第三百十五話
ー/ー その言葉によって、加賀美は無力感に震えていた。エヴァやレイジーほどの潜在能力があれば、恵まれた才格があれば、この状況をどうにかできると、有効の一打を叩き込めると信じていたからだ。ズボンのポケットの中にある『ある物』を握り締め、やれることは自身の勇気と覚悟を強めるのみ。
だが、英雄二人に生身一人。やれることに限りがある中で、無尽蔵に回復し続けるのは絶望的状況と言わざるを得なかった。
『殺ス 絶対 殺ス』
標的は、礼安ただ一人。丙良と加賀美は部外者同然。異聖剣も、小型チェーンソーも、重鉱剣も、未だ扱いきれない神聖剣も、あれほどの分厚い筋肉の塊に刃を通しきるには、力量が足りなかった。
邪魔な丙良と加賀美を乱暴な裏拳で吹き飛ばし、礼安だけの状況に仕立て上げる、理性亡き怪物。呻き声と涎を垂らしながら、礼安の首を乱暴に掴み取る。
ただ単純に殺すのではなく、徐々に死へのカウントダウンを刻ませる。理性が無いのにも拘らず、性格はねじ曲がっている。自分の宿願のためならば、どこまででも非情になれる、最悪の獣であった。
「森……ししょー……ッ!!」
『五月蠅イ 黙レ』
一切の抵抗が出来ないよう、宙に持ち上げるも、礼安は心の底で諦めていなかった。どこまで行っても、救える希望を捨てないでいたのだ。
「――そんなに、私を殺したいの……? それが嘘だとしても……後悔しないの……?」
『――殺ス』
話を聞き入れない様子を見せる信玄。しかし、礼安だけがわずかに感じ取ったのは、心の色、心のブレを感じ取ったのだ。天性の第六感によって見える感情、思いが、手に取るように分かる力。首を絞められているために、精度は多少なり甘くなっているが、それでもこれほど近くにいれば理解できる。
「――綾部さん、大分心配してた。自分の与り知らないところで洗脳されたってことが……心に来たんだろうね」
泣き落としのようにも取れる言葉であったが、信玄の様子が目に見えて変化した。現在進行形で付き合っている二人は、こんな時であっても心を割くに値する存在であるのだ。どれほど理性を殺そうと、どれほど復讐鬼として堕ちようと、情は消せない。情がきっかけとなりそうなった存在だからだった。
「――私には、まだその『恋愛』って要素は……よく分からない。異性であっても同性であっても愛するってことを、まだ深く理解できてないんだ。でも……今の森ししょーを見ていてちょっと理解できたんだ。『恋』や『愛』の持つ――強さを」
想い人によって齎される臨時給付。それの爆発力が、今こうして礼安に牙を剥いている。信玄から、亡き信之への家族としての愛情が、そうさせているのだから、年端のいかない子供でも十分に理解できる生きる教材である。
そして、信玄以外にもそれを学ぶ存在が居る。今この巨大な船の中で、礼安たちとは別場所で戦う存在、エヴァである。彼女は来栖善吉に想い人を弄ばれた挙句間接的に殺害。今はその亡き元想い人を背負い、しのびの里が持つ恨みをもばねに戦っている。どれほど心が深く傷つこうとも、彼女の背にはレイジーという羽があったのだ。
「……森ししょーは、私を殺すことがゴールなの? ひた隠しにされた真実から目を背けて、偽りの復讐を果たして……嘘に踊らされた結果、何も得られなくても……本当にそれでいいの!?」
土壇場であっても、礼安のお人よしとしての情が信玄に向いたのだ。剣こそ取り落していなかったものの、半殺しにしてでも連れ戻すという発想が無かったがために、信玄に一矢報いられたのだ。
『―――――――――――――!!』
図星を突かれた信玄は、礼安を言語化不可能な大絶叫と共に殴り飛ばし、連撃と言わんばかりに蹴り飛ばし。もう一打貰った瞬間に、装甲はおろか、身体が悲鳴を上げる、そこまでの危険水域にまで達していた。出血もそれなりに生じており、防御も破られそうであったのだ。
丙良が止めようと駆け出すも、どれほど勢いを付けようとぎりぎり間に合わない。
「礼安ちゃん!! 死ぬな!!」
決死の覚悟でロック・バスターをフルスイングし投げ飛ばすも、傷こそ与えても致命のものでは無かった。
『邪魔 消エロ』
すぐさま丙良に接近、頭部を鷲掴み、ほぼダイレクトに念力を流し込む。待田クラスの脳を直接引っ掻き回すような、強烈無比な念力が丙良を襲う。しかも、それに対する有用な防御手段を持ち合わせていないために、殺意と防衛本能が入り混じった強烈な念力を食らっているために、吐血どころの話ではなかった。
装甲自体に能力や受けるダメージをカットする自浄作用が存在するのだが、そんなもの意味を成さない。ある程度成熟した二年次、しかも仮免許を持った存在とはいえ、装甲の守りには限界があったのだ。
自身の言うことを聞かせるためには、それなりに力をセーブする必要があり、恐怖や痛み、善吉の場合は共感や形だけの優しさにて寄り添うことで相手を服従させるのだが、信玄のそれはまず前提として、服従させることを目的としていない。半ば殺すことを目的としているからこそ、力に箍が最初から存在しないのだ。
少しでも抵抗しようとする素振りは見せていたものの、やがて完全に脱力。装甲も霧散、変身も解除され、ロック・バスターは緊急シャットダウン状態に。
乱雑に投げ捨てられ、残る英雄である礼安をゆっくりとした歩みで狙いを定めていた。目を別方向にぎょろりと動かしながら、静かに舌なめずり。偽りの記憶に動かされるままに、礼安を殺さんと動いていたのだ。
だが、そこに待ったをかけるのは。
「ッ、はああああああああああああっ!!」
異聖剣アロンダイトと加賀美の武器である特異な小型チェーンソーを手に、自身の体躯の五倍はあろうかという信玄怪人体に立ち向かっていったのだ。
しかし、本人自体にそういった格闘、剣術のセンスが無いために、片腕を薙ぎ払うだけで軽く吹き飛ばされ、あしらわれてしまう。
壁に埋め込まれたも同然の礼安は、そんな加賀美を少しでも助けようと動こうとするも、一切動くことは叶わず。
『死ネ 瀧本 礼安』
手刀の形を作り、礼安の心臓部目掛け突き出す――その瞬間であった。
礼安と信玄、その間に稲光が一閃。しかも、礼安を運び出すのでは無く、礼安の手前でその稲光は完全に停止する。
そしてその時に、礼安は悟ってしまった。
今まで感じていた親近感。
今まで感じていた仲間意識。
今まで感じていた能力の波長。
自分とよく似ており、最初は気づくのに時間がいった。
なぜ、ここまで二人は性的ではないにしても惹かれ合うのか。
それは、『近しい因子を持った存在だったから』。
信玄怪人体の勢いのついた手刀が、一切の容赦なく加賀美の柔肌を、腹部を完璧に捉え、容赦なく貫いた。多量の出血と共に、稲光は弱まっていき、これまで共に戦ってきた少女の見た目が帰ってくる。手に握られていた異聖剣アロンダイトは完全に取り落し、もう片方の太陽の柄が描いてある小型チェーンソーだけはしっかりと握りしめられていた。
そして、流石にその時ばかりは信玄怪人体は我に返っていた。意識を失い、完全に歪んだ魔力に呑まれ、暴走していた信玄だったが、本来の対象ではない存在に致命の一撃を与えたことが、彼の内に眠る肥大化した罪悪感≪ばくだん≫に火を付け、爆発させたのだ。
だが、英雄二人に生身一人。やれることに限りがある中で、無尽蔵に回復し続けるのは絶望的状況と言わざるを得なかった。
『殺ス 絶対 殺ス』
標的は、礼安ただ一人。丙良と加賀美は部外者同然。異聖剣も、小型チェーンソーも、重鉱剣も、未だ扱いきれない神聖剣も、あれほどの分厚い筋肉の塊に刃を通しきるには、力量が足りなかった。
邪魔な丙良と加賀美を乱暴な裏拳で吹き飛ばし、礼安だけの状況に仕立て上げる、理性亡き怪物。呻き声と涎を垂らしながら、礼安の首を乱暴に掴み取る。
ただ単純に殺すのではなく、徐々に死へのカウントダウンを刻ませる。理性が無いのにも拘らず、性格はねじ曲がっている。自分の宿願のためならば、どこまででも非情になれる、最悪の獣であった。
「森……ししょー……ッ!!」
『五月蠅イ 黙レ』
一切の抵抗が出来ないよう、宙に持ち上げるも、礼安は心の底で諦めていなかった。どこまで行っても、救える希望を捨てないでいたのだ。
「――そんなに、私を殺したいの……? それが嘘だとしても……後悔しないの……?」
『――殺ス』
話を聞き入れない様子を見せる信玄。しかし、礼安だけがわずかに感じ取ったのは、心の色、心のブレを感じ取ったのだ。天性の第六感によって見える感情、思いが、手に取るように分かる力。首を絞められているために、精度は多少なり甘くなっているが、それでもこれほど近くにいれば理解できる。
「――綾部さん、大分心配してた。自分の与り知らないところで洗脳されたってことが……心に来たんだろうね」
泣き落としのようにも取れる言葉であったが、信玄の様子が目に見えて変化した。現在進行形で付き合っている二人は、こんな時であっても心を割くに値する存在であるのだ。どれほど理性を殺そうと、どれほど復讐鬼として堕ちようと、情は消せない。情がきっかけとなりそうなった存在だからだった。
「――私には、まだその『恋愛』って要素は……よく分からない。異性であっても同性であっても愛するってことを、まだ深く理解できてないんだ。でも……今の森ししょーを見ていてちょっと理解できたんだ。『恋』や『愛』の持つ――強さを」
想い人によって齎される臨時給付。それの爆発力が、今こうして礼安に牙を剥いている。信玄から、亡き信之への家族としての愛情が、そうさせているのだから、年端のいかない子供でも十分に理解できる生きる教材である。
そして、信玄以外にもそれを学ぶ存在が居る。今この巨大な船の中で、礼安たちとは別場所で戦う存在、エヴァである。彼女は来栖善吉に想い人を弄ばれた挙句間接的に殺害。今はその亡き元想い人を背負い、しのびの里が持つ恨みをもばねに戦っている。どれほど心が深く傷つこうとも、彼女の背にはレイジーという羽があったのだ。
「……森ししょーは、私を殺すことがゴールなの? ひた隠しにされた真実から目を背けて、偽りの復讐を果たして……嘘に踊らされた結果、何も得られなくても……本当にそれでいいの!?」
土壇場であっても、礼安のお人よしとしての情が信玄に向いたのだ。剣こそ取り落していなかったものの、半殺しにしてでも連れ戻すという発想が無かったがために、信玄に一矢報いられたのだ。
『―――――――――――――!!』
図星を突かれた信玄は、礼安を言語化不可能な大絶叫と共に殴り飛ばし、連撃と言わんばかりに蹴り飛ばし。もう一打貰った瞬間に、装甲はおろか、身体が悲鳴を上げる、そこまでの危険水域にまで達していた。出血もそれなりに生じており、防御も破られそうであったのだ。
丙良が止めようと駆け出すも、どれほど勢いを付けようとぎりぎり間に合わない。
「礼安ちゃん!! 死ぬな!!」
決死の覚悟でロック・バスターをフルスイングし投げ飛ばすも、傷こそ与えても致命のものでは無かった。
『邪魔 消エロ』
すぐさま丙良に接近、頭部を鷲掴み、ほぼダイレクトに念力を流し込む。待田クラスの脳を直接引っ掻き回すような、強烈無比な念力が丙良を襲う。しかも、それに対する有用な防御手段を持ち合わせていないために、殺意と防衛本能が入り混じった強烈な念力を食らっているために、吐血どころの話ではなかった。
装甲自体に能力や受けるダメージをカットする自浄作用が存在するのだが、そんなもの意味を成さない。ある程度成熟した二年次、しかも仮免許を持った存在とはいえ、装甲の守りには限界があったのだ。
自身の言うことを聞かせるためには、それなりに力をセーブする必要があり、恐怖や痛み、善吉の場合は共感や形だけの優しさにて寄り添うことで相手を服従させるのだが、信玄のそれはまず前提として、服従させることを目的としていない。半ば殺すことを目的としているからこそ、力に箍が最初から存在しないのだ。
少しでも抵抗しようとする素振りは見せていたものの、やがて完全に脱力。装甲も霧散、変身も解除され、ロック・バスターは緊急シャットダウン状態に。
乱雑に投げ捨てられ、残る英雄である礼安をゆっくりとした歩みで狙いを定めていた。目を別方向にぎょろりと動かしながら、静かに舌なめずり。偽りの記憶に動かされるままに、礼安を殺さんと動いていたのだ。
だが、そこに待ったをかけるのは。
「ッ、はああああああああああああっ!!」
異聖剣アロンダイトと加賀美の武器である特異な小型チェーンソーを手に、自身の体躯の五倍はあろうかという信玄怪人体に立ち向かっていったのだ。
しかし、本人自体にそういった格闘、剣術のセンスが無いために、片腕を薙ぎ払うだけで軽く吹き飛ばされ、あしらわれてしまう。
壁に埋め込まれたも同然の礼安は、そんな加賀美を少しでも助けようと動こうとするも、一切動くことは叶わず。
『死ネ 瀧本 礼安』
手刀の形を作り、礼安の心臓部目掛け突き出す――その瞬間であった。
礼安と信玄、その間に稲光が一閃。しかも、礼安を運び出すのでは無く、礼安の手前でその稲光は完全に停止する。
そしてその時に、礼安は悟ってしまった。
今まで感じていた親近感。
今まで感じていた仲間意識。
今まで感じていた能力の波長。
自分とよく似ており、最初は気づくのに時間がいった。
なぜ、ここまで二人は性的ではないにしても惹かれ合うのか。
それは、『近しい因子を持った存在だったから』。
信玄怪人体の勢いのついた手刀が、一切の容赦なく加賀美の柔肌を、腹部を完璧に捉え、容赦なく貫いた。多量の出血と共に、稲光は弱まっていき、これまで共に戦ってきた少女の見た目が帰ってくる。手に握られていた異聖剣アロンダイトは完全に取り落し、もう片方の太陽の柄が描いてある小型チェーンソーだけはしっかりと握りしめられていた。
そして、流石にその時ばかりは信玄怪人体は我に返っていた。意識を失い、完全に歪んだ魔力に呑まれ、暴走していた信玄だったが、本来の対象ではない存在に致命の一撃を与えたことが、彼の内に眠る肥大化した罪悪感≪ばくだん≫に火を付け、爆発させたのだ。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。