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#11

ー/ー



 そんな事を話しながら二人と一匹が雪を踏みしめ進んで行くと、程なくして村の入り口に到着した。遠目に見える広場は昨夜の片付けがなされ、雪雲からは透明なのに積もると白くなる不可思議な結晶が降り始めており、朝は村の子供達が騒がしくしていた小路も今は静かでぽつぽつ人が出歩くのみ。
 村はずれと違い税金で購入され燃料を賄われている除雪機のお陰で、中心部までの道は随分歩き易かった。当番制で除雪してくれる村の皆に感謝しないといけないなんて話しながら広場に踏み入れると、白熊を背負った女は嫌でも人目に付きすぐに人が寄って来る。

 騒ぎを聞きつけた家の中に居た者達まで集まり、いつの間にか村の広場は昨夜の祭りに負けぬほどの人数が集まっていた。
 少年は最初は女の進行が妨げられないように先導していたのだが、妙に気分が高揚し楽しくなってきたところで群衆を代表するように一人の老人が二人の進路に立ち塞がる。

「ライアン、その方は?」
「村長さんおはようございます。丁度良かった、この人は日本から来たジローで、昨晩仕留めた白熊を皆に分けてくれるそうなんです。しかも見てください六本足のククウェアです」
「ほう日本からとは珍しい。しかもこのような滅多に目に出来ぬ土産まで。ささ、ここまで重たかったでしょうし熊はこちらの者達に預けてくだされ」

 集まった人々は一様に毛皮のコートで着ぶくれしていたが村長と呼ばれた男の身に纏うそれはいっそう毛並みが良く、北国らしい耳垂れの付いた帽子もまた一目で保温性能の高さがうかがえる。
 それに対面する白熊を下ろしたジローの軽装を見た人々は口々に寒くないのかと問い、質問された側は「たった今寒くなったから話は屋内で頼む」とまた鼻水をすすりあげた。

 女は村で一番広い村長の家に集まった人々を見て、ネットで見たペンギンに囲まれるカメラマンはきっとこんな気持ちだったのだろうかと想像した。見慣れぬ者に群がる着ぶくれして丸々とした彼らが低身長も相まって可愛らしく感じられ、子供に至っては小動物にしか思えず同級生の中で一際小柄な友人の顔を思い出していた。

 村長から、顔を合わせる度一々説明するのは面倒だろうと近隣の村人が集まるまで暖かい飲み物を頂き待つこと十分。
 再び村長から大体集まった事を聞いた女は、集まった着ぶくれ達に飛行機に乗った目的から話し最短で日本へと向かう方法を尋ねたのだが残念ながら色よい返事は帰って来ず、ぽつりぽつりと返って来たものは無理だという内容のものばかりであった。

「ジロー殿、都会で新聞やテレビは観られましたかな?」
「一応飛行機の中で」

「でしたらもうお判りでしょう。生活に必要な職を除いて大半の仕事は納められ来月の中盤まで飛行機はもちろん長距離列車もありません。まして徒歩で日本へなど。しかしこれも何かの縁、村に逗留していただいて共に祭りを楽しみませんか?電気こそ通っておりませんが村の外れに空き家もありますし、食料や燃料も十分余裕がありますんで気兼ねなくお過ごしになれるかと」
「気持ちはありがたいが約束してるんです」

「しかし」
「久峩耳はけっして約束を違えない。どんな苦境に立たされても諦めない。そういう一族なので。とはいえライアンから聞いたですがこれから何日か吹雪くらしいですし、止むまでは暫く休ませてもらえると助かります。もちろんタダでとは言いません。何か手の足りていない事があれば文字通り力を貸します。俺は力だけが取り柄なので」

 その後も集まった者達がどれだけ無謀だの途中で行き倒れてしまうと止めても、決して首を縦に振ることはなく結局吹雪が止むまでの間だけ滞在することとなった。
 村長の家にすし詰めとなっていた者達がもうすぐ日が暮れると各々の家に戻る中、村長から余っていたアザラシとカリブーの毛皮で作られたパーカと呼ばれるコート一式と薪に食料まで優遇してもらった女は深く感謝を述べる。 
 相変わらず引き留めようとする村長の言を断り皆に続いて外に出ると、先に出て待っていた一人と一匹が女の元に寄ってきた。

「すごかったね。まさかあんな大勢から止められても折れないなんて思わなかった」
「たりめぇだ。久峩耳は不屈の一族だからな」

「不屈?」
「絶対に諦めないってことだ。俺を諦めさせたきゃ命を奪うしか手段はねぇな」

「物騒だね。お客さんにそんなこと出来ないよ」
「そりゃよかった。お陰で無事に日本まで帰れそうだ」

 まるで無計画の癖に帰国できる算段があるような様子に少年と犬が呆れていると急に風が強くなり始め、たった今からスピリッツ北部らしい豪風雪となることが予見され二人は足を速める。女が俺はこっちだと言って白熊で作った轍を辿って行こうとしたが少年は自宅へ彼女を招待した。

「別にカマクラに籠ろうってわけじゃないんだぜ?あの隣の家を貸してくれるって鍵も貰ってるし、ほれ袋一杯の食料と薪まである」
「いいからいいから。ご飯は皆で食べた方が美味しいじゃん。それに新しく出来た友達をうちの親にも紹介したいんだ」

「じゃあカマクラに泊めてもらった例もあるし、今だけ言う事を聞いてやるか」
「あ、でもカマクラの事は皆には秘密だよ」

「なんでだ?」
「秘密基地だから」
「なるほど」


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みんなのリアクション

 そんな事を話しながら二人と一匹が雪を踏みしめ進んで行くと、程なくして村の入り口に到着した。遠目に見える広場は昨夜の片付けがなされ、雪雲からは透明なのに積もると白くなる不可思議な結晶が降り始めており、朝は村の子供達が騒がしくしていた小路も今は静かでぽつぽつ人が出歩くのみ。
 村はずれと違い税金で購入され燃料を賄われている除雪機のお陰で、中心部までの道は随分歩き易かった。当番制で除雪してくれる村の皆に感謝しないといけないなんて話しながら広場に踏み入れると、白熊を背負った女は嫌でも人目に付きすぐに人が寄って来る。
 騒ぎを聞きつけた家の中に居た者達まで集まり、いつの間にか村の広場は昨夜の祭りに負けぬほどの人数が集まっていた。
 少年は最初は女の進行が妨げられないように先導していたのだが、妙に気分が高揚し楽しくなってきたところで群衆を代表するように一人の老人が二人の進路に立ち塞がる。
「ライアン、その方は?」
「村長さんおはようございます。丁度良かった、この人は日本から来たジローで、昨晩仕留めた白熊を皆に分けてくれるそうなんです。しかも見てください六本足のククウェアです」
「ほう日本からとは珍しい。しかもこのような滅多に目に出来ぬ土産まで。ささ、ここまで重たかったでしょうし熊はこちらの者達に預けてくだされ」
 集まった人々は一様に毛皮のコートで着ぶくれしていたが村長と呼ばれた男の身に纏うそれはいっそう毛並みが良く、北国らしい耳垂れの付いた帽子もまた一目で保温性能の高さがうかがえる。
 それに対面する白熊を下ろしたジローの軽装を見た人々は口々に寒くないのかと問い、質問された側は「たった今寒くなったから話は屋内で頼む」とまた鼻水をすすりあげた。
 女は村で一番広い村長の家に集まった人々を見て、ネットで見たペンギンに囲まれるカメラマンはきっとこんな気持ちだったのだろうかと想像した。見慣れぬ者に群がる着ぶくれして丸々とした彼らが低身長も相まって可愛らしく感じられ、子供に至っては小動物にしか思えず同級生の中で一際小柄な友人の顔を思い出していた。
 村長から、顔を合わせる度一々説明するのは面倒だろうと近隣の村人が集まるまで暖かい飲み物を頂き待つこと十分。
 再び村長から大体集まった事を聞いた女は、集まった着ぶくれ達に飛行機に乗った目的から話し最短で日本へと向かう方法を尋ねたのだが残念ながら色よい返事は帰って来ず、ぽつりぽつりと返って来たものは無理だという内容のものばかりであった。
「ジロー殿、都会で新聞やテレビは観られましたかな?」
「一応飛行機の中で」
「でしたらもうお判りでしょう。生活に必要な職を除いて大半の仕事は納められ来月の中盤まで飛行機はもちろん長距離列車もありません。まして徒歩で日本へなど。しかしこれも何かの縁、村に逗留していただいて共に祭りを楽しみませんか?電気こそ通っておりませんが村の外れに空き家もありますし、食料や燃料も十分余裕がありますんで気兼ねなくお過ごしになれるかと」
「気持ちはありがたいが約束してるんです」
「しかし」
「久峩耳はけっして約束を違えない。どんな苦境に立たされても諦めない。そういう一族なので。とはいえライアンから聞いたですがこれから何日か吹雪くらしいですし、止むまでは暫く休ませてもらえると助かります。もちろんタダでとは言いません。何か手の足りていない事があれば文字通り力を貸します。俺は力だけが取り柄なので」
 その後も集まった者達がどれだけ無謀だの途中で行き倒れてしまうと止めても、決して首を縦に振ることはなく結局吹雪が止むまでの間だけ滞在することとなった。
 村長の家にすし詰めとなっていた者達がもうすぐ日が暮れると各々の家に戻る中、村長から余っていたアザラシとカリブーの毛皮で作られたパーカと呼ばれるコート一式と薪に食料まで優遇してもらった女は深く感謝を述べる。 
 相変わらず引き留めようとする村長の言を断り皆に続いて外に出ると、先に出て待っていた一人と一匹が女の元に寄ってきた。
「すごかったね。まさかあんな大勢から止められても折れないなんて思わなかった」
「たりめぇだ。久峩耳は不屈の一族だからな」
「不屈?」
「絶対に諦めないってことだ。俺を諦めさせたきゃ命を奪うしか手段はねぇな」
「物騒だね。お客さんにそんなこと出来ないよ」
「そりゃよかった。お陰で無事に日本まで帰れそうだ」
 まるで無計画の癖に帰国できる算段があるような様子に少年と犬が呆れていると急に風が強くなり始め、たった今からスピリッツ北部らしい豪風雪となることが予見され二人は足を速める。女が俺はこっちだと言って白熊で作った轍を辿って行こうとしたが少年は自宅へ彼女を招待した。
「別にカマクラに籠ろうってわけじゃないんだぜ?あの隣の家を貸してくれるって鍵も貰ってるし、ほれ袋一杯の食料と薪まである」
「いいからいいから。ご飯は皆で食べた方が美味しいじゃん。それに新しく出来た友達をうちの親にも紹介したいんだ」
「じゃあカマクラに泊めてもらった例もあるし、今だけ言う事を聞いてやるか」
「あ、でもカマクラの事は皆には秘密だよ」
「なんでだ?」
「秘密基地だから」
「なるほど」