第三百二十話
ー/ー 何とか自力で起きた丙良は、現状を捉え受け止めることで精一杯であった。圧倒的に凶化された念力で脳内を蹂躙されてから、倒れていた丙良。加賀美が事実上死んだことと、礼安が一年次でありながら加賀美の力を借り、三枚同時変身という覚醒を果たしたことと、一般人同然であったはずの灰崎が、まさかの覚醒を果たしたこと。これらを同時処理し切れる程にまでは、脳が出来てはいなかった。
「――正直、戦果として誇っていいのか、悲しむべきなのか……」
「……丙良。俺が言うのもなんだが……失ったものばかり数えて、本質を見失うなよ。元々……多くの大切なものを、誰かの身勝手で奪われてばかりの俺だけどよ、それでも前向いて歩かねえと、元々の商売柄下向きっぱなしになっちまうし……キリ無ェよ」
灰崎がそれを語ることで、必然的に言葉に重みが生まれる。まだ年端も行かない学生が語るには早すぎた。
「……加賀美は、勇敢な奴だった。きっと怖いだろうに、どんな裏社会の人間にも食って掛かったらしい。善吉の率いた流浪の獣を打倒するべく、千尋と結託して戦った、とか聞いたからな」
ただの怪人を相手にするのではなく、より倫理観のない相手に、変身できないのにも拘らず食って掛かったその度胸は、しっかりと評価するべきである。
千尋は、ライセンスとなった加賀美を、しっかりと抱きしめる。色んな事を、バイクで走りながら語り合った深い仲である彼女は、余計に心が苦しかった。もう加賀美陽という女はこの世に存在しないのだが、彼女の陽だまりのような温かさは、魔力の残滓としてそこに残っているのだ。
人型を保つことは、もう不可能。礼安に見せたあの姿は、ほんの一瞬の奇跡だった。礼安から最期の瞬間を余すことなく聞き届けた千尋は、礼安に語ることなくあることを心の内で理解したのだった。
何かしら、腹に一物を抱えた様子を察知した礼安は、少しでも聞き質すことを考えたが――微笑を湛えるのみでそれを諦めた。『嘘』でないことくらい、今の礼安は察知できる。
「――礼安ちゃん、信玄たちは……僕に任せてくれないか。僕もかなりの重傷ではあるから、正直これ以上戦うことはできないけれど……皆の安全くらいは守れそうだからさ」
丙良が礼安の手を握り渡したものは、態勢を整えるための魔力を譲渡したのだ。
「正直……今定例になりつつある『あの』ライセンス使って礼安ちゃん全快にしたら……多分僕冗談抜きで死ぬから、せめてもの手向け。君の……瀧本礼安の『怒り』を、あの畜生に全力でぶつけてやれ。僕の親友を傷付けた、その恨みも……載せるからさ」
「それなら……俺も協力できそうだ。アイツには……さんざ煮え湯を飲まされ続けた。ずっと、損な立ち回りを強いられ続けたのもあって……もしこうして英雄≪がくせい≫連中と絡まなかったら、自爆特攻≪テロ≫だって考えていたさ」
「私は……一番関わりのない存在だけど、相応に『恨み』は出来た。加賀美ちゃんがこうなるきっかけを作り出したのは、今そこで気を失っている信玄って子じゃあない、源流にはあの善吉がいる。私の友達の仇……全力で討って」
三者三様、礼安に新たな翼を授ける。礼安にとって、復讐という概念は知識として知ってはいるが未知の存在同然。だからこそ、礼安は礼安らしく善吉に剣を突き立てにかかるのだ。
それこそ、それぞれが抱く『怒り』が原動力となりうる。これまで来栖善吉という存在に抱き続けてきた不満、怒りが、感受性の高い礼安に伝播する。礼安自身も、親友であるエヴァの大切な存在を殺した存在として、怒りを溜め込んでいた。
だからこそ三人の手を、苦労を知った手で静かに包み込む。少し前の修行によって、そしてここ最近の酷使によって、傷一つない手だったはずだが、複数の傷跡が新たに生まれている。歴戦の猛者同然の彼女に、それを気にする余裕は無かったのだ。
「――大丈夫。必ず……必ず私が勝つ。加賀美ちゃんも……きっと私の背を押してくれているもん」
千尋が、礼安にガウェインのライセンスを返し、礼安がそれに対しただ静かに笑って、その先の道へ歩いて進む。
先へ進む存在は、瀧本礼安ただ一人。自分にとって大切な人が泣いていた、大勢の一般人を悲しませた。例え実害を負っていなくとも、それだけで礼安にとっては十分な行動理由になる。多くの『傷』を抱えた存在が、勇敢な英雄へと羽化する、一歩手前の状態にまで発展していたのだ。
「――正直、戦果として誇っていいのか、悲しむべきなのか……」
「……丙良。俺が言うのもなんだが……失ったものばかり数えて、本質を見失うなよ。元々……多くの大切なものを、誰かの身勝手で奪われてばかりの俺だけどよ、それでも前向いて歩かねえと、元々の商売柄下向きっぱなしになっちまうし……キリ無ェよ」
灰崎がそれを語ることで、必然的に言葉に重みが生まれる。まだ年端も行かない学生が語るには早すぎた。
「……加賀美は、勇敢な奴だった。きっと怖いだろうに、どんな裏社会の人間にも食って掛かったらしい。善吉の率いた流浪の獣を打倒するべく、千尋と結託して戦った、とか聞いたからな」
ただの怪人を相手にするのではなく、より倫理観のない相手に、変身できないのにも拘らず食って掛かったその度胸は、しっかりと評価するべきである。
千尋は、ライセンスとなった加賀美を、しっかりと抱きしめる。色んな事を、バイクで走りながら語り合った深い仲である彼女は、余計に心が苦しかった。もう加賀美陽という女はこの世に存在しないのだが、彼女の陽だまりのような温かさは、魔力の残滓としてそこに残っているのだ。
人型を保つことは、もう不可能。礼安に見せたあの姿は、ほんの一瞬の奇跡だった。礼安から最期の瞬間を余すことなく聞き届けた千尋は、礼安に語ることなくあることを心の内で理解したのだった。
何かしら、腹に一物を抱えた様子を察知した礼安は、少しでも聞き質すことを考えたが――微笑を湛えるのみでそれを諦めた。『嘘』でないことくらい、今の礼安は察知できる。
「――礼安ちゃん、信玄たちは……僕に任せてくれないか。僕もかなりの重傷ではあるから、正直これ以上戦うことはできないけれど……皆の安全くらいは守れそうだからさ」
丙良が礼安の手を握り渡したものは、態勢を整えるための魔力を譲渡したのだ。
「正直……今定例になりつつある『あの』ライセンス使って礼安ちゃん全快にしたら……多分僕冗談抜きで死ぬから、せめてもの手向け。君の……瀧本礼安の『怒り』を、あの畜生に全力でぶつけてやれ。僕の親友を傷付けた、その恨みも……載せるからさ」
「それなら……俺も協力できそうだ。アイツには……さんざ煮え湯を飲まされ続けた。ずっと、損な立ち回りを強いられ続けたのもあって……もしこうして英雄≪がくせい≫連中と絡まなかったら、自爆特攻≪テロ≫だって考えていたさ」
「私は……一番関わりのない存在だけど、相応に『恨み』は出来た。加賀美ちゃんがこうなるきっかけを作り出したのは、今そこで気を失っている信玄って子じゃあない、源流にはあの善吉がいる。私の友達の仇……全力で討って」
三者三様、礼安に新たな翼を授ける。礼安にとって、復讐という概念は知識として知ってはいるが未知の存在同然。だからこそ、礼安は礼安らしく善吉に剣を突き立てにかかるのだ。
それこそ、それぞれが抱く『怒り』が原動力となりうる。これまで来栖善吉という存在に抱き続けてきた不満、怒りが、感受性の高い礼安に伝播する。礼安自身も、親友であるエヴァの大切な存在を殺した存在として、怒りを溜め込んでいた。
だからこそ三人の手を、苦労を知った手で静かに包み込む。少し前の修行によって、そしてここ最近の酷使によって、傷一つない手だったはずだが、複数の傷跡が新たに生まれている。歴戦の猛者同然の彼女に、それを気にする余裕は無かったのだ。
「――大丈夫。必ず……必ず私が勝つ。加賀美ちゃんも……きっと私の背を押してくれているもん」
千尋が、礼安にガウェインのライセンスを返し、礼安がそれに対しただ静かに笑って、その先の道へ歩いて進む。
先へ進む存在は、瀧本礼安ただ一人。自分にとって大切な人が泣いていた、大勢の一般人を悲しませた。例え実害を負っていなくとも、それだけで礼安にとっては十分な行動理由になる。多くの『傷』を抱えた存在が、勇敢な英雄へと羽化する、一歩手前の状態にまで発展していたのだ。
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