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#19

ー/ー



「ここよ」

 手を引かれながら一度に作られたのかと思うほど酷似する家々を眺めながら進むと、しばらくして女児が立ち止まったのはやはり他と大差ない急こう配の屋根を持つクリーム色の家だった。リオンの家もそうだったが外国では珍しい外開き戸を子供が引き、招き入れられ再び戸を閉めた途端、女は違和感を感じた。

 本来であれば暖かい空気が身を包むとはずが何故か屋内だと言うのに冷たい風が頬を撫でる。女は不思議に思ったが隣の女児がまるで何も感じていない風だったので気のせいだと思いパーカを脱ごうとすると、「パーカは脱がないでね。こっちよ」とまた手を引くので大人しく廊下を進むことにした。

 先の感覚が気のせいではなかったと察する。
 奥に行くほど温度が下がっているのだ。本来家人が起きて居れば火を焚いているであろうリビングに近づくにつれ肌を包む空気の温度も上がってしかるべきだが、玄関から数メートルの間に床板の木目が見えぬ程霜が降り、扉の前に着く頃には薄く雪まで積もっていた。

「ただいまお母さん。お父さんの具合は?」
「お帰りシェリー。具合は相変わらずよくないね。天井を見てご覧、氷柱が増える一方でシャンデリアみたいさ」

 リビングには暖炉に薪をくべる女性と、暖炉の目の前で安楽椅子に腰かける人間大の【なにか】が居た。屋内だと言うのに外出着の女性は白くなった息を吐きつつ一心に暖炉へ薪をくべており、振り返ると見知らぬ女が我が子の隣に居ることに気が付き女児に尋ねた。

「この方は?」
「この人はジローだよ。日本から来たんだけど、村にはない知識も持ってるだろうし何か力になってくれるかと思って」

 シロは色々と訂正すべきかと迷ったが、もうジローで定着しているようだし日本人にも変わりないので、小さく会釈するに留めおく。そして暖炉前の安楽椅子に座ったまま、急な来客に顔も向けない【なにか】の正面に移動し俯いている顔を覗き込んだ。

 それは人間だった。やはりパーカを着こんでいるがその様子は女児の母親と異なり、服の表面にはびっしりと霜が付きパーカのフードに覆われ、男に見える顔面は毛という毛が凍り付いている。
 まつ毛は上下で癒着して堅牢に閉じ、蓄えられた髯も針金のように固く氷柱まで伸びていた。

「すいませんこの子ったら。旅の方をこんな場に」
「いや構わない。どうせ吹雪が止むまで暇だからな」

「それでも精霊憑きの近くに寄るなんて恐ろしいでしょう」
「なんてことないさ。こういうことはよくある」

「日本ではよくあるのですか?」
「ああ、怪異だの精霊だの悪魔だのってのと縁の深い国だからな。ちょっと待ってな」
「ほらね言ったでしょ。ジローは日本人だから色んな事知ってるんだよ」

 シェリーが胸を張っている間にシロはまるでそうするのが当然とでも言うように安楽椅子に座る男を無理やり仰向けにする。
 そして暖炉で真っ赤に燃える薪を火箸で掴み取り、男の凍った額に押し付けた。

 いきなりの事に妻は悲鳴交じりにシロを突き飛ばそうとしたが、拳闘士になるべくアステカに移住し、日々神々相手のスパーリングで磨き上げた肉体はびくともせず、狼藉者は暖炉に薪を戻すと今度は黒曜石の短剣を抜き放つ。
 そして女児と母親が瞠目する中、たった今焼いたばかりの額に浅く突き立てた。

 子供は呆然と立ち尽くし妻が止めに抱き着いた腕からずるずると崩れ落ち霜だらけの床にへたり込む。
 二人の事など気に留めない女は「これでよし」と呟き、悠々と腰の裏手に携える鞘に短剣を戻し女児の隣へと戻った。



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「ここよ」
 手を引かれながら一度に作られたのかと思うほど酷似する家々を眺めながら進むと、しばらくして女児が立ち止まったのはやはり他と大差ない急こう配の屋根を持つクリーム色の家だった。リオンの家もそうだったが外国では珍しい外開き戸を子供が引き、招き入れられ再び戸を閉めた途端、女は違和感を感じた。
 本来であれば暖かい空気が身を包むとはずが何故か屋内だと言うのに冷たい風が頬を撫でる。女は不思議に思ったが隣の女児がまるで何も感じていない風だったので気のせいだと思いパーカを脱ごうとすると、「パーカは脱がないでね。こっちよ」とまた手を引くので大人しく廊下を進むことにした。
 先の感覚が気のせいではなかったと察する。
 奥に行くほど温度が下がっているのだ。本来家人が起きて居れば火を焚いているであろうリビングに近づくにつれ肌を包む空気の温度も上がってしかるべきだが、玄関から数メートルの間に床板の木目が見えぬ程霜が降り、扉の前に着く頃には薄く雪まで積もっていた。
「ただいまお母さん。お父さんの具合は?」
「お帰りシェリー。具合は相変わらずよくないね。天井を見てご覧、氷柱が増える一方でシャンデリアみたいさ」
 リビングには暖炉に薪をくべる女性と、暖炉の目の前で安楽椅子に腰かける人間大の【なにか】が居た。屋内だと言うのに外出着の女性は白くなった息を吐きつつ一心に暖炉へ薪をくべており、振り返ると見知らぬ女が我が子の隣に居ることに気が付き女児に尋ねた。
「この方は?」
「この人はジローだよ。日本から来たんだけど、村にはない知識も持ってるだろうし何か力になってくれるかと思って」
 シロは色々と訂正すべきかと迷ったが、もうジローで定着しているようだし日本人にも変わりないので、小さく会釈するに留めおく。そして暖炉前の安楽椅子に座ったまま、急な来客に顔も向けない【なにか】の正面に移動し俯いている顔を覗き込んだ。
 それは人間だった。やはりパーカを着こんでいるがその様子は女児の母親と異なり、服の表面にはびっしりと霜が付きパーカのフードに覆われ、男に見える顔面は毛という毛が凍り付いている。
 まつ毛は上下で癒着して堅牢に閉じ、蓄えられた髯も針金のように固く氷柱まで伸びていた。
「すいませんこの子ったら。旅の方をこんな場に」
「いや構わない。どうせ吹雪が止むまで暇だからな」
「それでも精霊憑きの近くに寄るなんて恐ろしいでしょう」
「なんてことないさ。こういうことはよくある」
「日本ではよくあるのですか?」
「ああ、怪異だの精霊だの悪魔だのってのと縁の深い国だからな。ちょっと待ってな」
「ほらね言ったでしょ。ジローは日本人だから色んな事知ってるんだよ」
 シェリーが胸を張っている間にシロはまるでそうするのが当然とでも言うように安楽椅子に座る男を無理やり仰向けにする。
 そして暖炉で真っ赤に燃える薪を火箸で掴み取り、男の凍った額に押し付けた。
 いきなりの事に妻は悲鳴交じりにシロを突き飛ばそうとしたが、拳闘士になるべくアステカに移住し、日々神々相手のスパーリングで磨き上げた肉体はびくともせず、狼藉者は暖炉に薪を戻すと今度は黒曜石の短剣を抜き放つ。
 そして女児と母親が瞠目する中、たった今焼いたばかりの額に浅く突き立てた。
 子供は呆然と立ち尽くし妻が止めに抱き着いた腕からずるずると崩れ落ち霜だらけの床にへたり込む。
 二人の事など気に留めない女は「これでよし」と呟き、悠々と腰の裏手に携える鞘に短剣を戻し女児の隣へと戻った。