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第10話

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 僕の目の前で、二人の美少女が睨みを利かせている。
 チアリーディング部で活躍するひなたちゃんと、静かな世界に身を置く鹿島さん。静と動、陰と陽といったところか。
「せっ、席が隣同士です。それだけです。ところで……」
 ひなたちゃんが僕と鹿島さんを交互に見渡す。
「鹿島さんって、優人君とは友達ですか?」
「い、いや、そういうわけじゃ……。っていうか、席替えの前に私の前の席だけだったし……」
 鹿島さんは険悪そうな物言いをしている割に、フレンドリーな態度を取っているように見える。
 僕が思っているほど相性が悪くなさそうだ。むしろ、お互いのことを理解し合えるタイプだろう。
「話は変わるけど、秋山さんはどうして外に出てたの? いつも隣のクラスの……」
「フーカのこと?」
「高橋さん……だったかしら、彼女と一緒に弁当を食べてるじゃない。今日は一緒じゃなかったの?」
「フーカは先輩と話があるって言って、私だけ先に戻ってきました」
 そう話すと、ひなたちゃんは自分の席に座る。
「何かあったの? あなたが話したくないなら、それで構わないけど」
「別にたいしたことではありません。それより、鹿島さんって後ろの席の人と話してますよね」
「……ああ、モエのこと?」
 ひなたちゃんの質問に、鹿島さんはハッと気がついたかのようにして答える。
 ちなみに、モエというのは吉村萌羽のことだ。
 制服の着こなしが鹿島さん以上に大胆で、僕たち男子への視線にも色気を感じる。広瀬なら絶対に注意するだろう。
 正直に言って、男を惑わすタイプの美人だ。近づきたくないし、声をかけたくない。
「そうです。今は見かけないのですが、どうしましたか?」
 ひなたちゃんが平然とした顔で鹿島さんに問いかける。
「モエ、昼休みになるとどこかへ行くのよ。和室に顔を出さないし、私が顧問の先生にお小言を言われるから困ってるのよね」
 問いかけに対し、鹿島さんは肩をすくめながら本音を漏らす。なるほど、鹿島さんも苦労しているのか。
 軽くうなずきながらふたりの話を聞いていた、まさにそのときだった。
「ユキ~」
 入り口の引き戸が開き、ひなたちゃんと同じくらいの背丈をした女子が顔を出した。
「……ヤバ、帰ってきたか。じゃあね」
 ハッと気づいたかのように、鹿島さんは慌てる表情を見せて立ち上がる。彼女には、僕たちが想像するよりも複雑な事情がありそうだ。
 ひなたちゃんが廊下側の席をチラリと見てから「ねえ」と声をかけて僕の方に向き直る。
「鹿島さんと優人君って仲が悪いの?」
「悪いってわけじゃないよ。席替えの前は僕の後ろの席だっただけさ」
「優人君に興味がありそうだったけど、本当のところはどうなの?」
 彼女のことが気になるのか、ひなたちゃんが首をかしげる。
「確かに、よく話しかけられたよ。……何て言うか、複雑なんだ」
「複雑?」
「ギャルっぽい見た目をしてるけれど、ああ見えて成績優秀だし、茶道部もまじめにやってるよ。でも……」
 確かに、彼女は見た目で損をしている感じがする。
 内向的な僕とは別世界の人間なのに、後ろの席に座っていた頃は積極的に話しかけてきた。
 勉強のことから他愛もない話まで、屈託のない笑顔で話し続ける。
 ただ、ある話をすると態度を変える。
「……部活のことになると、決まって寂しい顔をして話していたんだ」
 言葉にはしたくない代わりに、態度で示しているのだろう。
 詳しく聞こうとすると、鹿島さんはいつもごまかすか曖昧なままにする。そのため、僕も深く踏み込めなかった。
「……」
 腕を組んで考え込むと、ひなたちゃんが不思議そうな顔で僕を見つめる。
「優人君って、鹿島さんのことをよく見てるんだね」
「そうかな?」
「そこまで知っているなら、ね。……あっ」
 ひなたちゃんの表情が変わった。ざわつく教室の中で、スマホの震える音が聞こえる。
「どうしたの?」
「部長からだ」
 部長と聞いて、とっさに壮行式の演技を思い出した。
 凜とした後ろ姿に短くも熱いスピーチ、それ以上に雄弁な演技……。
 最前列で声援を浴びたいし、凜とした表情もじっくりとこの目で見たい。ひなたちゃんの笑顔も、汗も、全て受け止めたい。
「この前、見学したいって話してたよね」
 考えごとをしていると、ひなたちゃんが僕に向かって問いかける。
「そうだけど、どうしたの?」
「部長から連絡があったけど、あしたの放課後は空いているかな」
「う~ん……」
 腕を組んで考える。
 僕が所属している文芸部は、基本的に木曜日に集まることとなっている。しかし、まとまって集まることは極めて少ない。
 それはさておき、明日の放課後は問題ない。部長にも見学の件を伝えておこう。
「大丈夫だよ」
「ホント? それじゃあ、部長と林先生にもそのように伝えておくね!」
 ひなたちゃんの視線はまたスマホへと向かう。残り数分でお昼休みが終わるのに、ペットボトルを置きっぱなしにして大丈夫なのだろうか。
「よう」
 考えごとをしていると、広瀬が僕たちの教室に戻ってきた。
「秋山さんに見とれてたのか、お前は」
「そんなお前こそ、相変わらず弓道場で過ごしてたのかよ」
「教室よりも落ち着くからな。それより、早いところ弁当箱をしまっとけよ。次の時間は歴史だぞ」
「あっ……」
 広瀬に指摘されてハッとする。次の時間の準備をしなくては!
 明日の楽しみのために、今日の残りの授業も頑張ろう。そう考えると、肩の荷が少しだけ軽くなった。



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みんなのリアクション

 僕の目の前で、二人の美少女が睨みを利かせている。
 チアリーディング部で活躍するひなたちゃんと、静かな世界に身を置く鹿島さん。静と動、陰と陽といったところか。
「せっ、席が隣同士です。それだけです。ところで……」
 ひなたちゃんが僕と鹿島さんを交互に見渡す。
「鹿島さんって、優人君とは友達ですか?」
「い、いや、そういうわけじゃ……。っていうか、席替えの前に私の前の席だけだったし……」
 鹿島さんは険悪そうな物言いをしている割に、フレンドリーな態度を取っているように見える。
 僕が思っているほど相性が悪くなさそうだ。むしろ、お互いのことを理解し合えるタイプだろう。
「話は変わるけど、秋山さんはどうして外に出てたの? いつも隣のクラスの……」
「フーカのこと?」
「高橋さん……だったかしら、彼女と一緒に弁当を食べてるじゃない。今日は一緒じゃなかったの?」
「フーカは先輩と話があるって言って、私だけ先に戻ってきました」
 そう話すと、ひなたちゃんは自分の席に座る。
「何かあったの? あなたが話したくないなら、それで構わないけど」
「別にたいしたことではありません。それより、鹿島さんって後ろの席の人と話してますよね」
「……ああ、モエのこと?」
 ひなたちゃんの質問に、鹿島さんはハッと気がついたかのようにして答える。
 ちなみに、モエというのは吉村萌羽のことだ。
 制服の着こなしが鹿島さん以上に大胆で、僕たち男子への視線にも色気を感じる。広瀬なら絶対に注意するだろう。
 正直に言って、男を惑わすタイプの美人だ。近づきたくないし、声をかけたくない。
「そうです。今は見かけないのですが、どうしましたか?」
 ひなたちゃんが平然とした顔で鹿島さんに問いかける。
「モエ、昼休みになるとどこかへ行くのよ。和室に顔を出さないし、私が顧問の先生にお小言を言われるから困ってるのよね」
 問いかけに対し、鹿島さんは肩をすくめながら本音を漏らす。なるほど、鹿島さんも苦労しているのか。
 軽くうなずきながらふたりの話を聞いていた、まさにそのときだった。
「ユキ~」
 入り口の引き戸が開き、ひなたちゃんと同じくらいの背丈をした女子が顔を出した。
「……ヤバ、帰ってきたか。じゃあね」
 ハッと気づいたかのように、鹿島さんは慌てる表情を見せて立ち上がる。彼女には、僕たちが想像するよりも複雑な事情がありそうだ。
 ひなたちゃんが廊下側の席をチラリと見てから「ねえ」と声をかけて僕の方に向き直る。
「鹿島さんと優人君って仲が悪いの?」
「悪いってわけじゃないよ。席替えの前は僕の後ろの席だっただけさ」
「優人君に興味がありそうだったけど、本当のところはどうなの?」
 彼女のことが気になるのか、ひなたちゃんが首をかしげる。
「確かに、よく話しかけられたよ。……何て言うか、複雑なんだ」
「複雑?」
「ギャルっぽい見た目をしてるけれど、ああ見えて成績優秀だし、茶道部もまじめにやってるよ。でも……」
 確かに、彼女は見た目で損をしている感じがする。
 内向的な僕とは別世界の人間なのに、後ろの席に座っていた頃は積極的に話しかけてきた。
 勉強のことから他愛もない話まで、屈託のない笑顔で話し続ける。
 ただ、ある話をすると態度を変える。
「……部活のことになると、決まって寂しい顔をして話していたんだ」
 言葉にはしたくない代わりに、態度で示しているのだろう。
 詳しく聞こうとすると、鹿島さんはいつもごまかすか曖昧なままにする。そのため、僕も深く踏み込めなかった。
「……」
 腕を組んで考え込むと、ひなたちゃんが不思議そうな顔で僕を見つめる。
「優人君って、鹿島さんのことをよく見てるんだね」
「そうかな?」
「そこまで知っているなら、ね。……あっ」
 ひなたちゃんの表情が変わった。ざわつく教室の中で、スマホの震える音が聞こえる。
「どうしたの?」
「部長からだ」
 部長と聞いて、とっさに壮行式の演技を思い出した。
 凜とした後ろ姿に短くも熱いスピーチ、それ以上に雄弁な演技……。
 最前列で声援を浴びたいし、凜とした表情もじっくりとこの目で見たい。ひなたちゃんの笑顔も、汗も、全て受け止めたい。
「この前、見学したいって話してたよね」
 考えごとをしていると、ひなたちゃんが僕に向かって問いかける。
「そうだけど、どうしたの?」
「部長から連絡があったけど、あしたの放課後は空いているかな」
「う~ん……」
 腕を組んで考える。
 僕が所属している文芸部は、基本的に木曜日に集まることとなっている。しかし、まとまって集まることは極めて少ない。
 それはさておき、明日の放課後は問題ない。部長にも見学の件を伝えておこう。
「大丈夫だよ」
「ホント? それじゃあ、部長と林先生にもそのように伝えておくね!」
 ひなたちゃんの視線はまたスマホへと向かう。残り数分でお昼休みが終わるのに、ペットボトルを置きっぱなしにして大丈夫なのだろうか。
「よう」
 考えごとをしていると、広瀬が僕たちの教室に戻ってきた。
「秋山さんに見とれてたのか、お前は」
「そんなお前こそ、相変わらず弓道場で過ごしてたのかよ」
「教室よりも落ち着くからな。それより、早いところ弁当箱をしまっとけよ。次の時間は歴史だぞ」
「あっ……」
 広瀬に指摘されてハッとする。次の時間の準備をしなくては!
 明日の楽しみのために、今日の残りの授業も頑張ろう。そう考えると、肩の荷が少しだけ軽くなった。