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第14話

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 熱狂的なパフォーマンスを目の当たりにして、自宅へと戻ったのは夜六時を過ぎてからだ。
 母さんも仕事で出ていて、マンションの一室には僕と姉さんの二人だけだった。
 今日のことをいつ話そう、いつ話そうと思っていると、あっという間に時間だけが過ぎていく。
 この前と同じ時間になってから姉さんの部屋の前に立ち、この前と同じようにノックをする。
「姉さん、いいかな?」
 ガチャ、という音とともに姉さんが顔を出した。相変わらずの軽装だが、パックをしていない。
「なあに。また本を借りたいの?」
「違うよ。話したいことがあるんだ」
「う~ん……」
 姉さんが腕を組んで考え込む。就活とバイト、大学の講義で忙しい姉さんだし、少し無理があるのかな。
「少しくらいなら問題ないわ。さあ、入って」
 そう話すと、部屋の扉が大きく開いた。
「お邪魔しま~す……」
 遠慮するように姉さんの部屋へと入る。
 姉さんの部屋は僕の部屋と同じ広さで、掃除が行き届いていた。
 本棚の上には、チアの大会で優勝したときのトロフィーや写真立てが並んでいた。姉さんにとっては大切な思い出なのだろう。
「そこに座って」
 姉さんが指し示したのは、いつも使っているベッドだった。ここをソファ代わりにしろということか。
 机の椅子に座ると、姉さんが僕の方を向いて口を開く。
「それで、私に話したいことって何?」
「姉さんって、チアをやってた頃の記録を残してるかな」
「記録ね……」
 あごに人差し指を当てて考える。ふと思い出して、椅子の向きを変えて机の引き出しを開けて探し物を始めた。
「ああ、あるわ。大容量のハードディスクに収めてるはずよ。少し待ってね……」
 机の引き出しをごそごそと漁ると、「これね」という声とともにパソコンを立ち上げる。
 パソコンを立ち上げると慣れた手つきで操作を始める。それからパソコンを閉じるまではあっという間だった。
「はい、これ。優人に貸してあげる」
 姉さんの手には分厚いポータブルハードディスクが握られていた。
「ありがとう、姉さん」
 姉さんから受け取ると、ケーブルごとズボンのポケットに入れる。
「大切に扱いなさいよ。私たちの記録だけではなく、キッズチアの記録も入ってるからね」
「わかったよ。ありがとう、姉さん」
 そう話して、僕は姉さんの部屋を後にした。
 自分の部屋に戻ってから、ハードディスクを高校入学のお祝いで買ってもらったノートパソコンに繋げる。
 こちらのパソコンは高校で使っているタブレットに比べると性能が良く、最新のゲームも画質を落とせば遊べる。もっとも、ゲームをやったことはない。
 ハードディスクが認識されると、あっという間にファイル一覧の画面が表示される。
「どこから見ようか……」
 あてどなくフォルダーをクリックしまくる。
 まずは姉さんだ。キッズチアのパフォーマンスが記録された動画を手あたり次第に目を通す。
「……あれ? これ、小さい頃のひなたちゃんだ」
 偶然見つけた動画に、ひなたちゃんの姿があった。
 小三か小四の頃だろうか、体育館で見たのと同じように高難易度の技を難なくこなしていった。
 続けて再生すると、今度は高橋さんが映る。
 ひなたちゃんより少し大人びて見えるが、二人で息の合った演技を見せている。
 変わっていないなと感心しながら動画を見続けていると、画面の隅に見覚えのある女性が現れた。
「母さん……?」
 若い頃の母さんが優しい笑顔で二人を指導していた。
 ひなたちゃんや高橋さんを見る目は、まるで我が子を見るような温かさで溢れている。
 今日体育館で感じたことが確信に変わる。
 母さんはチアを押しつけたのではない。自分が愛してきた世界を分かち合いたいだけだった。
 動画で見せた、ひなたちゃんたちに向けた母さんの優しいまなざし。
 今までの僕は母さんの世界を、宝物を、全て否定していた。しかし、これからは違う。母さんの思いを受け止めよう。
 僕にできることは、ひなたちゃんたちのことを僕の言葉に残すことだ。
 汗と涙を、笑顔を。僕の言葉で母さんが愛し続けてきた世界を表現したい。
 ハードディスクから必要なファイルを選んで、ノートパソコンの新しいフォルダーへコピーする。フォルダーの名前は「チアの記録」だ。
 動画をコピーしている合間を見てメモ帳を立ち上げる。
 小説のタイトルは……、そうだ。「席替え」にしよう。
 ファイル名を打ちこもうとしたときに、ふと気づく。
「ラノベとタイトルがかぶるな」
 よく考えてみれば、つい最近広瀬が薦めたラノベそのままだ。
 学年末試験が終わった頃に買ったものの、典型的なハーレム展開が苦手で最後まで読んでいない。
 しかし、細かいことを考えるのは無粋だ。全てはあの席替えから始まったのだから、それにしよう。
「始まり……?」
 頭の中で何かが引っかかった。
 あれだけ野球が好きだったのに、どうして文芸部に入ったのだろう。
 そもそも、僕が野球をやりたいと思ったのは四歳の頃だ。
 その年の夏に父さんと一緒になってプロ野球の試合を見に行ったのがきっかけだった。
 試合のチケットを手にした父さんの笑顔が、今でも頭に浮かぶ。
 バッターボックスへ向かう選手、マウンドに立つピッチャー、グラウンドで守りを固める外野手、誰もがヒーローに見えた。
 願わくば、僕も同じような立場に立ちたい。しかし、それは叶わぬ夢だった。
 まぶたを閉じると、いつしか意識は中一の春へと遡る。そう、文芸青年になったあの春の日に……。



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 熱狂的なパフォーマンスを目の当たりにして、自宅へと戻ったのは夜六時を過ぎてからだ。
 母さんも仕事で出ていて、マンションの一室には僕と姉さんの二人だけだった。
 今日のことをいつ話そう、いつ話そうと思っていると、あっという間に時間だけが過ぎていく。
 この前と同じ時間になってから姉さんの部屋の前に立ち、この前と同じようにノックをする。
「姉さん、いいかな?」
 ガチャ、という音とともに姉さんが顔を出した。相変わらずの軽装だが、パックをしていない。
「なあに。また本を借りたいの?」
「違うよ。話したいことがあるんだ」
「う~ん……」
 姉さんが腕を組んで考え込む。就活とバイト、大学の講義で忙しい姉さんだし、少し無理があるのかな。
「少しくらいなら問題ないわ。さあ、入って」
 そう話すと、部屋の扉が大きく開いた。
「お邪魔しま~す……」
 遠慮するように姉さんの部屋へと入る。
 姉さんの部屋は僕の部屋と同じ広さで、掃除が行き届いていた。
 本棚の上には、チアの大会で優勝したときのトロフィーや写真立てが並んでいた。姉さんにとっては大切な思い出なのだろう。
「そこに座って」
 姉さんが指し示したのは、いつも使っているベッドだった。ここをソファ代わりにしろということか。
 机の椅子に座ると、姉さんが僕の方を向いて口を開く。
「それで、私に話したいことって何?」
「姉さんって、チアをやってた頃の記録を残してるかな」
「記録ね……」
 あごに人差し指を当てて考える。ふと思い出して、椅子の向きを変えて机の引き出しを開けて探し物を始めた。
「ああ、あるわ。大容量のハードディスクに収めてるはずよ。少し待ってね……」
 机の引き出しをごそごそと漁ると、「これね」という声とともにパソコンを立ち上げる。
 パソコンを立ち上げると慣れた手つきで操作を始める。それからパソコンを閉じるまではあっという間だった。
「はい、これ。優人に貸してあげる」
 姉さんの手には分厚いポータブルハードディスクが握られていた。
「ありがとう、姉さん」
 姉さんから受け取ると、ケーブルごとズボンのポケットに入れる。
「大切に扱いなさいよ。私たちの記録だけではなく、キッズチアの記録も入ってるからね」
「わかったよ。ありがとう、姉さん」
 そう話して、僕は姉さんの部屋を後にした。
 自分の部屋に戻ってから、ハードディスクを高校入学のお祝いで買ってもらったノートパソコンに繋げる。
 こちらのパソコンは高校で使っているタブレットに比べると性能が良く、最新のゲームも画質を落とせば遊べる。もっとも、ゲームをやったことはない。
 ハードディスクが認識されると、あっという間にファイル一覧の画面が表示される。
「どこから見ようか……」
 あてどなくフォルダーをクリックしまくる。
 まずは姉さんだ。キッズチアのパフォーマンスが記録された動画を手あたり次第に目を通す。
「……あれ? これ、小さい頃のひなたちゃんだ」
 偶然見つけた動画に、ひなたちゃんの姿があった。
 小三か小四の頃だろうか、体育館で見たのと同じように高難易度の技を難なくこなしていった。
 続けて再生すると、今度は高橋さんが映る。
 ひなたちゃんより少し大人びて見えるが、二人で息の合った演技を見せている。
 変わっていないなと感心しながら動画を見続けていると、画面の隅に見覚えのある女性が現れた。
「母さん……?」
 若い頃の母さんが優しい笑顔で二人を指導していた。
 ひなたちゃんや高橋さんを見る目は、まるで我が子を見るような温かさで溢れている。
 今日体育館で感じたことが確信に変わる。
 母さんはチアを押しつけたのではない。自分が愛してきた世界を分かち合いたいだけだった。
 動画で見せた、ひなたちゃんたちに向けた母さんの優しいまなざし。
 今までの僕は母さんの世界を、宝物を、全て否定していた。しかし、これからは違う。母さんの思いを受け止めよう。
 僕にできることは、ひなたちゃんたちのことを僕の言葉に残すことだ。
 汗と涙を、笑顔を。僕の言葉で母さんが愛し続けてきた世界を表現したい。
 ハードディスクから必要なファイルを選んで、ノートパソコンの新しいフォルダーへコピーする。フォルダーの名前は「チアの記録」だ。
 動画をコピーしている合間を見てメモ帳を立ち上げる。
 小説のタイトルは……、そうだ。「席替え」にしよう。
 ファイル名を打ちこもうとしたときに、ふと気づく。
「ラノベとタイトルがかぶるな」
 よく考えてみれば、つい最近広瀬が薦めたラノベそのままだ。
 学年末試験が終わった頃に買ったものの、典型的なハーレム展開が苦手で最後まで読んでいない。
 しかし、細かいことを考えるのは無粋だ。全てはあの席替えから始まったのだから、それにしよう。
「始まり……?」
 頭の中で何かが引っかかった。
 あれだけ野球が好きだったのに、どうして文芸部に入ったのだろう。
 そもそも、僕が野球をやりたいと思ったのは四歳の頃だ。
 その年の夏に父さんと一緒になってプロ野球の試合を見に行ったのがきっかけだった。
 試合のチケットを手にした父さんの笑顔が、今でも頭に浮かぶ。
 バッターボックスへ向かう選手、マウンドに立つピッチャー、グラウンドで守りを固める外野手、誰もがヒーローに見えた。
 願わくば、僕も同じような立場に立ちたい。しかし、それは叶わぬ夢だった。
 まぶたを閉じると、いつしか意識は中一の春へと遡る。そう、文芸青年になったあの春の日に……。