第三百十八話
ー/ー これまでの、英雄対怪人の構図ではなく、完全な英雄対英雄の構図に。
加賀美の齎した力は、この状況において最適解同然であった。未だ頭上にて煌々と輝く電力によって生まれた光源が、礼安の力を象徴し、増幅させていたのだ。
念剣と神聖剣が、何度も交差する。その度に尋常でないほどの火花を生じさせ、その間に生じている圧倒的力のせめぎ合いを実感させるのだ。
しかも、これは地上戦だけではなく、空中戦も同じ。
互いに常人が見切れないほどのスピードで、互いの攻撃を殺したりそれぞれの攻撃を意地でも通そうとしたりしている。そこにあるのは、それぞれの意地だけ。
別に、最強という名にこだわりはない。立場など気にすることなく、二人は戦場にて悪を誅する存在ゆえ、ある種能天気な存在である。名声も、金も要らない。要るものは、ただ純粋に己が願いを叶えるための力だけ。
次第に、剣だけでなく拳や脚も交え互いを消耗させにかかる。互いに同タイミングで自身の武器を手放し、顔面をフルパワーで殴り飛ばしたのだ。
その間に、言葉はいらない。ただ純粋な比べ合い。一方に殺意はあるだろうが、怪人化した時ほどのものは無い。それに疑念を持ったが最後、この戦いに大した意味など無いのだ。
実力者同士の戦いゆえ、それぞれに傷なく時間が過ぎていく。拮抗した状況ゆえ、何がきっかけでこの平行な戦いが終わるかは、どちらにも観測不能である。
念能力と、雷の能力が、何度も交差。雷を捻じ曲げる念に、念の流れを断ち切らんとする光速の雷。どちらが能力面で優れているか、そんなものは無いのだ。
ただ純粋な、練度の勝負。念を破られなければ信玄の勝利、雷をそのまま通すことが出来るのなら礼安の勝利。たとえ三枚同時変身だろうと、因子連鎖変身だろうと、出力に大きな差は無い。
だが、お互い退くことも無いのだ。一歩でも退いた瞬間に、アドバンテージが相手に移ることは明確であるため、「逃げるが勝ち」という戦法が扱えない。
念で無理やりつかんで引き戻すか、雷の速度でその差を無かったことにするか。
内心、探り合うも考え付いた策を絶対にさせない、強固な意志を持つ者同士であるため、どれほど拳を打ち合わせようと、どれほど蹴りの威力、タイミングを合わせようと、それは互いの策を殺すための策である。
しかし、第一の分岐点はすぐに訪れた。ほんの少しだけ、礼安側の力が緩んだのだ。元より女性ゆえ、単純な力は信玄の方が上である。
(勝機は、ここだ――!!)
しかし、礼安は急速で一度消していた神聖剣を生み出し、逆手持ちで逆袈裟に斬りかかったのだ。これまでのリズムを盛大に崩し、意表を突きにかかったのだ。
だが、信玄も練達者であった。その剣に、すんでのところで念剣を合わせ、軌道を逸らす。
「まだ、まだ終わらないよお」
極地に入った礼安が、捕食者としての目を輝かせ、左拳に常軌を逸した魔力を瞬時に溜め、念剣にダイレクトで叩き込んだのだ。
咄嗟に手放そうとした信玄は、雷の速度を舐めていた。光の速度で叩き込まれる重さを、軽く見ていたのだ。
「『閃』!!」
本来の拳が生む衝撃だけではなく、まるで何発も同じ拳を叩き込んだかのような衝撃が、連続して伝わってくる。しかも手放そうとしている意志とは正反対に、手から念剣が離れないのだ。電気信号の操作を、これほどの巨大な衝撃を連続して与えるのと同時にコントロールしていたのだ。とても、一年次の練度とは思えなかった。
しかも、またもや神聖剣を手放して、両の拳、そして両の脚に魔力を溜め込み、全てのタイミングが悉くずらされ、防御がいずれ間に合わなくなるような不規則な攻撃を叩き込み始めたのだ。
だが、信玄も猛者であった。身体を突き動かす電気信号に悩まされているのなら、それよりも早く行動することで、全て脊髄反射で迎撃が出来るのだと理解したのだ。
咄嗟に念剣を振るって、その勢いのまま念剣を遠くへ投げ飛ばす。この状況における邪魔なものは存在しないために、礼安の不規則性を正確に計ることが出来る。そう確信したために、礼安と同じ拳闘流派を取り応戦。
礼安が能力とセンスによって行っている、拳から来る衝撃のずらしを、信玄もただの身体能力だけで模倣したのだ。十割模倣出来ている訳ではないが、全ての行動を野性的な勘のみで行っているこの状況では、多少なり天秤が傾く可能性すら存在したのだ。
しかし、礼安は不規則なずらしだけではなく、そこに衝撃の強弱のランダム性を咥えたのだ。一つの脳だけで処理しきるには少々難題だが、拳によるパリィカウンターを叩き込むための布石として、体幹を徹底的にずらしにかかったのだ。
これほどの猛者同士の戦いが、能力による優劣ではなく、互いに拮抗しているからこその肉体言語によるやり取りであった。
複数の衝撃をいなしながら、その思惑をどうにか果たせないようにするためには、少々能力による拡張が必要だと考えた信玄は、遂に物理的な『増殖』を考え付いたのだ。
かつて、礼安に開示した事のある、念能力の一つ――『物体を手を使わずに掴む力』と『バリア能力』の掛け合わせで、疑似的な腕を数十本生み出したのだ。
それにより、遂に信玄優勢へ均衡が傾き始めた。
いくらある程度幅の利く雷のベース能力であっても、物理的に腕を増やすことはできない。あくまで身体能力の補助や、何かしらの雷を用いた超能力を引き出すことくらいであった。
そのため、礼安が取った策は――加賀美の力を扱うことであったのだ。
なんと、新たに生成した腕を、容赦なく引き千切り、これまで以上のハイパワーで信玄を殴り飛ばしたのだ。左腕側に効果が無いのかと思いきや、全身その数倍のパワーがみなぎっており、とても女性とは思えないほど、とてもバランスタイプの英雄とは思えないほどに、膂力に満ち溢れていたのだ。
これこそ、三枚同時変身の長所。それぞれの秀でた能力が、一挙集結。そこから夢のようなてんこ盛りの力が、全身に満ち溢れるのだ。
これほどの力があれば、恐らく怪人化していようと力負けすることは無い、と言えるほどに勢いがあった。これには信玄も思わず声もなく笑ってしまうほどであった。
(――マジかよ。ここまで、化け物みたいな力が生まれるなんてよ……こりゃあ参ったぜオイ)
何せ、信玄の策は現状ここで打ち止め。かつて敵対していた綾部の動きを止めるための疑似閃光手榴弾攻撃も、礼安には通用しない。光に近い性質を持つ雷に、光由来の攻撃など通用するはずがないのだ。
さらに、意表をついて念銃に変えると、これが礼安の神聖剣の剣戟を耐えられるとは思えない。近距離特化である念剣に望みを繋いでいるようなもので、信玄は静かに窮地に立たされていたのだ。
それに比べ、礼安は、未だ力の底を見せていない。戦いを楽しんでいるかのような狂った笑みで、信玄を見やるのみ。あちらから近づきこそしないものの、少しでも何かしらの策を講じれば、徹底的に破壊される。信玄もそこまでパワータイプの英雄ではないため、意表を付けなければ話にならないことが多い。
それでも最強であり続けたのは、ひとえに信玄自身の努力ゆえである。だがその努力を、恵まれた才格と天性の戦闘センス、願いに対して愚直に向かい続ける狂気的なまでの意志の力。今の信玄が彼女を超えるには、後半年は研鑽を重ねないとまず話にならない。
どれほど時間を掛けようと、同じ時間で礼安はそれよりも先に行く。
意志の力、そして感情の力、狂気的なほどの向かう力が備わった、無自覚の天才に敵うビジョンが見えなかったのだ。
信玄自身も強くなったはず。それでも越えられない壁が聳え立っており、こうして向かい合って無限に殴り合っても――絶望感と諦観が胸中を支配していたのだ。
「――ねえ、森ししょー。まだ……やる?」
加賀美の齎した力は、この状況において最適解同然であった。未だ頭上にて煌々と輝く電力によって生まれた光源が、礼安の力を象徴し、増幅させていたのだ。
念剣と神聖剣が、何度も交差する。その度に尋常でないほどの火花を生じさせ、その間に生じている圧倒的力のせめぎ合いを実感させるのだ。
しかも、これは地上戦だけではなく、空中戦も同じ。
互いに常人が見切れないほどのスピードで、互いの攻撃を殺したりそれぞれの攻撃を意地でも通そうとしたりしている。そこにあるのは、それぞれの意地だけ。
別に、最強という名にこだわりはない。立場など気にすることなく、二人は戦場にて悪を誅する存在ゆえ、ある種能天気な存在である。名声も、金も要らない。要るものは、ただ純粋に己が願いを叶えるための力だけ。
次第に、剣だけでなく拳や脚も交え互いを消耗させにかかる。互いに同タイミングで自身の武器を手放し、顔面をフルパワーで殴り飛ばしたのだ。
その間に、言葉はいらない。ただ純粋な比べ合い。一方に殺意はあるだろうが、怪人化した時ほどのものは無い。それに疑念を持ったが最後、この戦いに大した意味など無いのだ。
実力者同士の戦いゆえ、それぞれに傷なく時間が過ぎていく。拮抗した状況ゆえ、何がきっかけでこの平行な戦いが終わるかは、どちらにも観測不能である。
念能力と、雷の能力が、何度も交差。雷を捻じ曲げる念に、念の流れを断ち切らんとする光速の雷。どちらが能力面で優れているか、そんなものは無いのだ。
ただ純粋な、練度の勝負。念を破られなければ信玄の勝利、雷をそのまま通すことが出来るのなら礼安の勝利。たとえ三枚同時変身だろうと、因子連鎖変身だろうと、出力に大きな差は無い。
だが、お互い退くことも無いのだ。一歩でも退いた瞬間に、アドバンテージが相手に移ることは明確であるため、「逃げるが勝ち」という戦法が扱えない。
念で無理やりつかんで引き戻すか、雷の速度でその差を無かったことにするか。
内心、探り合うも考え付いた策を絶対にさせない、強固な意志を持つ者同士であるため、どれほど拳を打ち合わせようと、どれほど蹴りの威力、タイミングを合わせようと、それは互いの策を殺すための策である。
しかし、第一の分岐点はすぐに訪れた。ほんの少しだけ、礼安側の力が緩んだのだ。元より女性ゆえ、単純な力は信玄の方が上である。
(勝機は、ここだ――!!)
しかし、礼安は急速で一度消していた神聖剣を生み出し、逆手持ちで逆袈裟に斬りかかったのだ。これまでのリズムを盛大に崩し、意表を突きにかかったのだ。
だが、信玄も練達者であった。その剣に、すんでのところで念剣を合わせ、軌道を逸らす。
「まだ、まだ終わらないよお」
極地に入った礼安が、捕食者としての目を輝かせ、左拳に常軌を逸した魔力を瞬時に溜め、念剣にダイレクトで叩き込んだのだ。
咄嗟に手放そうとした信玄は、雷の速度を舐めていた。光の速度で叩き込まれる重さを、軽く見ていたのだ。
「『閃』!!」
本来の拳が生む衝撃だけではなく、まるで何発も同じ拳を叩き込んだかのような衝撃が、連続して伝わってくる。しかも手放そうとしている意志とは正反対に、手から念剣が離れないのだ。電気信号の操作を、これほどの巨大な衝撃を連続して与えるのと同時にコントロールしていたのだ。とても、一年次の練度とは思えなかった。
しかも、またもや神聖剣を手放して、両の拳、そして両の脚に魔力を溜め込み、全てのタイミングが悉くずらされ、防御がいずれ間に合わなくなるような不規則な攻撃を叩き込み始めたのだ。
だが、信玄も猛者であった。身体を突き動かす電気信号に悩まされているのなら、それよりも早く行動することで、全て脊髄反射で迎撃が出来るのだと理解したのだ。
咄嗟に念剣を振るって、その勢いのまま念剣を遠くへ投げ飛ばす。この状況における邪魔なものは存在しないために、礼安の不規則性を正確に計ることが出来る。そう確信したために、礼安と同じ拳闘流派を取り応戦。
礼安が能力とセンスによって行っている、拳から来る衝撃のずらしを、信玄もただの身体能力だけで模倣したのだ。十割模倣出来ている訳ではないが、全ての行動を野性的な勘のみで行っているこの状況では、多少なり天秤が傾く可能性すら存在したのだ。
しかし、礼安は不規則なずらしだけではなく、そこに衝撃の強弱のランダム性を咥えたのだ。一つの脳だけで処理しきるには少々難題だが、拳によるパリィカウンターを叩き込むための布石として、体幹を徹底的にずらしにかかったのだ。
これほどの猛者同士の戦いが、能力による優劣ではなく、互いに拮抗しているからこその肉体言語によるやり取りであった。
複数の衝撃をいなしながら、その思惑をどうにか果たせないようにするためには、少々能力による拡張が必要だと考えた信玄は、遂に物理的な『増殖』を考え付いたのだ。
かつて、礼安に開示した事のある、念能力の一つ――『物体を手を使わずに掴む力』と『バリア能力』の掛け合わせで、疑似的な腕を数十本生み出したのだ。
それにより、遂に信玄優勢へ均衡が傾き始めた。
いくらある程度幅の利く雷のベース能力であっても、物理的に腕を増やすことはできない。あくまで身体能力の補助や、何かしらの雷を用いた超能力を引き出すことくらいであった。
そのため、礼安が取った策は――加賀美の力を扱うことであったのだ。
なんと、新たに生成した腕を、容赦なく引き千切り、これまで以上のハイパワーで信玄を殴り飛ばしたのだ。左腕側に効果が無いのかと思いきや、全身その数倍のパワーがみなぎっており、とても女性とは思えないほど、とてもバランスタイプの英雄とは思えないほどに、膂力に満ち溢れていたのだ。
これこそ、三枚同時変身の長所。それぞれの秀でた能力が、一挙集結。そこから夢のようなてんこ盛りの力が、全身に満ち溢れるのだ。
これほどの力があれば、恐らく怪人化していようと力負けすることは無い、と言えるほどに勢いがあった。これには信玄も思わず声もなく笑ってしまうほどであった。
(――マジかよ。ここまで、化け物みたいな力が生まれるなんてよ……こりゃあ参ったぜオイ)
何せ、信玄の策は現状ここで打ち止め。かつて敵対していた綾部の動きを止めるための疑似閃光手榴弾攻撃も、礼安には通用しない。光に近い性質を持つ雷に、光由来の攻撃など通用するはずがないのだ。
さらに、意表をついて念銃に変えると、これが礼安の神聖剣の剣戟を耐えられるとは思えない。近距離特化である念剣に望みを繋いでいるようなもので、信玄は静かに窮地に立たされていたのだ。
それに比べ、礼安は、未だ力の底を見せていない。戦いを楽しんでいるかのような狂った笑みで、信玄を見やるのみ。あちらから近づきこそしないものの、少しでも何かしらの策を講じれば、徹底的に破壊される。信玄もそこまでパワータイプの英雄ではないため、意表を付けなければ話にならないことが多い。
それでも最強であり続けたのは、ひとえに信玄自身の努力ゆえである。だがその努力を、恵まれた才格と天性の戦闘センス、願いに対して愚直に向かい続ける狂気的なまでの意志の力。今の信玄が彼女を超えるには、後半年は研鑽を重ねないとまず話にならない。
どれほど時間を掛けようと、同じ時間で礼安はそれよりも先に行く。
意志の力、そして感情の力、狂気的なほどの向かう力が備わった、無自覚の天才に敵うビジョンが見えなかったのだ。
信玄自身も強くなったはず。それでも越えられない壁が聳え立っており、こうして向かい合って無限に殴り合っても――絶望感と諦観が胸中を支配していたのだ。
「――ねえ、森ししょー。まだ……やる?」
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。