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ー/ー
『ねえ、こんな加工ばっかあげて恥ずかしくないの?』
『早く消してよ。目障り』
「またか……」
スマホ画面に埋め尽くされる言葉のトゲが胸に刺さり、力無いため息が溢れる。
私がSNSに投稿した写真に対しての悪口が、複数書き込みされている。
いつものことであり、慣れた手付きでコメント削除欄をタップしていくけど、だからって傷付いていない訳じゃない。
確かにネット上での繋がりだけど、その先には生身の人間が存在する。そうゆうこと、相手は分かっていないのだろうな。
私、坂上美沙は、一見するどこにでも居そうな女子高生。
でも実は、SNS上ではフォロワーが二千人いる、今流行りのインフルエンサーだったりする。
私が写真をアップしたら、すぐに高評価とコメントが付き、「可愛い」とか「ミサみたいになりたい」とか言ってくれる。
元々、自分を好きじゃなかった私は、それが嬉しくて自信に繋がり、今ではフォロワーさんを喜ばせる為に、毎日直撮りとバズる発言を投稿するように心掛けている。
SNSは、私にとってもう一つの居場所。
だから、もう一人の分身であるミサを、私は毎日可愛くデコっていく。
「美沙! 早く、起きなさい! 何時だと思ってるのっ!」
お母さんの尖った声に布団を被ってやり過ごそうとするけど、それはどうやら逆効果っていうやつで、動画の音量を一気に上げた時のように耳がキーンと鳴るような音が、狭い六畳の部屋に響く。
「毎日、毎日。一体、何時まで起きてんの! だから朝、起きられないんじゃないの!」
「違うし!」
同じトーンで逆ギレし、着替えるからと言えば、お母さんは小さくため息を吐き、部屋から出ていく。
もう関わるのがメンドクサイ私は、朝ご飯も食べずに家より出ていく。
本当に、口うるさい。大人はどうして否定ばかりするのだろう?
ヒリヒリとする胸に、よりイライラとし、踏み込む足に力が入る。
十分ほど歩けば、なんとも小さくボロっちい駅舎が見えてくる。
無人改札機を通ると、反対側のホームに電車が入ってくるのが見え、「ヤバっ」と声を漏らし階段を登って降りる。なんとか、扉が閉まるギリギリで電車に飛び乗れた。
ほら、間に合ったじゃん。
学校まで電車で五駅、約三十分。
こんな田舎にラッシュなんかあるわけもなく、空いている席にポンっと座る。
その間にSNSを見ながら、高評価数とコメントの確認。
そして、一つずつにコメント返しを行う。
「ふぅー」
朝からモヤった気持ちを抱えつつ、それを見せないように、にっこり笑いなら電車から降り、学校に歩いて行く。
私は学校でも有名な存在。
フォロワーさんに、学校では地味な存在だと思われたくないし、誰かがSNSで書き込んだら最悪。
だからこそ、私は学校でも明るい美沙でいないといけない。
「おはようー」
テンション高く、教室に入って行く。
クラスのみんなが「おはよう」と明るく返してくれる中、私は親友たちのグループに入る。
「あ、おはよう」
私の挨拶にワンテンポ遅れて返事をするのは、志保と直と真由美。
入学した頃からの仲で、私たちはいつも一緒に居る。
「最近、SNSはどう?」
心配性の真由美はそう聞いてくれる。
その表情は眉をひそめ口角は下がっていて、心配してくれているのだと思う。
「嫌がらせとか、続いているの?」
「うん。まあ……」
声に出すと喉がヒリついてきて、胸の奥が熱くなって、言わないと決めていた言葉が溢れてくる。
「でも仕方がないよね? 私、有名人だし!」
「……あ、うん……」
三人は口を閉じてしまう。
その目はどこか泳いでいて、空気がピリついたのが分かった。
「それより、みんなはもうやらないの?」
私は笑い飛ばしてその話を終わらせ、新たな話題に変える。
「……あー。私たちはもういいかなー」
三人は顔を合わせ、無理に笑って見せた。
あ、これ以上言わない方がいいやつだ。
「そっか」
だから私は、すっと引く。
友だち関係では、あまり触れない方が良いこともある。
それが学校生活を円満にする秘訣ってやつだからだ。
私たちが通う北星校は中高一貫校で、一学年二百人はいるなかなか大きな私立高。
ほとんどの子が中学受験を経て入学してくるけど、私や親友たちを含む二十人ほどが高校受験を経て途中入学してくる。
既に出来てある人間関係に、私みたいなのは余所者と扱われ、なかなか馴染めない。
そんな外部組だった私と親友は、自然と仲良くなっていった。
SNSを始めたのは、一年生の夏休み前。
当時から仲良かった親友たちと、休み中は毎日会えないから、SNSで近況を報告し合おうと始めたのがきっかけだった。
互いをフォローし、互いに高評価とコメントを打ち込み、内輪ノリで楽しんでいた。
しかしそれから、何故か私だけ高評価とコメント数が増えていき、それと同時にフォロワー数も増加した。
するとそこから友だちの友だちによる向上効果ってやつなのか、フォロワーさんはどんどん増えていき、気づけば学校でも一目置かれる存在となった。
こうして、親友たちと差が出来てくると、その関係は少しずつ変わっていった。
あれは高校二年生の冬休み前のこと。
「ねえ、そろそろSNS辞めない? 進路指導でも、受験生や就活生の過去の投稿とか見て決めてるとか言ってたし」
しっかり者の直が、そう言い出した。
「確かにー。黒歴史とか消しとかないとヤバいよねー」
「今、聞くよね。ヤバい基準とか正直分からないし、結局やらないのが一番ってことなんだろね?」
「えー。でもせっかく仲良くなったフォロワーさんもいるし」
三人がアカウント削除に向けて動き出しており、私は思わず口を挟んでしまった。
その言葉に、三人は明らかにすっと目を逸らしてくる。
実はフォロワーさんが増えてから、三人はSNSを辞めるように言ってくるようになっていた。
だから、アカウントを消そうって話も。
分かってる。面白くないって。
最近三人だけで会ってるみたいだし、メッセージアプリでグループ作っているのも知ってるんだよね。
仕方がないけど、どこか遠い存在になったみたいで淋しくて。私はみんなと仲良くしたいのに。
「ねえ、それより最近何かないの?」
私はまた話を聞くことにする。
今の状態に思いが上がらずに話を聞く。
その姿勢が大事だと思っているから。
「うーん、最近はないな」
「そっか」
今度は私の声のトーンが下がる。
前は色々と話せて盛り上がれたのにな。
あー。なんか、バズることないかなー。
そう思いながら今朝も、バタバタと電車に飛び乗る。
テンションを上げようと、SNSの高評価数とコメントの確認すると、一つの文章に目に留まった。
『これ、ミサじゃない? 変な加工されてるみたいだし、消させるべきだと思うけど。。』
コメントで教えてもらったSNSでの投稿写真を見ると、制服を着た女子高生っぽい子が電車で席に座ってスマホを触っている場面が撮られていた。
確かに制服もカバンもスマホカバーも全く一緒だけど、違うものがあった。
それは顔と体型。私はこんなんじゃない。明らかに加工したものだろう。
最低っ!
指先をポンポンと叩き、削除申請をタップする。
だけど、本当に消してもらえるのだろうか?
イライラ。ザワザワ。キリキリ。
言い表せないぐらいのイラ立ちを抱えながら学校に向かい、教室に着いた途端、思わず声に出してしまう。
「ねえ! 見て! 酷いの!」
私は親友たちに写真を差し出す。
「え? 何これ!」
「……盗撮、だよね?」
「ウソ! こんなことまでする人いるの!」
三人は顔を見合わせて、もう一度私のスマホに目を凝らす。
眉をひそめ、口元は下がり、表情から驚きと私に対して色々と思いを巡らせてくれるのが分かる。
「でしょ? こんな加工までしてきて、本当に最低だよね! 大体さ、こんなことしてくるのって私のこと興味あるからなんだよね? 暇人なんだよマジで!」
「……えっ?」
その言葉を聞いた三人は、私をまじまじと見てくる。
あ、やば。
余計なことを言ってしまったと気づいた時には遅かった。
だけど三人は写真をしっかり見てくれて色々考えてくれているみたい。
良かった、私の言ったこと気にならなかったようで。
「電車で、美沙にスマホを向けてくる人とかいなかった?」
そう言われて考えるけど、周囲に誰が居たのかいちいち覚えていない。普通そうだよね?
「ねえ、SNSやめたら?」
その言葉が私の脳内に響き渡り、ガンガンと音を鳴らす。
ねえ、私を応援してくれないの?
どうして辞めることばかり言うの?
親友なのに、気持ち分かってくれないの?
その言葉が出てきそうだったけど、慌てて飲み込んだ。
そうかなーと笑って見せて、トイレだって言って、教室を出て行く。
どうしてこうなったのだろう?
薄い青空と、流れていく雲を見つめながらふっと思う。
そこにスマホを向けポチポチ触っていると、目に入ってきたのは、盗撮写真みたいなあの投稿。
しかもコメントまできていて、『え! ミサ? ウソだよね?』、『さすがに釣りだよね?』、『でも、制服もカバンも同じだし……』。
そんな、間に受けたようなコメントばかりだった。
上手くいかない友達関係。
SNSでの嫌がらせ。
このぐちゃぐちゃの感情をどうすれば良いのか分からず、スマホに全てをぶつけることでしか自分の気持ちを保つことは出来なかった。
当てもなく廊下を歩いていると、同じクラスの女子二人が私をチラチラと見てくる。
確か演劇部で、中学校からの入学組。
……もしかして、SNSの写真見たのかな?
「ねぇ、もしかして加工写真とか見た?」
普段関わりはないんだけど誤解されるのが本当に嫌で、もう見たくもないSNSの投稿写真を二人の前に出した。
「えっ……」
「見たよ! つーかあれ、マジであり得ないんだけど!」
ショートヘアの女子(確か立花さん?)は俯いてしまったけど、肩までのストレートヘアの内城さんは歯をギリっとさせ、そう叫んでくれた。
良かった。やっと分かってくれた。
気づけば目元が、どんどんと熱くなっていく。
「やっぱりさ、先生に相談した方が良いと思うよ?」
その言葉に、膨らんでいた期待がどんどんと萎んでいく。
「勘違いしてほしくないんだけど、私たち坂本さんが推しなんだよ! ねぇ?」
「……うん」
顔を上げると視界がボヤけて見えるけど、手の温もりを感じとれた。
「こんな顔してほしくなくて、言ってるんだよ。SNSの投稿見れなくても、推しが笑ってくれていた方が嬉しいなって」
「ありがとう……」
涙を拭うと、そこには優しい微笑みがあって。だから私は、ようやく先生に相談することが出来た。
だけど想定通り、返ってきた答えはSNSを削除することだった。
誹謗中傷も酷いが盗撮は明らかにその一線を越えてきており、また接触出来る範囲内に相手がいるということ。
次は直接的な被害に遭うかもしれない。どこで反感を買っているかは分からない。だから自衛しなさい。
それが大人の言葉だった。
嫌だ。
SNSの世界は、もう一つの世界。
ミサは私の分身。
どうしてこっちが折れなきゃいけないの?
それって、嫌がらせをしてくるアンチに負けたようなものじゃん。
私、悪いことしてないよね?
反感なんて買うことしてないよね?
それなのにどうして私が逃げ出さないといけないの?
なんで私がこんな思いしないといけないの。
家に帰って部屋に居ると、仕事から帰ってきたお母さんの階段を駆け上がる音がする。
うるさいな。
そう思っていると、もっとうるさく私の部屋のドアを開けてきた。
「美沙! 先生から聞いたんだけど、SNS内で嫌がらせに遭ってるんだって! 何で言わないの!」
先生、お母さんに話したんだ。最悪。
「削除したよね? ほら、見せなさい!」
「お母さんには関係ないしっ!」
八つ当たりだと分かっていても、私はイラ立ちを抑えられず強い言い方をしてしまう。
「今まで大目に見ていたけど最近成績も下がってるし、生活習慣もめちゃくちゃ! もうSNSは辞めなさい!」
「嫌だし! 見てよ、フォロワーさん二千人いるんだよ!」
私はSNSのアカウントを見せる。そこには。
『うわ、構ってちゃん?』
『空の写真とか痛いわー』
私が昼間投稿していた、空の写真と「誰も私を分かってくれない。大人も親友も……」と書き込みに多数のコメントが来ていた。
それを目にしたお母さんはスマホから顔を背け、黙り込んでしまう。
アンチコメントをいつものように消していくと、そこには何も残らなかった。
……分かってた。これだけフォロワーさんが居てくれても、私を本気で心配してくれている人はいないのだと。
呆然としている私からスマホを奪ったお母さんは、あの電車での盗撮写真を見入っていた。
「ああ、これ? わざわざ加工までしてるんだよね。マジでありえないし」
「……加工? どこ!」
「見たら分かるじゃん!」
「……え?」
お母さんには、加工なんて分からないか。
まあ、もういいや。
私はスマホを取り返し、アカウント削除を始める。
もう一人の分身が穢されるのを、もう我慢出来なかったから。
二千人のフォロワーさんとの関係と共に、アカウントを削除し、アプリをアンインストールした。
「……こんな形だけど、消せて良かったのかもね?」
お母さんは苦笑いを浮かべながら、私の顔をまじまじと見つめてくる。
あれ? この表情どこかで?
ま、いっか。もう終わったのだから。
今までありがとう。さよなら、私の分身。
私は窓から見えた夜空にスマホを向けようとして、その手を止めた。
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「またか……」
スマホ画面に埋め尽くされる言葉のトゲが胸に刺さり、力無いため息が溢れる。
私がSNSに投稿した写真に対しての悪口が、複数書き込みされている。
いつものことであり、慣れた手付きでコメント削除欄をタップしていくけど、だからって傷付いていない訳じゃない。
確かにネット上での繋がりだけど、その先には生身の人間が存在する。そうゆうこと、相手は分かっていないのだろうな。
私、|坂上《さかがみ》|美沙《みさ》は、一見するどこにでも居そうな女子高生。
でも実は、SNS上ではフォロワーが二千人いる、今流行りのインフルエンサーだったりする。
私が写真をアップしたら、すぐに高評価とコメントが付き、「可愛い」とか「ミサみたいになりたい」とか言ってくれる。
元々、自分を好きじゃなかった私は、それが嬉しくて自信に繋がり、今ではフォロワーさんを喜ばせる為に、毎日直撮りとバズる発言を投稿するように心掛けている。
SNSは、私にとってもう一つの居場所。
だから、もう一人の分身であるミサを、私は毎日可愛くデコっていく。
「美沙! 早く、起きなさい! 何時だと思ってるのっ!」
お母さんの尖った声に布団を被ってやり過ごそうとするけど、それはどうやら逆効果っていうやつで、動画の音量を一気に上げた時のように耳がキーンと鳴るような音が、狭い六畳の部屋に響く。
「毎日、毎日。一体、何時まで起きてんの! だから朝、起きられないんじゃないの!」
「違うし!」
同じトーンで逆ギレし、着替えるからと言えば、お母さんは小さくため息を吐き、部屋から出ていく。
もう関わるのがメンドクサイ私は、朝ご飯も食べずに家より出ていく。
本当に、口うるさい。大人はどうして否定ばかりするのだろう?
ヒリヒリとする胸に、よりイライラとし、踏み込む足に力が入る。
十分ほど歩けば、なんとも小さくボロっちい駅舎が見えてくる。
無人改札機を通ると、反対側のホームに電車が入ってくるのが見え、「ヤバっ」と声を漏らし階段を登って降りる。なんとか、扉が閉まるギリギリで電車に飛び乗れた。
ほら、間に合ったじゃん。
学校まで電車で五駅、約三十分。
こんな田舎にラッシュなんかあるわけもなく、空いている席にポンっと座る。
その間にSNSを見ながら、高評価数とコメントの確認。
そして、一つずつにコメント返しを行う。
「ふぅー」
朝からモヤった気持ちを抱えつつ、それを見せないように、にっこり笑いなら電車から降り、学校に歩いて行く。
私は学校でも有名な存在。
フォロワーさんに、学校では地味な存在だと思われたくないし、誰かがSNSで書き込んだら最悪。
だからこそ、私は学校でも明るい美沙でいないといけない。
「おはようー」
テンション高く、教室に入って行く。
クラスのみんなが「おはよう」と明るく返してくれる中、私は親友たちのグループに入る。
「あ、おはよう」
私の挨拶にワンテンポ遅れて返事をするのは、|志保《しほ》と|直《なお》と|真由美《まゆみ》。
入学した頃からの仲で、私たちはいつも一緒に居る。
「最近、SNSはどう?」
心配性の真由美はそう聞いてくれる。
その表情は眉をひそめ口角は下がっていて、心配してくれているのだと思う。
「嫌がらせとか、続いているの?」
「うん。まあ……」
声に出すと喉がヒリついてきて、胸の奥が熱くなって、言わないと決めていた言葉が溢れてくる。
「でも仕方がないよね? 私、有名人だし!」
「……あ、うん……」
三人は口を閉じてしまう。
その目はどこか泳いでいて、空気がピリついたのが分かった。
「それより、みんなはもうやらないの?」
私は笑い飛ばしてその話を終わらせ、新たな話題に変える。
「……あー。私たちはもういいかなー」
三人は顔を合わせ、無理に笑って見せた。
あ、これ以上言わない方がいいやつだ。
「そっか」
だから私は、すっと引く。
友だち関係では、あまり触れない方が良いこともある。
それが学校生活を円満にする秘訣ってやつだからだ。
私たちが通う北星校は中高一貫校で、一学年二百人はいるなかなか大きな私立高。
ほとんどの子が中学受験を経て入学してくるけど、私や親友たちを含む二十人ほどが高校受験を経て途中入学してくる。
既に出来てある人間関係に、私みたいなのは余所者と扱われ、なかなか馴染めない。
そんな外部組だった私と親友は、自然と仲良くなっていった。
SNSを始めたのは、一年生の夏休み前。
当時から仲良かった親友たちと、休み中は毎日会えないから、SNSで近況を報告し合おうと始めたのがきっかけだった。
互いをフォローし、互いに高評価とコメントを打ち込み、内輪ノリで楽しんでいた。
しかしそれから、何故か私だけ高評価とコメント数が増えていき、それと同時にフォロワー数も増加した。
するとそこから友だちの友だちによる向上効果ってやつなのか、フォロワーさんはどんどん増えていき、気づけば学校でも一目置かれる存在となった。
こうして、親友たちと差が出来てくると、その関係は少しずつ変わっていった。
あれは高校二年生の冬休み前のこと。
「ねえ、そろそろSNS辞めない? 進路指導でも、受験生や就活生の過去の投稿とか見て決めてるとか言ってたし」
しっかり者の直が、そう言い出した。
「確かにー。黒歴史とか消しとかないとヤバいよねー」
「今、聞くよね。ヤバい基準とか正直分からないし、結局やらないのが一番ってことなんだろね?」
「えー。でもせっかく仲良くなったフォロワーさんもいるし」
三人がアカウント削除に向けて動き出しており、私は思わず口を挟んでしまった。
その言葉に、三人は明らかにすっと目を逸らしてくる。
実はフォロワーさんが増えてから、三人はSNSを辞めるように言ってくるようになっていた。
だから、アカウントを消そうって話も。
分かってる。面白くないって。
最近三人だけで会ってるみたいだし、メッセージアプリでグループ作っているのも知ってるんだよね。
仕方がないけど、どこか遠い存在になったみたいで淋しくて。私はみんなと仲良くしたいのに。
「ねえ、それより最近何かないの?」
私はまた話を聞くことにする。
今の状態に思いが上がらずに話を聞く。
その姿勢が大事だと思っているから。
「うーん、最近はないな」
「そっか」
今度は私の声のトーンが下がる。
前は色々と話せて盛り上がれたのにな。
あー。なんか、バズることないかなー。
そう思いながら今朝も、バタバタと電車に飛び乗る。
テンションを上げようと、SNSの高評価数とコメントの確認すると、一つの文章に目に留まった。
『これ、ミサじゃない? 変な加工されてるみたいだし、消させるべきだと思うけど。。』
コメントで教えてもらったSNSでの投稿写真を見ると、制服を着た女子高生っぽい子が電車で席に座ってスマホを触っている場面が撮られていた。
確かに制服もカバンもスマホカバーも全く一緒だけど、違うものがあった。
それは顔と体型。私はこんなんじゃない。明らかに加工したものだろう。
最低っ!
指先をポンポンと叩き、削除申請をタップする。
だけど、本当に消してもらえるのだろうか?
イライラ。ザワザワ。キリキリ。
言い表せないぐらいのイラ立ちを抱えながら学校に向かい、教室に着いた途端、思わず声に出してしまう。
「ねえ! 見て! 酷いの!」
私は親友たちに写真を差し出す。
「え? 何これ!」
「……盗撮、だよね?」
「ウソ! こんなことまでする人いるの!」
三人は顔を見合わせて、もう一度私のスマホに目を凝らす。
眉をひそめ、口元は下がり、表情から驚きと私に対して色々と思いを巡らせてくれるのが分かる。
「でしょ? こんな加工までしてきて、本当に最低だよね! 大体さ、こんなことしてくるのって私のこと興味あるからなんだよね? 暇人なんだよマジで!」
「……えっ?」
その言葉を聞いた三人は、私をまじまじと見てくる。
あ、やば。
余計なことを言ってしまったと気づいた時には遅かった。
だけど三人は写真をしっかり見てくれて色々考えてくれているみたい。
良かった、私の言ったこと気にならなかったようで。
「電車で、美沙にスマホを向けてくる人とかいなかった?」
そう言われて考えるけど、周囲に誰が居たのかいちいち覚えていない。普通そうだよね?
「ねえ、SNSやめたら?」
その言葉が私の脳内に響き渡り、ガンガンと音を鳴らす。
ねえ、私を応援してくれないの?
どうして辞めることばかり言うの?
親友なのに、気持ち分かってくれないの?
その言葉が出てきそうだったけど、慌てて飲み込んだ。
そうかなーと笑って見せて、トイレだって言って、教室を出て行く。
どうしてこうなったのだろう?
薄い青空と、流れていく雲を見つめながらふっと思う。
そこにスマホを向けポチポチ触っていると、目に入ってきたのは、盗撮写真みたいなあの投稿。
しかもコメントまできていて、『え! ミサ? ウソだよね?』、『さすがに釣りだよね?』、『でも、制服もカバンも同じだし……』。
そんな、間に受けたようなコメントばかりだった。
上手くいかない友達関係。
SNSでの嫌がらせ。
このぐちゃぐちゃの感情をどうすれば良いのか分からず、スマホに全てをぶつけることでしか自分の気持ちを保つことは出来なかった。
当てもなく廊下を歩いていると、同じクラスの女子二人が私をチラチラと見てくる。
確か演劇部で、中学校からの入学組。
……もしかして、SNSの写真見たのかな?
「ねぇ、もしかして加工写真とか見た?」
普段関わりはないんだけど誤解されるのが本当に嫌で、もう見たくもないSNSの投稿写真を二人の前に出した。
「えっ……」
「見たよ! つーかあれ、マジであり得ないんだけど!」
ショートヘアの女子(確か立花さん?)は俯いてしまったけど、肩までのストレートヘアの内城さんは歯をギリっとさせ、そう叫んでくれた。
良かった。やっと分かってくれた。
気づけば目元が、どんどんと熱くなっていく。
「やっぱりさ、先生に相談した方が良いと思うよ?」
その言葉に、膨らんでいた期待がどんどんと萎んでいく。
「勘違いしてほしくないんだけど、私たち坂本さんが推しなんだよ! ねぇ?」
「……うん」
顔を上げると視界がボヤけて見えるけど、手の温もりを感じとれた。
「こんな顔してほしくなくて、言ってるんだよ。SNSの投稿見れなくても、推しが笑ってくれていた方が嬉しいなって」
「ありがとう……」
涙を拭うと、そこには優しい微笑みがあって。だから私は、ようやく先生に相談することが出来た。
だけど想定通り、返ってきた答えはSNSを削除することだった。
誹謗中傷も酷いが盗撮は明らかにその一線を越えてきており、また接触出来る範囲内に相手がいるということ。
次は直接的な被害に遭うかもしれない。どこで反感を買っているかは分からない。だから自衛しなさい。
それが大人の言葉だった。
嫌だ。
SNSの世界は、もう一つの世界。
ミサは私の分身。
どうしてこっちが折れなきゃいけないの?
それって、嫌がらせをしてくるアンチに負けたようなものじゃん。
私、悪いことしてないよね?
反感なんて買うことしてないよね?
それなのにどうして私が逃げ出さないといけないの?
なんで私がこんな思いしないといけないの。
家に帰って部屋に居ると、仕事から帰ってきたお母さんの階段を駆け上がる音がする。
うるさいな。
そう思っていると、もっとうるさく私の部屋のドアを開けてきた。
「美沙! 先生から聞いたんだけど、SNS内で嫌がらせに遭ってるんだって! 何で言わないの!」
先生、お母さんに話したんだ。最悪。
「削除したよね? ほら、見せなさい!」
「お母さんには関係ないしっ!」
八つ当たりだと分かっていても、私はイラ立ちを抑えられず強い言い方をしてしまう。
「今まで大目に見ていたけど最近成績も下がってるし、生活習慣もめちゃくちゃ! もうSNSは辞めなさい!」
「嫌だし! 見てよ、フォロワーさん二千人いるんだよ!」
私はSNSのアカウントを見せる。そこには。
『うわ、構ってちゃん?』
『空の写真とか痛いわー』
私が昼間投稿していた、空の写真と「誰も私を分かってくれない。大人も親友も……」と書き込みに多数のコメントが来ていた。
それを目にしたお母さんはスマホから顔を背け、黙り込んでしまう。
アンチコメントをいつものように消していくと、そこには何も残らなかった。
……分かってた。これだけフォロワーさんが居てくれても、私を本気で心配してくれている人はいないのだと。
呆然としている私からスマホを奪ったお母さんは、あの電車での盗撮写真を見入っていた。
「ああ、これ? わざわざ加工までしてるんだよね。マジでありえないし」
「……加工? どこ!」
「見たら分かるじゃん!」
「……え?」
お母さんには、加工なんて分からないか。
まあ、もういいや。
私はスマホを取り返し、アカウント削除を始める。
もう一人の分身が穢されるのを、もう我慢出来なかったから。
二千人のフォロワーさんとの関係と共に、アカウントを削除し、アプリをアンインストールした。
「……こんな形だけど、消せて良かったのかもね?」
お母さんは苦笑いを浮かべながら、私の顔をまじまじと見つめてくる。
あれ? この表情どこかで?
ま、いっか。もう終わったのだから。
今までありがとう。さよなら、私の分身。
私は窓から見えた夜空にスマホを向けようとして、その手を止めた。