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#16

ー/ー



 世界の終わり。

 もう一月足らずで訪れるとされているそれは、新聞やラジオ、テレビといったオールドメディアだけでなくインターネットでも伝えられ、もはや先進国では常識となっているにも関わらず実際どれほどの惨事となりうるのかは未だ予測がついていない。

 太陽系の第二惑星の小片が降り注ぐということが世界中の人々に伝えられたのはほんの半年前のことだった。大半は大気圏で燃え尽きるとされていた金星の残骸はいつの間にか綺麗な流星が見られるという楽観的なニュースから地表に多大な影響を与える大隕石に、今となっては燃え尽きるどころか地球の三分の一破壊する世界終焉の使者として報じられるようになっている。

 最初にその事に気が付いたのはとある学生だった。日に日に数が増え大きくなる明けの明星群からその大きさを計算し、各国政府の押さえていた真実の被害予想を割り出した学生は、インターネットや言伝で情報を拡散したのだ。
 大衆の掌返しは見事だった。最初は誰も信じずホラ吹きの陰謀論者だと叩かれたが、今ではどうしようもない災害への心づもりをさせてくれた人類最期の偉人との事だ。まったく度し難いものである。

 さておき世論に押された各国は有史以来初めてであろう強固な結託を示し、これまで他国へのコケ脅しにしかならなかった兵器やずっと隠し続けていた虎の子の宇宙兵器まで総動員して金星の破壊に取り組んだ。その様子は世界中でライブ中継され、街のモニターや自宅テレビの前で科学の勝利を信じて疑わなかった人々はピザとビールを片手に一足早いお祝いムードで事の次第を笑顔で見届けようとした。

 真っ暗な背景に浮かぶいくつもの宇宙ステーションから、何処の国のものかもわからないし出所など最早どうでもいい自動推進兵器が数えきれない程発射され、先に撮影位置についていたカメラがそれらの着弾する様子民衆に届けた。しかし宇宙物の漫画やアニメのような光と爆発の後に現れたのは視聴者の予想を裏切るもので、何事も無かったかのように進み続けるまるで無傷の金星群。
 インターネットはフェイクだ信じられないという阿鼻叫喚で支配され数分前までの祝賀ムードは霧散した。

 民衆の知るところではないが各国首脳が即座に会談を設け、再度地上から兵器パーツを打ち上げ組み立て今度こそ本当に人類の英知を結集したものが撃ち込まれたが、やはり何の成果もあげられず人知れず散った結果が先月発表された世界終焉日の告知である。

 年が明け一週間後に金星が地球を表面を割る。大半のメディアが「人類の生み出したどんな兵器も歯が立たず、移住しようにも宇宙ステーションの建設も間に合っていない今出来る事はただ安らかに死を迎えることだ」と報じ、また民衆もそれを受け入れた。
 歴史上において人類の多くは愚かだったが、その最後は意外にも高潔だった。

 てっきりやけを起こした者達が盗みや殺しに走るかと思われていたが、もうすぐ世界が終わると言うのに財を集めることに意味はないと悟ったのだろう。気の進まぬ手段で日々の糧を稼ごうという気持ちも無くなったのか犯罪はめっきり影を潜め、逆に富める者はせめて最後の日まで餓死せずに済むようにと食料や金銭の援助を行い、人間はまたしても有史以来類を見ないほど平穏な日常を手に入れたのだ。

「出来んなら最初からやれってんだ」

 世俗に疎いシロは村長からこっそり渡された新聞紙を読みながら一人毒づく。
 彼女が先日まで数年間過ごしたアステカは未だ人々が神と呼ぶ存在、彼女の目から見れば怪異達の跋扈しており元々毎日が祭りのようなものだったのでさほど平時と違いが見受けられなかったが、どうやら世界中の人々はやっと優しくなれたらしい。

 おびただしい血を流しながら何世紀も追い求めていたであろう『万人が隣人を愛する境地』に至れたのが滅ぶ直前という皮肉な現状が、いっそう人間を度し難い生き物だと思わせるようで女の眉間に皺を寄らせていた。更に読み進めると、ネット上ではこの情報を後進国や情報に疎い部族に教えるか否かで派閥が生まれれたらしいが、そんなことは女にはどうでもよかった。

 音を立て乱暴に新聞を閉じる。
 数週前の紙面に一通り目を通し終えた女は顔を上げて時計を探すが、残念ながら流石に止まっている壁掛け時計から時刻を知る事は出来ず、しかし窓の外の様子から夜であることは確かなので溜息と共にベッドに横になった。

 ベッド脇のナイトテーブルに置いた燭台に照らされる暗い天井に揺れる影の揺れ。
 それが自身の心の靄を表現しているようで腹が立った旅人は、身を起して必要以上の呼気を用いて勢いよく蝋燭の火を吹き消した。


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みんなのリアクション

 世界の終わり。
 もう一月足らずで訪れるとされているそれは、新聞やラジオ、テレビといったオールドメディアだけでなくインターネットでも伝えられ、もはや先進国では常識となっているにも関わらず実際どれほどの惨事となりうるのかは未だ予測がついていない。
 太陽系の第二惑星の小片が降り注ぐということが世界中の人々に伝えられたのはほんの半年前のことだった。大半は大気圏で燃え尽きるとされていた金星の残骸はいつの間にか綺麗な流星が見られるという楽観的なニュースから地表に多大な影響を与える大隕石に、今となっては燃え尽きるどころか地球の三分の一破壊する世界終焉の使者として報じられるようになっている。
 最初にその事に気が付いたのはとある学生だった。日に日に数が増え大きくなる明けの明星群からその大きさを計算し、各国政府の押さえていた真実の被害予想を割り出した学生は、インターネットや言伝で情報を拡散したのだ。
 大衆の掌返しは見事だった。最初は誰も信じずホラ吹きの陰謀論者だと叩かれたが、今ではどうしようもない災害への心づもりをさせてくれた人類最期の偉人との事だ。まったく度し難いものである。
 さておき世論に押された各国は有史以来初めてであろう強固な結託を示し、これまで他国へのコケ脅しにしかならなかった兵器やずっと隠し続けていた虎の子の宇宙兵器まで総動員して金星の破壊に取り組んだ。その様子は世界中でライブ中継され、街のモニターや自宅テレビの前で科学の勝利を信じて疑わなかった人々はピザとビールを片手に一足早いお祝いムードで事の次第を笑顔で見届けようとした。
 真っ暗な背景に浮かぶいくつもの宇宙ステーションから、何処の国のものかもわからないし出所など最早どうでもいい自動推進兵器が数えきれない程発射され、先に撮影位置についていたカメラがそれらの着弾する様子民衆に届けた。しかし宇宙物の漫画やアニメのような光と爆発の後に現れたのは視聴者の予想を裏切るもので、何事も無かったかのように進み続けるまるで無傷の金星群。
 インターネットはフェイクだ信じられないという阿鼻叫喚で支配され数分前までの祝賀ムードは霧散した。
 民衆の知るところではないが各国首脳が即座に会談を設け、再度地上から兵器パーツを打ち上げ組み立て今度こそ本当に人類の英知を結集したものが撃ち込まれたが、やはり何の成果もあげられず人知れず散った結果が先月発表された世界終焉日の告知である。
 年が明け一週間後に金星が地球を表面を割る。大半のメディアが「人類の生み出したどんな兵器も歯が立たず、移住しようにも宇宙ステーションの建設も間に合っていない今出来る事はただ安らかに死を迎えることだ」と報じ、また民衆もそれを受け入れた。
 歴史上において人類の多くは愚かだったが、その最後は意外にも高潔だった。
 てっきりやけを起こした者達が盗みや殺しに走るかと思われていたが、もうすぐ世界が終わると言うのに財を集めることに意味はないと悟ったのだろう。気の進まぬ手段で日々の糧を稼ごうという気持ちも無くなったのか犯罪はめっきり影を潜め、逆に富める者はせめて最後の日まで餓死せずに済むようにと食料や金銭の援助を行い、人間はまたしても有史以来類を見ないほど平穏な日常を手に入れたのだ。
「出来んなら最初からやれってんだ」
 世俗に疎いシロは村長からこっそり渡された新聞紙を読みながら一人毒づく。
 彼女が先日まで数年間過ごしたアステカは未だ人々が神と呼ぶ存在、彼女の目から見れば怪異達の跋扈しており元々毎日が祭りのようなものだったのでさほど平時と違いが見受けられなかったが、どうやら世界中の人々はやっと優しくなれたらしい。
 おびただしい血を流しながら何世紀も追い求めていたであろう『万人が隣人を愛する境地』に至れたのが滅ぶ直前という皮肉な現状が、いっそう人間を度し難い生き物だと思わせるようで女の眉間に皺を寄らせていた。更に読み進めると、ネット上ではこの情報を後進国や情報に疎い部族に教えるか否かで派閥が生まれれたらしいが、そんなことは女にはどうでもよかった。
 音を立て乱暴に新聞を閉じる。
 数週前の紙面に一通り目を通し終えた女は顔を上げて時計を探すが、残念ながら流石に止まっている壁掛け時計から時刻を知る事は出来ず、しかし窓の外の様子から夜であることは確かなので溜息と共にベッドに横になった。
 ベッド脇のナイトテーブルに置いた燭台に照らされる暗い天井に揺れる影の揺れ。
 それが自身の心の靄を表現しているようで腹が立った旅人は、身を起して必要以上の呼気を用いて勢いよく蝋燭の火を吹き消した。