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罪は純白のまま祝福される

ー/ー



 今、私はこの式場で幸せの真っ只中にいる。
 
 「結婚する」と約束し合ったのは、どれくらい昔だろうか。だけど、二人のあいだには大きな障害があった。それは果てしない絶望だった。
 私は彼を忘れようとした。自棄になって、当てつけのように別の男と付き合ったこともある。相手は同級生の卓也だったが、すぐに別れてしまった。やはり私にはあの人、彼しかいないと再認識した。
 私は誓った。彼と絶対に結ばれるのだ。
 
 私は彼を残して、都会で別人に生まれ変わることにした。名前や経歴、姿かたちまでも。現代のテクノロジーなら可能だ。
 時が経ち、私はこの町に戻った。彼は相変わらず一人だった。何人かの女性がアプローチを試みたそうだが、彼が誰にも興味を示さなかったことに安堵した。
 そんな彼がどうして私を受け入れたのだろうか。かつての面影など、どこにも残っていないのに。
「一瞬、ある女性を思い出してね。あ、ごめん。そういうの嫌だよね」
 彼は寂しさも混じる笑顔で謝った。過去の私を今でも忘れられないのだ。あるいは、忘れるために、別人の私を選んだのかもしれない。
 
 だけど、この町にはもう一人、かつての私を忘れられない男がいた。元同級生の卓也だ。
 卓也は私が町を去ってからも、ずっと行方を探していた。その卓也もまた、整形した私を見て、何か引っ掛かる様子だった。恋に狂った人間は匂いまで嗅ぎ分けられるのか。
 彼の婚約者である私は、いったい何者なのか? 卓也は私の痕跡をたどって、過去を調べていった。
 
 ついに卓也は真相を突き止め、結婚式前日に現れた。結婚は中止しろ。さもないと全部バラすぞと。
 私は混乱した。彼の人生を壊すことだけは避けたかった。
 黙って彼のもとから去ろうと、私は決意した。けれども、彼は深夜になって連絡してきた。
「もう大丈夫。僕たちを邪魔する者はいない」
 その言葉に私は涙した。どんなことがあろうと、私たちは永遠に一緒だ。
 
 今、私はこの式場で幸せの真っ只中にいる。
 私も彼も両親はすでにこの世にいない。招待客もいない。牧師も呼ばず、チャペルは貸し切りだ。
 純白のドレスを纏った私は一人でバージンロードを歩く。聖壇の前にはタキシード姿の彼が待っていた。ベールをめくって、口づけを交わす。
 このキスが発端だった。故郷に戻り、彼と付き合うきっかけになったのも、このキス。
 唇が触れ合った瞬間、彼は悟ったに違いない。姿が変わっても、かつて結婚を約束した相手だったと。
 
「お兄ちゃんと結婚する! 約束して!」
 
 そんな他愛ない気持ちは幼い兄妹なら、ごく自然なことだろう。だけど、その想いは成長しても消えなかった。何の因果か、兄も私に対して同じ想いを抱いていた。
 あれは私が学生の頃。夏休みに制服姿のまま縁側で昼寝をしていたら、そっと唇を奪われたのだった。
 兄は私が寝ている隙を突いたのか。あるいは、私が寝たふりをしていたことに気づきつつ、一線を越えたのか。
 どちらにせよ、その瞬間、私は心に誓った。この人と一緒になると。そして別人となって、兄のもとへ帰ってきたのだ。
 
 もはや、私たちが兄妹だと知る者は存在しない。誰にも邪魔されずに、手と手を取り合って生きていく。そして今、お腹の中には新しい命が宿っている。
 その時、外から警察の人間が現れた。卓也の死体が発見されたという。
 兄は「ごめん」と悲しい笑顔を見せると、私を残して連れ去られていった。
 
          (了)




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 今、私はこの式場で幸せの真っ只中にいる。
 「結婚する」と約束し合ったのは、どれくらい昔だろうか。だけど、二人のあいだには大きな障害があった。それは果てしない絶望だった。
 私は彼を忘れようとした。自棄になって、当てつけのように別の男と付き合ったこともある。相手は同級生の卓也だったが、すぐに別れてしまった。やはり私にはあの人、彼しかいないと再認識した。
 私は誓った。彼と絶対に結ばれるのだ。
 私は彼を残して、都会で別人に生まれ変わることにした。名前や経歴、姿かたちまでも。現代のテクノロジーなら可能だ。
 時が経ち、私はこの町に戻った。彼は相変わらず一人だった。何人かの女性がアプローチを試みたそうだが、彼が誰にも興味を示さなかったことに安堵した。
 そんな彼がどうして私を受け入れたのだろうか。かつての面影など、どこにも残っていないのに。
「一瞬、ある女性を思い出してね。あ、ごめん。そういうの嫌だよね」
 彼は寂しさも混じる笑顔で謝った。過去の私を今でも忘れられないのだ。あるいは、忘れるために、別人の私を選んだのかもしれない。
 だけど、この町にはもう一人、かつての私を忘れられない男がいた。元同級生の卓也だ。
 卓也は私が町を去ってからも、ずっと行方を探していた。その卓也もまた、整形した私を見て、何か引っ掛かる様子だった。恋に狂った人間は匂いまで嗅ぎ分けられるのか。
 彼の婚約者である私は、いったい何者なのか? 卓也は私の痕跡をたどって、過去を調べていった。
 ついに卓也は真相を突き止め、結婚式前日に現れた。結婚は中止しろ。さもないと全部バラすぞと。
 私は混乱した。彼の人生を壊すことだけは避けたかった。
 黙って彼のもとから去ろうと、私は決意した。けれども、彼は深夜になって連絡してきた。
「もう大丈夫。僕たちを邪魔する者はいない」
 その言葉に私は涙した。どんなことがあろうと、私たちは永遠に一緒だ。
 今、私はこの式場で幸せの真っ只中にいる。
 私も彼も両親はすでにこの世にいない。招待客もいない。牧師も呼ばず、チャペルは貸し切りだ。
 純白のドレスを纏った私は一人でバージンロードを歩く。聖壇の前にはタキシード姿の彼が待っていた。ベールをめくって、口づけを交わす。
 このキスが発端だった。故郷に戻り、彼と付き合うきっかけになったのも、このキス。
 唇が触れ合った瞬間、彼は悟ったに違いない。姿が変わっても、かつて結婚を約束した相手だったと。
「お兄ちゃんと結婚する! 約束して!」
 そんな他愛ない気持ちは幼い兄妹なら、ごく自然なことだろう。だけど、その想いは成長しても消えなかった。何の因果か、兄も私に対して同じ想いを抱いていた。
 あれは私が学生の頃。夏休みに制服姿のまま縁側で昼寝をしていたら、そっと唇を奪われたのだった。
 兄は私が寝ている隙を突いたのか。あるいは、私が寝たふりをしていたことに気づきつつ、一線を越えたのか。
 どちらにせよ、その瞬間、私は心に誓った。この人と一緒になると。そして別人となって、兄のもとへ帰ってきたのだ。
 もはや、私たちが兄妹だと知る者は存在しない。誰にも邪魔されずに、手と手を取り合って生きていく。そして今、お腹の中には新しい命が宿っている。
 その時、外から警察の人間が現れた。卓也の死体が発見されたという。
 兄は「ごめん」と悲しい笑顔を見せると、私を残して連れ去られていった。
          (了)


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