〜2〜
ー/ー コタツテーブルの上に封筒を置き、戸棚からアップルティーのティーパックとカップを取り出す。再びコタツへ潜り込むとテーブルの上に置いてある小さいポットからカップにお湯を注ぐ。白い湯気とともにアップルティーの香りが鼻をかすめる。カップの中で徐々に色を滲ませるティーパックをしばし見つめる恵理。ため息が一つ大きくもれる。
視線は隣の封筒へと移される。恵理は断りの理由を考えていた。妹の結婚式になど今更顔を出す気にはなれなかった。そんな事、奈々も分かっているはずなのにと恵理は思った。
いつからだろう。
恵理は指折り数えて確かめる。気がつけば9年もの月日が流れていた。妹だけではなく、恵理は両親とも一切の連絡を途絶えていた。
「お姉ちゃんかぁ……」
9年ぶりに聞く妹の声。そして妹の笑顔。
恵理はカップの中のティーパックを上下に数回振ってお湯を切り、小皿に移すとアップルティーをすすり、遠き過去の思い出を振り返る。あれは14年前、恵理がまだ小学5年生の頃だった……
「恵理ちゃん、お父さん欲しくない?」
恵理はある日突然母親からそう尋ねられた。
「お父さん?」
恵理の父親は彼女が物心着く前に他界していた。他の友達の家庭には居て当たり前の父親という存在。もっと幼い頃は、どうして家にはお父さんが居ないのと愚図ついた事もあったが、今では女手一つで育ててくれる母親に感謝しそんな不満は漏らしていなかった。
だが女一人で子供を育てていくという事は娘の目から見ても大変そうだと感じてはいた。支えてくれる人が現れたんだとすれば、それは喜ばしい事だった。
「うん、欲しい」
突然増える家族と上手くやっていけるのかという不安はやはりあったが、恵理は快く賛成をしたのだった。
「ねぇ、どんな人なの?かっこいい?あ、でも優しい方がいいな」
「ふふふ、かっこ良くてね、優しい人よ……」
それから数日後、恵理は母親に連れられてとある郊外の一軒家を訪ねた。2階建ての大きなその家は外観もおしゃれで恵理はとても気に入った。建物の横には芝生の植えられている小さな庭もあり、なんとブランコまで設備されていた。
「恵理ちゃん、行儀良くお願いね」
母親にそう言われると少し緊張気味の恵理は頷いた。呼び鈴を鳴らして数秒。玄関の扉が開かれる。
「いらっしゃい、良く来たね」
出迎えてくれた男はすらっと背が高く、口ひげを生やして優しそうな笑顔が印象の人だった。男が恵理を見ると、
「君が恵理ちゃんか、よろしくな」
といって頭をなでてきた。いつもの母親の手とは違う大きな手のひら。父親という存在はこんな感じなのかなと初めて思う恵理だった。
「恵理です、よろしくお願いします」
お辞儀をして恵理が挨拶すると男はまたも優しく笑うのだった。
「おい、奈々。お前もちゃんと挨拶しないとダメじゃないか」
男は自分の膝の後ろ辺りに向かってそう言うと、そこからおずおずと顔を出す少女が現れた。
人見知りをするのか少女は表情を固くして何も喋らない。恵理は少女に手を振ってみる。それに気づいた少女は男の膝の裏にまた隠れてしまった。
「おいおい、どうした奈々。恥ずかしいのか?」
顔を男の足にぴったりくっつけて離れない少女。
「こんにちわ、奈々ちゃん」
恵理が声をかけると少女はゆっくり顔を上げる。だが目が合うとまた顔を伏せてしまう。
それでも気になるのかまた顔を上げるのだが、目が合うとやはり伏せてしまう。興味があるのは明白であった。
恵理はちょっとした事を思いつく。少女が顔を伏せている時に恵理は母親の後ろに隠れた。顔を上げた時、急に居なくなった恵理に驚き男から離れて玄関を覗く少女。恵理はきょろきょろしている少女に「ばぁ~」と言いながら突然姿を見せる。
「きゃ~」と悲鳴の様に笑いはしゃぎながら少女は男の後ろにまた隠れた。
「奈々ちゃんは今何歳?」
打ち解け始めたと手応えを感じた恵理は少女に話しかけてみた。するとゆっくりと顔を上げた少女は「8歳……」と一言言って恥ずかしそうに微笑んだ。
そんなやり取りに大人二人も微笑ましく見ているのだった。
視線は隣の封筒へと移される。恵理は断りの理由を考えていた。妹の結婚式になど今更顔を出す気にはなれなかった。そんな事、奈々も分かっているはずなのにと恵理は思った。
いつからだろう。
恵理は指折り数えて確かめる。気がつけば9年もの月日が流れていた。妹だけではなく、恵理は両親とも一切の連絡を途絶えていた。
「お姉ちゃんかぁ……」
9年ぶりに聞く妹の声。そして妹の笑顔。
恵理はカップの中のティーパックを上下に数回振ってお湯を切り、小皿に移すとアップルティーをすすり、遠き過去の思い出を振り返る。あれは14年前、恵理がまだ小学5年生の頃だった……
「恵理ちゃん、お父さん欲しくない?」
恵理はある日突然母親からそう尋ねられた。
「お父さん?」
恵理の父親は彼女が物心着く前に他界していた。他の友達の家庭には居て当たり前の父親という存在。もっと幼い頃は、どうして家にはお父さんが居ないのと愚図ついた事もあったが、今では女手一つで育ててくれる母親に感謝しそんな不満は漏らしていなかった。
だが女一人で子供を育てていくという事は娘の目から見ても大変そうだと感じてはいた。支えてくれる人が現れたんだとすれば、それは喜ばしい事だった。
「うん、欲しい」
突然増える家族と上手くやっていけるのかという不安はやはりあったが、恵理は快く賛成をしたのだった。
「ねぇ、どんな人なの?かっこいい?あ、でも優しい方がいいな」
「ふふふ、かっこ良くてね、優しい人よ……」
それから数日後、恵理は母親に連れられてとある郊外の一軒家を訪ねた。2階建ての大きなその家は外観もおしゃれで恵理はとても気に入った。建物の横には芝生の植えられている小さな庭もあり、なんとブランコまで設備されていた。
「恵理ちゃん、行儀良くお願いね」
母親にそう言われると少し緊張気味の恵理は頷いた。呼び鈴を鳴らして数秒。玄関の扉が開かれる。
「いらっしゃい、良く来たね」
出迎えてくれた男はすらっと背が高く、口ひげを生やして優しそうな笑顔が印象の人だった。男が恵理を見ると、
「君が恵理ちゃんか、よろしくな」
といって頭をなでてきた。いつもの母親の手とは違う大きな手のひら。父親という存在はこんな感じなのかなと初めて思う恵理だった。
「恵理です、よろしくお願いします」
お辞儀をして恵理が挨拶すると男はまたも優しく笑うのだった。
「おい、奈々。お前もちゃんと挨拶しないとダメじゃないか」
男は自分の膝の後ろ辺りに向かってそう言うと、そこからおずおずと顔を出す少女が現れた。
人見知りをするのか少女は表情を固くして何も喋らない。恵理は少女に手を振ってみる。それに気づいた少女は男の膝の裏にまた隠れてしまった。
「おいおい、どうした奈々。恥ずかしいのか?」
顔を男の足にぴったりくっつけて離れない少女。
「こんにちわ、奈々ちゃん」
恵理が声をかけると少女はゆっくり顔を上げる。だが目が合うとまた顔を伏せてしまう。
それでも気になるのかまた顔を上げるのだが、目が合うとやはり伏せてしまう。興味があるのは明白であった。
恵理はちょっとした事を思いつく。少女が顔を伏せている時に恵理は母親の後ろに隠れた。顔を上げた時、急に居なくなった恵理に驚き男から離れて玄関を覗く少女。恵理はきょろきょろしている少女に「ばぁ~」と言いながら突然姿を見せる。
「きゃ~」と悲鳴の様に笑いはしゃぎながら少女は男の後ろにまた隠れた。
「奈々ちゃんは今何歳?」
打ち解け始めたと手応えを感じた恵理は少女に話しかけてみた。するとゆっくりと顔を上げた少女は「8歳……」と一言言って恥ずかしそうに微笑んだ。
そんなやり取りに大人二人も微笑ましく見ているのだった。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
コタツテーブルの上に封筒を置き、戸棚からアップルティーのティーパックとカップを取り出す。再びコタツへ潜り込むとテーブルの上に置いてある小さいポットからカップにお湯を注ぐ。白い湯気とともにアップルティーの香りが鼻をかすめる。カップの中で徐々に色を滲ませるティーパックをしばし見つめる恵理。ため息が一つ大きくもれる。
視線は隣の封筒へと移される。恵理は断りの理由を考えていた。妹の結婚式になど今更顔を出す気にはなれなかった。そんな事、奈々も分かっているはずなのにと恵理は思った。
いつからだろう。
恵理は指折り数えて確かめる。気がつけば9年もの月日が流れていた。妹だけではなく、恵理は両親とも一切の連絡を途絶えていた。
「お姉ちゃんかぁ……」
9年ぶりに聞く妹の声。そして妹の笑顔。
恵理はカップの中のティーパックを上下に数回振ってお湯を切り、小皿に移すとアップルティーをすすり、遠き過去の思い出を振り返る。あれは14年前、恵理がまだ小学5年生の頃だった……
視線は隣の封筒へと移される。恵理は断りの理由を考えていた。妹の結婚式になど今更顔を出す気にはなれなかった。そんな事、奈々も分かっているはずなのにと恵理は思った。
いつからだろう。
恵理は指折り数えて確かめる。気がつけば9年もの月日が流れていた。妹だけではなく、恵理は両親とも一切の連絡を途絶えていた。
「お姉ちゃんかぁ……」
9年ぶりに聞く妹の声。そして妹の笑顔。
恵理はカップの中のティーパックを上下に数回振ってお湯を切り、小皿に移すとアップルティーをすすり、遠き過去の思い出を振り返る。あれは14年前、恵理がまだ小学5年生の頃だった……
「恵理ちゃん、お父さん欲しくない?」
恵理はある日突然母親からそう尋ねられた。
「お父さん?」
恵理の父親は彼女が物心着く前に他界していた。他の友達の家庭には居て当たり前の父親という存在。もっと幼い頃は、どうして家にはお父さんが居ないのと愚図ついた事もあったが、今では女手一つで育ててくれる母親に感謝しそんな不満は漏らしていなかった。
だが女一人で子供を育てていくという事は娘の目から見ても大変そうだと感じてはいた。支えてくれる人が現れたんだとすれば、それは喜ばしい事だった。
「うん、欲しい」
突然増える家族と上手くやっていけるのかという不安はやはりあったが、恵理は快く賛成をしたのだった。
「ねぇ、どんな人なの?かっこいい?あ、でも優しい方がいいな」
「ふふふ、かっこ良くてね、優しい人よ……」
恵理はある日突然母親からそう尋ねられた。
「お父さん?」
恵理の父親は彼女が物心着く前に他界していた。他の友達の家庭には居て当たり前の父親という存在。もっと幼い頃は、どうして家にはお父さんが居ないのと愚図ついた事もあったが、今では女手一つで育ててくれる母親に感謝しそんな不満は漏らしていなかった。
だが女一人で子供を育てていくという事は娘の目から見ても大変そうだと感じてはいた。支えてくれる人が現れたんだとすれば、それは喜ばしい事だった。
「うん、欲しい」
突然増える家族と上手くやっていけるのかという不安はやはりあったが、恵理は快く賛成をしたのだった。
「ねぇ、どんな人なの?かっこいい?あ、でも優しい方がいいな」
「ふふふ、かっこ良くてね、優しい人よ……」
それから数日後、恵理は母親に連れられてとある郊外の一軒家を訪ねた。2階建ての大きなその家は外観もおしゃれで恵理はとても気に入った。建物の横には芝生の植えられている小さな庭もあり、なんとブランコまで設備されていた。
「恵理ちゃん、行儀良くお願いね」
母親にそう言われると少し緊張気味の恵理は頷いた。呼び鈴を鳴らして数秒。玄関の扉が開かれる。
「いらっしゃい、良く来たね」
出迎えてくれた男はすらっと背が高く、口ひげを生やして優しそうな笑顔が印象の人だった。男が恵理を見ると、
「君が恵理ちゃんか、よろしくな」
といって頭をなでてきた。いつもの母親の手とは違う大きな手のひら。父親という存在はこんな感じなのかなと初めて思う恵理だった。
「恵理です、よろしくお願いします」
お辞儀をして恵理が挨拶すると男はまたも優しく笑うのだった。
「おい、奈々。お前もちゃんと挨拶しないとダメじゃないか」
男は自分の膝の後ろ辺りに向かってそう言うと、そこからおずおずと顔を出す少女が現れた。
人見知りをするのか少女は表情を固くして何も喋らない。恵理は少女に手を振ってみる。それに気づいた少女は男の膝の裏にまた隠れてしまった。
「おいおい、どうした奈々。恥ずかしいのか?」
顔を男の足にぴったりくっつけて離れない少女。
「こんにちわ、奈々ちゃん」
恵理が声をかけると少女はゆっくり顔を上げる。だが目が合うとまた顔を伏せてしまう。
それでも気になるのかまた顔を上げるのだが、目が合うとやはり伏せてしまう。興味があるのは明白であった。
恵理はちょっとした事を思いつく。少女が顔を伏せている時に恵理は母親の後ろに隠れた。顔を上げた時、急に居なくなった恵理に驚き男から離れて玄関を覗く少女。恵理はきょろきょろしている少女に「ばぁ~」と言いながら突然姿を見せる。
「きゃ~」と悲鳴の様に笑いはしゃぎながら少女は男の後ろにまた隠れた。
「奈々ちゃんは今何歳?」
打ち解け始めたと手応えを感じた恵理は少女に話しかけてみた。するとゆっくりと顔を上げた少女は「8歳……」と一言言って恥ずかしそうに微笑んだ。
そんなやり取りに大人二人も微笑ましく見ているのだった。
「恵理ちゃん、行儀良くお願いね」
母親にそう言われると少し緊張気味の恵理は頷いた。呼び鈴を鳴らして数秒。玄関の扉が開かれる。
「いらっしゃい、良く来たね」
出迎えてくれた男はすらっと背が高く、口ひげを生やして優しそうな笑顔が印象の人だった。男が恵理を見ると、
「君が恵理ちゃんか、よろしくな」
といって頭をなでてきた。いつもの母親の手とは違う大きな手のひら。父親という存在はこんな感じなのかなと初めて思う恵理だった。
「恵理です、よろしくお願いします」
お辞儀をして恵理が挨拶すると男はまたも優しく笑うのだった。
「おい、奈々。お前もちゃんと挨拶しないとダメじゃないか」
男は自分の膝の後ろ辺りに向かってそう言うと、そこからおずおずと顔を出す少女が現れた。
人見知りをするのか少女は表情を固くして何も喋らない。恵理は少女に手を振ってみる。それに気づいた少女は男の膝の裏にまた隠れてしまった。
「おいおい、どうした奈々。恥ずかしいのか?」
顔を男の足にぴったりくっつけて離れない少女。
「こんにちわ、奈々ちゃん」
恵理が声をかけると少女はゆっくり顔を上げる。だが目が合うとまた顔を伏せてしまう。
それでも気になるのかまた顔を上げるのだが、目が合うとやはり伏せてしまう。興味があるのは明白であった。
恵理はちょっとした事を思いつく。少女が顔を伏せている時に恵理は母親の後ろに隠れた。顔を上げた時、急に居なくなった恵理に驚き男から離れて玄関を覗く少女。恵理はきょろきょろしている少女に「ばぁ~」と言いながら突然姿を見せる。
「きゃ~」と悲鳴の様に笑いはしゃぎながら少女は男の後ろにまた隠れた。
「奈々ちゃんは今何歳?」
打ち解け始めたと手応えを感じた恵理は少女に話しかけてみた。するとゆっくりと顔を上げた少女は「8歳……」と一言言って恥ずかしそうに微笑んだ。
そんなやり取りに大人二人も微笑ましく見ているのだった。