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第十一話 初クエスト

ー/ー



歓迎会から一夜明け、アデルとリノアは、ゼーラが借りている宿屋の一室を間借りしていた。
部屋数は四つしかない小さな宿だが、ちょうど空き部屋が二つあったおかげで、ゼーラにお金を借りてどうにかそこで暮らしている。

「ゼーラ、おはよう!!」

「リノアさん、おはようございます!」

 外の井戸。冷たい水で顔を洗おうとしたところで、二人は鉢合わせる。

「ゼーラ、本当にありがとね! 早くクエストこなしてお金返すから!!」

 ぺこっと頭を下げるリノアに、ゼーラは両手をバタバタ振って慌てた。

「き、気にしないでくださいっ! 返せる時で大丈夫ですから!!」

「ダメよゼーラ! ちゃんとすぐ返すの! ……それより、アデル全然起きないね。ちょっと起こしてくる!」

 リノアはくるっと踵を返し、ドタドタと宿屋の中へと駆けていった。

「本当に、気にしなくていいのにな〜……」

 ゼーラは小さく苦笑しながら、洗った布を手に宿へ戻ろうとする。
 そのとき――遠くから、自分を呼ぶ声がした。

「ゼーラー! やっとクエスト終わったぜー!!」

 振り向くと、自分と同じ褐色肌の少年が、荷物を背負って手を振っている。

「ルイン!! おかえりなさい!!」

「いやぁ、調子乗って一人で行った結果、見事に帰り遅くなっちまったわ」

「だから言ったじゃん、一緒に行こうって。……四つ耳ウサギは見つかったの?」

「それが全然だめ。影も形もねえ。まさに骨折り損だな〜」

「そっかぁ……クエスト失敗しちゃったんだね……」

「だってよ、ギルドの連中、誰一人として見つけたことねーって言ってたし。
 ……にしても、俺がいない間に何か変わったことあったか?」

「えっとね! 私と同じ聖女さんがギルドに来たの! 名前はリノアさんって言うんだよ!
 それでね、友達になって、今は私達と同じ宿で部屋を借りて住んでるの!!」

「おー、マジかよ! この“最大四部屋しかない格安宿”にどんな奴が来るか気になってたけど……聖女だったとはな。
 もちろん聖女一人ってわけじゃないよな?」

「あと、男の子もいるよ。名前はアデルくん! 二人ともマスターに勝負を挑まれてボコボコにされちゃったけど……すっごく強かったの!!」

「へえ〜。マスターの方から勝負ふっかけるなんてあるんだな」

「私もびっくりしちゃったよ。……あ、リノアさんはアデルくんを起こしに宿に戻ってて、丁度ルインが来たところなんだ」

「じゃ、待ってりゃそのうち出てくるかね」

 ルインが肩をすくめたちょうどそのとき――宿屋の方から、元気な声が響いた。

「アデル!! 早く顔洗って、クエスト受けに行くよ!!」

「うっせーな!! わかってるから朝から耳元ででけぇ声出すなって!! 声デカ女!!」

「アデルが全然起きないのが悪いでしょ!! バカアデル!!」

 言い合いながら、二人は井戸のある方へと歩いてくる。
 その傍らでゼーラと一緒に手を振っている見慣れない少年に気づいたアデルは、途端に足を速めた。

「誰だおまえ?」

「俺はルイン。ゼーラから話は聞いたぞ。名前はアデルだったよな!」

「ゼーラの仲間か!! オレはアデル、よろしくな!!」

 ガシッと男同士の握手を交わす。
 少し遅れて、リノアも合流した。

「そっか、ゼーラが一人で旅してるわけないよね!」

「君がリノアだよな? 俺はルインだ!」

「わたしはリノア! よろしくね、ルイン!!」

「おう、こちらこそ!」

 二人も握手を交わす。その横で、アデルはさっさと井戸に向かい、水をくみ上げて顔を洗っていた。

「じゃ、悪いけど俺は少し寝る。さすがに眠すぎる」

 ルインは大きなあくびをしながら、ふらふらと宿の中へ戻っていった。

「ゆっくり休んでくださいね、ルイン!」

 ゼーラが見送り、それからリノアとアデルに向き直る。

「リノアさん、アデルくん。私達はギルドで朝食を取りましょう! お金は私が払います!」

「本当にごめんね、ゼーラ……」

「本当に大丈夫ですから! 遠慮しないでくださいっ!」

「よっしゃあ!! オレ、たんまり食うからな!!」

「アデル!! そこは少しは遠慮しなよ!!」

「ゼーラ! クエストちゃちゃっと終わらせてガッポリ稼いでよ! そしたら今度はオレが奢ってやるから!!
 よし、さっさとギルド行こうぜ!!」

 三人はギルドへと向かった。

 朝だというのに、ギルドの中はかなり賑わっていた。
 掲示板には人だかりができ、テーブルには朝食を取る冒険者たち。あちこちから笑い声と食器の音が聞こえる。

「うへー……多いな、人。朝っぱらからこんなにいるのかよ」

「本当だね。でも、わたしはこういう賑やかな空気、嫌いじゃないよ!」

 リノア達に気づいたのか、禿頭の大男グレックが手を振りながら近づいてきた。

「おう、おはようさん! 朝っぱらから気合い入ってんな!」

「さっさとクエストこなして稼がねーとな。その前に腹ごしらえだ!」

「じゃあ俺も一緒にいいか? 今来たばっかなんだ」

「ん? いいぜ! 一緒に飯食おうぜ!」

 四人は空いているテーブルに座り、運ばれてきた朝食を前に手を合わせた。

「まさか俺が、聖女二人と一緒に飯食える日が来るとはな〜」

「私もです。リノアさん達と同じギルドで食事なんて、ちょっと夢みたいです」

「そういうものなの? 聖女って、そんな珍しいのかな。
 ゼーラとグレックは、他の聖女に会ったことある?」

「俺はここに長く通ってるからな。何人かはあるぞ。
 数年前なんて、とてつもない“圧”を感じる聖女が来てな。ギルドに入ってきた瞬間、殺気すげーわ、オーラすげーわで、正直ちびりそうになった」

「その聖女さんの名前、わかる?」

「すまんが、そこまではわからねえ」

「な〜んだ〜。ビビリのグレック」

「おい、リノア! それは言わないでくれ!!」

「ゼーラはどう? わたし以外の聖女に会った?」

「ここまで旅してきましたが……ほとんど見かけなかったですね。
 聖女さんはもっと塔の近くに集まってるんじゃないでしょうか」

「そっか……。塔に直接向かっちゃってるのかもね」

 リノアは、もくもくと食べているアデルをちらりと見る。
 彼は、周りの話なんてどうでもいいと言わんばかりに、目の前の料理へ全力を注いでいた。

「ここらで一番近い塔はトラウスの塔だしな。その周りのラバン王国のギルドに、聖女が集まってんじゃねーのか?」

 グレックが肉を頬張りつつ言う。
 リノアはふと、彼とゼーラの胸に光るプレートへ目をやった。

「グレックは二つ星なんだね。わたしより弱いのに……」

 唐突な一言に、グレックは盛大にむせた。

「い、いきなりだな、おい!!」

「だって! なんでわたしとアデルは一つ星プレートーなの!?
 せめてグレックより上が良かったんだけど!!」

「リノアの言う通りだ!! なんでグレックよりもオレが下なんだよ!! ボコボコにしたのによ!!」

 いつの間にか食べ終わっていたアデルが、会話に乱入する。

「ギルドにも決まりってもんがあるんだよ!! こればっかはしょうがねえんだ!!」

 アデルは、ふとロランの言葉を思い出した。

「なあ、グレック。“龍極者”ってなんだ?」

「……急に話変わったな。アデル、龍極者を知らねえのか?」

「知らねー!」

「わたしも知らない」

「私は、どんな称号かだけは……聞いたことあります」

「おいおい……知らねえ奴、初めて見たぞ」

「いいからさっさと教えろよ、ツルッツル!」

「誰がツルッツルだ!! ……まあいい、教えてやる。
 龍極者ってのはな、“強さを極限まで極めた”って皆に認められた奴のことだ」

「強さを極限……? どうやって“極めた”って判断すんだよ?」

「ギルド的にわかりやすいのは、六つ星プレートだな」

「六つ星プレートになれば、龍極者って呼ばれんのかよ!?
 だったら簡単じゃねーか!! オレもさっさと六つ星になりてーんだけど、どうすりゃいいんだよ!」

「はははっ! やっぱりおまえはクソガキだな!!」

「誰がクソガキだツルッツル!!」

「六つ星プレートになりたきゃ、“闇獣”を一人で討伐してこい。そしたら即六星だ」

「闇獣? 聞いたことねぇぞ。魔物じゃねーのかよ?」

「全く別物だな。ちなみに“魔獣”もいる」

「魔獣? どっかでうっすら聞いたような……。そんなことより闇獣はどこにいんだよ!!
 掲示板に討伐依頼とか出てねーのか?」

「アデル、おまえのレベルじゃ闇獣どころか魔獣にも勝てねえよ」

「は?! やってみねーとわかんねーだろ!!」

「ちなみに、うちのギルドマスター――ガロンさんは闇獣に敗北してる。
 闇獣との戦闘で臓器を損傷してな。前ほど動けねぇ体になっちまったんだ」

「……う、うそだろ……」

「だからこそ、お前らとの勝負を受けたとき、俺も驚いたんだ。
 あの時のガロンさん、ほとんどその場から動いてなかっただろ?」

 アデルとリノアは昨日の戦闘を思い返す。
 確かにガロンは、最小限しか動いていない。それで二人は一瞬で地面に沈んだ。
 ――本気など、まるで出していなかったのだ。

「なあグレック。そんなに闇獣って、やばいのかよ……」

「ああ。とてつもなくな」

「闇獣って、そこらへんに普通にいるの?」

「アデル、おまえ“黒雪”のことも知らねぇのか」

「えええ!! アデル、うそでしょ!!」

「これは驚きました……。黒雪を知らないなんて……」

 ゼーラとリノアが同時に驚きの声を上げる。

「し、知らねーよ! 誰も教えてくれなかったしな!!」

「パニアさんから何も言われてなかったんですか!?」

「パニア爺からは、ほとんど戦闘訓練しかされてねー!!
 それで! 黒雪ってなんなんだよ、教えろ!!」

 グレックは真顔になり、声を落とす。

「黒雪は、この世界で起こる未曾有の災害だ。
 前触れもなく、空から黒い雪が降ってくる。木は枯れ、水は黒く汚染される。
 その雪を浴び続けると、マナの少ない人間は皮膚が爛れて“グール”になる。
 グールは生きてる奴らを皆“餌”としか認識しねぇ。最近は、グールに噛まれた人間もグールになるって話だ」

「マジかよ……」

「闇獣は、“黒雪を大量に浴びた魔物もしくは魔獣”の変異体だ。
 闇獣は目の数が増える。目が多いほど、化け物じみた強さになる」

「魔物、魔獣が変わった姿、か……。なあグレック、魔獣と魔物はどう違うんだ?」

「魔獣は魔物よりマナが多くて、魔法を使ってくる奴らだ。
 魔獣も十分やべぇ。今のおまえじゃ勝てねえ」

「……っ」

「怖がるな、とは言わねえ。だが、これが現実だ。
 ――で、話戻すぞ。ランクの話だ」

 グレックはパンをちぎりながら続ける。

「ギルドには一から六までのランクがある。
 最初ギルド入りした連中は“星なし冒険者”だ。薬草の採取とか、一つ星プレートの手伝いとかで経験を積み、
 『ビックボア』を五人で討伐できたら、一つ星プレートになれる。――これがランクアップクエストだな」

「ん? オレとリノア、そのランクアップクエストやってねーぞ?」

「お前らは例外だよ。ビックボアなんて、一人で余裕だろ?」

「まあ、そうだな。ハンドベアーも一人で余裕だしな!」

「だろうと思った。二つ星になるには、“ハンドベアー”を五人で討伐できればいい。
 アデルが余裕なら、リノアも余裕だろ?」

「余裕だよ! アデルより早く倒せるもん!」

「なんだとコラ!」

 アデルが言い返そうとした瞬間、リノアはその声を遮るようにゼーラへ向き直る。

「ゼーラは今、星いくつなの?」

「わ、わたしですか!? つい最近、一つ星になりました!」

「ゼーラもわたし達と一緒なんだね! それならさ、わたし達と一緒に冒険しない?
 ゼーラ達って、塔の攻略もう終わっちゃってたりする?」

「全然です!! トラウスの塔に向かうお金が足りなくて、今はギルドで稼いでるところなんです!」

「おおお、それならわたし達も同じ! なおさら一緒に冒険するしかないじゃん!!
 って事でアデル、ゼーラ達と一緒に旅する事になったから!! よろしくね、ゼーラ!!」

「は、はい!! 早速ルインに報告してきます! 先に宿に戻ってますね!!」

「行ってらっしゃーい!!」

 リノアとゼーラは満面の笑みで手を振り合う。

「リノア!! 決めるの早すぎだろ!!」

「アデル、わたし達も宿に戻って、ゼーラ達と今後の事相談するよ!! 善は急げ!!」

「はあ!? ちょ、待てよ!! まだ飯の途中だっ――」

「いいからさっさと行くよ!!」

 リノアは強引にアデルの腕を引っ張り、ギルドの外へ連れ出した。

「おい、まだ説明が全部終わってねぇのに……って、行っちまったか。
 ……ん? ってことはこれ、飯代ぜんぶ俺が払うのか……?」

 グレックは肩を落とし、渋い顔で全員の朝食代を支払うことになった。

   ◇ ◇ ◇

 宿に戻ったリノアとアデルは、真っ先にゼーラの部屋の前へ向かった。
 ノックをすると、「どうぞ〜」と中から声がする。二人はそっと扉を開けた。

「やっぱりリノアさんとアデルくんだ。ね、言ったでしょ、ルイン!」

「だな。……ってアデル、おまえ聞いたよな? 俺たち、パーティ組むことになったんだって」

「リノアの強引な勧誘でな!!」

「強引じゃないし!! でもさ、二人で旅するより四人の方が安心できるでしょ? ね、ゼーラ!」

「はい!! 四人なら、もっと楽しく、それから安心して冒険できます!!」

 女の子二人がテンション高めに盛り上がる傍らで、ルインとアデルは何とも言えない顔で目を合わせた。

「オレ、四人旅するの初めてなんだよな……」

「俺もだ。けど――決まったからにはよろしくな」

 ルインとアデルは再び握手を交わす。

「じゃあ早速だけど、クエスト受けに行きたいと思います!
 まずはお互いの実力を知っておきたいし、いいよね?」

「クエストか! オレは大賛成だ!! とっとと稼ぎてーしな!!」

「私達も大丈夫です。ね、ルイン!」

「ああ。これからパーティーなんだし、ここで足並み揃えとかねーとな!」

 四人は再びギルドへ向かった。

 ギルドの扉を開けると、いつもの賑やかさとは違う、妙な慌ただしさが漂っていた。
 受付嬢リンダが冒険者たちを次々と呼び出し、広間へ集めている。

「なんか……バタバタしてるね」

「みんな、顔が真剣だ。何かあったか?」

「とりあえず、行ってみよう!」

 四人はリンダの元へ向かう。

「リンダさん、何かありましたか?」

「聖女の皆様……! 緊急クエストの依頼です。他の冒険者と一緒に参加していただきたいのです。
 出来る限り、多くの人手が必要で……」

 広間を見ると、すでに十人ほどの冒険者が集まっていた。その中にはグレックの姿もある。

「どんなクエストなんですか? わたし達も参加します」

「助かります……! もうすぐモモから依頼の説明がありますので、広間でお待ちください」

 四人は広間へと向かう。
 周囲では、他の冒険者達も「何が起きた?」「どんなクエストだ?」とざわざわしている。

 そのとき、グレックがこちらに気づいた。

「お、来たな! 聖女二人も参加なら安心だ。回復魔法は聖女しか使えねぇし、ポーションも数に限りがあるからな」

「なあ、ツルッツル。ポーションってなんだ?」

 またもやアデルの呼び方に言葉を詰まらせるグレックだが、ここはぐっと堪える。

「ポーションってのはな、“ペリドット”って石を水に浸けて、その水を倍に薄めた液体だ。
 多少の傷と痛みが和らぐが、それでも完全回復ってわけじゃない」

「なんで倍に薄めんだよ。薄めないと飲めないのか?」

「いや、薄めなくても飲める。つーか、薄めねえ方が効果は絶大だ。
 薄めない液体は“エリクサー”って呼ばれててな。ちぎれた腕ですら一瞬でくっつくらしい」

「一瞬!? すげーな!! じゃあそのエリクサーってやつ買えばよくね?」

 そこにルインも会話へ参加した。

「アデル、エリクサーの値段、知ってるか?」

「知らねー」

「白金一枚だ。普通の人間にはまず手が出ない額だぞ」

「ルインの言う通りだ。俺達じゃまず買えねえ。買えるのは国のトップか、一流の冒険者くらいだな」

「ふーん……じゃあ、そのペリドットって石を見つけりゃいいんじゃねーの?
 見つけまくってエリクサー作って、使い放題にしてやろうぜ」

「言うだけなら簡単だな。だがそのペリドットは“ダンジョン”にしかなくてな、
 もし見つけても国かギルドに報告しねえと、重罪になる」

「はあ!? なんでだよ!! 見つけたもん勝ちだろ!!」

「金になるからだよ。ペリドットはその国の財産になる。
 回復魔法は聖女しか使えねえし、その聖女もそう多くねぇ。噂じゃ年々増えてるって言うが、実感はないな。
 俺達みたいな普通の冒険者の回復手段はポーションに頼るしかねえ。
 だから、冒険者だらけのこの世の中、ポーションは絶対売れる。つまり“金の塊”ってわけだ」

「なるほどな……。なあツルッツル、オレ達の旅におまえもついてこねーか?
 ルインとゼーラとパーティ組んだんだよ。ポーション代も浮くし、金もかからねえぞ〜?」

「バカ言ってんじゃねえ!! 誰が好き好んでお前らと旅すっか!!
 命がいくつあっても足りねえわ!!」

「そんな嫌がんなよ〜!」

「アデル、大抵の冒険者はグレックと同じ反応するぞ。
 俺達の旅って、ほぼ“死にに行く”ようなもんだからな」

「ふざけんなルイン!! オレ達は死なねえ!! どんな敵が来ようが全員一撃でぶっ飛ばしてやる!!」

「わかったわかった。アデル、一旦落ち着け。言い方変えるわ。
 “死が隣り合わせの旅”って感じだな」

「それなら、冒険者も同じじゃねーのか?」

「まあ、確かにな。……けど俺達の方が一歩、死に近づいてる気はするな」

 二人がそんなやり取りをしていると――

「お待たせしましたー!」

 明るい声と共に、モモが広間に姿を見せた。

「冒険者の皆様、緊急依頼へのご協力、本当にありがとうございます!
 今回のクエスト内容は――“ホーネットベアー”の討伐になります!」

「ホーネットベアーだと!!?」

 グレックをはじめ、多くの冒険者が一斉に驚きの声を上げる。

「ホーネットベアーってなんだ? みんな驚いてんぞ。リノア、知ってるか?」

「わたしも初めて聞いた……。ゼーラは?」

「ホーネットベアーは、“ハニーベアー”の亜種です。
 ハニーベアーと違って、非常に攻撃性が強い熊で……爪には神経毒が、尻尾には毒針があると言われています。
 刺されると……死ぬらしいです」

 ゼーラの説明を聞いて、アデルの目が輝いた。

「へえー。ハンドベアーとどっちが強いか、比べてやるぜ!!」

 ルインが、アデルの肩に軽く手を置く。

「アデル。確実にホーネットベアーの方が強いからな?」

 モモが続けて説明する。

「今回目撃されたホーネットベアーは五体です。
 全討伐していただければ、報酬金は金貨二枚になります!
 なお、星なし冒険者さんは参加できません。ご了承ください。
 準備ができましたら、外に鳥車を用意していますので、順次そちらへ。
 危険なクエストになります……皆様の無事の生還と、レナウス様のご加護を祈っております!」

「よっしゃああ!! やってやるぜええ!!」

 一人の冒険者が声を上げると、それに続いて他の者達も拳を突き上げる。

「オレが全部ぶっ飛ばしてやるからな!!」

 アデルは手の平と拳を打ち合わせ、ニヤリと笑った。
 四人は鳥車へと向かう。

 外に停められていた鳥車は、ロランのものより大きく、荷物を積むことを前提に作られていた。
 後部の荷台部分には最大六人が乗れ、二台で合計十二人まで搭乗可能だ。

 リノア達四人は同じ鳥車に乗り、空いた二席にはグレックが座り、その足元には荷物が積まれた。
 鳥車がゆっくりと走り出す。

「グレックさんも、こっちの鳥車なんですね!」

「俺が先に乗ってたら、おまえらが後から乗ってきたんだよ」

「そうだったんですね! 全然気づきませんでした。
 あの……目的地までは、どれくらいかかるんですか?」

「ルーフ領にあるクル村の近くに出たらしい。鳥車で一時間くらいだな。途中で休憩も挟むだろうし」

 それを聞いて、アデルがすぐさま不満をぶつける。

「はあ!? 一時間もかかんのかよ!! ふざけんな!!
 オレは早くホーネットベアーってやつと一戦交えてえんだよ!!」

「俺に文句言うな! それと、ホーネットベアーは本来、二つ星プレートから受けられるクエストだ。
 油断したら普通に死ぬぞ」

「オレは死なねえ!! 最強の男になるって決めてんだからな!!」

「最強の男ねぇ……。なあアデル、今この世界で龍極者って呼ばれてる連中の名前、知ってるか?」

「知らね!!」

「おいおい……他のみんなは?」

 リノアとルインは首を横に振り、ゼーラだけが「あの……」と小さく手を上げた。

「えっと……“剣老ベーエル”。五つ目闇獣ミジェロを一人で討伐した人、です……よね」

「正確には、一人じゃねえ。三つ星と四つ星プレート合わせて三十人の部隊でミジェロに挑んだ。
 ちなみに、うちのマスター――ガロンさんも、その討伐隊に参加してた」

「マスターが……!?」

「部隊が結成されたときは、人数もいるし勝てると思われてた。
 けど結果は“ほぼ全滅”。ガロンさんは腹部に致命傷を負って、今みたいな身体になっちまったんだ」

「マジかよ……。あのおっさんでも勝てねー相手なのかよ……」

「ガロンさんでも無理って……闇獣ってどんだけ……」

「想像つきませんね……。ミジェロは“ココリアの悪魔”って呼ばれてました。
 商業都市ココリアを、たった一晩で破壊してしまったそうです。
 住民のほとんどが……喰われたか、殺されたと……」

「ゼーラはココリアの近くの出身なの?」

「いえ、私とルインはラバン王国出身です。
 トーメル王国に向かう旅の途中で、噂話として聞いただけです」

「グレック、他の龍極者って、どんな奴がいるんだ?」

「他には――エラヴァロン帝国の皇帝、ガルフォス・フレイバル。
 セイム王国の皇太子、“赤太子”イヤン・ルスフェン。
 城壁都市ムガンの“白煌光”騎士団隊長、セイル・フェールマン。
 それから獣王国の王、ギブリヤ・ゼラファだな」

「王族とか騎士団長も龍極者かよ! そいつらもギルドで六星プレートになったのか?」

「たぶんなってねえ。
 龍極者ってのは、“皆から強さを認められた”奴らに付く呼び名だ。
 ギルド目線だと六星プレートが一番わかりやすい基準ってだけだな」

「じゃあなんだよ、ギルドの六星プレートって実はいねぇのかよ!」

「まあ、焦るな。まだ全部言ってねえ。
 次に言う三人はギルドにも所属してて、しかも今挙げた連中より化け物じみてる」

「化け物……? そんなヤベーのが他にもいるのかよ」

「ああ。“闘神”アギト。“魔人竜殺し”ジークヴァルム。
 そして、最も塔の攻略に近いと言われている聖女――“氷鬼レノラ”。
 この三人は、他の龍極者より頭ひとつ抜けてるって話だ」

 その名が出た瞬間、リノアの顔が強張る。

「グレック……レノラって……レノラ・ヴェントル……なの……?」

「ああ。そうだぞ。十六の塔を攻略してるらしい。途中で旅を離脱したりもしてるみたいだがな」

「マジかよ!! そんな奴がいるのかよ!!
 オレら、塔一個も攻略してねーのに!!」

「凄いですね……。そんな人がいるなんて、私知りませんでした……」

「俺もだ。情報がこっちまで届かねえからな」

「それもしょうがねえよ。俺ですら、噂をかき集めてようやく耳に入った話だからな。
 聖女の塔の攻略情報なんて、身近に聖女でもいねえとまず聞こえてこねえ。――って、リノア? どうした?」

「おいリノア。なんで黙り込んでんだ?
 十六の塔攻略してる聖女がいて、悔しいのか?
 まあでも安心しろ。オレがいれば全部一瞬で攻略してやるからよ!!」

「……お、おかあさん……なの……」

「おかあさん? 誰が?」

「レノラ・ヴェントルは……わたしのお母さんなの!!」

「な、なななな、なんだってええええええ!!?」

「声デカいってば!! グレック!! おいアデル、おまえまでビクッて飛び跳ねるな!」

「と、跳ねてねーし!!」

 グレックは興奮したまま、ズイッとリノアの方へ身を乗り出す。

「お、おまえがレノラの娘さんか!! レノラってどんな人なんだ!?
 やっぱり強いのか!? 氷魔法の威力が桁違いって噂で聞いたぞ!! なあ、色々教えてくれよ!」

「おいツルッツル!! いったん落ち着け!!」

「いてっ!」

 アデルにげんこつを落とされ、グレックは頭を押さえる。

「……悪い。興奮しすぎた……すまん、リノア」

「グレック、謝らなくていいよ。
 わたしも……お母さんの事、ほとんど知らないから。
 ただ、“色々な人を助けて、みんなに好かれてる”ってことだけは知ってる。
 それ以外は……生き返らせてから、直接聞こうって決めてるんだ。
 ……ごめんね、話、止めちゃって」

 少し沈んだ空気を、アデルが切り裂くように口を開く。

「悪いなリノア。だけど、もうひとつだけ聞かせてくれ。
 ツルッツル、さっきの三人が“飛び抜けてる”理由ってなんだ?」

「リノアがいいって言うなら話すぞ。いいか?」

「うん。大丈夫」

「よし……。
 アギト、レノラ、ジークヴァルム。こいつら三人が特別とされる理由は――
 今から十四年前、このレナウス大陸に“史上最悪”とも言われる闇獣が生まれたからだ。
 名は――“六黒羽ラヴァ”」

「六黒羽ラヴァ……。俺は聞いたことねぇな。ゼーラは?」

「私もありません……初めて聞く名前です」

「まあ、そりゃそうだ。こいつの情報は“規制”されてるからな」

「なんで規制なんてかけるの? 闇獣が出たら、みんなに知らせた方がいいでしょ?」

「普通はな。けど、こいつは別格だ。
 目の数は九つ。そして、討伐隊一万人を投入して――“全滅”した」

「……っ!!」

「そんな化け物の情報を、正確に公表してみろ。世界中がパニックになるだろ。
 だから、レナウス聖神国の教皇とか一部の上にいる連中だけが詳細を知っている」

「じゃあツルッツルは、なんで知ってんだよ。もしかして、そのラヴァって奴、例の三人に倒されたのか?」

「ああ、その通りだ。
 ラヴァは一万人を屠った後、空を飛んで北の大陸に移動した。
 そこで、レナウス聖神国の教皇が、直々に“イルバード”を使って依頼を出したんだ。
 ――その討伐に向かったのが、アギト、レノラ、ジークヴァルムってわけだな」

「教皇様の直々の依頼……」

「その後、三人がどうなったかまでは知らねえ。ただ、情報が解禁されてるってことは――
 “倒された”ってことだ」

「……これが、世界か。
 いいじゃねーか!! オレが今いる龍極者どもをぶっちぎって、頂点に立ってやる!!
 なんか一気に、気合い入ってきたあああ!!」

「アデルって、いつもあんな感じなのか? リノア」

「ルイン、すぐ慣れるよ。あれが“普通”のアデルだから……」

 ルインはアデルのテンションの上がり方を見て、口元を少し上げた。

「ルイン、どうしたんですか?」

「いや、心強いなって思ってさ。
 アデルみたいなのがパーティに一人いるだけで、やばい状況でもなんとかしてくれそうな……そんな気がした。
 さっきまでの話聞いてちょっとビビってたけど、俺も龍極者になりたくなってきたぜ」

「おっ、ルインもなるのか! どっちが先に龍極者になるか勝負だな!!
 まあ、オレが先なのは決まってっけどな!!」

「舐めんなアデル!! 俺がお前追い抜いて、先に龍極者になってやる!!」

 二人は互いに一歩も引かず、言い合いを続ける。

「グレックさんは、ルインとアデル君の言い合いに参加しないんですか?」

「お、俺はいいんだよ!!」

「グレックも目指せばいいじゃん、龍極者」

「ばっ、バカ言うんじゃねえ!! 本当に俺はいいんだって!!」

「まあ、グレックじゃ無理っぽいよね。アデルにボコボコにされて泣いてたし。
 あと、ちびってたし」

「リノアさん、“ちびってる”って何ですか? あまり聞いたことない言葉です」

「ゼーラ、“ちびってる”っていうのはね――」

「待てえええ!! リノア!! 俺ビビってねーし!! ちびってもねー!!
 嘘教えるな!!」

「え〜? グレック、ビビってたじゃん」

「ぐううう……! ああもういい! 言わせておけ!!
 俺だってなぁ、龍極者になってやるわ!!」

 そう叫ぶと、グレックはアデルとルインのところへ歩み寄り、拳を握る。

「俺も目指すぞ、龍極者!!」

「「おまえは無理だ」」

「なっ……!」

 即答で否定され、グレックはさらにムキになる。

「皆さんとの絆、深まりましたね……!」

「なんだかんだで、男の子って単純だよね」

 そのタイミングで、鳥車がキュッと止まった。
 言い合いをしていた三人もぴたりと黙る。アデルが真っ先に鳥車から飛び降りた。

「ちょっとアデル!!」

 リノアも大急ぎで後を追う。
 いつの間にか周囲には、ぽつぽつと家が立ち並ぶ村の外れが見えていた。

「アデル、なんで無視するの? なにか――……っ」

 言葉が喉で止まる。

 視界の先――土の上に、腹を食いちぎられた人間の死体。
 そして、その傍らには、黄色い頭部と黒い胴体を持つ熊の死骸が、無惨に転がっていた。

「アデル……これって……」

 リノアの肩が小さく震える。
 少し遅れて、ルイン達、それともう一組の冒険者達も追いつき、同じ光景を目にして息を呑んだ。

 御者は顔面蒼白で、手綱を握る手が震えている。

 ルインは無言で周囲を見回し、足元の血痕や足跡を辿る。
 アデル、グレックもそれに続いた。

 額に傷のある冒険者が、低い声で口を開く。

「正直、何が起こってるのか分からねぇ。
 とりあえず、鳥車の護衛組と、付近を探る散策組に別れよう」

「わかった。わたし達のグループが散策に出るよ。
 男達先に行っちゃったしね。ゼーラもそれでいい?」

「もちろんです! 生き残りの人がいないか、ちゃんと確認しないと……!」

「よし、それで行こう。俺達のグループは鳥車を護衛する。聖女達、気をつけろよ!」

「ありがとう!! ゼーラ、先行ったアデル達に追いつこう!!」

「はいっ!!」

 二人は駆け足で、先行したアデル達の元へと走り出した。

ーーーー
魔物図鑑

ホーネットベアー

頭部は黄色く、胴体が黒いクマ、尻尾には蜂が生えており刺されると、死に至る、ホーネットベアーの針は一回使用すると一年は生えてこない為滅多に刺す事はない、爪には神経毒が通っており、その爪に引っ掻かれると、次第に体が麻痺する
十頭で行動する、時々ホーネットベアーの亜種としてクイーンは生まれる事がある、クイーンが統括してるグループだと三十頭で行動する、ホーネットベアーなら二星プレートで間に合うが、クイーンとなると三つ星プレートレベルになる


ペリドット(回癒石(かいゆせき))
水につけるとその水がエリクサーになる、非常に珍しい石

本日も見てくださりありがとうございます!!


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次のエピソードへ進む 第十二話 暴走猪


みんなのリアクション



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歓迎会から一夜明け、アデルとリノアは、ゼーラが借りている宿屋の一室を間借りしていた。
部屋数は四つしかない小さな宿だが、ちょうど空き部屋が二つあったおかげで、ゼーラにお金を借りてどうにかそこで暮らしている。
「ゼーラ、おはよう!!」
「リノアさん、おはようございます!」
 外の井戸。冷たい水で顔を洗おうとしたところで、二人は鉢合わせる。
「ゼーラ、本当にありがとね! 早くクエストこなしてお金返すから!!」
 ぺこっと頭を下げるリノアに、ゼーラは両手をバタバタ振って慌てた。
「き、気にしないでくださいっ! 返せる時で大丈夫ですから!!」
「ダメよゼーラ! ちゃんとすぐ返すの! ……それより、アデル全然起きないね。ちょっと起こしてくる!」
 リノアはくるっと踵を返し、ドタドタと宿屋の中へと駆けていった。
「本当に、気にしなくていいのにな〜……」
 ゼーラは小さく苦笑しながら、洗った布を手に宿へ戻ろうとする。
 そのとき――遠くから、自分を呼ぶ声がした。
「ゼーラー! やっとクエスト終わったぜー!!」
 振り向くと、自分と同じ褐色肌の少年が、荷物を背負って手を振っている。
「ルイン!! おかえりなさい!!」
「いやぁ、調子乗って一人で行った結果、見事に帰り遅くなっちまったわ」
「だから言ったじゃん、一緒に行こうって。……四つ耳ウサギは見つかったの?」
「それが全然だめ。影も形もねえ。まさに骨折り損だな〜」
「そっかぁ……クエスト失敗しちゃったんだね……」
「だってよ、ギルドの連中、誰一人として見つけたことねーって言ってたし。
 ……にしても、俺がいない間に何か変わったことあったか?」
「えっとね! 私と同じ聖女さんがギルドに来たの! 名前はリノアさんって言うんだよ!
 それでね、友達になって、今は私達と同じ宿で部屋を借りて住んでるの!!」
「おー、マジかよ! この“最大四部屋しかない格安宿”にどんな奴が来るか気になってたけど……聖女だったとはな。
 もちろん聖女一人ってわけじゃないよな?」
「あと、男の子もいるよ。名前はアデルくん! 二人ともマスターに勝負を挑まれてボコボコにされちゃったけど……すっごく強かったの!!」
「へえ〜。マスターの方から勝負ふっかけるなんてあるんだな」
「私もびっくりしちゃったよ。……あ、リノアさんはアデルくんを起こしに宿に戻ってて、丁度ルインが来たところなんだ」
「じゃ、待ってりゃそのうち出てくるかね」
 ルインが肩をすくめたちょうどそのとき――宿屋の方から、元気な声が響いた。
「アデル!! 早く顔洗って、クエスト受けに行くよ!!」
「うっせーな!! わかってるから朝から耳元ででけぇ声出すなって!! 声デカ女!!」
「アデルが全然起きないのが悪いでしょ!! バカアデル!!」
 言い合いながら、二人は井戸のある方へと歩いてくる。
 その傍らでゼーラと一緒に手を振っている見慣れない少年に気づいたアデルは、途端に足を速めた。
「誰だおまえ?」
「俺はルイン。ゼーラから話は聞いたぞ。名前はアデルだったよな!」
「ゼーラの仲間か!! オレはアデル、よろしくな!!」
 ガシッと男同士の握手を交わす。
 少し遅れて、リノアも合流した。
「そっか、ゼーラが一人で旅してるわけないよね!」
「君がリノアだよな? 俺はルインだ!」
「わたしはリノア! よろしくね、ルイン!!」
「おう、こちらこそ!」
 二人も握手を交わす。その横で、アデルはさっさと井戸に向かい、水をくみ上げて顔を洗っていた。
「じゃ、悪いけど俺は少し寝る。さすがに眠すぎる」
 ルインは大きなあくびをしながら、ふらふらと宿の中へ戻っていった。
「ゆっくり休んでくださいね、ルイン!」
 ゼーラが見送り、それからリノアとアデルに向き直る。
「リノアさん、アデルくん。私達はギルドで朝食を取りましょう! お金は私が払います!」
「本当にごめんね、ゼーラ……」
「本当に大丈夫ですから! 遠慮しないでくださいっ!」
「よっしゃあ!! オレ、たんまり食うからな!!」
「アデル!! そこは少しは遠慮しなよ!!」
「ゼーラ! クエストちゃちゃっと終わらせてガッポリ稼いでよ! そしたら今度はオレが奢ってやるから!!
 よし、さっさとギルド行こうぜ!!」
 三人はギルドへと向かった。
 朝だというのに、ギルドの中はかなり賑わっていた。
 掲示板には人だかりができ、テーブルには朝食を取る冒険者たち。あちこちから笑い声と食器の音が聞こえる。
「うへー……多いな、人。朝っぱらからこんなにいるのかよ」
「本当だね。でも、わたしはこういう賑やかな空気、嫌いじゃないよ!」
 リノア達に気づいたのか、禿頭の大男グレックが手を振りながら近づいてきた。
「おう、おはようさん! 朝っぱらから気合い入ってんな!」
「さっさとクエストこなして稼がねーとな。その前に腹ごしらえだ!」
「じゃあ俺も一緒にいいか? 今来たばっかなんだ」
「ん? いいぜ! 一緒に飯食おうぜ!」
 四人は空いているテーブルに座り、運ばれてきた朝食を前に手を合わせた。
「まさか俺が、聖女二人と一緒に飯食える日が来るとはな〜」
「私もです。リノアさん達と同じギルドで食事なんて、ちょっと夢みたいです」
「そういうものなの? 聖女って、そんな珍しいのかな。
 ゼーラとグレックは、他の聖女に会ったことある?」
「俺はここに長く通ってるからな。何人かはあるぞ。
 数年前なんて、とてつもない“圧”を感じる聖女が来てな。ギルドに入ってきた瞬間、殺気すげーわ、オーラすげーわで、正直ちびりそうになった」
「その聖女さんの名前、わかる?」
「すまんが、そこまではわからねえ」
「な〜んだ〜。ビビリのグレック」
「おい、リノア! それは言わないでくれ!!」
「ゼーラはどう? わたし以外の聖女に会った?」
「ここまで旅してきましたが……ほとんど見かけなかったですね。
 聖女さんはもっと塔の近くに集まってるんじゃないでしょうか」
「そっか……。塔に直接向かっちゃってるのかもね」
 リノアは、もくもくと食べているアデルをちらりと見る。
 彼は、周りの話なんてどうでもいいと言わんばかりに、目の前の料理へ全力を注いでいた。
「ここらで一番近い塔はトラウスの塔だしな。その周りのラバン王国のギルドに、聖女が集まってんじゃねーのか?」
 グレックが肉を頬張りつつ言う。
 リノアはふと、彼とゼーラの胸に光るプレートへ目をやった。
「グレックは二つ星なんだね。わたしより弱いのに……」
 唐突な一言に、グレックは盛大にむせた。
「い、いきなりだな、おい!!」
「だって! なんでわたしとアデルは一つ星プレートーなの!?
 せめてグレックより上が良かったんだけど!!」
「リノアの言う通りだ!! なんでグレックよりもオレが下なんだよ!! ボコボコにしたのによ!!」
 いつの間にか食べ終わっていたアデルが、会話に乱入する。
「ギルドにも決まりってもんがあるんだよ!! こればっかはしょうがねえんだ!!」
 アデルは、ふとロランの言葉を思い出した。
「なあ、グレック。“龍極者”ってなんだ?」
「……急に話変わったな。アデル、龍極者を知らねえのか?」
「知らねー!」
「わたしも知らない」
「私は、どんな称号かだけは……聞いたことあります」
「おいおい……知らねえ奴、初めて見たぞ」
「いいからさっさと教えろよ、ツルッツル!」
「誰がツルッツルだ!! ……まあいい、教えてやる。
 龍極者ってのはな、“強さを極限まで極めた”って皆に認められた奴のことだ」
「強さを極限……? どうやって“極めた”って判断すんだよ?」
「ギルド的にわかりやすいのは、六つ星プレートだな」
「六つ星プレートになれば、龍極者って呼ばれんのかよ!?
 だったら簡単じゃねーか!! オレもさっさと六つ星になりてーんだけど、どうすりゃいいんだよ!」
「はははっ! やっぱりおまえはクソガキだな!!」
「誰がクソガキだツルッツル!!」
「六つ星プレートになりたきゃ、“闇獣”を一人で討伐してこい。そしたら即六星だ」
「闇獣? 聞いたことねぇぞ。魔物じゃねーのかよ?」
「全く別物だな。ちなみに“魔獣”もいる」
「魔獣? どっかでうっすら聞いたような……。そんなことより闇獣はどこにいんだよ!!
 掲示板に討伐依頼とか出てねーのか?」
「アデル、おまえのレベルじゃ闇獣どころか魔獣にも勝てねえよ」
「は?! やってみねーとわかんねーだろ!!」
「ちなみに、うちのギルドマスター――ガロンさんは闇獣に敗北してる。
 闇獣との戦闘で臓器を損傷してな。前ほど動けねぇ体になっちまったんだ」
「……う、うそだろ……」
「だからこそ、お前らとの勝負を受けたとき、俺も驚いたんだ。
 あの時のガロンさん、ほとんどその場から動いてなかっただろ?」
 アデルとリノアは昨日の戦闘を思い返す。
 確かにガロンは、最小限しか動いていない。それで二人は一瞬で地面に沈んだ。
 ――本気など、まるで出していなかったのだ。
「なあグレック。そんなに闇獣って、やばいのかよ……」
「ああ。とてつもなくな」
「闇獣って、そこらへんに普通にいるの?」
「アデル、おまえ“黒雪”のことも知らねぇのか」
「えええ!! アデル、うそでしょ!!」
「これは驚きました……。黒雪を知らないなんて……」
 ゼーラとリノアが同時に驚きの声を上げる。
「し、知らねーよ! 誰も教えてくれなかったしな!!」
「パニアさんから何も言われてなかったんですか!?」
「パニア爺からは、ほとんど戦闘訓練しかされてねー!!
 それで! 黒雪ってなんなんだよ、教えろ!!」
 グレックは真顔になり、声を落とす。
「黒雪は、この世界で起こる未曾有の災害だ。
 前触れもなく、空から黒い雪が降ってくる。木は枯れ、水は黒く汚染される。
 その雪を浴び続けると、マナの少ない人間は皮膚が爛れて“グール”になる。
 グールは生きてる奴らを皆“餌”としか認識しねぇ。最近は、グールに噛まれた人間もグールになるって話だ」
「マジかよ……」
「闇獣は、“黒雪を大量に浴びた魔物もしくは魔獣”の変異体だ。
 闇獣は目の数が増える。目が多いほど、化け物じみた強さになる」
「魔物、魔獣が変わった姿、か……。なあグレック、魔獣と魔物はどう違うんだ?」
「魔獣は魔物よりマナが多くて、魔法を使ってくる奴らだ。
 魔獣も十分やべぇ。今のおまえじゃ勝てねえ」
「……っ」
「怖がるな、とは言わねえ。だが、これが現実だ。
 ――で、話戻すぞ。ランクの話だ」
 グレックはパンをちぎりながら続ける。
「ギルドには一から六までのランクがある。
 最初ギルド入りした連中は“星なし冒険者”だ。薬草の採取とか、一つ星プレートの手伝いとかで経験を積み、
 『ビックボア』を五人で討伐できたら、一つ星プレートになれる。――これがランクアップクエストだな」
「ん? オレとリノア、そのランクアップクエストやってねーぞ?」
「お前らは例外だよ。ビックボアなんて、一人で余裕だろ?」
「まあ、そうだな。ハンドベアーも一人で余裕だしな!」
「だろうと思った。二つ星になるには、“ハンドベアー”を五人で討伐できればいい。
 アデルが余裕なら、リノアも余裕だろ?」
「余裕だよ! アデルより早く倒せるもん!」
「なんだとコラ!」
 アデルが言い返そうとした瞬間、リノアはその声を遮るようにゼーラへ向き直る。
「ゼーラは今、星いくつなの?」
「わ、わたしですか!? つい最近、一つ星になりました!」
「ゼーラもわたし達と一緒なんだね! それならさ、わたし達と一緒に冒険しない?
 ゼーラ達って、塔の攻略もう終わっちゃってたりする?」
「全然です!! トラウスの塔に向かうお金が足りなくて、今はギルドで稼いでるところなんです!」
「おおお、それならわたし達も同じ! なおさら一緒に冒険するしかないじゃん!!
 って事でアデル、ゼーラ達と一緒に旅する事になったから!! よろしくね、ゼーラ!!」
「は、はい!! 早速ルインに報告してきます! 先に宿に戻ってますね!!」
「行ってらっしゃーい!!」
 リノアとゼーラは満面の笑みで手を振り合う。
「リノア!! 決めるの早すぎだろ!!」
「アデル、わたし達も宿に戻って、ゼーラ達と今後の事相談するよ!! 善は急げ!!」
「はあ!? ちょ、待てよ!! まだ飯の途中だっ――」
「いいからさっさと行くよ!!」
 リノアは強引にアデルの腕を引っ張り、ギルドの外へ連れ出した。
「おい、まだ説明が全部終わってねぇのに……って、行っちまったか。
 ……ん? ってことはこれ、飯代ぜんぶ俺が払うのか……?」
 グレックは肩を落とし、渋い顔で全員の朝食代を支払うことになった。
   ◇ ◇ ◇
 宿に戻ったリノアとアデルは、真っ先にゼーラの部屋の前へ向かった。
 ノックをすると、「どうぞ〜」と中から声がする。二人はそっと扉を開けた。
「やっぱりリノアさんとアデルくんだ。ね、言ったでしょ、ルイン!」
「だな。……ってアデル、おまえ聞いたよな? 俺たち、パーティ組むことになったんだって」
「リノアの強引な勧誘でな!!」
「強引じゃないし!! でもさ、二人で旅するより四人の方が安心できるでしょ? ね、ゼーラ!」
「はい!! 四人なら、もっと楽しく、それから安心して冒険できます!!」
 女の子二人がテンション高めに盛り上がる傍らで、ルインとアデルは何とも言えない顔で目を合わせた。
「オレ、四人旅するの初めてなんだよな……」
「俺もだ。けど――決まったからにはよろしくな」
 ルインとアデルは再び握手を交わす。
「じゃあ早速だけど、クエスト受けに行きたいと思います!
 まずはお互いの実力を知っておきたいし、いいよね?」
「クエストか! オレは大賛成だ!! とっとと稼ぎてーしな!!」
「私達も大丈夫です。ね、ルイン!」
「ああ。これからパーティーなんだし、ここで足並み揃えとかねーとな!」
 四人は再びギルドへ向かった。
 ギルドの扉を開けると、いつもの賑やかさとは違う、妙な慌ただしさが漂っていた。
 受付嬢リンダが冒険者たちを次々と呼び出し、広間へ集めている。
「なんか……バタバタしてるね」
「みんな、顔が真剣だ。何かあったか?」
「とりあえず、行ってみよう!」
 四人はリンダの元へ向かう。
「リンダさん、何かありましたか?」
「聖女の皆様……! 緊急クエストの依頼です。他の冒険者と一緒に参加していただきたいのです。
 出来る限り、多くの人手が必要で……」
 広間を見ると、すでに十人ほどの冒険者が集まっていた。その中にはグレックの姿もある。
「どんなクエストなんですか? わたし達も参加します」
「助かります……! もうすぐモモから依頼の説明がありますので、広間でお待ちください」
 四人は広間へと向かう。
 周囲では、他の冒険者達も「何が起きた?」「どんなクエストだ?」とざわざわしている。
 そのとき、グレックがこちらに気づいた。
「お、来たな! 聖女二人も参加なら安心だ。回復魔法は聖女しか使えねぇし、ポーションも数に限りがあるからな」
「なあ、ツルッツル。ポーションってなんだ?」
 またもやアデルの呼び方に言葉を詰まらせるグレックだが、ここはぐっと堪える。
「ポーションってのはな、“ペリドット”って石を水に浸けて、その水を倍に薄めた液体だ。
 多少の傷と痛みが和らぐが、それでも完全回復ってわけじゃない」
「なんで倍に薄めんだよ。薄めないと飲めないのか?」
「いや、薄めなくても飲める。つーか、薄めねえ方が効果は絶大だ。
 薄めない液体は“エリクサー”って呼ばれててな。ちぎれた腕ですら一瞬でくっつくらしい」
「一瞬!? すげーな!! じゃあそのエリクサーってやつ買えばよくね?」
 そこにルインも会話へ参加した。
「アデル、エリクサーの値段、知ってるか?」
「知らねー」
「白金一枚だ。普通の人間にはまず手が出ない額だぞ」
「ルインの言う通りだ。俺達じゃまず買えねえ。買えるのは国のトップか、一流の冒険者くらいだな」
「ふーん……じゃあ、そのペリドットって石を見つけりゃいいんじゃねーの?
 見つけまくってエリクサー作って、使い放題にしてやろうぜ」
「言うだけなら簡単だな。だがそのペリドットは“ダンジョン”にしかなくてな、
 もし見つけても国かギルドに報告しねえと、重罪になる」
「はあ!? なんでだよ!! 見つけたもん勝ちだろ!!」
「金になるからだよ。ペリドットはその国の財産になる。
 回復魔法は聖女しか使えねえし、その聖女もそう多くねぇ。噂じゃ年々増えてるって言うが、実感はないな。
 俺達みたいな普通の冒険者の回復手段はポーションに頼るしかねえ。
 だから、冒険者だらけのこの世の中、ポーションは絶対売れる。つまり“金の塊”ってわけだ」
「なるほどな……。なあツルッツル、オレ達の旅におまえもついてこねーか?
 ルインとゼーラとパーティ組んだんだよ。ポーション代も浮くし、金もかからねえぞ〜?」
「バカ言ってんじゃねえ!! 誰が好き好んでお前らと旅すっか!!
 命がいくつあっても足りねえわ!!」
「そんな嫌がんなよ〜!」
「アデル、大抵の冒険者はグレックと同じ反応するぞ。
 俺達の旅って、ほぼ“死にに行く”ようなもんだからな」
「ふざけんなルイン!! オレ達は死なねえ!! どんな敵が来ようが全員一撃でぶっ飛ばしてやる!!」
「わかったわかった。アデル、一旦落ち着け。言い方変えるわ。
 “死が隣り合わせの旅”って感じだな」
「それなら、冒険者も同じじゃねーのか?」
「まあ、確かにな。……けど俺達の方が一歩、死に近づいてる気はするな」
 二人がそんなやり取りをしていると――
「お待たせしましたー!」
 明るい声と共に、モモが広間に姿を見せた。
「冒険者の皆様、緊急依頼へのご協力、本当にありがとうございます!
 今回のクエスト内容は――“ホーネットベアー”の討伐になります!」
「ホーネットベアーだと!!?」
 グレックをはじめ、多くの冒険者が一斉に驚きの声を上げる。
「ホーネットベアーってなんだ? みんな驚いてんぞ。リノア、知ってるか?」
「わたしも初めて聞いた……。ゼーラは?」
「ホーネットベアーは、“ハニーベアー”の亜種です。
 ハニーベアーと違って、非常に攻撃性が強い熊で……爪には神経毒が、尻尾には毒針があると言われています。
 刺されると……死ぬらしいです」
 ゼーラの説明を聞いて、アデルの目が輝いた。
「へえー。ハンドベアーとどっちが強いか、比べてやるぜ!!」
 ルインが、アデルの肩に軽く手を置く。
「アデル。確実にホーネットベアーの方が強いからな?」
 モモが続けて説明する。
「今回目撃されたホーネットベアーは五体です。
 全討伐していただければ、報酬金は金貨二枚になります!
 なお、星なし冒険者さんは参加できません。ご了承ください。
 準備ができましたら、外に鳥車を用意していますので、順次そちらへ。
 危険なクエストになります……皆様の無事の生還と、レナウス様のご加護を祈っております!」
「よっしゃああ!! やってやるぜええ!!」
 一人の冒険者が声を上げると、それに続いて他の者達も拳を突き上げる。
「オレが全部ぶっ飛ばしてやるからな!!」
 アデルは手の平と拳を打ち合わせ、ニヤリと笑った。
 四人は鳥車へと向かう。
 外に停められていた鳥車は、ロランのものより大きく、荷物を積むことを前提に作られていた。
 後部の荷台部分には最大六人が乗れ、二台で合計十二人まで搭乗可能だ。
 リノア達四人は同じ鳥車に乗り、空いた二席にはグレックが座り、その足元には荷物が積まれた。
 鳥車がゆっくりと走り出す。
「グレックさんも、こっちの鳥車なんですね!」
「俺が先に乗ってたら、おまえらが後から乗ってきたんだよ」
「そうだったんですね! 全然気づきませんでした。
 あの……目的地までは、どれくらいかかるんですか?」
「ルーフ領にあるクル村の近くに出たらしい。鳥車で一時間くらいだな。途中で休憩も挟むだろうし」
 それを聞いて、アデルがすぐさま不満をぶつける。
「はあ!? 一時間もかかんのかよ!! ふざけんな!!
 オレは早くホーネットベアーってやつと一戦交えてえんだよ!!」
「俺に文句言うな! それと、ホーネットベアーは本来、二つ星プレートから受けられるクエストだ。
 油断したら普通に死ぬぞ」
「オレは死なねえ!! 最強の男になるって決めてんだからな!!」
「最強の男ねぇ……。なあアデル、今この世界で龍極者って呼ばれてる連中の名前、知ってるか?」
「知らね!!」
「おいおい……他のみんなは?」
 リノアとルインは首を横に振り、ゼーラだけが「あの……」と小さく手を上げた。
「えっと……“剣老ベーエル”。五つ目闇獣ミジェロを一人で討伐した人、です……よね」
「正確には、一人じゃねえ。三つ星と四つ星プレート合わせて三十人の部隊でミジェロに挑んだ。
 ちなみに、うちのマスター――ガロンさんも、その討伐隊に参加してた」
「マスターが……!?」
「部隊が結成されたときは、人数もいるし勝てると思われてた。
 けど結果は“ほぼ全滅”。ガロンさんは腹部に致命傷を負って、今みたいな身体になっちまったんだ」
「マジかよ……。あのおっさんでも勝てねー相手なのかよ……」
「ガロンさんでも無理って……闇獣ってどんだけ……」
「想像つきませんね……。ミジェロは“ココリアの悪魔”って呼ばれてました。
 商業都市ココリアを、たった一晩で破壊してしまったそうです。
 住民のほとんどが……喰われたか、殺されたと……」
「ゼーラはココリアの近くの出身なの?」
「いえ、私とルインはラバン王国出身です。
 トーメル王国に向かう旅の途中で、噂話として聞いただけです」
「グレック、他の龍極者って、どんな奴がいるんだ?」
「他には――エラヴァロン帝国の皇帝、ガルフォス・フレイバル。
 セイム王国の皇太子、“赤太子”イヤン・ルスフェン。
 城壁都市ムガンの“白煌光”騎士団隊長、セイル・フェールマン。
 それから獣王国の王、ギブリヤ・ゼラファだな」
「王族とか騎士団長も龍極者かよ! そいつらもギルドで六星プレートになったのか?」
「たぶんなってねえ。
 龍極者ってのは、“皆から強さを認められた”奴らに付く呼び名だ。
 ギルド目線だと六星プレートが一番わかりやすい基準ってだけだな」
「じゃあなんだよ、ギルドの六星プレートって実はいねぇのかよ!」
「まあ、焦るな。まだ全部言ってねえ。
 次に言う三人はギルドにも所属してて、しかも今挙げた連中より化け物じみてる」
「化け物……? そんなヤベーのが他にもいるのかよ」
「ああ。“闘神”アギト。“魔人竜殺し”ジークヴァルム。
 そして、最も塔の攻略に近いと言われている聖女――“氷鬼レノラ”。
 この三人は、他の龍極者より頭ひとつ抜けてるって話だ」
 その名が出た瞬間、リノアの顔が強張る。
「グレック……レノラって……レノラ・ヴェントル……なの……?」
「ああ。そうだぞ。十六の塔を攻略してるらしい。途中で旅を離脱したりもしてるみたいだがな」
「マジかよ!! そんな奴がいるのかよ!!
 オレら、塔一個も攻略してねーのに!!」
「凄いですね……。そんな人がいるなんて、私知りませんでした……」
「俺もだ。情報がこっちまで届かねえからな」
「それもしょうがねえよ。俺ですら、噂をかき集めてようやく耳に入った話だからな。
 聖女の塔の攻略情報なんて、身近に聖女でもいねえとまず聞こえてこねえ。――って、リノア? どうした?」
「おいリノア。なんで黙り込んでんだ?
 十六の塔攻略してる聖女がいて、悔しいのか?
 まあでも安心しろ。オレがいれば全部一瞬で攻略してやるからよ!!」
「……お、おかあさん……なの……」
「おかあさん? 誰が?」
「レノラ・ヴェントルは……わたしのお母さんなの!!」
「な、なななな、なんだってええええええ!!?」
「声デカいってば!! グレック!! おいアデル、おまえまでビクッて飛び跳ねるな!」
「と、跳ねてねーし!!」
 グレックは興奮したまま、ズイッとリノアの方へ身を乗り出す。
「お、おまえがレノラの娘さんか!! レノラってどんな人なんだ!?
 やっぱり強いのか!? 氷魔法の威力が桁違いって噂で聞いたぞ!! なあ、色々教えてくれよ!」
「おいツルッツル!! いったん落ち着け!!」
「いてっ!」
 アデルにげんこつを落とされ、グレックは頭を押さえる。
「……悪い。興奮しすぎた……すまん、リノア」
「グレック、謝らなくていいよ。
 わたしも……お母さんの事、ほとんど知らないから。
 ただ、“色々な人を助けて、みんなに好かれてる”ってことだけは知ってる。
 それ以外は……生き返らせてから、直接聞こうって決めてるんだ。
 ……ごめんね、話、止めちゃって」
 少し沈んだ空気を、アデルが切り裂くように口を開く。
「悪いなリノア。だけど、もうひとつだけ聞かせてくれ。
 ツルッツル、さっきの三人が“飛び抜けてる”理由ってなんだ?」
「リノアがいいって言うなら話すぞ。いいか?」
「うん。大丈夫」
「よし……。
 アギト、レノラ、ジークヴァルム。こいつら三人が特別とされる理由は――
 今から十四年前、このレナウス大陸に“史上最悪”とも言われる闇獣が生まれたからだ。
 名は――“六黒羽ラヴァ”」
「六黒羽ラヴァ……。俺は聞いたことねぇな。ゼーラは?」
「私もありません……初めて聞く名前です」
「まあ、そりゃそうだ。こいつの情報は“規制”されてるからな」
「なんで規制なんてかけるの? 闇獣が出たら、みんなに知らせた方がいいでしょ?」
「普通はな。けど、こいつは別格だ。
 目の数は九つ。そして、討伐隊一万人を投入して――“全滅”した」
「……っ!!」
「そんな化け物の情報を、正確に公表してみろ。世界中がパニックになるだろ。
 だから、レナウス聖神国の教皇とか一部の上にいる連中だけが詳細を知っている」
「じゃあツルッツルは、なんで知ってんだよ。もしかして、そのラヴァって奴、例の三人に倒されたのか?」
「ああ、その通りだ。
 ラヴァは一万人を屠った後、空を飛んで北の大陸に移動した。
 そこで、レナウス聖神国の教皇が、直々に“イルバード”を使って依頼を出したんだ。
 ――その討伐に向かったのが、アギト、レノラ、ジークヴァルムってわけだな」
「教皇様の直々の依頼……」
「その後、三人がどうなったかまでは知らねえ。ただ、情報が解禁されてるってことは――
 “倒された”ってことだ」
「……これが、世界か。
 いいじゃねーか!! オレが今いる龍極者どもをぶっちぎって、頂点に立ってやる!!
 なんか一気に、気合い入ってきたあああ!!」
「アデルって、いつもあんな感じなのか? リノア」
「ルイン、すぐ慣れるよ。あれが“普通”のアデルだから……」
 ルインはアデルのテンションの上がり方を見て、口元を少し上げた。
「ルイン、どうしたんですか?」
「いや、心強いなって思ってさ。
 アデルみたいなのがパーティに一人いるだけで、やばい状況でもなんとかしてくれそうな……そんな気がした。
 さっきまでの話聞いてちょっとビビってたけど、俺も龍極者になりたくなってきたぜ」
「おっ、ルインもなるのか! どっちが先に龍極者になるか勝負だな!!
 まあ、オレが先なのは決まってっけどな!!」
「舐めんなアデル!! 俺がお前追い抜いて、先に龍極者になってやる!!」
 二人は互いに一歩も引かず、言い合いを続ける。
「グレックさんは、ルインとアデル君の言い合いに参加しないんですか?」
「お、俺はいいんだよ!!」
「グレックも目指せばいいじゃん、龍極者」
「ばっ、バカ言うんじゃねえ!! 本当に俺はいいんだって!!」
「まあ、グレックじゃ無理っぽいよね。アデルにボコボコにされて泣いてたし。
 あと、ちびってたし」
「リノアさん、“ちびってる”って何ですか? あまり聞いたことない言葉です」
「ゼーラ、“ちびってる”っていうのはね――」
「待てえええ!! リノア!! 俺ビビってねーし!! ちびってもねー!!
 嘘教えるな!!」
「え〜? グレック、ビビってたじゃん」
「ぐううう……! ああもういい! 言わせておけ!!
 俺だってなぁ、龍極者になってやるわ!!」
 そう叫ぶと、グレックはアデルとルインのところへ歩み寄り、拳を握る。
「俺も目指すぞ、龍極者!!」
「「おまえは無理だ」」
「なっ……!」
 即答で否定され、グレックはさらにムキになる。
「皆さんとの絆、深まりましたね……!」
「なんだかんだで、男の子って単純だよね」
 そのタイミングで、鳥車がキュッと止まった。
 言い合いをしていた三人もぴたりと黙る。アデルが真っ先に鳥車から飛び降りた。
「ちょっとアデル!!」
 リノアも大急ぎで後を追う。
 いつの間にか周囲には、ぽつぽつと家が立ち並ぶ村の外れが見えていた。
「アデル、なんで無視するの? なにか――……っ」
 言葉が喉で止まる。
 視界の先――土の上に、腹を食いちぎられた人間の死体。
 そして、その傍らには、黄色い頭部と黒い胴体を持つ熊の死骸が、無惨に転がっていた。
「アデル……これって……」
 リノアの肩が小さく震える。
 少し遅れて、ルイン達、それともう一組の冒険者達も追いつき、同じ光景を目にして息を呑んだ。
 御者は顔面蒼白で、手綱を握る手が震えている。
 ルインは無言で周囲を見回し、足元の血痕や足跡を辿る。
 アデル、グレックもそれに続いた。
 額に傷のある冒険者が、低い声で口を開く。
「正直、何が起こってるのか分からねぇ。
 とりあえず、鳥車の護衛組と、付近を探る散策組に別れよう」
「わかった。わたし達のグループが散策に出るよ。
 男達先に行っちゃったしね。ゼーラもそれでいい?」
「もちろんです! 生き残りの人がいないか、ちゃんと確認しないと……!」
「よし、それで行こう。俺達のグループは鳥車を護衛する。聖女達、気をつけろよ!」
「ありがとう!! ゼーラ、先行ったアデル達に追いつこう!!」
「はいっ!!」
 二人は駆け足で、先行したアデル達の元へと走り出した。
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魔物図鑑
ホーネットベアー
頭部は黄色く、胴体が黒いクマ、尻尾には蜂が生えており刺されると、死に至る、ホーネットベアーの針は一回使用すると一年は生えてこない為滅多に刺す事はない、爪には神経毒が通っており、その爪に引っ掻かれると、次第に体が麻痺する
十頭で行動する、時々ホーネットベアーの亜種としてクイーンは生まれる事がある、クイーンが統括してるグループだと三十頭で行動する、ホーネットベアーなら二星プレートで間に合うが、クイーンとなると三つ星プレートレベルになる
ペリドット(回癒石(かいゆせき))
水につけるとその水がエリクサーになる、非常に珍しい石
本日も見てくださりありがとうございます!!