第三百二十三話
ー/ー「どうです、私のこの崇高であり、『完璧』な計画。無論、貴女がたは特別待遇で引き抜きましょう。特に……瀧本礼安。言い値を小切手に書けば、あるいは金が要らないのならば、何かしらの欲求を私に話してくれれば、それで済む話ですから」
指で操作の利く、実に便利な代物であったが、礼安とエヴァは同タイミングでそのホログラムを振り払ったのだ。怒りを露わにしながら、来栖善吉という男を呆れたように睨みつけていたのだ。
「――無能だなんだと、人のことを馬鹿にしているが……それはアンタの尺度で決められたものだ。確かにこの国の政治家にまともな人間は数少ない上に、それ以上に一般人自体が英雄や武器……つまるところ私たちのことを、『ただの自分を助けてくれる道具』だと思う人がいることも事実。でも……それらに支えられている存在も、私たちなんだよ」
「そして、『犠牲はつきもの』、って何度も言っていたけれど、そして実際に山梨県の人たちや千葉県の人たちを大勢巻き込んで、自分の計画の正当性を訴えていたけれど……自他ともに認める本当の有能なら、その被害すらもっと減らせるよね」
山梨県の人々で、案件発生前に死んだ人間や案件中に死んだ人間は、山ほど存在した。気が狂った人間は、往々にして流転の絶望感に心がやられてしまったものが大多数である。さらに、子供を主軸としたビジネスも、世の変態から多額の金を巻き上げるためのものだが、他にやりようはいくらでもあった。
基本的に、有能たる存在は、ありとあらゆる損害を軽減、あるいは完全削減しにかかることの出来る存在。例え損害が避けられない状況であったとしても、最悪の状況に至る前に損切り行為に至るまでの判断が素早い存在である。
善吉のやっていることは、基本的に効率を追い求めているものの、その過程に存在する損害がどれほど大きいものだろうと容認している。一つの目標に愚直に進み続けるその行動力は素晴らしいものであったのだが、目的とその過程に酷い問題があったのだ。
「晩年には、悪辣なビジネスを主軸としていた五斂子社の頂点たる存在は……結局その仕事内容と同じくらいのヘドロまみれの存在だった。どこまで行っても上に立ち続けた結果、誰かを見下し続けて自分が優れていると妄想した、哀れな社長さんだ」
「――『完璧』っていうのは、私もまだその域に達していない存在だから、深く語ることはできないけれど、目指すからこそ面白いんだよ。どんなことがあろうと、めげずに修行を重ねて、重ねて、重ねて……転んだとしても、起き上がって先を見据える。それだから『完璧』という銘が成立するんだよ。初めから『完璧』なら、それは意味のないものなんだよ」
ある化学者は言った。『完璧』とは『絶望』なのだと。そこに目指すのではなく、初めからそうなってしまっては、成長の余地はない。頭打ちとなった『完璧』に意味は無い。目指すからこそ人は輝き、世にはばかるのだ。
そして、英雄たちは一般人あってこそ存在できるものである。これが守るべき存在のない状態でそこに存在するのなら、それは言葉を語り、意志を持つ兵器同然である。存在するうえで正当性がそこに存在するうえに、彼らの背を押す役割も担っているのだ。
確かに、心無い言葉を投げかける存在は多い。自己中心的な存在の声が、やたらクローズアップされ、当人の元に届くのだから。しかし、千尋のように彼らを純粋に応援する存在が居ることも事実。善吉にとって、存在する価値のないろくでなしが占める割合は、決して世の十割ではないのだ。
「それに……私たちを金や物品で懐柔できると思っている、その慢心が既に……アンタの酷く嫌っている『無能』の証だよ。誰もがアンタからの施しを受けたがっていると思わないでくれる?」
「私は――最初から心は決まってる。エヴァちゃんの『大切』を身勝手に奪って、大勢の平穏を好き勝手に乱した……そして、他でもないエヴァちゃんを傷付けた。だから、どんな餌をぶら下げられても「はいそうですか」って許せる訳がないんだよ、来栖善吉」
礼安とエヴァ、二人が静かにライセンス群を認証、装填する。その瞳に、一切の揺らぎは無く眼前の敵を見据える。世を脅かす危険思考を備え、ここで逃がしてはならない巨悪。尤もらしいことを並べ、あろうことか英雄陣営の面子を仲違いさせ、無理やり引き抜いた災厄同然の存在。
人の形をした悪意、その名もカルマ――それに牙を剥き、国を転覆させようとする新たな悪意を、ここで潰す以外に道は無かったのだ。
二人に、英雄の幻影たちが寄り添う。これまでの二人を支えてきた、勇猛果敢な存在。多くのドラマがありながら、二人の心を知って静かに笑む。それでこそ、自分の信じた英雄の卵であると、誇らしげにしていた。
「さあ、全てを……終わらせるときです、礼安さん!!」
「行こう、エヴァちゃん!! 全力全開で、ぶっちぎる!!」
とても英雄の卵とは思えないほどの、莫大な魔力を辺りに開放しながら、変身体勢を整え――決着を付けにかかるのだった。
「「――変身!!」」
お互いベース装甲を纏いながら、二人の大幹部を相手取ったその時そのままの装甲を纏う。蒼雷と白光、実に目に対し攻撃的な二人であったが、相性は最高峰。最強のタッグがついに誕生した瞬間であった。
「これまで……何だかんだ一緒に戦ってきたことないですよね、私たち」
「うん、だから――今日は記念日だね!」
神聖剣と新銘刀を構え、未だ変身しない善吉を見据える。人数や戦力差に絶望しているのか、とエヴァは思考していたのだが、礼安はその善吉の心を瞬時に凝視した。
その瞬間に、これまでにないような魔力の脈動を感じ取ったのだ。しかも、善吉はそのマインドスキャン同然の力を見抜き、わざとどす黒い悪心を抱いて礼安に不快な思いをさせる。
高い金を払い、自分の理想を叶えるために手術で得た因子ではあるが、ベース能力をここまでコントロールしている時点で、因子を覚醒めさせた存在に匹敵する時点で――並の存在ではない。自分で言っているだけ、とエヴァに評されているが、実際ビジネス方面だけでなくこういった荒事に関するノウハウもしっかりと学んでいたのだ。
そうでなければ、中華マフィアである流浪の獣を懐柔することなど叶わなかった。
「――全く、貴女がたは非常に素晴らしい逸材ですね。あの英雄学園、そこに在籍する生徒の中でも……本当の上澄みと評されるだけはありますね。裏社会の中でも……そういった情報が回ってくるだけありますよ」
手にしていたライセンスは、以前エヴァと葵と戦闘した際に用いたもの――それとは別に、もう一枚備えていたのだ。
「貴女がたは、まだ見たことがありませんよね、チーティングドライバー流の二枚同時変身。貴女がたに出来て、私たちに出来ないことは無いんですよ。何せ……このチーティングドライバーというものは、『とある』ドライバーの技術を用いて作られた、教会側の切り札そのものなんですから」
指で操作の利く、実に便利な代物であったが、礼安とエヴァは同タイミングでそのホログラムを振り払ったのだ。怒りを露わにしながら、来栖善吉という男を呆れたように睨みつけていたのだ。
「――無能だなんだと、人のことを馬鹿にしているが……それはアンタの尺度で決められたものだ。確かにこの国の政治家にまともな人間は数少ない上に、それ以上に一般人自体が英雄や武器……つまるところ私たちのことを、『ただの自分を助けてくれる道具』だと思う人がいることも事実。でも……それらに支えられている存在も、私たちなんだよ」
「そして、『犠牲はつきもの』、って何度も言っていたけれど、そして実際に山梨県の人たちや千葉県の人たちを大勢巻き込んで、自分の計画の正当性を訴えていたけれど……自他ともに認める本当の有能なら、その被害すらもっと減らせるよね」
山梨県の人々で、案件発生前に死んだ人間や案件中に死んだ人間は、山ほど存在した。気が狂った人間は、往々にして流転の絶望感に心がやられてしまったものが大多数である。さらに、子供を主軸としたビジネスも、世の変態から多額の金を巻き上げるためのものだが、他にやりようはいくらでもあった。
基本的に、有能たる存在は、ありとあらゆる損害を軽減、あるいは完全削減しにかかることの出来る存在。例え損害が避けられない状況であったとしても、最悪の状況に至る前に損切り行為に至るまでの判断が素早い存在である。
善吉のやっていることは、基本的に効率を追い求めているものの、その過程に存在する損害がどれほど大きいものだろうと容認している。一つの目標に愚直に進み続けるその行動力は素晴らしいものであったのだが、目的とその過程に酷い問題があったのだ。
「晩年には、悪辣なビジネスを主軸としていた五斂子社の頂点たる存在は……結局その仕事内容と同じくらいのヘドロまみれの存在だった。どこまで行っても上に立ち続けた結果、誰かを見下し続けて自分が優れていると妄想した、哀れな社長さんだ」
「――『完璧』っていうのは、私もまだその域に達していない存在だから、深く語ることはできないけれど、目指すからこそ面白いんだよ。どんなことがあろうと、めげずに修行を重ねて、重ねて、重ねて……転んだとしても、起き上がって先を見据える。それだから『完璧』という銘が成立するんだよ。初めから『完璧』なら、それは意味のないものなんだよ」
ある化学者は言った。『完璧』とは『絶望』なのだと。そこに目指すのではなく、初めからそうなってしまっては、成長の余地はない。頭打ちとなった『完璧』に意味は無い。目指すからこそ人は輝き、世にはばかるのだ。
そして、英雄たちは一般人あってこそ存在できるものである。これが守るべき存在のない状態でそこに存在するのなら、それは言葉を語り、意志を持つ兵器同然である。存在するうえで正当性がそこに存在するうえに、彼らの背を押す役割も担っているのだ。
確かに、心無い言葉を投げかける存在は多い。自己中心的な存在の声が、やたらクローズアップされ、当人の元に届くのだから。しかし、千尋のように彼らを純粋に応援する存在が居ることも事実。善吉にとって、存在する価値のないろくでなしが占める割合は、決して世の十割ではないのだ。
「それに……私たちを金や物品で懐柔できると思っている、その慢心が既に……アンタの酷く嫌っている『無能』の証だよ。誰もがアンタからの施しを受けたがっていると思わないでくれる?」
「私は――最初から心は決まってる。エヴァちゃんの『大切』を身勝手に奪って、大勢の平穏を好き勝手に乱した……そして、他でもないエヴァちゃんを傷付けた。だから、どんな餌をぶら下げられても「はいそうですか」って許せる訳がないんだよ、来栖善吉」
礼安とエヴァ、二人が静かにライセンス群を認証、装填する。その瞳に、一切の揺らぎは無く眼前の敵を見据える。世を脅かす危険思考を備え、ここで逃がしてはならない巨悪。尤もらしいことを並べ、あろうことか英雄陣営の面子を仲違いさせ、無理やり引き抜いた災厄同然の存在。
人の形をした悪意、その名もカルマ――それに牙を剥き、国を転覆させようとする新たな悪意を、ここで潰す以外に道は無かったのだ。
二人に、英雄の幻影たちが寄り添う。これまでの二人を支えてきた、勇猛果敢な存在。多くのドラマがありながら、二人の心を知って静かに笑む。それでこそ、自分の信じた英雄の卵であると、誇らしげにしていた。
「さあ、全てを……終わらせるときです、礼安さん!!」
「行こう、エヴァちゃん!! 全力全開で、ぶっちぎる!!」
とても英雄の卵とは思えないほどの、莫大な魔力を辺りに開放しながら、変身体勢を整え――決着を付けにかかるのだった。
「「――変身!!」」
お互いベース装甲を纏いながら、二人の大幹部を相手取ったその時そのままの装甲を纏う。蒼雷と白光、実に目に対し攻撃的な二人であったが、相性は最高峰。最強のタッグがついに誕生した瞬間であった。
「これまで……何だかんだ一緒に戦ってきたことないですよね、私たち」
「うん、だから――今日は記念日だね!」
神聖剣と新銘刀を構え、未だ変身しない善吉を見据える。人数や戦力差に絶望しているのか、とエヴァは思考していたのだが、礼安はその善吉の心を瞬時に凝視した。
その瞬間に、これまでにないような魔力の脈動を感じ取ったのだ。しかも、善吉はそのマインドスキャン同然の力を見抜き、わざとどす黒い悪心を抱いて礼安に不快な思いをさせる。
高い金を払い、自分の理想を叶えるために手術で得た因子ではあるが、ベース能力をここまでコントロールしている時点で、因子を覚醒めさせた存在に匹敵する時点で――並の存在ではない。自分で言っているだけ、とエヴァに評されているが、実際ビジネス方面だけでなくこういった荒事に関するノウハウもしっかりと学んでいたのだ。
そうでなければ、中華マフィアである流浪の獣を懐柔することなど叶わなかった。
「――全く、貴女がたは非常に素晴らしい逸材ですね。あの英雄学園、そこに在籍する生徒の中でも……本当の上澄みと評されるだけはありますね。裏社会の中でも……そういった情報が回ってくるだけありますよ」
手にしていたライセンスは、以前エヴァと葵と戦闘した際に用いたもの――それとは別に、もう一枚備えていたのだ。
「貴女がたは、まだ見たことがありませんよね、チーティングドライバー流の二枚同時変身。貴女がたに出来て、私たちに出来ないことは無いんですよ。何せ……このチーティングドライバーというものは、『とある』ドライバーの技術を用いて作られた、教会側の切り札そのものなんですから」
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