意識不明の状態から起きた信玄は、すぐさま状態を起こす。傍にて満身創痍状態にあった丙良が、自分のみを顧みることなく駆け寄った。
「
信玄!? 大丈夫かい!?」
「――丙良、慎介。やっぱり……俺の傍にいたのはお前だったか」
丙良の喜びもつかの間、遠くの方で地鳴りのようなものが聞こえた数秒後、一部例外を除いた、これまで相手にしたどの敵よりも上の魔力圧を感じたのだ。さらに、その奔流の中で輝くのは、信玄も丙良も知った魔力反応。信之に関する記憶が無くとも、その先で戦う存在があの二人であることを認識できた。
「……慎介。俺の記憶を持ってる、って言ったな。俺に……その記憶をインストールしてくれないか」
「――行くんだね、
信玄」
「ああ。こうでもしないと……俺の気は恐らく晴れねえんだろうし、せめてもの『償い』をしてえんだ」
この状況で、戦場に飛び込めるのはたった一人。千尋はそもそも戦えない、灰崎は消耗しすぎており、丙良は傷つきすぎた。この場にいない綾部に関しては容体が分かっていないものの、戦えるほどの状態にないからこそエヴァを送り出したのだろう。
「俺は……大勢に迷惑をかけた。だからそのケジメは……俺自身がつけるべきなんだ。背負いすぎるな、気負い過ぎるなって声もごもっともだが……俺はもう十分……目を背けすぎた。おまけに後輩にまで気を遣われて……もう踊らされる哀れな人形でいるのはやめる」
「――分かった。この先の戦いに出向けない僕が、せめて……
信玄の背を押そう。君の意志を……尊重して」
その場でデバイスを起動させ、和井内が送った記憶のデータパック、そのご開帳を行った。その場になだれ込むは、本来の記憶の濁流。元々世間の人間が抱くべき情報群であり、それを全て知ったその場のメンバーは、来栖善吉に対しての強い怒りを抱いていたのだ。
そして、その怒りが最も強い人物こそ、信之の『兄』、信玄。それ以外にいなかった。
自分のやったことをひた隠しにし、自身の後輩を根も葉もない証拠ばかりをでっち上げた、偽りの犯人として槍玉に挙げ、信玄にそれを殺させようとした。しかも、これは和井内から添えられた気持ち程度の『色』であったが、
来栖善吉は礼安を殺した後にその情報を伝えさせ、信玄の精神の完全崩壊を目論んでいたことが明らかになったのだ。
利用できる手駒で、最大の結果を呼び込むための、外道にしかできない悪辣すぎる策。その全貌が遂に衆目に晒されたのだ。
「――さあ、
信玄。君が我慢する理由は……もうどこにもない。今こそ……決着、つけるときだろう」
レンズに
罅の入った、信玄愛用の黒い丸サングラスを手渡し、背中を何度も強く叩く。戦地に赴く勇者を送り出すための、男同士でしかできない――ある種の荒っぽい儀式。
静かにそのサングラスをかけて……これまで以上の殺気を解放しながら、信玄はその場を駆け出した。いつも着ていたパーカーに袖を通すこともなく、Tシャツは戦いの中で完全に破れてしまったために上裸の状態であったが、そんなこと気にすることは無く――その先に待つ戦いへ赴くのだ。
徳川家康の放つ魔力だけではない、自分の因子に酷く縁のある存在が何人も集う、まるで馴染の学校の同窓会のような混沌の状況であったが、それは信玄にとって好都合。
礼安は特効が掛からず、エヴァは家康に対して特効が掛かるものの、もう一人にはほどほどのものしか掛からない。しかし、信玄は戦国時代を象徴する三英傑の一人を宿す存在として、これまでにないほど特効のかかる、善吉に刃を突き立てる存在としてはうってつけな人物は信玄以外存在しない。
それは裏返すと、自分がどれほどに死にやすい環境に身を置くことになるか、ということにもなるのだが、
英雄をやっていれば死地に身を置くだなんてことは至極当然、当たり前のこと。
怖がりな
英雄も居ていいだろうが、そんな存在は高みになど立つことはできない、どころか許されないだろう。
英雄学園の覇権を取るのは、往々にして命知らずの馬鹿ばかりである。
虚空から生成するは、本来の信玄の念銃。それを念剣へモードシフトし、壁や天井を斬り裂きながら甲板上まで到着。そして、勇敢な少女たちの耳にも届くよう、己の覚悟を示すのだった。
「その地獄に、相乗り――出来るか?」