第三百十七話
ー/ー だが、礼安の手元に存在する三人の英雄は、礼安の背を押したのだ。喪失感でどうしようもない彼女に、先に進めと促すのだ。
でもそれは、冷徹な本性が見えたから、ではない。結果のみを追い求めるような非情な存在ばかりだから、でもない。他でもなく、礼安のためにその命を捧げた、加賀美陽の意思を尊重するためのものであった。
信玄もまた、誰かの声を聞いたわけではないのだが、自分の意志でライセンスを無理やり排莢、チーティングドライバーを握り潰し、完全に破壊したのだ。自分の中に埋め込まれた、偽りの記憶を、殺意をほんの少しだけ疑った。それでも、ほぼ無関係な人ひとりを事実上殺め、心がそれは違うと叫んでいたのだ。
こんな形の決着は望んでいない。きっと、どこかに残滓として存在する森信之も、それを望んでいる訳ではない。どんな因縁があったかも、どんな経緯で合同演習会を共に過ごしたかも忘れてしまったものの、信玄には亡き『関係者』の借りを返すための殺し合いを、果し合いをしなくてはならなかったのだ。
お互いに、涙をうっすらと流し、それぞれが故人に誓う。
「――私は、森ししょーを……森信玄という男を、必ず救い出すと決めたんだ。そして多くの人を巻き込んで、エヴァちゃんを含め散々酷い目に合わせた……来栖善吉を打倒するんだ。例え……私が死んだとしても――それは果たさなきゃあならない約束なんだ」
「俺は……弟らしい信之を殺した奴を……絶対に許さない。何がどうしてどうなったかは――未だに分からねえが……仇は取らねえと浮かばれねえ気がするんだ。だから――俺は戦って……戦って……ッ」
その瞬間に、信玄の脳内にて記憶の異物混入が起こり、激しい頭痛に襲われる。あまりのもの痛みに、千鳥足になってしまうも――自分の顔をフルパワーで殴り飛ばして痛みを上書き。それでも頭の中が整理しきれない状況に陥ったために、念銃にて自分の腹に風穴を開けたのだ。
思わず目を背けそうになる礼安であるが、男としてのけじめ、そして覚悟を示す行為を見届けねばならない、そんな気がして、苦虫を噛み潰したかのような顔で彼の一部始終を見守った。
「――多分、最初から俺は……間違ったことをしてんだと思うよ。どこまでも善吉さんに『良く』してもらったとしても……拭いきれねえ違和感が生じる。食い違い、あるいは齟齬って言うべきだろうな。本当にそうなのか、本当に瀧本礼安という女が……俺の関係者を殺したのか、って……もう少し真面目に考えるべきだったんだ」
喀血交じりに語る信玄の表情は、殺意が全てを支配するような表情ではなく、元の彼らしい表情も混ざった、どっちつかずの状態であった。全てを決めるのは、この後の行方次第だと言わんばかりに、信玄は念銃……ではなく、念剣の状態で礼安に向き合うのだった。
「――やろうぜ。お前が言う偽りの記憶が正しいか、間違っているか」
「そして、単純にどっちが強いか、だね。加賀美ちゃんの力も得た私が――この先へ進むためにも……勝つよ、絶対に」
『認証、森蘭丸!』
『認証、アーサー王、トリスタン!』
礼安は少しの逡巡を見せるも、覚悟を決めた瞳で前を見据え、三枚のライセンスを同時に認証、装填するのだった。それは一年次の生徒なら異例中の異例。過去に例のない、身体にかかる負担など度外視で、全力で立ち向かうのみであった。
『認証、太陽を背負う義侠の騎士・ガウェイン! アーサー王の忠実な右腕として戦い抜く騎士の中の騎士、遂に見参!!』
三枚同時変身と呼ばれるその技術は、二枚同時変身よりもさらに難易度が高く、二年次の一部生徒や三年次の生徒がようやく有り余る技量と魔力によって変身できる、一つの終着点に近い状態である。
それ以上となると、使用者が少ないとされ、より出力が飛躍的に向上したマスターライセンスを扱う変身のみがそれ以上の出力を誇るのだが、そもそも使用者が少ないためサンプルが少ない。
だからこそ、礼安のこの力は、常軌を逸した出力を誇るのだ。
あまりにもの出力に、装填後の魔力の余波によって礼安が思わず仰け反ってしまうほど。それでも、一切瞳は死んでいなかった。二年次ですらほとんどの生徒が拝むことが出来ない、次なるステージへの覚醒を期待させるものであった。
「――俺は、とんでもない奴を……敵に回したのかもしれねえな」
「敵なんかじゃあないよ、森ししょーは。どこまで行っても私の師匠の一人だし……私の頼れる先輩の一人だから」
不敵に笑んで、静かに立ち向かう。これまで感情のブレによって莫大な出力を制御しきれずにいたのだが、余裕のある笑みを浮かべた瞬間に、遂に変身可能な閾値までに安定したのだ。
「さあ……行くよ森ししょー、いや……森信玄。全力で……ぶつかってきてよ。私が悪いって思うなら……私を全力で潰しに来てよ」
「――ああ、礼安……いや、瀧本礼安――全力で向かってやる。それが正しいかはさておいて……今ここでやり合わねえ理由はねェ」
複雑な事情が絡み合い、それでも前を向き果たし合う二人。合同演習会終了後から、こうなる宿命は決定づけられていたのかもしれない。過程こそ最悪のものであったが、行き着く先は今この時。
「――変身!!」
念剣を振るい、斬撃波を飛ばす信玄は、その魔力によってベース装甲をしっかりと纏っていく。信之がかつて扱ったとされる森蘭丸の力を、理論武装の如くしっかりと纏う。元々信長の因子が備わっている存在だからこそ、信長と蘭丸、それぞれの装甲を纏め上げたかのようなデザインであった。本人の記憶には今残っていないものの、図らずも兄弟の共同戦線を実現させているようであった。
「因子が一致していなくとも……繋がりのあるものなら出力が同じように向上する。基本のキと言えるようなもんだが……本当に血縁関係者なんだろうな。そうじゃあなかったら、ここまでの適合率にはそうならない」
ただ単純にライセンスを用いて変身するこれまでの力だけではなく、それに相乗効果として力を上乗せする信玄のやり方は、非常に都合がいい上にライセンス一枚だけでも二枚以上の出力を発揮できるようになる、ある種の秘策である。
ドライバーを用いた二枚同時変身、三枚同時変身が足し算で行われるものだとしたら、因子元とは異なるものの、因子と繋がりのある別のライセンスを用いて変身する方法は、掛け算に近い力の計算式となるのだ。
「……凄いね、流石森ししょー。でも……私、負けない。加賀美ちゃんのためにも、理不尽に殺されてしまった信之くんのためにも、そしてエヴァちゃんの『大切』だったレイジーさんのためにも――私は、どこまでも強くなってみせる!! 私の『大切』だけじゃあない、皆の『大切』も、全て護って勝つ!! それが、瀧本礼安という英雄の……欲望だから!!」
拳を合わせ、瞳が煌々と輝く礼安。遂に、英雄としての覚悟は決まったのだ。
「変身ッッ!!」
三人の英雄が、礼安に集結し三者三様の装甲を創り出す。これまであった装甲の他に、ガウェインの物が形作られていく。
午前、あるいは昼間において力を増すという伝承のある彼の通り、アーサー王とは正反対の右部装甲が彼の力のテリトリー。右肩部装甲には、太陽の刻印が彫られている。これは、いついかなる時も単純な能力を三倍にし続ける、力の権化たる能力が存在。
さらに、それはただ右腕のみに適用されるのではなく、魔力を解放、あるいは変身者の技量が増していくたびに性能が上昇していく、青天井のライセンスの力を備えたのだ。
しかも、それがこれまでの装甲と奇跡的な調和で噛み合い、新たな装甲を生み出すのだ。これまでのちぐはぐなものから、円卓の騎士として共に戦ったメンバーが、肩を並べ合って完全な調和を生み出している。
元々小さかった王冠型の頭部装甲もちゃんとしたサイズにまで巨大化。彼女自身の、そしてライセンスから出力できる魔力が上昇し、それを十全に扱えるようになった証であった。
左から順に、トリスタン、アーサー、ガウェイン。それぞれの装甲の良いとこ取りと言わんばかりに、蒼の装甲を体中に装着させていくのだ。
『Three knights advance, clad in thunderbolts!! アスタインフォーム、揃い踏み!!』
これまで以上の出力に戸惑っていた礼安だが、その内にて温かなものを感じ取っていた。声はもう聞こえない、ただ気配だけ。それでも……礼安にとっては、非常に心強いものであった。
「――さあ、始めようか……ししょー。互いの全力を、徹底的にぶつけ合おうよ」
「……言うじゃあねえの、言われなくてもそうするさ」
念剣と神聖剣を構え、じりじりと空気を張り詰めさせていく。
一切の物音がしない、究極の静寂。耳鳴りすらしてきそうなほどの空間にて、何かしらの衝撃、何かしらの物音がすれば……それが開戦のゴングとなる。
どこかからやってきた、冷えた空気――その数秒後、尋常でないほどの轟音が鳴り響いた。
「――行くぞ!!」
「来いッッ!!」
二年次英雄科最強と、一年次英雄科最強。二つの最強が、遂にぶつかり合った。
でもそれは、冷徹な本性が見えたから、ではない。結果のみを追い求めるような非情な存在ばかりだから、でもない。他でもなく、礼安のためにその命を捧げた、加賀美陽の意思を尊重するためのものであった。
信玄もまた、誰かの声を聞いたわけではないのだが、自分の意志でライセンスを無理やり排莢、チーティングドライバーを握り潰し、完全に破壊したのだ。自分の中に埋め込まれた、偽りの記憶を、殺意をほんの少しだけ疑った。それでも、ほぼ無関係な人ひとりを事実上殺め、心がそれは違うと叫んでいたのだ。
こんな形の決着は望んでいない。きっと、どこかに残滓として存在する森信之も、それを望んでいる訳ではない。どんな因縁があったかも、どんな経緯で合同演習会を共に過ごしたかも忘れてしまったものの、信玄には亡き『関係者』の借りを返すための殺し合いを、果し合いをしなくてはならなかったのだ。
お互いに、涙をうっすらと流し、それぞれが故人に誓う。
「――私は、森ししょーを……森信玄という男を、必ず救い出すと決めたんだ。そして多くの人を巻き込んで、エヴァちゃんを含め散々酷い目に合わせた……来栖善吉を打倒するんだ。例え……私が死んだとしても――それは果たさなきゃあならない約束なんだ」
「俺は……弟らしい信之を殺した奴を……絶対に許さない。何がどうしてどうなったかは――未だに分からねえが……仇は取らねえと浮かばれねえ気がするんだ。だから――俺は戦って……戦って……ッ」
その瞬間に、信玄の脳内にて記憶の異物混入が起こり、激しい頭痛に襲われる。あまりのもの痛みに、千鳥足になってしまうも――自分の顔をフルパワーで殴り飛ばして痛みを上書き。それでも頭の中が整理しきれない状況に陥ったために、念銃にて自分の腹に風穴を開けたのだ。
思わず目を背けそうになる礼安であるが、男としてのけじめ、そして覚悟を示す行為を見届けねばならない、そんな気がして、苦虫を噛み潰したかのような顔で彼の一部始終を見守った。
「――多分、最初から俺は……間違ったことをしてんだと思うよ。どこまでも善吉さんに『良く』してもらったとしても……拭いきれねえ違和感が生じる。食い違い、あるいは齟齬って言うべきだろうな。本当にそうなのか、本当に瀧本礼安という女が……俺の関係者を殺したのか、って……もう少し真面目に考えるべきだったんだ」
喀血交じりに語る信玄の表情は、殺意が全てを支配するような表情ではなく、元の彼らしい表情も混ざった、どっちつかずの状態であった。全てを決めるのは、この後の行方次第だと言わんばかりに、信玄は念銃……ではなく、念剣の状態で礼安に向き合うのだった。
「――やろうぜ。お前が言う偽りの記憶が正しいか、間違っているか」
「そして、単純にどっちが強いか、だね。加賀美ちゃんの力も得た私が――この先へ進むためにも……勝つよ、絶対に」
『認証、森蘭丸!』
『認証、アーサー王、トリスタン!』
礼安は少しの逡巡を見せるも、覚悟を決めた瞳で前を見据え、三枚のライセンスを同時に認証、装填するのだった。それは一年次の生徒なら異例中の異例。過去に例のない、身体にかかる負担など度外視で、全力で立ち向かうのみであった。
『認証、太陽を背負う義侠の騎士・ガウェイン! アーサー王の忠実な右腕として戦い抜く騎士の中の騎士、遂に見参!!』
三枚同時変身と呼ばれるその技術は、二枚同時変身よりもさらに難易度が高く、二年次の一部生徒や三年次の生徒がようやく有り余る技量と魔力によって変身できる、一つの終着点に近い状態である。
それ以上となると、使用者が少ないとされ、より出力が飛躍的に向上したマスターライセンスを扱う変身のみがそれ以上の出力を誇るのだが、そもそも使用者が少ないためサンプルが少ない。
だからこそ、礼安のこの力は、常軌を逸した出力を誇るのだ。
あまりにもの出力に、装填後の魔力の余波によって礼安が思わず仰け反ってしまうほど。それでも、一切瞳は死んでいなかった。二年次ですらほとんどの生徒が拝むことが出来ない、次なるステージへの覚醒を期待させるものであった。
「――俺は、とんでもない奴を……敵に回したのかもしれねえな」
「敵なんかじゃあないよ、森ししょーは。どこまで行っても私の師匠の一人だし……私の頼れる先輩の一人だから」
不敵に笑んで、静かに立ち向かう。これまで感情のブレによって莫大な出力を制御しきれずにいたのだが、余裕のある笑みを浮かべた瞬間に、遂に変身可能な閾値までに安定したのだ。
「さあ……行くよ森ししょー、いや……森信玄。全力で……ぶつかってきてよ。私が悪いって思うなら……私を全力で潰しに来てよ」
「――ああ、礼安……いや、瀧本礼安――全力で向かってやる。それが正しいかはさておいて……今ここでやり合わねえ理由はねェ」
複雑な事情が絡み合い、それでも前を向き果たし合う二人。合同演習会終了後から、こうなる宿命は決定づけられていたのかもしれない。過程こそ最悪のものであったが、行き着く先は今この時。
「――変身!!」
念剣を振るい、斬撃波を飛ばす信玄は、その魔力によってベース装甲をしっかりと纏っていく。信之がかつて扱ったとされる森蘭丸の力を、理論武装の如くしっかりと纏う。元々信長の因子が備わっている存在だからこそ、信長と蘭丸、それぞれの装甲を纏め上げたかのようなデザインであった。本人の記憶には今残っていないものの、図らずも兄弟の共同戦線を実現させているようであった。
「因子が一致していなくとも……繋がりのあるものなら出力が同じように向上する。基本のキと言えるようなもんだが……本当に血縁関係者なんだろうな。そうじゃあなかったら、ここまでの適合率にはそうならない」
ただ単純にライセンスを用いて変身するこれまでの力だけではなく、それに相乗効果として力を上乗せする信玄のやり方は、非常に都合がいい上にライセンス一枚だけでも二枚以上の出力を発揮できるようになる、ある種の秘策である。
ドライバーを用いた二枚同時変身、三枚同時変身が足し算で行われるものだとしたら、因子元とは異なるものの、因子と繋がりのある別のライセンスを用いて変身する方法は、掛け算に近い力の計算式となるのだ。
「……凄いね、流石森ししょー。でも……私、負けない。加賀美ちゃんのためにも、理不尽に殺されてしまった信之くんのためにも、そしてエヴァちゃんの『大切』だったレイジーさんのためにも――私は、どこまでも強くなってみせる!! 私の『大切』だけじゃあない、皆の『大切』も、全て護って勝つ!! それが、瀧本礼安という英雄の……欲望だから!!」
拳を合わせ、瞳が煌々と輝く礼安。遂に、英雄としての覚悟は決まったのだ。
「変身ッッ!!」
三人の英雄が、礼安に集結し三者三様の装甲を創り出す。これまであった装甲の他に、ガウェインの物が形作られていく。
午前、あるいは昼間において力を増すという伝承のある彼の通り、アーサー王とは正反対の右部装甲が彼の力のテリトリー。右肩部装甲には、太陽の刻印が彫られている。これは、いついかなる時も単純な能力を三倍にし続ける、力の権化たる能力が存在。
さらに、それはただ右腕のみに適用されるのではなく、魔力を解放、あるいは変身者の技量が増していくたびに性能が上昇していく、青天井のライセンスの力を備えたのだ。
しかも、それがこれまでの装甲と奇跡的な調和で噛み合い、新たな装甲を生み出すのだ。これまでのちぐはぐなものから、円卓の騎士として共に戦ったメンバーが、肩を並べ合って完全な調和を生み出している。
元々小さかった王冠型の頭部装甲もちゃんとしたサイズにまで巨大化。彼女自身の、そしてライセンスから出力できる魔力が上昇し、それを十全に扱えるようになった証であった。
左から順に、トリスタン、アーサー、ガウェイン。それぞれの装甲の良いとこ取りと言わんばかりに、蒼の装甲を体中に装着させていくのだ。
『Three knights advance, clad in thunderbolts!! アスタインフォーム、揃い踏み!!』
これまで以上の出力に戸惑っていた礼安だが、その内にて温かなものを感じ取っていた。声はもう聞こえない、ただ気配だけ。それでも……礼安にとっては、非常に心強いものであった。
「――さあ、始めようか……ししょー。互いの全力を、徹底的にぶつけ合おうよ」
「……言うじゃあねえの、言われなくてもそうするさ」
念剣と神聖剣を構え、じりじりと空気を張り詰めさせていく。
一切の物音がしない、究極の静寂。耳鳴りすらしてきそうなほどの空間にて、何かしらの衝撃、何かしらの物音がすれば……それが開戦のゴングとなる。
どこかからやってきた、冷えた空気――その数秒後、尋常でないほどの轟音が鳴り響いた。
「――行くぞ!!」
「来いッッ!!」
二年次英雄科最強と、一年次英雄科最強。二つの最強が、遂にぶつかり合った。
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