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第22話

ー/ー



 次の日の放課後。
「葛西君、こっちです!」
 教室で着替えてから体育館へ向かうと、渡り廊下側の入り口で高橋さんに呼び止められた。
「今日からよろしくお願いします」
「こちらこそ」
 互いに軽く頭を下げる。昨日とは違い、今日の高橋さんは紺を基調としたシンプルな体操着姿だ。ユニフォームはどこへ行ったのだろうか。
「あの、ユニフォームは?」
 高橋さんに聞いてみると、「普段はユニフォームを着て練習しません」と笑いながら答えた。
「普段は体操着ですね。あの時はみんな張り切ってたから、ユニフォームになっただけです」
 なるほど、野球部などと違っていつもユニフォームを着て練習するわけではないのか。
 納得する一方で、少し残念な気もする。
「あのユニフォームって、お金がかかってるんですか」
「そうですね、作るとしても四万はしますよ」
「四万!?」
 思わず声が裏返る。
 この前おこづかいを貯めてようやく買った中古のノートパソコンと同じ値段だ。
「かなりの額ですね」
「はい。でも、卒業生が寄贈してくれたユニフォームがありますから、心配はいりませんよ」
 ホッと胸をなで下ろす。
 確かに、いちいちユニフォームを作っていたらそれだけで家計の負担となる。経済的なことも考えている僕たちの高校らしい考えだ。
(あのノートパソコンはどうしよう……)
 寄贈と聞いて、あまり使うことがなかった中古のノートパソコンのことを思い出した。
 いっそのこと、チア部に預けようか……そう考えていると、フローラルの香りが漂う。
「着きましたよ」
 あっという間に、渡り廊下側の体育館の入り口前まで来ていた。
 高橋さんに案内されるように体育館の中に入ると、バスケットシューズが擦れ、ボールの弾む音が響く。
「ポイントガード、もっと素早く動いて!」
 コートの中からはバスケ部のかけ声が聞こえてきた。
 部員こそバレー部に及ばないものの、バスケ部の練習はスピード感があって熱い。今年こそベスト8を狙っているのだろうか。
「バスケ部の子たち、男女とも気合いが入ってますね」
「そうですね」
 高橋さんについて歩くと、この前見かけたホワイトボードと長机の前に立つ。
 全員が僕に熱い視線を向ける中、近くにいた隣のクラスの生徒が僕を見ながらひそひそ話をしている。
「あっ、もしかして鹿島さんと二人きりになったって噂の……?」
「シッ、あまり大きな声を出さないで。失礼でしょ」
 やはり、昨日のうちに鹿島さんとの噂が広まったのだろうか。
 一瞬だけ当惑を浮かべるものの、すぐに気を引き締める。
 噂をされていようが、そのようなことは関係ない。
 どんなに困難でも、前に進まなければ開けない。ひなたちゃんとの関係を修復するためには、避けては通れない道だ。
 僕には林先生がついているし、菅原先輩もいる。もちろん、高橋さんもいる。
 後には引けないと覚悟を決めた途端に、この前と同じ甘いフルーツの匂いがした。
 振り返ると、そこには体操服に身を包んだ菅原先輩がいた。
「三日ぶりね、葛西君。元気?」
 自信ありげな顔で菅原先輩が尋ねる。
「トラブルに巻き込まれましたけれど、元気です」
 控えめな表情で菅原先輩に答えると、「あたしはそんなの気にしないわよ」と胸を張って答える。
 気にしていない様子を感じて、僕はホッとひと息ついた。
「さて、みんなに紹介してもいいかしら?」
「はい」
 先輩はクルッと全員が座っている方向を振り返り、右手を腰に当て左手を僕の方へ向ける。
「皆さん、注目! 火曜日に見学してもらった葛西君ですが、今日からマネージャーとして入ることになりました!」
 自信に満ちた声で話すと、部員たちから拍手で出迎えてくれる。女の子に拍手されるのは素直に嬉しい。
「さあ、葛西君。ひとことどうぞ!」
 先輩がマイクを持つように左手を差し出す。この前のことといい、先輩はこういう演出が好きなのだろうか。
「皆さん、今日からマネージャーとして入ることになりました葛西です。よっ……よろしくお願いします!」
 うまく挨拶できたと思ったら、動揺して歯切れが悪くなってしまった。恥ずかしい。
「葛西君、頑張って~!」「先輩、応援してます!」
 一年生の声援と、三年生の温かい言葉が胸に響く。
「……」
 しかし、ひなたちゃんは相変わらず僕の方を見ようとしない。
 昨日今日のことだから、信頼を回復するのはまだ時間がかかりそうだ。
「それでは、今日の練習メニューを発表するね」
 手に持っているタブレットとホワイトボードの双方に目を通しながら、菅原先輩が今日の流れについて説明する。
 この前と同じように、一年生の大多数はダンスの練習だ。
 ひととおり基本を覚えた二年生は三年生の指導のもとでスタンツの練習をする。
 学年ごとにレベル分けがされていて、効率的だ。
「みんな、練習に入って。私も見てるからね」
 感心しているうちに、ミーティングがあっという間に終わった。
 指導者らしからぬゆるい口調で林先生がホイッスルを鳴らすと、部員たちは一斉にコートとステージへ向かった。
「菅原先輩、僕の仕事は?」
「葛西君はね、まずは一年生の子たちに筋トレの動画を流して。その後でダンスの基本練習もあるから」
 菅原先輩はタブレットを操作して僕に渡す。
 タブレットのスクリーンには、上半身裸で筋骨隆々の男性がひたすらワークアウトしている動画が映っていた。
「必要に応じて操作すればいいから、心配しないでね」
「わかりました」
 菅原先輩の指示に従い、一年生が練習しているステージ側へ向かう。
「それでは、準備ができたら動画を再生します。動画の指示に従って動いてくださいね」
 高橋さんが説明すると、あたりから黄色い声が飛び交う。
「葛西君、動画の再生を始めてください」
 高橋さんに合図されるまま、タブレットの動画再生ボタンを押す。
 ワイヤレススピーカーから軽快な音楽が流れると、一年生は動画の指示に従って一斉に体を動かし始めた。
 これから僕は、華やかな世界の裏方として再出発を図る。
 ひなたちゃんとの関係を修復できれば最高だが、今の状況では厳しそうだ。



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みんなのリアクション

 次の日の放課後。
「葛西君、こっちです!」
 教室で着替えてから体育館へ向かうと、渡り廊下側の入り口で高橋さんに呼び止められた。
「今日からよろしくお願いします」
「こちらこそ」
 互いに軽く頭を下げる。昨日とは違い、今日の高橋さんは紺を基調としたシンプルな体操着姿だ。ユニフォームはどこへ行ったのだろうか。
「あの、ユニフォームは?」
 高橋さんに聞いてみると、「普段はユニフォームを着て練習しません」と笑いながら答えた。
「普段は体操着ですね。あの時はみんな張り切ってたから、ユニフォームになっただけです」
 なるほど、野球部などと違っていつもユニフォームを着て練習するわけではないのか。
 納得する一方で、少し残念な気もする。
「あのユニフォームって、お金がかかってるんですか」
「そうですね、作るとしても四万はしますよ」
「四万!?」
 思わず声が裏返る。
 この前おこづかいを貯めてようやく買った中古のノートパソコンと同じ値段だ。
「かなりの額ですね」
「はい。でも、卒業生が寄贈してくれたユニフォームがありますから、心配はいりませんよ」
 ホッと胸をなで下ろす。
 確かに、いちいちユニフォームを作っていたらそれだけで家計の負担となる。経済的なことも考えている僕たちの高校らしい考えだ。
(あのノートパソコンはどうしよう……)
 寄贈と聞いて、あまり使うことがなかった中古のノートパソコンのことを思い出した。
 いっそのこと、チア部に預けようか……そう考えていると、フローラルの香りが漂う。
「着きましたよ」
 あっという間に、渡り廊下側の体育館の入り口前まで来ていた。
 高橋さんに案内されるように体育館の中に入ると、バスケットシューズが擦れ、ボールの弾む音が響く。
「ポイントガード、もっと素早く動いて!」
 コートの中からはバスケ部のかけ声が聞こえてきた。
 部員こそバレー部に及ばないものの、バスケ部の練習はスピード感があって熱い。今年こそベスト8を狙っているのだろうか。
「バスケ部の子たち、男女とも気合いが入ってますね」
「そうですね」
 高橋さんについて歩くと、この前見かけたホワイトボードと長机の前に立つ。
 全員が僕に熱い視線を向ける中、近くにいた隣のクラスの生徒が僕を見ながらひそひそ話をしている。
「あっ、もしかして鹿島さんと二人きりになったって噂の……?」
「シッ、あまり大きな声を出さないで。失礼でしょ」
 やはり、昨日のうちに鹿島さんとの噂が広まったのだろうか。
 一瞬だけ当惑を浮かべるものの、すぐに気を引き締める。
 噂をされていようが、そのようなことは関係ない。
 どんなに困難でも、前に進まなければ開けない。ひなたちゃんとの関係を修復するためには、避けては通れない道だ。
 僕には林先生がついているし、菅原先輩もいる。もちろん、高橋さんもいる。
 後には引けないと覚悟を決めた途端に、この前と同じ甘いフルーツの匂いがした。
 振り返ると、そこには体操服に身を包んだ菅原先輩がいた。
「三日ぶりね、葛西君。元気?」
 自信ありげな顔で菅原先輩が尋ねる。
「トラブルに巻き込まれましたけれど、元気です」
 控えめな表情で菅原先輩に答えると、「あたしはそんなの気にしないわよ」と胸を張って答える。
 気にしていない様子を感じて、僕はホッとひと息ついた。
「さて、みんなに紹介してもいいかしら?」
「はい」
 先輩はクルッと全員が座っている方向を振り返り、右手を腰に当て左手を僕の方へ向ける。
「皆さん、注目! 火曜日に見学してもらった葛西君ですが、今日からマネージャーとして入ることになりました!」
 自信に満ちた声で話すと、部員たちから拍手で出迎えてくれる。女の子に拍手されるのは素直に嬉しい。
「さあ、葛西君。ひとことどうぞ!」
 先輩がマイクを持つように左手を差し出す。この前のことといい、先輩はこういう演出が好きなのだろうか。
「皆さん、今日からマネージャーとして入ることになりました葛西です。よっ……よろしくお願いします!」
 うまく挨拶できたと思ったら、動揺して歯切れが悪くなってしまった。恥ずかしい。
「葛西君、頑張って~!」「先輩、応援してます!」
 一年生の声援と、三年生の温かい言葉が胸に響く。
「……」
 しかし、ひなたちゃんは相変わらず僕の方を見ようとしない。
 昨日今日のことだから、信頼を回復するのはまだ時間がかかりそうだ。
「それでは、今日の練習メニューを発表するね」
 手に持っているタブレットとホワイトボードの双方に目を通しながら、菅原先輩が今日の流れについて説明する。
 この前と同じように、一年生の大多数はダンスの練習だ。
 ひととおり基本を覚えた二年生は三年生の指導のもとでスタンツの練習をする。
 学年ごとにレベル分けがされていて、効率的だ。
「みんな、練習に入って。私も見てるからね」
 感心しているうちに、ミーティングがあっという間に終わった。
 指導者らしからぬゆるい口調で林先生がホイッスルを鳴らすと、部員たちは一斉にコートとステージへ向かった。
「菅原先輩、僕の仕事は?」
「葛西君はね、まずは一年生の子たちに筋トレの動画を流して。その後でダンスの基本練習もあるから」
 菅原先輩はタブレットを操作して僕に渡す。
 タブレットのスクリーンには、上半身裸で筋骨隆々の男性がひたすらワークアウトしている動画が映っていた。
「必要に応じて操作すればいいから、心配しないでね」
「わかりました」
 菅原先輩の指示に従い、一年生が練習しているステージ側へ向かう。
「それでは、準備ができたら動画を再生します。動画の指示に従って動いてくださいね」
 高橋さんが説明すると、あたりから黄色い声が飛び交う。
「葛西君、動画の再生を始めてください」
 高橋さんに合図されるまま、タブレットの動画再生ボタンを押す。
 ワイヤレススピーカーから軽快な音楽が流れると、一年生は動画の指示に従って一斉に体を動かし始めた。
 これから僕は、華やかな世界の裏方として再出発を図る。
 ひなたちゃんとの関係を修復できれば最高だが、今の状況では厳しそうだ。