〜1〜
ー/ー 年の瀬も押し寄せる、ある日曜日の夕暮れ時。秋宮奈々は緊張の面持ちで目の前のドアチャイムを見つめている。
彼女がここまでやって来るには、相当な勇気が必要であった。幾度と無く引き返そうとする気持ちは彼女の両足を鉛の様に重くしていた。だが彼女はここまで辿り着いた。どうしても会わなくてはならない人がここにいるのだ。彼女は小さな鞄を開けてその相手に渡すものを確認した。それを取り出すと胸にあてまぶたを閉じる。楽しかったあの頃を思い浮かべると自然と表情が緩んでくる。
深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。開かれた瞼。視線の先には再びドアチャイム。落ち着かせた鼓動が大きく耳元に響いている。
緊張と不安で震える指は、ようやくドアチャイムを鳴らすことができた。
――ピンポーン――
秋宮恵理はコタツの布団にうつ伏せで潜り込み、かたつむりの様な格好で友達と携帯電話で話をしていた。
「あ、ごめん。誰か来たみたい。……うん、分かった。じゃ、あとでメールするね。は~い、バイバイ」
電話を切ると恵理は名残惜しそうな面持ちでコタツと惜別の別れをし玄関へと足を運んだ。覗き窓で訪問客を確かめると、そこに立っていたのが意外な人物で恵理は驚いた。
ドアノブを手にした恵理だったが、一瞬ドアを開ける事をためらわれる。どうしようかと少し悩んだが恵理は施錠を外して扉を開けた。
そこにはピンクのコートに包まれた女性が立っていた。もう随分と会っていなかったが面影が少し残っている彼女は確かに奈々であった。
「あ、久しぶり。お姉ちゃん」
久しぶりに顔を合わせた奈々は緊張で縮こまっているせいか、元々小さな身体が更に小さく見えた。
「どうしたの?急に訪ねてきて」
どんな顔で接したらいいのか分からない恵理は、無表情で事務的に用件を済ませようとした。
「あの、え~とね。私、来月結婚する事になったの」
「そう」
たいした反応もせずに興味なさそうに返事をする恵理。
「それで、お姉ちゃんにも結婚式に出席してもらいたくて」
そう言うと手に持っていた封筒を恵理の目の前に差し出した。
「それなら普通に郵便で送ればよかったのに」
差し出された封筒を受け取り恵理は言う。
「うん。でも久しぶりにお姉ちゃんの顔が見たくなってね。直接渡したかったんだ」
昔を思い出させる奈々の笑顔だった。恵理の胸が少し痛くなる。
「来月か……、行けるかちょっと……」
「絶対来てね。待ってるから」
恵理の返事を聞き終わる前に奈々は言葉をかぶせる様にそう言った。
「じゃあ、行くね」
背中を向けて去って行く奈々。らしくない強引な彼女に少し驚いた恵理は、何も言えずに小さくなる背中を見つめていた。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
年の瀬も押し寄せる、ある日曜日の夕暮れ時。秋宮奈々は緊張の面持ちで目の前のドアチャイムを見つめている。 彼女がここまでやって来るには、相当な勇気が必要であった。幾度と無く引き返そうとする気持ちは彼女の両足を鉛の様に重くしていた。だが彼女はここまで辿り着いた。どうしても会わなくてはならない人がここにいるのだ。彼女は小さな鞄を開けてその相手に渡すものを確認した。それを取り出すと胸にあてまぶたを閉じる。楽しかったあの頃を思い浮かべると自然と表情が緩んでくる。
深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。開かれた瞼。視線の先には再びドアチャイム。落ち着かせた鼓動が大きく耳元に響いている。
緊張と不安で震える指は、ようやくドアチャイムを鳴らすことができた。
――ピンポーン――
秋宮恵理はコタツの布団にうつ伏せで潜り込み、かたつむりの様な格好で友達と携帯電話で話をしていた。
「あ、ごめん。誰か来たみたい。……うん、分かった。じゃ、あとでメールするね。は~い、バイバイ」
電話を切ると恵理は名残惜しそうな面持ちでコタツと惜別の別れをし玄関へと足を運んだ。覗き窓で訪問客を確かめると、そこに立っていたのが意外な人物で恵理は驚いた。
ドアノブを手にした恵理だったが、一瞬ドアを開ける事をためらわれる。どうしようかと少し悩んだが恵理は施錠を外して扉を開けた。
そこにはピンクのコートに包まれた女性が立っていた。もう随分と会っていなかったが面影が少し残っている彼女は確かに奈々であった。
「あ、久しぶり。お姉ちゃん」
久しぶりに顔を合わせた奈々は緊張で縮こまっているせいか、元々小さな身体が更に小さく見えた。
「どうしたの?急に訪ねてきて」
どんな顔で接したらいいのか分からない恵理は、無表情で事務的に用件を済ませようとした。
「あの、え~とね。私、来月結婚する事になったの」
「そう」
たいした反応もせずに興味なさそうに返事をする恵理。
「それで、お姉ちゃんにも結婚式に出席してもらいたくて」
そう言うと手に持っていた封筒を恵理の目の前に差し出した。
「それなら普通に郵便で送ればよかったのに」
差し出された封筒を受け取り恵理は言う。
「うん。でも久しぶりにお姉ちゃんの顔が見たくなってね。直接渡したかったんだ」
昔を思い出させる奈々の笑顔だった。恵理の胸が少し痛くなる。
「来月か……、行けるかちょっと……」
「絶対来てね。待ってるから」
恵理の返事を聞き終わる前に奈々は言葉をかぶせる様にそう言った。
「じゃあ、行くね」
背中を向けて去って行く奈々。らしくない強引な彼女に少し驚いた恵理は、何も言えずに小さくなる背中を見つめていた。