表示設定
表示設定
目次 目次




第十話 ギルドの洗礼

ー/ー



二人はなんとか駆け足でトットルの店へ飛び込んだ。

「はあーー……っ、間に合ったぜ……!」

「おま……っ、はぁ……お待たせしました、トットルさん……!」

勢いよく開いた扉に、トットルが目を丸くする。

「お、お二人とも……そんなに慌てなくても、大丈夫ですよ。まずは息を整えてください」

「……ふぅ。慌てなくてもよかった感じだな」

「遅れるよりはマシなの!」

リノアが胸をおさえながら息を整える。
少ししてトットルが奥の部屋から戻り、洒落た木箱を抱えて現れた。

「リノア様、アデル様。お二人が選ばれた宝石の加工が終わりました。完成品はこちらです」

パカッ、と箱を開ける。
柔らかな光を放つブレスレットと、紐を通したペンダントトップが並んでいた。

「わあぁ……! ステキ……!」

「石にヒモついてるぞこれ!」

「ええ、リノア様にはこちらのブレスレット。アデル様にはペンダントになります。ぜひお手に取ってみてください」

アデルはペンダントを首にかけ、ニッと笑う。

「これでいいのか? ……おお、悪くねえな!」

「とてもお似合いですよ、アデル様」

「ねえアデル! わたしの見て! ほら、どう?」

リノアは嬉しそうに左手のブレスレットを掲げる。
淡い色の宝石が彼女の白い肌に映えて、とても綺麗だ。

「リノア様も、とてもお似合いです」

「手首につけるやつなんだな! カッケーじゃん!! リノア、オレのも見ろよ! 絶対こっちの方がカッコいいだろ!」

「うん! アデルもすっごく似合ってるよ!」

二人は宝石を見せ合い、子供のように笑い合う。

トットルは目を細めて深々と頭を下げた。

「喜んでいただけて……本当に嬉しいです。父と母を助けてくださり、ありがとうございました」

「こちらこそ、こんな素晴らしいアクセサリーを……。お代、本当にいいんですか?」

「命を救われた家族のためです。受け取るわけにはいきません!」

そのとき、奥からアリエーゼが顔を出す。

「うちの息子が作ったアクセサリー、気に入ってくれた?」

「とっ……とても素晴らしいです!! 本当に嬉しいです……!」

「それは良かったわ」

アデルが勢いよく扉の前へ移動する。

「リノアー! そろそろギルド行こうぜ!」

「もお〜アデル! ちゃんと御礼言うよ!」

リノアがアデルの腕を引っ張り、二人揃って頭を下げる。

アリエーゼは二人の前に立ち、そっと頭に手をかざす。

「レナウス様の導きがあらんことを……。これから大変な旅が続くでしょうけど、お二人なら乗り越えられるわ」

「ありがとうございます、アリエーゼさん!」

アデルが首をかしげた。

「なあギルドってどこにあるんだ?」

トットルはサッと紙を取り出し、ギルドへの道順を書き込む。

「こちらをどうぞ。迷わず行けます」

「なにから何まで本当にありがとうございます!」

「お二人とも、頑張ってくださいね!」

「トットル! 本当にありがとな! ペンダントめちゃくちゃカッケー!」

店を出た二人の背中を見送りながら、アリエーゼは微笑んだ。

「トットル、いい仕事だったよ。もう安心して店任せられるわね」

「えええ!? 急に言うなよ〜!」



二人はなんとか駆け足でトットルの店を出て、白壁の並ぶ通りを走り抜けた。

「リノア、ここを曲がれば本当にギルドで合ってるのか?」

「トットルさんが描いてくれた地図だよ。たぶん間違いないはず!」

アデルは地図よりも前方の通りを気にしながら眉を上げた。

「それにしても、どこの家もけっこう白いんだな。トットルのとこもそうだったし。」

「白は“縁起が良い色”って昔から言われてるからね。幸運を呼ぶ色なの。わたしの選んだ宝石も“幸福の石”だってトットルさん言ってたし。」

「へぇ〜。知らんかったわ。」

アデルが興味深げに頷いた直後、リノアの指が前方を指す。

「あっ……見えた!あの建物!」

通りの先に、黒鉄で補強された重厚な扉と、巨大な掲示板を備えた建物が見えた。
大剣を背負う者、鎧を鳴らす者、ローブを揺らす魔導士――屈強な者たちが次々と出入りする。

アデルの目がギラつく。

「つっよそうなのいっぱい居るじゃねぇか……ケンカふっかけてみっか?」

「アデル!!絶対やめてね!? 絶対だよっ!!」

「……チッ。わかったよ。」

リノアが扉を開けると、乾いた鈴の音がカランと鳴る。
ギルド内はざわめきと酒の匂いで満ちていた。
掲示板前では冒険者たちが依頼書を奪い合い、奥のカウンターでは受付嬢が慌ただしく人々をさばいている。

その視線が一斉に、リノアとアデルに注がれた。

(う、うわ……見られてる……!)
(なんだよ見てんじゃねぇよ……ケンカ売ってんのか……?)

リノアは小声でアデルの服を引っ張る。

「アデル、睨まないで。お願いだから。」

「うっ……わかってるよ……元々こういう顔なんだよ!」

二人はカウンターへ向かい、受付嬢が微笑みながら迎えた。

「ご用件はなんでしょうか?」

「ギルドに登録したくて……どうすればいいですか?」

「ギルド登録ですね。お二人で千バルになります。」

「えっ……お、お金……」

リノアの頬がひきつる。アデルも固まる。

そのとき――

後ろから、がらっぱちの声。

「おいおい、金ねぇってどういうこったぁ?おい聖女さんよ、いいブレスレットしてるじゃねぇか?それ、盗んだんじゃねぇのかぁ?」

振り返ると、丸太のような腕をしたスキンヘッドの超強面男が立っていた。

「盗んでない!!トットルさんからもらったの!!」

リノアは反射的に言い返してしまう。

「はぁ?あの宝石屋からぁ?嘘つけ!あそこは貴族しか入れねぇんだよ!!貧乏人が背伸びしてんじゃねぇ!!」

外野からも笑い声とヤジが飛ぶ。

「聖女っても安物じゃねぇの?」
「隣のガキなんて見るからに貧乏だしな!」

リノアの瞳が揺れた――が。

次の瞬間、アデルが男に向き直り、

「おいハゲコラァ!!貧乏の何が悪いんだ?ああ!? 上着も着てねぇおまえこそ貧乏だろうがぁ!貧乏野郎に貧乏って言われたくねぇわ!クソハゲが!!」

ギルドの空気が凍りつく。

男のこめかみに青筋が浮かび上がった。

「……ガキ。テメェ誰に口きいてんだ?俺は二つ星プレート様なんだぞ。星なしが調子のんな。今なら許してやる。アクセサリー置いて消えな。」

しかしアデルは、男が終わるより早く――

いつの間にか男の腹に指を当てていた。

「アデル……やめ――」

ドゴォ!!!

男の巨体が一直線に吹き飛び、扉を突き破って外まで転がった。

ギルド全体が静まり返る。

「アデルっ!!な、なんてことを……!」

「殺してねぇよ。超手加減したわ。」

男は血走った目で立ち上がり、叫ぶ。

「ガキィィィ!!!ぶっ殺す!!」

拳がアデルへ走る。
だがアデルは片手で受け止め、あくびをしながら言う。

「へなちょこパンチすぎんだろ。パンチはな――こうだっ!!」

ズドッ!!

みぞおちへの強烈な一撃。男は膝をついて悶絶する。

「アデル!!やりすぎ!! だ、大丈夫ですか?“ヒール”!」

リノアが男に近づくと、男はリノアを突き飛ばした。

「触んな!!」

リノアが尻餅をつく。

――アデルの目が、静かに切り替わる。

「……今、リノアに何した?」

拳を握った瞬間――

「若いっていいねぇ〜!元気で何よりだぁ〜!」

階段から “薄いあご髭の男” が手を叩きながら降りてくる。
その瞬間、冒険者達の顔色が変わった。

「マ……マスター……!」

アデルの動きが止まる。

髭の男は堂々とアデルへ歩み寄り、いきなり身体を触り始めた。

「おお〜いい筋肉だねガキ〜。引き締まってるし。将来性もバリ高だねぇ〜」

「触んなチョビ髭!!!」

ガロンは全く気にせずニヤニヤ。

続けてリノアを見る。

「聖女様、君の光魔法すごかったぞ〜。あの一瞬でグレックほぼ回復してた。すごいね?」

リノアは頬を赤くしながら小さく頭を下げた。

そしてガロンは受付嬢へ言う。

「リンダちゃん、この二人、一つ星プレート作っといて〜。マスター命令ね〜。」

「かしこまりました。」

アデルは叫ぶ。

「てめぇ!!“マスター”って名前か!!」

ガロンは笑った。

「違うよ〜。俺の名前は“ガロン”。ギルドで一番偉くて、一番強いヤツのことを“ギルドマスター”って呼ぶんだよ〜。」

その言葉を聞いた瞬間――

アデルの口角がゆっくり上がる。

「おいマスター!!オレと勝負しろ!!!」

ギルドがざわつく。

ガロンは飄々と頷く。

「いいよ〜。」

周囲が一斉にどよめいた。

ーーーーー


訓練場の地面は、昼の光を浴びて白く乾き、砂が風にさらわれて細かな霧となって漂っていた。
ギルドの建物の奥に隠されたこの広場は、冒険者だけが立ち入ることを許された場所だ。
ざわめき──金属のこすれる音──そして野次と期待を含んだ視線が、アデルへ一斉に降り注ぐ。

ガロンは訓練場の中央に立っていた。
肩までの薄茶髪がゆるく揺れ、陽光に照らされた鋼のような腕が静かに組まれている。
その眼は、猛獣の王のように余裕と威圧を同時に宿していた。

アデルは拳を握る。
心臓がバクバクと跳ね、腕の血管をドクドク流れる血流が熱い。
でも──怖くない。
むしろ、この強者をぶっ倒す未来しか見えていない。

リノアが小さく袖を引く
「アデル、本当に……大丈夫?」

「大丈夫じゃねえよ。最高にワクワクしてるだけだ。」

アデルはワルガキみたいに笑った。

ガロンは片手をひょいと上げ、挑発するように言う。

「よーし、ガキ。準備ができたらかかってこい。
 手加減はしねぇぞ〜?」

その瞬間──空気が張り詰めた。

アデルが地面を蹴った。
砂が弾け、音が遅れてついてくるほどの加速。

「ぶっ飛べええ!!! ペガルイム・プルス!!」

拳が空気を裂き、轟音を残して一直線にガロンの腹へ突き刺さる──はずだった。

だが。

ドンッ。

拳は確かに当たった。
けれどガロンは微動だにしない。
防御すらしていない。
鼻をほじりながら、アデルを見下ろしている。

「ほらな、言ったろ。俺、けっこう硬いんだよって言ったっけな??。」

アデルの背筋に、ザクリと冷たいものが走る。

(ウソだろ……!? 全力で入れたのに……!?)

「おいおい、ガキ。泣きそうな顔すんなって。」

「泣くかよ!! チョビ髭ふざけんじゃねえ!!」

アデルは怒りと悔しさのまま、怒涛の連撃を叩き込む。
拳、肘、膝、踵。
風圧だけで地面の砂が渦巻くほどの速度。

だがガロンは──一度のけ反りもせず受け続けた。

「いいじゃねぇかその勢い。もっと来いよ。」

「ふざけんなぁぁぁあああ!!」

アデルが再び踏み込もうとした瞬間──

「アデル、どいてっ!!」

リノアの魔法が飛んできた。

「アネマ!!」

風の魔弾がガロンの顔面へ直撃──したかに見えた。

「……目に砂入ったわ〜。痛ってぇ……」

ぱちぱち、と目をこするガロン。
攻撃のダメージではなく、“砂が入ったから痛い” だけ。

リノアの顔が青ざめる。

(嘘……当たってるのに、効いてない……)

ここから、二人の総攻撃が始まった。

アデルは低い姿勢から跳び込み、全身を鞭みたいにしならせて拳を重ねる。
リノアは“フラッゲルム”を呼び出し、鞭のようにしなやかな風をガロンへ叩きつける。

鞭が空気を裂き、アデルの拳が肉を叩くたびに、乾いた音が訓練場に響いた。

ガロンは、涼しい顔で二人を見ていた。

「ふむふむ。まあまあかな〜。
 適当な魔物なら倒せるレベルだぞ?」

「黙れぇぇ!!」

アデルが叫んだ瞬間──

ガロンの姿が、かき消えた。

空気が一瞬空白になり、次に感じたのは“衝撃”だけ。

パァンッ!!

アデルの腹に、ガロンのデコピンが突き刺さる。
拳より速く、槍より鋭い、“指” の一撃。

アデルの体が宙へ跳ね上がり、地面へ転がる。

「ぐっ……は……!」

アデルの視界が揺らぎ、全身がしびれる。

リノアが叫ぶ
「アデル!!やめて……危ない!!」

「リノア、逃げ──」

言うより早く、ガロンがリノアの正面に立っていた。

目の前に“存在した”のではなく──
瞬きの間に“現れた”と錯覚するほど速い。

「聖女様には〜……これ。」

チョン。

軽いデコピン。
それだけ。

なのにリノアの体はふわっと浮き、力が抜けたように倒れ込む。

地面へ落ちる前に、ガロンが片手で優しく受け止める。

「無茶すんなよ〜。まだ子どもなんだからさ。」

地面にやさしく寝かせてから、今度はアデルの前に立つ。

アデルは唇を噛み、ゆらりと立ち上がる。

「……まだ……終わってねぇ……!」

「その根性は褒めるわ。
 でもな──“覚悟の質” がまだ甘い。」

ガロンが右腕を引く。

世界がスローモーションになった。

アデルの鼓動がドクッと跳ね、汗が頬をつたう。
ガロンの指先から、ほんのわずかに殺気が漏れた。

それは魔物でも盗賊でも感じたことのない、圧倒的な“格”だった。

アデルは悟った。

(……勝てない)

次の瞬間。

パチンッ。

たったひとつのデコピンが、雷鳴に似た轟音を生んだ。

衝撃が身体の中心を貫き、視界が真っ白に染まる。
アデルの体は弾丸のように吹き飛び、訓練場の端に転がって止まった。

……静寂。

誰も声を出さない。
空気だけが震えていた。

ガロンは腕を下ろし、肩をすくめる。

「ん〜……今日はこのくらいでいっか。
 二人とも根性あるし、気に入ったぞ。」

アデルの意識は途切れた。

砂の匂い。
遠くのざわめき。
リノアのかすかな声。

それらが遠ざかり──
暗闇へ落ちた。

――暗い。
 何か重たい膜の底に沈んでいるような感覚から、リノアはゆっくりと浮かび上がってきた。

「ん……っ、ん……」

 まぶたを開けると、柔らかな光が差し込んでくる。木造の天井。薬草系の匂い。布団の温もり。
 視界がはっきりしてくると、横で誰かがタオルを絞っている。

「ようやくお目覚めになりましたか、聖女様」

 優しい声。ギルドの受付嬢――リンダだった。

「わたし……どうして……ここに……?」

「マスターとの戦闘のあと、冒険者の方々があなたを担いで二階まで運んだのですよ。
 幸い、先に戻ってきていたもう一人の聖女様が傷を癒してくださいました。」

「……もう一人の、聖女?」

「はい。ゼーラ様とおっしゃいます。あなたの隣の部屋で、今はアデル様の治療を続けておられます。」

「アデル……!」

 その名前を聞いた瞬間、リノアはシーツを跳ねのけて立ち上がった。
 頭がふらつき、足元が不安定でも気にしていられない。
 扉へと一直線に駆け出す。

隣の部屋の扉を勢いよく開ける。

「アデル!! 大丈夫ッ!?」

 だが視界に飛び込んできたのは――
 リノアと同じ白髪を持つ少女。
 褐色の肌。腰まで届く長い髪。柔らかく揺れる瞳。

 少女は跳ねるように驚いて、胸元を押さえた。

「ひゃ……! あ、あの……お仲間……さん、ですよね……?」

「あ、ご、ごめんなさい! 勢いよく開けちゃって……!」

「だ、大丈夫です……心臓は……少しだけ驚きましたけど……」

 控えめで、ふわりとした雰囲気。
 もう一人の“聖女”――ゼーラ。

「あなたがゼーラさん?」

「は、はい……。ゼーラと申します……。
 リンダさんから、もう一組の聖女パーティーが来たと聞いて……ちょっと、会ってみたくて……。」

 ゼーラは照れたように微笑む。

「わたしはリノア! あ、アデルの様子はどう……?」

「いまは大分良くなっています。あと少しで、治療も終わります。」

 ベッドに横たわるアデルの体には、まだ痛ましいアザがいくつか残っていた。

 その姿を見て、リノアの胸がぎゅっと痛んだ。

「アデル……バカだな……」

リノアはアデルに手をかざした。

「――ヒール!」

 光が溢れ、アデルの体のアザが一瞬で消えた。

「リ、リノアさん……治るの、早……っ」

「ゼーラさんがここまで治してくれたからだよ。ありがとう」

「い、いえ……私は……その……」

 照れて俯くゼーラ。
 その横で、アデルがうめき声を上げて目を覚ました。

「ん……? ここどこだ……?」

「遅い!! 起きるの遅い!! バカアデル!!」

「なんだと、あほリノア……ん? 聖女か?」

 アデルは半目のままゼーラを見る。

「ほぉーー!! リノア以外の聖女初めて見た! オレはアデル!! よろしくな!!
 今会ったから友達な!!」

「えっ、えっ……は、はいっ!? よ、よろしくお願いします!!」

 ゼーラは完全にペースを崩され、耳まで赤くなる。

 そんな様子を見て、リノアは苦笑しつつ肘でアデルを小突いた。

「アデル、ゼーラさんが困ってるよ!」

「だって、聖女だぞ? 友達になっとかねーと損じゃん!」

「なにそれ!」

 言い合う二人を見て、ゼーラは口元を手で押さえ――そして小さく笑った。

「ふふ……お二人、本当に仲が良いですね」

「「全然仲良くない!!(ねえ!!)」」

 ハモる二人に、ゼーラはもう堪えきれず声を出して笑った。

そこへ、リンダが扉を開けて入ってくる。

「お目覚めになられたようで安心しました。
 リノア様、アデル様。お二人のプレートが完成しておりますので、一階までお越しください。」

部屋を出ようとしたところで、アデルが動かなくなる。

「アデル? どうしたの?」

「……行きたくねー。
 オレ、負けたんだぞ。みんなになんか言われんのムカつく……」

 拳を震わせながら俯くアデル。
 その背中を、リノアはため息をつきながら――思い切り引っ張った。

「アデルらしくない!!」

「いっ……!? なにすんだよ!!」

「負けたくらいでウジウジしてどうすんの!?
 最強の男になるんでしょ!? 悔しいなら強くなればいいの!!
 負けたのが恥ずかしいんじゃなくて、立ち上がれないのが恥ずかしいの!!」

 まっすぐな瞳で叱るリノア。
 その言葉はアデルの胸に深く刺さった。

「……チッ。わかったよ、行きゃいいんだろ!!」

「そう、それでいいの!」

 ゼーラは二人を見て、小さく微笑んだ。

 階段を降りると、冒険者たちの視線が一斉に二人へ向く。

「アデル!睨まない! 普通に歩くの!」

「睨んでねーし!!」

 そんな二人の前に、グレックが立ちはだかった。

「おい、聖女さんら……」

 リノアとアデルが無視して通ろうとすると――

「よくやった!! 根性あんじゃねーか、おまえら!!」

「……は?」

「マスターに挑んで、あそこまで粘る奴初めて見たぞ!」

「聖女もただの箱入りじゃなかったんだな! 見直したぜ!」

「坊主!! あのデコピン食らって反撃してきた奴初めてだわ!!」

 ――誰も、笑わない。
 誰も、バカにしない。
 むしろ全員が、全力で称賛してくれている。

「オ、オレ負けたんだぞ!? なのになんで……」

「勝ち負けじゃねーよ坊主!! あれは“覚悟”を見せた奴の戦いだ!!」

「……!」

 ゼーラが横で、そっと微笑む。

 カウンターに近づくと、リンダが箱を開ける。

 中には――銀のプレート。
 中央に一つの星が刻まれている。

「本日より、あなた方は“一つ星ハンター”。
 どうか冒険者として、この国に貢献していってくださいね。」

 二人はそれを首にかけ合った。

「アデル、似合ってるよ!」

「リノアもな!!」

の瞬間、広間の奥から酒瓶を掲げたグレックが叫んだ。

「よっし!! 歓迎会だあああああ!!」

「「うおおおおおおお!!!」」

 大歓声がギルド中に響き渡る。

 席に連れて行かれ、次々に料理が運ばれてくる。

「アデル! 久しぶりにちゃんとした料理だよ!」

「全部食う!! 吐くまで食う!!」

「アデル、汚い!」

「うるせぇ!! 肉持ってこーーーい!!」

 笑い声。
 杯がぶつかる音。
 冒険者たちが次々に話しかけてくる。

「おまえ、良かったなアデル」

「リノアちゃん、あの魔法すげーな!」

 二人は、やっと心から笑うことができた。

ーーーーーー
写魂石(しゃこんせき)
魂の波長があった物がそれを手にすると、前の石の持ち主の記憶や、経験が魂に刻まれるって言われている石

白星石(はくせいせき)
幸運をもたらす石、そして、願いが叶う石と言われている


本日も見ていただきありがとうございます!!




スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第十一話 初クエスト


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



二人はなんとか駆け足でトットルの店へ飛び込んだ。
「はあーー……っ、間に合ったぜ……!」
「おま……っ、はぁ……お待たせしました、トットルさん……!」
勢いよく開いた扉に、トットルが目を丸くする。
「お、お二人とも……そんなに慌てなくても、大丈夫ですよ。まずは息を整えてください」
「……ふぅ。慌てなくてもよかった感じだな」
「遅れるよりはマシなの!」
リノアが胸をおさえながら息を整える。
少ししてトットルが奥の部屋から戻り、洒落た木箱を抱えて現れた。
「リノア様、アデル様。お二人が選ばれた宝石の加工が終わりました。完成品はこちらです」
パカッ、と箱を開ける。
柔らかな光を放つブレスレットと、紐を通したペンダントトップが並んでいた。
「わあぁ……! ステキ……!」
「石にヒモついてるぞこれ!」
「ええ、リノア様にはこちらのブレスレット。アデル様にはペンダントになります。ぜひお手に取ってみてください」
アデルはペンダントを首にかけ、ニッと笑う。
「これでいいのか? ……おお、悪くねえな!」
「とてもお似合いですよ、アデル様」
「ねえアデル! わたしの見て! ほら、どう?」
リノアは嬉しそうに左手のブレスレットを掲げる。
淡い色の宝石が彼女の白い肌に映えて、とても綺麗だ。
「リノア様も、とてもお似合いです」
「手首につけるやつなんだな! カッケーじゃん!! リノア、オレのも見ろよ! 絶対こっちの方がカッコいいだろ!」
「うん! アデルもすっごく似合ってるよ!」
二人は宝石を見せ合い、子供のように笑い合う。
トットルは目を細めて深々と頭を下げた。
「喜んでいただけて……本当に嬉しいです。父と母を助けてくださり、ありがとうございました」
「こちらこそ、こんな素晴らしいアクセサリーを……。お代、本当にいいんですか?」
「命を救われた家族のためです。受け取るわけにはいきません!」
そのとき、奥からアリエーゼが顔を出す。
「うちの息子が作ったアクセサリー、気に入ってくれた?」
「とっ……とても素晴らしいです!! 本当に嬉しいです……!」
「それは良かったわ」
アデルが勢いよく扉の前へ移動する。
「リノアー! そろそろギルド行こうぜ!」
「もお〜アデル! ちゃんと御礼言うよ!」
リノアがアデルの腕を引っ張り、二人揃って頭を下げる。
アリエーゼは二人の前に立ち、そっと頭に手をかざす。
「レナウス様の導きがあらんことを……。これから大変な旅が続くでしょうけど、お二人なら乗り越えられるわ」
「ありがとうございます、アリエーゼさん!」
アデルが首をかしげた。
「なあギルドってどこにあるんだ?」
トットルはサッと紙を取り出し、ギルドへの道順を書き込む。
「こちらをどうぞ。迷わず行けます」
「なにから何まで本当にありがとうございます!」
「お二人とも、頑張ってくださいね!」
「トットル! 本当にありがとな! ペンダントめちゃくちゃカッケー!」
店を出た二人の背中を見送りながら、アリエーゼは微笑んだ。
「トットル、いい仕事だったよ。もう安心して店任せられるわね」
「えええ!? 急に言うなよ〜!」



二人はなんとか駆け足でトットルの店を出て、白壁の並ぶ通りを走り抜けた。
「リノア、ここを曲がれば本当にギルドで合ってるのか?」
「トットルさんが描いてくれた地図だよ。たぶん間違いないはず!」
アデルは地図よりも前方の通りを気にしながら眉を上げた。
「それにしても、どこの家もけっこう白いんだな。トットルのとこもそうだったし。」
「白は“縁起が良い色”って昔から言われてるからね。幸運を呼ぶ色なの。わたしの選んだ宝石も“幸福の石”だってトットルさん言ってたし。」
「へぇ〜。知らんかったわ。」
アデルが興味深げに頷いた直後、リノアの指が前方を指す。
「あっ……見えた!あの建物!」
通りの先に、黒鉄で補強された重厚な扉と、巨大な掲示板を備えた建物が見えた。
大剣を背負う者、鎧を鳴らす者、ローブを揺らす魔導士――屈強な者たちが次々と出入りする。
アデルの目がギラつく。
「つっよそうなのいっぱい居るじゃねぇか……ケンカふっかけてみっか?」
「アデル!!絶対やめてね!? 絶対だよっ!!」
「……チッ。わかったよ。」
リノアが扉を開けると、乾いた鈴の音がカランと鳴る。
ギルド内はざわめきと酒の匂いで満ちていた。
掲示板前では冒険者たちが依頼書を奪い合い、奥のカウンターでは受付嬢が慌ただしく人々をさばいている。
その視線が一斉に、リノアとアデルに注がれた。
(う、うわ……見られてる……!)
(なんだよ見てんじゃねぇよ……ケンカ売ってんのか……?)
リノアは小声でアデルの服を引っ張る。
「アデル、睨まないで。お願いだから。」
「うっ……わかってるよ……元々こういう顔なんだよ!」
二人はカウンターへ向かい、受付嬢が微笑みながら迎えた。
「ご用件はなんでしょうか?」
「ギルドに登録したくて……どうすればいいですか?」
「ギルド登録ですね。お二人で千バルになります。」
「えっ……お、お金……」
リノアの頬がひきつる。アデルも固まる。
そのとき――
後ろから、がらっぱちの声。
「おいおい、金ねぇってどういうこったぁ?おい聖女さんよ、いいブレスレットしてるじゃねぇか?それ、盗んだんじゃねぇのかぁ?」
振り返ると、丸太のような腕をしたスキンヘッドの超強面男が立っていた。
「盗んでない!!トットルさんからもらったの!!」
リノアは反射的に言い返してしまう。
「はぁ?あの宝石屋からぁ?嘘つけ!あそこは貴族しか入れねぇんだよ!!貧乏人が背伸びしてんじゃねぇ!!」
外野からも笑い声とヤジが飛ぶ。
「聖女っても安物じゃねぇの?」
「隣のガキなんて見るからに貧乏だしな!」
リノアの瞳が揺れた――が。
次の瞬間、アデルが男に向き直り、
「おいハゲコラァ!!貧乏の何が悪いんだ?ああ!? 上着も着てねぇおまえこそ貧乏だろうがぁ!貧乏野郎に貧乏って言われたくねぇわ!クソハゲが!!」
ギルドの空気が凍りつく。
男のこめかみに青筋が浮かび上がった。
「……ガキ。テメェ誰に口きいてんだ?俺は二つ星プレート様なんだぞ。星なしが調子のんな。今なら許してやる。アクセサリー置いて消えな。」
しかしアデルは、男が終わるより早く――
いつの間にか男の腹に指を当てていた。
「アデル……やめ――」
ドゴォ!!!
男の巨体が一直線に吹き飛び、扉を突き破って外まで転がった。
ギルド全体が静まり返る。
「アデルっ!!な、なんてことを……!」
「殺してねぇよ。超手加減したわ。」
男は血走った目で立ち上がり、叫ぶ。
「ガキィィィ!!!ぶっ殺す!!」
拳がアデルへ走る。
だがアデルは片手で受け止め、あくびをしながら言う。
「へなちょこパンチすぎんだろ。パンチはな――こうだっ!!」
ズドッ!!
みぞおちへの強烈な一撃。男は膝をついて悶絶する。
「アデル!!やりすぎ!! だ、大丈夫ですか?“ヒール”!」
リノアが男に近づくと、男はリノアを突き飛ばした。
「触んな!!」
リノアが尻餅をつく。
――アデルの目が、静かに切り替わる。
「……今、リノアに何した?」
拳を握った瞬間――
「若いっていいねぇ〜!元気で何よりだぁ〜!」
階段から “薄いあご髭の男” が手を叩きながら降りてくる。
その瞬間、冒険者達の顔色が変わった。
「マ……マスター……!」
アデルの動きが止まる。
髭の男は堂々とアデルへ歩み寄り、いきなり身体を触り始めた。
「おお〜いい筋肉だねガキ〜。引き締まってるし。将来性もバリ高だねぇ〜」
「触んなチョビ髭!!!」
ガロンは全く気にせずニヤニヤ。
続けてリノアを見る。
「聖女様、君の光魔法すごかったぞ〜。あの一瞬でグレックほぼ回復してた。すごいね?」
リノアは頬を赤くしながら小さく頭を下げた。
そしてガロンは受付嬢へ言う。
「リンダちゃん、この二人、一つ星プレート作っといて〜。マスター命令ね〜。」
「かしこまりました。」
アデルは叫ぶ。
「てめぇ!!“マスター”って名前か!!」
ガロンは笑った。
「違うよ〜。俺の名前は“ガロン”。ギルドで一番偉くて、一番強いヤツのことを“ギルドマスター”って呼ぶんだよ〜。」
その言葉を聞いた瞬間――
アデルの口角がゆっくり上がる。
「おいマスター!!オレと勝負しろ!!!」
ギルドがざわつく。
ガロンは飄々と頷く。
「いいよ〜。」
周囲が一斉にどよめいた。
ーーーーー
訓練場の地面は、昼の光を浴びて白く乾き、砂が風にさらわれて細かな霧となって漂っていた。
ギルドの建物の奥に隠されたこの広場は、冒険者だけが立ち入ることを許された場所だ。
ざわめき──金属のこすれる音──そして野次と期待を含んだ視線が、アデルへ一斉に降り注ぐ。
ガロンは訓練場の中央に立っていた。
肩までの薄茶髪がゆるく揺れ、陽光に照らされた鋼のような腕が静かに組まれている。
その眼は、猛獣の王のように余裕と威圧を同時に宿していた。
アデルは拳を握る。
心臓がバクバクと跳ね、腕の血管をドクドク流れる血流が熱い。
でも──怖くない。
むしろ、この強者をぶっ倒す未来しか見えていない。
リノアが小さく袖を引く
「アデル、本当に……大丈夫?」
「大丈夫じゃねえよ。最高にワクワクしてるだけだ。」
アデルはワルガキみたいに笑った。
ガロンは片手をひょいと上げ、挑発するように言う。
「よーし、ガキ。準備ができたらかかってこい。
 手加減はしねぇぞ〜?」
その瞬間──空気が張り詰めた。
アデルが地面を蹴った。
砂が弾け、音が遅れてついてくるほどの加速。
「ぶっ飛べええ!!! ペガルイム・プルス!!」
拳が空気を裂き、轟音を残して一直線にガロンの腹へ突き刺さる──はずだった。
だが。
ドンッ。
拳は確かに当たった。
けれどガロンは微動だにしない。
防御すらしていない。
鼻をほじりながら、アデルを見下ろしている。
「ほらな、言ったろ。俺、けっこう硬いんだよって言ったっけな??。」
アデルの背筋に、ザクリと冷たいものが走る。
(ウソだろ……!? 全力で入れたのに……!?)
「おいおい、ガキ。泣きそうな顔すんなって。」
「泣くかよ!! チョビ髭ふざけんじゃねえ!!」
アデルは怒りと悔しさのまま、怒涛の連撃を叩き込む。
拳、肘、膝、踵。
風圧だけで地面の砂が渦巻くほどの速度。
だがガロンは──一度のけ反りもせず受け続けた。
「いいじゃねぇかその勢い。もっと来いよ。」
「ふざけんなぁぁぁあああ!!」
アデルが再び踏み込もうとした瞬間──
「アデル、どいてっ!!」
リノアの魔法が飛んできた。
「アネマ!!」
風の魔弾がガロンの顔面へ直撃──したかに見えた。
「……目に砂入ったわ〜。痛ってぇ……」
ぱちぱち、と目をこするガロン。
攻撃のダメージではなく、“砂が入ったから痛い” だけ。
リノアの顔が青ざめる。
(嘘……当たってるのに、効いてない……)
ここから、二人の総攻撃が始まった。
アデルは低い姿勢から跳び込み、全身を鞭みたいにしならせて拳を重ねる。
リノアは“フラッゲルム”を呼び出し、鞭のようにしなやかな風をガロンへ叩きつける。
鞭が空気を裂き、アデルの拳が肉を叩くたびに、乾いた音が訓練場に響いた。
ガロンは、涼しい顔で二人を見ていた。
「ふむふむ。まあまあかな〜。
 適当な魔物なら倒せるレベルだぞ?」
「黙れぇぇ!!」
アデルが叫んだ瞬間──
ガロンの姿が、かき消えた。
空気が一瞬空白になり、次に感じたのは“衝撃”だけ。
パァンッ!!
アデルの腹に、ガロンのデコピンが突き刺さる。
拳より速く、槍より鋭い、“指” の一撃。
アデルの体が宙へ跳ね上がり、地面へ転がる。
「ぐっ……は……!」
アデルの視界が揺らぎ、全身がしびれる。
リノアが叫ぶ
「アデル!!やめて……危ない!!」
「リノア、逃げ──」
言うより早く、ガロンがリノアの正面に立っていた。
目の前に“存在した”のではなく──
瞬きの間に“現れた”と錯覚するほど速い。
「聖女様には〜……これ。」
チョン。
軽いデコピン。
それだけ。
なのにリノアの体はふわっと浮き、力が抜けたように倒れ込む。
地面へ落ちる前に、ガロンが片手で優しく受け止める。
「無茶すんなよ〜。まだ子どもなんだからさ。」
地面にやさしく寝かせてから、今度はアデルの前に立つ。
アデルは唇を噛み、ゆらりと立ち上がる。
「……まだ……終わってねぇ……!」
「その根性は褒めるわ。
 でもな──“覚悟の質” がまだ甘い。」
ガロンが右腕を引く。
世界がスローモーションになった。
アデルの鼓動がドクッと跳ね、汗が頬をつたう。
ガロンの指先から、ほんのわずかに殺気が漏れた。
それは魔物でも盗賊でも感じたことのない、圧倒的な“格”だった。
アデルは悟った。
(……勝てない)
次の瞬間。
パチンッ。
たったひとつのデコピンが、雷鳴に似た轟音を生んだ。
衝撃が身体の中心を貫き、視界が真っ白に染まる。
アデルの体は弾丸のように吹き飛び、訓練場の端に転がって止まった。
……静寂。
誰も声を出さない。
空気だけが震えていた。
ガロンは腕を下ろし、肩をすくめる。
「ん〜……今日はこのくらいでいっか。
 二人とも根性あるし、気に入ったぞ。」
アデルの意識は途切れた。
砂の匂い。
遠くのざわめき。
リノアのかすかな声。
それらが遠ざかり──
暗闇へ落ちた。
――暗い。
 何か重たい膜の底に沈んでいるような感覚から、リノアはゆっくりと浮かび上がってきた。
「ん……っ、ん……」
 まぶたを開けると、柔らかな光が差し込んでくる。木造の天井。薬草系の匂い。布団の温もり。
 視界がはっきりしてくると、横で誰かがタオルを絞っている。
「ようやくお目覚めになりましたか、聖女様」
 優しい声。ギルドの受付嬢――リンダだった。
「わたし……どうして……ここに……?」
「マスターとの戦闘のあと、冒険者の方々があなたを担いで二階まで運んだのですよ。
 幸い、先に戻ってきていたもう一人の聖女様が傷を癒してくださいました。」
「……もう一人の、聖女?」
「はい。ゼーラ様とおっしゃいます。あなたの隣の部屋で、今はアデル様の治療を続けておられます。」
「アデル……!」
 その名前を聞いた瞬間、リノアはシーツを跳ねのけて立ち上がった。
 頭がふらつき、足元が不安定でも気にしていられない。
 扉へと一直線に駆け出す。
隣の部屋の扉を勢いよく開ける。
「アデル!! 大丈夫ッ!?」
 だが視界に飛び込んできたのは――
 リノアと同じ白髪を持つ少女。
 褐色の肌。腰まで届く長い髪。柔らかく揺れる瞳。
 少女は跳ねるように驚いて、胸元を押さえた。
「ひゃ……! あ、あの……お仲間……さん、ですよね……?」
「あ、ご、ごめんなさい! 勢いよく開けちゃって……!」
「だ、大丈夫です……心臓は……少しだけ驚きましたけど……」
 控えめで、ふわりとした雰囲気。
 もう一人の“聖女”――ゼーラ。
「あなたがゼーラさん?」
「は、はい……。ゼーラと申します……。
 リンダさんから、もう一組の聖女パーティーが来たと聞いて……ちょっと、会ってみたくて……。」
 ゼーラは照れたように微笑む。
「わたしはリノア! あ、アデルの様子はどう……?」
「いまは大分良くなっています。あと少しで、治療も終わります。」
 ベッドに横たわるアデルの体には、まだ痛ましいアザがいくつか残っていた。
 その姿を見て、リノアの胸がぎゅっと痛んだ。
「アデル……バカだな……」
リノアはアデルに手をかざした。
「――ヒール!」
 光が溢れ、アデルの体のアザが一瞬で消えた。
「リ、リノアさん……治るの、早……っ」
「ゼーラさんがここまで治してくれたからだよ。ありがとう」
「い、いえ……私は……その……」
 照れて俯くゼーラ。
 その横で、アデルがうめき声を上げて目を覚ました。
「ん……? ここどこだ……?」
「遅い!! 起きるの遅い!! バカアデル!!」
「なんだと、あほリノア……ん? 聖女か?」
 アデルは半目のままゼーラを見る。
「ほぉーー!! リノア以外の聖女初めて見た! オレはアデル!! よろしくな!!
 今会ったから友達な!!」
「えっ、えっ……は、はいっ!? よ、よろしくお願いします!!」
 ゼーラは完全にペースを崩され、耳まで赤くなる。
 そんな様子を見て、リノアは苦笑しつつ肘でアデルを小突いた。
「アデル、ゼーラさんが困ってるよ!」
「だって、聖女だぞ? 友達になっとかねーと損じゃん!」
「なにそれ!」
 言い合う二人を見て、ゼーラは口元を手で押さえ――そして小さく笑った。
「ふふ……お二人、本当に仲が良いですね」
「「全然仲良くない!!(ねえ!!)」」
 ハモる二人に、ゼーラはもう堪えきれず声を出して笑った。
そこへ、リンダが扉を開けて入ってくる。
「お目覚めになられたようで安心しました。
 リノア様、アデル様。お二人のプレートが完成しておりますので、一階までお越しください。」
部屋を出ようとしたところで、アデルが動かなくなる。
「アデル? どうしたの?」
「……行きたくねー。
 オレ、負けたんだぞ。みんなになんか言われんのムカつく……」
 拳を震わせながら俯くアデル。
 その背中を、リノアはため息をつきながら――思い切り引っ張った。
「アデルらしくない!!」
「いっ……!? なにすんだよ!!」
「負けたくらいでウジウジしてどうすんの!?
 最強の男になるんでしょ!? 悔しいなら強くなればいいの!!
 負けたのが恥ずかしいんじゃなくて、立ち上がれないのが恥ずかしいの!!」
 まっすぐな瞳で叱るリノア。
 その言葉はアデルの胸に深く刺さった。
「……チッ。わかったよ、行きゃいいんだろ!!」
「そう、それでいいの!」
 ゼーラは二人を見て、小さく微笑んだ。
 階段を降りると、冒険者たちの視線が一斉に二人へ向く。
「アデル!睨まない! 普通に歩くの!」
「睨んでねーし!!」
 そんな二人の前に、グレックが立ちはだかった。
「おい、聖女さんら……」
 リノアとアデルが無視して通ろうとすると――
「よくやった!! 根性あんじゃねーか、おまえら!!」
「……は?」
「マスターに挑んで、あそこまで粘る奴初めて見たぞ!」
「聖女もただの箱入りじゃなかったんだな! 見直したぜ!」
「坊主!! あのデコピン食らって反撃してきた奴初めてだわ!!」
 ――誰も、笑わない。
 誰も、バカにしない。
 むしろ全員が、全力で称賛してくれている。
「オ、オレ負けたんだぞ!? なのになんで……」
「勝ち負けじゃねーよ坊主!! あれは“覚悟”を見せた奴の戦いだ!!」
「……!」
 ゼーラが横で、そっと微笑む。
 カウンターに近づくと、リンダが箱を開ける。
 中には――銀のプレート。
 中央に一つの星が刻まれている。
「本日より、あなた方は“一つ星ハンター”。
 どうか冒険者として、この国に貢献していってくださいね。」
 二人はそれを首にかけ合った。
「アデル、似合ってるよ!」
「リノアもな!!」
の瞬間、広間の奥から酒瓶を掲げたグレックが叫んだ。
「よっし!! 歓迎会だあああああ!!」
「「うおおおおおおお!!!」」
 大歓声がギルド中に響き渡る。
 席に連れて行かれ、次々に料理が運ばれてくる。
「アデル! 久しぶりにちゃんとした料理だよ!」
「全部食う!! 吐くまで食う!!」
「アデル、汚い!」
「うるせぇ!! 肉持ってこーーーい!!」
 笑い声。
 杯がぶつかる音。
 冒険者たちが次々に話しかけてくる。
「おまえ、良かったなアデル」
「リノアちゃん、あの魔法すげーな!」
 二人は、やっと心から笑うことができた。
ーーーーーー
写魂石(しゃこんせき)
魂の波長があった物がそれを手にすると、前の石の持ち主の記憶や、経験が魂に刻まれるって言われている石
白星石(はくせいせき)
幸運をもたらす石、そして、願いが叶う石と言われている
本日も見ていただきありがとうございます!!