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第三百二十一話

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 礼安が扉を開け、進んだ先にいたのは、別部屋にて戦い抜き、先へと進んだエヴァであった。ドライバーを装着した彼女を見るのは初めてであり、礼安はいたく喜んでいる様子であった。
「エヴァちゃん……遂に変身できたんだね」
「――ええ。ある愛に生きる女性(かた)の影響で、覚悟が決まったもので」
「それは、レイジーさんのこと?」
「それも勿論ありますが……貴女の知らないところで『色々な』経験をしたもので」
 語り合いながら、ひたすらに通路を直進する。その先に待つものに、少なくとも並々ならぬ怒りと恨みを抱く存在が、これまでにないほどの真面目な表情で向かうのだ。
「――お昼手前の一件、正直なことを言うならば……私は礼安さんを怖がりました。私のため、そして山梨の地で死んだ私の元恋人、レイジーのために怒ってくれていたのに……申し訳ありませんでした」
「でもさ、私とエヴァちゃんってすっごい似た者同士だと思うんだ。姉妹でもないのに、感じるものがほぼ一緒というかね」
「……その通りなんです。以前抱いていたはずの気持ちを、その時の私は怖がっていたのです」
 同族嫌悪ではなく、その感覚に長い間浸っていなかったからこそ、その狂気に違和感を抱いたのだ。自分の本来の生きて輝く場所はここであるのに、その場所の眩しさに目をやられた。さらにそこに追い打ちをかけるは、周りからの心無い言葉の数々。劣等科だ何だと言われ続けた結果、同じ分類の人間の中で潰し合っていただけに過ぎないのに、その言葉に心を病んだ。
「――ですが、もう私は決めたんです。もう我慢しない、もう自分を気に入らない奴の言葉なんて聞き入れない。自分を高めるのでは無く、自分のいる低みへ誰かを引きずり落そうとする最低な輩なんて、私たちにとっては敵じゃあないんですよ」
「……強くなったんだ、エヴァちゃん」
 どこか、寂しそうな表情をしている礼安を、エヴァは心配そうに見つめる。それもそのはず、先ほどエヴァクラスの悲しい別れに立ち会ったのだから、そこも似た者同士となったためである。
「――礼安さんから、武器(ウエポン)科で慣れ親しんだ魔力の残滓をひしひしと感じます」
「加賀美ちゃんのこと、かな」
「――ええ。武器科の中でも、その道を選ぶ人はほとんどいません。先輩方にも、その道を選ぶ存在は『変人』か『狂人』と言われる始末で。でも……私は一つの道として尊敬しているんです。もし私が武器の因子を内包しているのなら……礼安さんにその力を譲渡したって構わないくらいに」
 だが、今は違う。英雄の装甲を纏える、数少ない武器科の秀才(エリート)として、礼安と共に歩むことを決めた。今は亡きレイジーにも生前にお墨付きを得た、新たな二人一組(ツーマンセル)として。

「……一応、私の方が先輩ですから、これだけは聞いておきましょうか。準備は、出来ていますか」
「――もちろん。山梨以前の殺人事件から続く……忌々しい連鎖を私たちで止めなきゃ。そうじゃあないと、また多くの人が泣きを見る。それだけは……絶対に嫌だ」

 二人が立つ場所は、他でもない『艦長室』と書かれた場所。船の底にあるのではなく、複雑怪奇な船内迷路の関門を抜けた者にのみ、ここに立つ資格がある。それのショートカットルートが、幹部や大幹部がいた大広間であるのだが。
 二人は、静かに隣の人物に頷きあって、フロントキックでその扉をこじ開ける。
 その先に広がっていたのは、およそ艦長室とは思えないほどに広々とした空間であり、山梨県や千葉県各所の監視カメラの映像が、ホログラムによって複数映し出された、まるで図書館と言えるような場所であった。蔵書の数々も、戦前や戦後の貴重な歴史的資料を含んでおり、これから『大変なこと』になるであろう空間に置かれていてはもったいないものばかりである。

「ッ――おやおや。私の予測よりも……少しばかり早いご到着だ。しかも、マッチアップとしては理想的なものだったんですがね」

 荘厳な図書館に置かれているような個人作業テーブル、そして高価そうな椅子に座り、こちらを嘲笑うは……来栖善吉。多くの人間を貶め、これまでにないほど多くの被害を生んだ、礼安たちが相対する敵の中では現状最悪の存在であった。

 しかし、その表情には、ほんの少しの憂いを感じさせるのだった。



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 礼安が扉を開け、進んだ先にいたのは、別部屋にて戦い抜き、先へと進んだエヴァであった。ドライバーを装着した彼女を見るのは初めてであり、礼安はいたく喜んでいる様子であった。
「エヴァちゃん……遂に変身できたんだね」
「――ええ。ある愛に生きる|女性《かた》の影響で、覚悟が決まったもので」
「それは、レイジーさんのこと?」
「それも勿論ありますが……貴女の知らないところで『色々な』経験をしたもので」
 語り合いながら、ひたすらに通路を直進する。その先に待つものに、少なくとも並々ならぬ怒りと恨みを抱く存在が、これまでにないほどの真面目な表情で向かうのだ。
「――お昼手前の一件、正直なことを言うならば……私は礼安さんを怖がりました。私のため、そして山梨の地で死んだ私の元恋人、レイジーのために怒ってくれていたのに……申し訳ありませんでした」
「でもさ、私とエヴァちゃんってすっごい似た者同士だと思うんだ。姉妹でもないのに、感じるものがほぼ一緒というかね」
「……その通りなんです。以前抱いていたはずの気持ちを、その時の私は怖がっていたのです」
 同族嫌悪ではなく、その感覚に長い間浸っていなかったからこそ、その狂気に違和感を抱いたのだ。自分の本来の生きて輝く場所はここであるのに、その場所の眩しさに目をやられた。さらにそこに追い打ちをかけるは、周りからの心無い言葉の数々。劣等科だ何だと言われ続けた結果、同じ分類の人間の中で潰し合っていただけに過ぎないのに、その言葉に心を病んだ。
「――ですが、もう私は決めたんです。もう我慢しない、もう自分を気に入らない奴の言葉なんて聞き入れない。自分を高めるのでは無く、自分のいる低みへ誰かを引きずり落そうとする最低な輩なんて、私たちにとっては敵じゃあないんですよ」
「……強くなったんだ、エヴァちゃん」
 どこか、寂しそうな表情をしている礼安を、エヴァは心配そうに見つめる。それもそのはず、先ほどエヴァクラスの悲しい別れに立ち会ったのだから、そこも似た者同士となったためである。
「――礼安さんから、|武器《ウエポン》科で慣れ親しんだ魔力の残滓をひしひしと感じます」
「加賀美ちゃんのこと、かな」
「――ええ。武器科の中でも、その道を選ぶ人はほとんどいません。先輩方にも、その道を選ぶ存在は『変人』か『狂人』と言われる始末で。でも……私は一つの道として尊敬しているんです。もし私が武器の因子を内包しているのなら……礼安さんにその力を譲渡したって構わないくらいに」
 だが、今は違う。英雄の装甲を纏える、数少ない武器科の|秀才《エリート》として、礼安と共に歩むことを決めた。今は亡きレイジーにも生前にお墨付きを得た、新たな|二人一組《ツーマンセル》として。
「……一応、私の方が先輩ですから、これだけは聞いておきましょうか。準備は、出来ていますか」
「――もちろん。山梨以前の殺人事件から続く……忌々しい連鎖を私たちで止めなきゃ。そうじゃあないと、また多くの人が泣きを見る。それだけは……絶対に嫌だ」
 二人が立つ場所は、他でもない『艦長室』と書かれた場所。船の底にあるのではなく、複雑怪奇な船内迷路の関門を抜けた者にのみ、ここに立つ資格がある。それのショートカットルートが、幹部や大幹部がいた大広間であるのだが。
 二人は、静かに隣の人物に頷きあって、フロントキックでその扉をこじ開ける。
 その先に広がっていたのは、およそ艦長室とは思えないほどに広々とした空間であり、山梨県や千葉県各所の監視カメラの映像が、ホログラムによって複数映し出された、まるで図書館と言えるような場所であった。蔵書の数々も、戦前や戦後の貴重な歴史的資料を含んでおり、これから『大変なこと』になるであろう空間に置かれていてはもったいないものばかりである。
「ッ――おやおや。私の予測よりも……少しばかり早いご到着だ。しかも、マッチアップとしては理想的なものだったんですがね」
 荘厳な図書館に置かれているような個人作業テーブル、そして高価そうな椅子に座り、こちらを嘲笑うは……来栖善吉。多くの人間を貶め、これまでにないほど多くの被害を生んだ、礼安たちが相対する敵の中では現状最悪の存在であった。
 しかし、その表情には、ほんの少しの憂いを感じさせるのだった。