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#15

ー/ー



 借りた家の中はリオン一家のそれよりもかなり前に建てられたのか、ずいぶん古びていたし聞いていた通り電気もない。
 扉を閉めると真っ暗になった室内で徐々に暗闇に目が慣れてきたシロは、コート掛けの直ぐ傍にある台の上に蝋燭の刺さった燭台とマッチを見つけ火を灯した。

 屋外に吹き荒れる強風のせいで却って静寂が強調される屋内は、存外広く窓は吹雪にガタつくこともない。数日の宿にするには十分事足りるどころか、野外でも平気で寝ることが出来る彼女にとっては豪華すぎる程だった。
 空気の入れ替えをすべく風向きを考え、雪の吹き込まないであろう窓を開けた女は今度はリビングで膝を付いた。夜目の利く目に感謝しながら暖炉の代わりに据えられている大きな薪ストーブの扉を開いて薪と共に貰った新聞紙を詰め込む。ストーブ脇の丸太を輪切りにしただけの天然成分100%の台の上に置かれているマッチで火をつけると、緑色の火を上げ新聞紙が、それを火種として小枝が、最後にようやく太木に燃え移り数分で火は安定した。

 時間を確認しようとスマホを取り出し昨晩充電が切れていた事を忘れていた女は、そろそろ十分に喚起できただろうと先ほど開けた窓を閉め、ストーブ脇に置かれている安楽椅子に腰をすえてからどっと息を吐く。家主に許されたため口調は粗野であったがやはり無意識に気を張ってしまっていた女は、先刻招かれていた食卓でそうしたように今一度大きく伸びをした。

 静かな夜だった。
 もちろん何日か続くという吹雪は収まる気配がなく常に風の音はしているが、それが逆に室内のしじまを演出するのに一役買っていた。

 手持無沙汰になったシロは暖まりきった部屋でふと日常ルーチンを思い出す。思い出すと落ち着かない性分の女は、部屋の隅にあった掃除道具入れから雑巾を持ち出し軽く床を拭ってから筋トレを始めた。スクワットと腹筋、そして倒立拳立て伏せをそれぞれ100回はこなす。彼女がもうずっと昔に最低限の運動量として定め、平時に限るが何年もこなし続けている日課だった。
 始めた当初はスクワットと腹筋をそれぞれ十回するだけでくたびれて腕立てなど出来なかったが、月日を重ねるうちに腕立ても組み込み、それが拳立てから指立てへ、調子に乗って逆立ちしながら同じ工程を経て現在は体感も意識して足を延ばした倒立拳立てにまで発展していた。

 もはや息を乱す事もなく木の床を軋ませるルーチンを終えると、倒立しながら考えていた事を実行に移すべく机の上に置かれている燭台を掲げながら隣の部屋へと向かった。
 思っていた通り寝室もずっと無人であったという割には小奇麗で大きな埃や蜘蛛の巣なども見受けられず、きっと探検家の一団や自分のような遭難者一歩手前の者が頻繁に泊めているのだろうと予想し、村長や村長宅に集まったもこもこした村の者達、そしてリオンの家族を思い出した彼女の唇を引き結ばせる。

 久峩耳シロは出た時より複雑な心境でリビングに戻り、また静かに炎を眺めながらしかし今度はただぼうっとするのではなく、目的をもって思考を纏め始めた。


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 借りた家の中はリオン一家のそれよりもかなり前に建てられたのか、ずいぶん古びていたし聞いていた通り電気もない。
 扉を閉めると真っ暗になった室内で徐々に暗闇に目が慣れてきたシロは、コート掛けの直ぐ傍にある台の上に蝋燭の刺さった燭台とマッチを見つけ火を灯した。
 屋外に吹き荒れる強風のせいで却って静寂が強調される屋内は、存外広く窓は吹雪にガタつくこともない。数日の宿にするには十分事足りるどころか、野外でも平気で寝ることが出来る彼女にとっては豪華すぎる程だった。
 空気の入れ替えをすべく風向きを考え、雪の吹き込まないであろう窓を開けた女は今度はリビングで膝を付いた。夜目の利く目に感謝しながら暖炉の代わりに据えられている大きな薪ストーブの扉を開いて薪と共に貰った新聞紙を詰め込む。ストーブ脇の丸太を輪切りにしただけの天然成分100%の台の上に置かれているマッチで火をつけると、緑色の火を上げ新聞紙が、それを火種として小枝が、最後にようやく太木に燃え移り数分で火は安定した。
 時間を確認しようとスマホを取り出し昨晩充電が切れていた事を忘れていた女は、そろそろ十分に喚起できただろうと先ほど開けた窓を閉め、ストーブ脇に置かれている安楽椅子に腰をすえてからどっと息を吐く。家主に許されたため口調は粗野であったがやはり無意識に気を張ってしまっていた女は、先刻招かれていた食卓でそうしたように今一度大きく伸びをした。
 静かな夜だった。
 もちろん何日か続くという吹雪は収まる気配がなく常に風の音はしているが、それが逆に室内のしじまを演出するのに一役買っていた。
 手持無沙汰になったシロは暖まりきった部屋でふと日常ルーチンを思い出す。思い出すと落ち着かない性分の女は、部屋の隅にあった掃除道具入れから雑巾を持ち出し軽く床を拭ってから筋トレを始めた。スクワットと腹筋、そして倒立拳立て伏せをそれぞれ100回はこなす。彼女がもうずっと昔に最低限の運動量として定め、平時に限るが何年もこなし続けている日課だった。
 始めた当初はスクワットと腹筋をそれぞれ十回するだけでくたびれて腕立てなど出来なかったが、月日を重ねるうちに腕立ても組み込み、それが拳立てから指立てへ、調子に乗って逆立ちしながら同じ工程を経て現在は体感も意識して足を延ばした倒立拳立てにまで発展していた。
 もはや息を乱す事もなく木の床を軋ませるルーチンを終えると、倒立しながら考えていた事を実行に移すべく机の上に置かれている燭台を掲げながら隣の部屋へと向かった。
 思っていた通り寝室もずっと無人であったという割には小奇麗で大きな埃や蜘蛛の巣なども見受けられず、きっと探検家の一団や自分のような遭難者一歩手前の者が頻繁に泊めているのだろうと予想し、村長や村長宅に集まったもこもこした村の者達、そしてリオンの家族を思い出した彼女の唇を引き結ばせる。
 久峩耳シロは出た時より複雑な心境でリビングに戻り、また静かに炎を眺めながらしかし今度はただぼうっとするのではなく、目的をもって思考を纏め始めた。