第三百十四話
ー/ー 人間としての、英雄としての理性を無くした信玄は、これまで戦ったどの怪人よりも読めないものであった。
それぞれが互いに攻撃を合わせることで、何とか勢いを殺せるほどであった。それは、一行の中で最もパワータイプに近い存在である丙良でさえ、その勢いを殺すことはできないほど。
「嘘だろ……これまでにないほどに出力が向上している……怪人化だけでは片付けられない……ッ……!!」
しかも、唯一生身同然である加賀美は、基本的に戦力とは呼べない。あくまでサポートに回るのが手段であるが、加賀美自身も共に戦う仲間としておいそれと退くことは出来なかった。
何とか二人が攻撃を弾いて、小型のチェーンソーで何度も斬りつける。しかし、剣術の型が本人に備わっていないために、明確なダメージは与えられない。掠り傷程度のダメージならすぐに治ってしまうために、三人がかりであったのにも拘らず拮抗状態のままであったのだ。
『瀧本 礼安 殺ス』
呻き声を上げながら、三人の猛攻をいとも簡単に弾き飛ばして、礼安にターゲットを絞る信玄怪人体。武器など何も使うことは無く、ただの徒手空拳のみで礼安を追い詰めていく。
しかし、少しでも一矢報いるべく、二年次の学習要領であるベース能力を自在に発露しながら、何とか攻撃をいなしていく。
人体各所を動かす上で、脳からの電気信号の伝達が常となる中で、電力の流動を用いて力を自在に殺していく。しかし、それでも勢いによる威力の増幅がゼロになることは無いために、徐々にガードする腕にダメージが集中していく。
「駄目だ、礼安ちゃん。正直……君はパワーでものを言わせるタイプじゃあない、能力と体をバランスよく扱うバランスタイプだ。この手の相手は……君向きじゃあないんだ!」
「でも……やらないといけないんだ、私が……!」
歯を食いしばりながらも、痺れを振り払って何とか立ち上がる礼安。痛みは一切感じていない様子であったが、丙良と加賀美にとっては心配事の塊であった。自分よりも後輩である以上、経験や場数に関しては丙良の方が上。状況判断能力に秀でた彼を超える存在は、信玄含む三人のうち存在しない。
「私も私で……せめて日光に代わるものがあれば……少しくらいは役に立てる……礼安ちゃん、出来るかな」
黙ったまま頷くと、屈んだ状態で部屋全体に『雷』の力をぶち撒ける。微細なコントロールを行った上で、一点に集中させる。超電流によって作り上げた、疑似的な光源である。
一瞬、信玄の怪人体がそれに戸惑うも、その一瞬の隙を丙良と加賀美は好機と踏んだ。
「今だ礼安ちゃん!! 『勢いを強く』してくれ!!」
雄叫びと共に能力をさらに一瞬だけ強くし、光源としての光量を爆発的に高める。それはかつて信玄が扱った戦術である、閃光手榴弾≪フラッシュバン≫としての変則殺法であった。
「思い出せ、信玄!!」
加賀美と共に、勢いよく斬りかかる丙良。
しかし、信玄は目を潰されたのにも拘らず、すぐさま連続で舌打ちをしたのだ。
その瞬間に、丙良はロック・バスターを脳天に振り下ろすことを中断、咄嗟に加賀美を片腕で抱きながら防御態勢を整えた。
その不吉な予感は的中し、ロック・バスターにて丁度防御態勢を取った、丙良の胴体部ど真ん中に、超高速の絶大な質量を持った左ストレートが叩き込まれる。勢いそのままに、礼安よりも後ろに勢いを殺しきれぬままに着地する。
ただの感覚で、かつて相対した琴音のような、反響定位を即席で利用したのだ。本人は盲目の存在ではないために、そのトレーニングを積んでいる訳では無かったのだが、歪んだ魔力によって感覚を増幅させた上でそれを可能にしてみせたのだ。
だが、ただで終わる二年次二人ではなかった。丙良の腕の中を離れた加賀美は、ロック・バスターを土台にし、飛び出す準備を即座に整えたのだ。
「クリック音で捉え切れないほど、速くぶっ飛べば行けるはず!! 今の条件だったら……私の身体能力も向上してる!!」
吹き飛ばされた勢いをバネにしながら、一息に弾き飛ばす加賀美。理性がほぼ消えた信玄も、自らの危機を察知してかすぐにクリック音による索敵を行うも、礼安がそれを完全に阻止する。
「電力、さらに増量だ!!」
クリック音をかき消すほどの放電音が、音による索敵を完全に殺した瞬間であった。
「「「行けェェェェェッ!!」」」
加賀美の小型チェーンソーが、その勢いのまま胸板に深く突き刺さる。高速で起動する無数の刃が、肉をかき分け的確なダメージを与える。当の本人が惨劇ものが苦手であるために、その光景を見つめることはできないが、光が当たっていることによる圧倒的駆動音と感覚によってダメージを実感する。
しかし、出血多量な中でも、信玄は加賀美の肉体を乱暴に掴み取る。握っただけで、胴体部の骨が酷く軋み、罅が入る。
『オ前 邪魔』
二度と反抗が出来ないようにじわじわと痛めつけるも、加賀美の目は死んでいなかった。光による目潰しから、ようやく視界を確保できた信玄怪人体は、彼女の一切死んでいない目を確認してしまったがために、殺さないまでも行動できないように動きを封じることを思考した。
だが、以前のような気弱さが薄れた加賀美にとって、これほどの逆境はまだ追い風の状況であった。
即座に自らの背から抜き出すは、異聖剣アロンダイト。光に関する力の上昇要素は無いものの、意表を突く上では適していた。
闇の力を纏った斬撃波を薙いで放ち、両眼を完全に潰したのだ。しかも、元々百喰の剣であるために出力は加賀美の物よりも数段上、何ならば丙良の物よりも上の性能をしているために、傷を治すには治療に魔力ソースを注がないと話にならない。闇の力によって攻撃した相手に対し各種能力にデバフが掛けられるためである。
「今です、二人とも!!」
腕から逃れる中で、自身の小型チェーンソーを乱暴に引き抜き、胴体を蹴って宙に帰る加賀美。後方にて力を溜め切った二人が待ち構えていたのだ。
「行くよ、合同演習会ぶりに!!」
「派手に決めよう、丙良ししょー!!」
ロック・バスターの取っ手を三度バイクのアクセルのように回し、ドライバー両端を激しく押し込んで準備は万端。
『『合体必殺承認! マグネシアンアンサンブル・インテルメッツォ!!』』
以前の物より出力が向上し、ロック・バスターに砂鉄によって補強された巨大な刃を生成、それで何度も信玄を斬りつけた上で、露わになった心臓部に礼安が土の力で補強された飛び蹴りを叩き込む。
あの時以上と言える圧倒的な威力に、思わず巨体が吹き飛び、信玄側の壁に思い切り叩きつけられる。
一見水と油同然、真逆の性質を持った雷と土の合わせ技。土だけではなく、砂鉄を操ることが可能な丙良だからこその芸当であった。
「やりましたね、二人とも! これで――」
「加賀美さん、下がっていた方が良い」
白熱する加賀美を、片手で制止する丙良。それは礼安も一緒であり、唯一変身していない戦力の加賀美を護るように立つ。
「――駄目だった、勝負はまだ終わってない」
傷がこれまで以上の速度で癒えていく。戦闘に意識が行っていないだけで、これまで敵対した存在の中で、最も早い速度で癒えていくのだ。
「正直……ここまでとは思わなかった。元々の彼が強いのもあるが……ここまで記憶を弄られた上で強化されているだなんて……」
「――きっと、私への造られた憎しみが、そうさせているんだと思う。これまで……欠落した感情を学んでいく中で知れた経験と知識の内に……『感情』の生み出す力は凄まじいことを知ったから」
かつて母を亡くし、感情を喪失した彼女が感情を学んでいく中で、『感情』の力というものを、その概念と共に学んできた。だからこそ、信玄の底力の恐ろしさを理解していたのだ。
嘘から始まった恨みであっても、当人を突き動かすエネルギーとしては十分であったのだ。
「……礼安ちゃん、有効打を入れるきっかけ、作れるかな」
「――ハッキリ言うなら……現時点だと『無理』だよ」
それぞれが互いに攻撃を合わせることで、何とか勢いを殺せるほどであった。それは、一行の中で最もパワータイプに近い存在である丙良でさえ、その勢いを殺すことはできないほど。
「嘘だろ……これまでにないほどに出力が向上している……怪人化だけでは片付けられない……ッ……!!」
しかも、唯一生身同然である加賀美は、基本的に戦力とは呼べない。あくまでサポートに回るのが手段であるが、加賀美自身も共に戦う仲間としておいそれと退くことは出来なかった。
何とか二人が攻撃を弾いて、小型のチェーンソーで何度も斬りつける。しかし、剣術の型が本人に備わっていないために、明確なダメージは与えられない。掠り傷程度のダメージならすぐに治ってしまうために、三人がかりであったのにも拘らず拮抗状態のままであったのだ。
『瀧本 礼安 殺ス』
呻き声を上げながら、三人の猛攻をいとも簡単に弾き飛ばして、礼安にターゲットを絞る信玄怪人体。武器など何も使うことは無く、ただの徒手空拳のみで礼安を追い詰めていく。
しかし、少しでも一矢報いるべく、二年次の学習要領であるベース能力を自在に発露しながら、何とか攻撃をいなしていく。
人体各所を動かす上で、脳からの電気信号の伝達が常となる中で、電力の流動を用いて力を自在に殺していく。しかし、それでも勢いによる威力の増幅がゼロになることは無いために、徐々にガードする腕にダメージが集中していく。
「駄目だ、礼安ちゃん。正直……君はパワーでものを言わせるタイプじゃあない、能力と体をバランスよく扱うバランスタイプだ。この手の相手は……君向きじゃあないんだ!」
「でも……やらないといけないんだ、私が……!」
歯を食いしばりながらも、痺れを振り払って何とか立ち上がる礼安。痛みは一切感じていない様子であったが、丙良と加賀美にとっては心配事の塊であった。自分よりも後輩である以上、経験や場数に関しては丙良の方が上。状況判断能力に秀でた彼を超える存在は、信玄含む三人のうち存在しない。
「私も私で……せめて日光に代わるものがあれば……少しくらいは役に立てる……礼安ちゃん、出来るかな」
黙ったまま頷くと、屈んだ状態で部屋全体に『雷』の力をぶち撒ける。微細なコントロールを行った上で、一点に集中させる。超電流によって作り上げた、疑似的な光源である。
一瞬、信玄の怪人体がそれに戸惑うも、その一瞬の隙を丙良と加賀美は好機と踏んだ。
「今だ礼安ちゃん!! 『勢いを強く』してくれ!!」
雄叫びと共に能力をさらに一瞬だけ強くし、光源としての光量を爆発的に高める。それはかつて信玄が扱った戦術である、閃光手榴弾≪フラッシュバン≫としての変則殺法であった。
「思い出せ、信玄!!」
加賀美と共に、勢いよく斬りかかる丙良。
しかし、信玄は目を潰されたのにも拘らず、すぐさま連続で舌打ちをしたのだ。
その瞬間に、丙良はロック・バスターを脳天に振り下ろすことを中断、咄嗟に加賀美を片腕で抱きながら防御態勢を整えた。
その不吉な予感は的中し、ロック・バスターにて丁度防御態勢を取った、丙良の胴体部ど真ん中に、超高速の絶大な質量を持った左ストレートが叩き込まれる。勢いそのままに、礼安よりも後ろに勢いを殺しきれぬままに着地する。
ただの感覚で、かつて相対した琴音のような、反響定位を即席で利用したのだ。本人は盲目の存在ではないために、そのトレーニングを積んでいる訳では無かったのだが、歪んだ魔力によって感覚を増幅させた上でそれを可能にしてみせたのだ。
だが、ただで終わる二年次二人ではなかった。丙良の腕の中を離れた加賀美は、ロック・バスターを土台にし、飛び出す準備を即座に整えたのだ。
「クリック音で捉え切れないほど、速くぶっ飛べば行けるはず!! 今の条件だったら……私の身体能力も向上してる!!」
吹き飛ばされた勢いをバネにしながら、一息に弾き飛ばす加賀美。理性がほぼ消えた信玄も、自らの危機を察知してかすぐにクリック音による索敵を行うも、礼安がそれを完全に阻止する。
「電力、さらに増量だ!!」
クリック音をかき消すほどの放電音が、音による索敵を完全に殺した瞬間であった。
「「「行けェェェェェッ!!」」」
加賀美の小型チェーンソーが、その勢いのまま胸板に深く突き刺さる。高速で起動する無数の刃が、肉をかき分け的確なダメージを与える。当の本人が惨劇ものが苦手であるために、その光景を見つめることはできないが、光が当たっていることによる圧倒的駆動音と感覚によってダメージを実感する。
しかし、出血多量な中でも、信玄は加賀美の肉体を乱暴に掴み取る。握っただけで、胴体部の骨が酷く軋み、罅が入る。
『オ前 邪魔』
二度と反抗が出来ないようにじわじわと痛めつけるも、加賀美の目は死んでいなかった。光による目潰しから、ようやく視界を確保できた信玄怪人体は、彼女の一切死んでいない目を確認してしまったがために、殺さないまでも行動できないように動きを封じることを思考した。
だが、以前のような気弱さが薄れた加賀美にとって、これほどの逆境はまだ追い風の状況であった。
即座に自らの背から抜き出すは、異聖剣アロンダイト。光に関する力の上昇要素は無いものの、意表を突く上では適していた。
闇の力を纏った斬撃波を薙いで放ち、両眼を完全に潰したのだ。しかも、元々百喰の剣であるために出力は加賀美の物よりも数段上、何ならば丙良の物よりも上の性能をしているために、傷を治すには治療に魔力ソースを注がないと話にならない。闇の力によって攻撃した相手に対し各種能力にデバフが掛けられるためである。
「今です、二人とも!!」
腕から逃れる中で、自身の小型チェーンソーを乱暴に引き抜き、胴体を蹴って宙に帰る加賀美。後方にて力を溜め切った二人が待ち構えていたのだ。
「行くよ、合同演習会ぶりに!!」
「派手に決めよう、丙良ししょー!!」
ロック・バスターの取っ手を三度バイクのアクセルのように回し、ドライバー両端を激しく押し込んで準備は万端。
『『合体必殺承認! マグネシアンアンサンブル・インテルメッツォ!!』』
以前の物より出力が向上し、ロック・バスターに砂鉄によって補強された巨大な刃を生成、それで何度も信玄を斬りつけた上で、露わになった心臓部に礼安が土の力で補強された飛び蹴りを叩き込む。
あの時以上と言える圧倒的な威力に、思わず巨体が吹き飛び、信玄側の壁に思い切り叩きつけられる。
一見水と油同然、真逆の性質を持った雷と土の合わせ技。土だけではなく、砂鉄を操ることが可能な丙良だからこその芸当であった。
「やりましたね、二人とも! これで――」
「加賀美さん、下がっていた方が良い」
白熱する加賀美を、片手で制止する丙良。それは礼安も一緒であり、唯一変身していない戦力の加賀美を護るように立つ。
「――駄目だった、勝負はまだ終わってない」
傷がこれまで以上の速度で癒えていく。戦闘に意識が行っていないだけで、これまで敵対した存在の中で、最も早い速度で癒えていくのだ。
「正直……ここまでとは思わなかった。元々の彼が強いのもあるが……ここまで記憶を弄られた上で強化されているだなんて……」
「――きっと、私への造られた憎しみが、そうさせているんだと思う。これまで……欠落した感情を学んでいく中で知れた経験と知識の内に……『感情』の生み出す力は凄まじいことを知ったから」
かつて母を亡くし、感情を喪失した彼女が感情を学んでいく中で、『感情』の力というものを、その概念と共に学んできた。だからこそ、信玄の底力の恐ろしさを理解していたのだ。
嘘から始まった恨みであっても、当人を突き動かすエネルギーとしては十分であったのだ。
「……礼安ちゃん、有効打を入れるきっかけ、作れるかな」
「――ハッキリ言うなら……現時点だと『無理』だよ」
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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