子といった感じだ。
「ありがとう。二人とも頑張ったよ」
 ねぎらいの言葉をかけると、二人とも笑顔で返してくれた。
 生徒会の執行部から預かった荷物を貸し切りバスの中に荷物を詰め込む。チア部と執行部が同じバスに乗り込めば、後は高校へ一直線だ。
「良い試合だったな」
「いやいや、こっちもだよ」
 バスの近くでは、僕たちの高校のサッカー部員と西多賀のサッカー部員が互いの健闘を称え合っていた。
 親しげな口調で話しているということは、同じ中学校の出身なのだろうか。
「まさにノーサイドといった感じだね」と風香ちゃんが軽く口にする。
「そうだね」とひなたちゃんが後を追うようにつぶやく。
「公立高校同士だからね」
 僕がそう答えると、風香ちゃんの顔が今の空模様と同じように少しだけ曇る。
「私立相手だとこうはいかないよ。特に杜英と……」
 風香ちゃんが何か言いかけた、まさにそのときだ。
「秋山先輩!」
 かわいらしい後輩の子の声が聞こえてくる。
「どうしたの?」
 振り向きざまに目を丸くするひなたちゃん。
「杜英の生徒が秋山先輩と顔を合わせたいそうです」と後輩の子が答える。走りながら僕たちの方へ向かってきたらしく、息も途切れがちだ。
「杜英? 今日は別の会場で試合をしているはずなのに、どうしてこちらに来てるのかしら」
 風香ちゃんがハッとした表情で後輩に声をかける。
「それが、『仲間とはぐれた』と言ってました」
 息を整えながら後輩の子が答える。表情が硬く、切羽詰まった感じだ。
「一体どうした……」
 前に出ようとすると、風香ちゃんが前に出て僕を制した。
「まずは私が話を聞くから、ひなたはバスに乗って。何があっても、バスから一歩も出ないで!」
 真剣な面持ちのまま、風香ちゃんがひなたちゃんに声をかける。
「わかった! 風香ちゃん、後はお願い!」
 焦りの色を隠せないまま、ひなたちゃんは貸し切りバスへと乗り込む。
「それで、今はどうしてるの?」
「部長たちが止めていますが、このままだと押し切られそうです」
「相手は一人だけ?」
「一人だけです」
「執行部の男子は?」
「サッカー部の部員たちと一緒です」
「林先生は?」
「サッカー部の顧問の先生と話しています。このままだったら……」
 一歩前に出た高橋さんが矢継ぎ早に質問をすると、そのたびに後輩の子が答える。
 後輩の顔は先ほどよりも赤みが増し、手汗がにじみ出ている。
 もはや猶予はない。ひなたちゃんを守るため、いや、チア部の全員を守るためだ。マネージャーである僕が行こう。
「僕が止めに行くよ」
「先輩、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。その代わり、僕の荷物を預かってくれてもいい?」
「お任せください!」
 後輩の子が胸を張って答える。
 ひなたちゃんと仲直りを果たした夜のことを思い出す。カイから聞いた情報を元にすれば、撃退の糸口はつかめるはずだ。
 そいつには同郷の友人たちと違って彼女がいない。しかも、学校をサボってまでナンパしようとして失敗している。
 それなら個人情報で先制してプライドを砕き、過去の失敗を暴露してとどめの一撃を放ってやればいい。
 幸い、気仙沼にはおばあちゃんの面倒を見ている父さんがいる。ペンは剣より強し。やれるだけやってみよう。
「それじゃあ、行ってくるね。……ひなたちゃんのこと、頼んだよ」
「わかりました。そちらはお任せください」
 彼女に荷物を預けると、直ちに部長たちの元へと向かう。
 カイから教わったことを実行するだけだ。大丈夫、僕ならできる。