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#18

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 食事を終えたシロはスキレット洗ってからパーカに袖を通し、昨晩よりはましだがやはり重たい玄関から出て空を見上げた。
 案の定、太陽は厚い雪雲の向こうに隠れている。まさしく雪国の朝であったが日本の近畿地方とアステカでの暮らししか知らぬ彼女には朝という感じがしなかった。

 すっきりしないまま家を後にして昨日辿った道で村に向かうと徐々に子供の声が聞こえ始める。何処の国でも子供は外で遊ぶものだが吹雪の中でもそうなのかと女が関心していると、他国の例にもれず奇声をあげながら追いかけっこをしていた見知らぬ子供のうちの一人が寄って来るのが見えた。

「ジローさんどうしたの?一緒に遊ぶ?」
「お誘いは嬉しいがその前にやることがあってな。この村にスーパーか電気屋はないか?とにかく電池が欲しいんだが」
「ある!あるよ!こっちこっち!みんな、ジローさんがスーパーに行くんだって!」

 最初に寄ってきた馴れ馴れしい子供が声を挙げるとそれに釣られるように一緒に遊んでいた者も寄って来て、遠巻きについて来る女児共も含めるとその数は両手の指では足りぬ程となっていた。

「スーパーに行くだけだぞ?」

 振り返って説明したが、それでも子供達は客人の周りを取り囲み質問攻めを開始。

「今日は何するの?」
「明日は?」
「何歳なの?」
「他の国にも行ったことある?」

 適当に選べばいい物を全ての質問に律儀に答え、朝から体力を消耗しながら案内されたのは都会では見る事のない三角屋根の店だった。何はともあれ子供達に礼を告げ目的の物を探し出しレジに進む。考えを纏める為の手帳とシャープペンシル、そして最も重要な電池も忘れずに。

 店を出る前に会計所を出てすぐのベンチでフィルムを剥がす。さっそく日本を出る時から持ち続けている電池式充電器に嵌め込んで、ケーブルの繋がるスマホの画面から無事エネルギーチャージが始まった事がわかり女は一安心した。基本的に用事がないときは連絡しないタイプであったので別に急いで確認したいことがあった訳でもないのだが、方向音痴なのでネリット族の村灯りが見えるまで頻繁にマップを確認していたし、なにより時間が分からないというのがこんなに不安な気持ちになるとは思っていなかったのだ。

「ジロー僕はこれね!」
「じゃああたしはこれ!」
「ウチも!ウチも!」
「おいこら、誰も奢るなんて」

 そこまで口にしたところでふとチップと言う文化を思い出し仕方なく会計カウンターに並んだ色とりどりの菓子分を払ってやると、店に入る時に脱いだフードを被り直した子供達はそれぞれ思い思いの菓子を手にして雑な礼を伝えながら一目散に店の外へと出て行った。日本にはなかった文化なので正直未だに慣れないが、うっかり道案内を頼んだことで目的の商品の十倍以上支払う事になった女は困ったように嘆息した。

 宿だのレストランだので要求されるそれは少額ながら塵も積もればというもので実はなかなかの重税なのだが、払わなければトラブルに発展することもあるため払っておくのが無難である。彼女は日本から初の海外渡航でやらかしてから、気が付かなくとも要求があれば財布を出すことにしていた。
 ちなみにネリット族の村にチップ文化はない。これは世間知らずな旅行者が地元の子供達にたかられただけである。

 大半の子供達が元気に走り去って行く中、一人だけたかられたことにすら気が付いていない間抜けの前で佇んだままの女児がいた。

「どうした?ちょっとくらい待っててやるからお前も選んで来ていいぜ」
 子供の両手が何も握っていないのを見て、他の者に出遅れて戸惑っていると受け取ったシロは毒も喰らわば皿までと声をかける。
「……?」

 女児が一向に動き出さない様子を女が怪訝に思っていると、ベンチに座った彼女と丁度同じ目線の高さをした女児は勇気を振り絞るかのように、グローブに覆われた拳を握りしめ菓子ではなく力を貸して欲しいと願い出たのだった。


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みんなのリアクション

 食事を終えたシロはスキレット洗ってからパーカに袖を通し、昨晩よりはましだがやはり重たい玄関から出て空を見上げた。
 案の定、太陽は厚い雪雲の向こうに隠れている。まさしく雪国の朝であったが日本の近畿地方とアステカでの暮らししか知らぬ彼女には朝という感じがしなかった。
 すっきりしないまま家を後にして昨日辿った道で村に向かうと徐々に子供の声が聞こえ始める。何処の国でも子供は外で遊ぶものだが吹雪の中でもそうなのかと女が関心していると、他国の例にもれず奇声をあげながら追いかけっこをしていた見知らぬ子供のうちの一人が寄って来るのが見えた。
「ジローさんどうしたの?一緒に遊ぶ?」
「お誘いは嬉しいがその前にやることがあってな。この村にスーパーか電気屋はないか?とにかく電池が欲しいんだが」
「ある!あるよ!こっちこっち!みんな、ジローさんがスーパーに行くんだって!」
 最初に寄ってきた馴れ馴れしい子供が声を挙げるとそれに釣られるように一緒に遊んでいた者も寄って来て、遠巻きについて来る女児共も含めるとその数は両手の指では足りぬ程となっていた。
「スーパーに行くだけだぞ?」
 振り返って説明したが、それでも子供達は客人の周りを取り囲み質問攻めを開始。
「今日は何するの?」
「明日は?」
「何歳なの?」
「他の国にも行ったことある?」
 適当に選べばいい物を全ての質問に律儀に答え、朝から体力を消耗しながら案内されたのは都会では見る事のない三角屋根の店だった。何はともあれ子供達に礼を告げ目的の物を探し出しレジに進む。考えを纏める為の手帳とシャープペンシル、そして最も重要な電池も忘れずに。
 店を出る前に会計所を出てすぐのベンチでフィルムを剥がす。さっそく日本を出る時から持ち続けている電池式充電器に嵌め込んで、ケーブルの繋がるスマホの画面から無事エネルギーチャージが始まった事がわかり女は一安心した。基本的に用事がないときは連絡しないタイプであったので別に急いで確認したいことがあった訳でもないのだが、方向音痴なのでネリット族の村灯りが見えるまで頻繁にマップを確認していたし、なにより時間が分からないというのがこんなに不安な気持ちになるとは思っていなかったのだ。
「ジロー僕はこれね!」
「じゃああたしはこれ!」
「ウチも!ウチも!」
「おいこら、誰も奢るなんて」
 そこまで口にしたところでふとチップと言う文化を思い出し仕方なく会計カウンターに並んだ色とりどりの菓子分を払ってやると、店に入る時に脱いだフードを被り直した子供達はそれぞれ思い思いの菓子を手にして雑な礼を伝えながら一目散に店の外へと出て行った。日本にはなかった文化なので正直未だに慣れないが、うっかり道案内を頼んだことで目的の商品の十倍以上支払う事になった女は困ったように嘆息した。
 宿だのレストランだので要求されるそれは少額ながら塵も積もればというもので実はなかなかの重税なのだが、払わなければトラブルに発展することもあるため払っておくのが無難である。彼女は日本から初の海外渡航でやらかしてから、気が付かなくとも要求があれば財布を出すことにしていた。
 ちなみにネリット族の村にチップ文化はない。これは世間知らずな旅行者が地元の子供達にたかられただけである。
 大半の子供達が元気に走り去って行く中、一人だけたかられたことにすら気が付いていない間抜けの前で佇んだままの女児がいた。
「どうした?ちょっとくらい待っててやるからお前も選んで来ていいぜ」
 子供の両手が何も握っていないのを見て、他の者に出遅れて戸惑っていると受け取ったシロは毒も喰らわば皿までと声をかける。
「……?」
 女児が一向に動き出さない様子を女が怪訝に思っていると、ベンチに座った彼女と丁度同じ目線の高さをした女児は勇気を振り絞るかのように、グローブに覆われた拳を握りしめ菓子ではなく力を貸して欲しいと願い出たのだった。