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第41話 特務大佐

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 朝風がラグランジュフォー拠点基地に到着して一週間がたった。乗組員たちは基地内で検査を受けたり、式典に参加したりしてあわただしく過ごした。ようやく朝風の士官がそろって、一日の休暇を取ることができたので、瑠璃子は居住区にある将官用の集会所に士官全員を呼び出した。

 天井が高く大きな窓のあるラウンジに、朝風の士官と艦隊司令の瑠璃子と参謀の瞳が顔をそろえた。瑠璃子と瞳を中心に、朝風の士官が思い思いに瀟洒な椅子やソファーに腰を掛けていた。

 瑠璃子はバーカウンターの前に立って「皆さん、集まってくれてありがとう。これからあなた達に大事な相談があるの。明日の艦長が主催する皆さんの慰労式典に関することよ」と言った。

 士官たちが瑠璃子とその隣に立つ瞳に注目した。

「明日の式典の参加は任意ですがが、ここにいるメンバー全員に出席してもらいたいと考えています」と瑠璃子。

「悠木艦長がいないようですが」と恵子。

「ファレン女史とどこかにしけこんでるのよ。あれから宿舎にも帰ってないの」瞳。

「家出したわけじゃないから、心配ないわよ」と瑠璃子。「明日の式典までに戻るって言ってたじゃない」

「姉として心配してるのよ」と瞳。

「今は仕事の打ち合わせ中よ」と瑠璃子。「集中して」

「わかったわ」と瞳。

 桐子が一人の女性を伴ってラウンジに入った。「リリスさんをお連れした」と言いながらカウンターバーに向かった。「会議向きの部屋じゃないね」とつぶやいた。

「お待ちしていました」と瑠璃子。「またお会いできてうれしいわ」とリリスに手を出した。

「こちらこそ、またお会いできて光栄です、瑠璃子殿下」とリリスは幅広の帽子を脱ぎ、手を握った。

「瑠璃子でいいわ。そしてあなたのことをリリスと呼ばせて」と瑠璃子。

「リリスと呼んで頂くのは結構なのですが、殿下を呼び捨てにすることはできません。瑠璃子様と呼ばせていただけないでしょうか」とリリス。

「わかったわ、今はそれでいいわ。リリス」と瑠璃子。

「また会えてうれしいわ、リリス」と瞳。

「こちらこそ、またご一緒できてうれしく思います、瞳様」とリリス。「ところで、悠木は?」

「昨日、リコ・ファレンに会せたら、そのままどこかへ行ってしまったの」と瞳。「会せるんじゃなかったわ」

 リリスは、少し困った表情をした。「それで、このお嬢様方が対象者でしょうか?」とリリス。

「そうなの」と瑠璃子。「だけど、まだ明日の式典のことを話してないの。あなたのことも」

「まずあなたに彼女たちを紹介するわ」と瑠璃子。

「みなさん、重要な話をしますので、こちらに整列してもらえないかしら」と瑠璃子。

 八人の若い士官たちはすばやく立ち上がって、横一列に並んだ。

「この方は、一条リリス特務大佐です」と瑠璃子はリリスを紹介した。「明日の式典にゲストとして出席されます」

 士官たちは階級を聞いて緊張した表情になった。

「一条大佐は現役の軍人ではありませんが、第一次防衛戦争で大きな武勲をあげておられます」と瑠璃子。「失礼の無いように」

 士官たちは、鮮やかな赤色のダッフルコートを着た若い女性が一次戦争の退役軍人と聞いて驚いた顔をした。

「まだなにも話していないのですか?」とリリスは意外な顔をした。

「だいぶ話したのだけど、時間がかかるのよ」と瞳。「ごめんなさい。少し自己紹介をしてもらえないかしら」

「わかりました」とリリスは鋭い目を士官たちに向けた。「ただいま紹介に預かった一条リリスだ。肩書は大佐だが、今回の儀式参加のための一時的なものだ。一応軍歴についてだが、第一次防衛戦争で火星周回軌道での防衛任務に就いていた。終結時に諸事情あって戦線を離れた」

「リリス、涙の魔術師暗殺の話はしてあるから」と瞳が口を挟んだ。リリスが軽く頷いた。

「涙の魔術師暗殺の後に始まった魔女狩りを逃れるために、私は戦線を離脱した」とリリス。「それ以降、身を隠していた……。ああ、何を話していいのだろうか」とつぶやいて瞳の顔を見た。

「はい」と恵子が手をあげた。

「どうぞ」とリリス。

「一条大佐が魔女狩りを逃れたということは、大佐は魔女であられるのでしょうか?」と恵子。

「ああ、そうだが、聞いてなかったのか?」とリリス。

「ごめんなさい」と言ってから瞳は士官たちに向かって言った。「一条大佐は著名な魔女です。誘惑のリリスよ。みんな名前くらい知ってるでしょ」

 士官たちはひっと声をあげた。「火星軌道の魔女……、実在したのですか……」と恵子。

「リリス、ごめんなさい。後は私が話すわ」と瞳。リリスは後ろに下がった。瑠璃子に促されて、背もたれの無いカウンターの椅子に士官たちに向かって座った。

「涙の魔術師暗殺以来、魔女の存在も公式の記録から消されたの」と瞳。「だから噂しか残ってないけど、誘惑のリリスの話はほとんど事実よ。現在では名誉を回復されて、特務大佐としての任について頂いているの」

 士官たちは緊張に耐えられないという表情になった。

 瑠璃子がバーカウンターの椅子から立ち上がって言った。「あなたたち、椅子を持ってきて座りなさい」

 士官たちは動かせそうな椅子を持ってきて一列に並べた。

「大佐殿や司令の分も持ってきて丸く並べるんだ」と桐子。「ここは会議に向いてないよ」

「仕方ないでしょ。将官用の施設がここしか空いてなかったのよ」と瑠璃子。

「この調子で話していては、明日の式典に間に合わないのではないでしょうか」とリリス。

「そうね、この子たちに好きなように質問させてもいいかしら」と瑠璃子。

「もちろんかまいません」とリリス。



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 朝風がラグランジュフォー拠点基地に到着して一週間がたった。乗組員たちは基地内で検査を受けたり、式典に参加したりしてあわただしく過ごした。ようやく朝風の士官がそろって、一日の休暇を取ることができたので、瑠璃子は居住区にある将官用の集会所に士官全員を呼び出した。
 天井が高く大きな窓のあるラウンジに、朝風の士官と艦隊司令の瑠璃子と参謀の瞳が顔をそろえた。瑠璃子と瞳を中心に、朝風の士官が思い思いに瀟洒な椅子やソファーに腰を掛けていた。
 瑠璃子はバーカウンターの前に立って「皆さん、集まってくれてありがとう。これからあなた達に大事な相談があるの。明日の艦長が主催する皆さんの慰労式典に関することよ」と言った。
 士官たちが瑠璃子とその隣に立つ瞳に注目した。
「明日の式典の参加は任意ですがが、ここにいるメンバー全員に出席してもらいたいと考えています」と瑠璃子。
「悠木艦長がいないようですが」と恵子。
「ファレン女史とどこかにしけこんでるのよ。あれから宿舎にも帰ってないの」瞳。
「家出したわけじゃないから、心配ないわよ」と瑠璃子。「明日の式典までに戻るって言ってたじゃない」
「姉として心配してるのよ」と瞳。
「今は仕事の打ち合わせ中よ」と瑠璃子。「集中して」
「わかったわ」と瞳。
 桐子が一人の女性を伴ってラウンジに入った。「リリスさんをお連れした」と言いながらカウンターバーに向かった。「会議向きの部屋じゃないね」とつぶやいた。
「お待ちしていました」と瑠璃子。「またお会いできてうれしいわ」とリリスに手を出した。
「こちらこそ、またお会いできて光栄です、瑠璃子殿下」とリリスは幅広の帽子を脱ぎ、手を握った。
「瑠璃子でいいわ。そしてあなたのことをリリスと呼ばせて」と瑠璃子。
「リリスと呼んで頂くのは結構なのですが、殿下を呼び捨てにすることはできません。瑠璃子様と呼ばせていただけないでしょうか」とリリス。
「わかったわ、今はそれでいいわ。リリス」と瑠璃子。
「また会えてうれしいわ、リリス」と瞳。
「こちらこそ、またご一緒できてうれしく思います、瞳様」とリリス。「ところで、悠木は?」
「昨日、リコ・ファレンに会せたら、そのままどこかへ行ってしまったの」と瞳。「会せるんじゃなかったわ」
 リリスは、少し困った表情をした。「それで、このお嬢様方が対象者でしょうか?」とリリス。
「そうなの」と瑠璃子。「だけど、まだ明日の式典のことを話してないの。あなたのことも」
「まずあなたに彼女たちを紹介するわ」と瑠璃子。
「みなさん、重要な話をしますので、こちらに整列してもらえないかしら」と瑠璃子。
 八人の若い士官たちはすばやく立ち上がって、横一列に並んだ。
「この方は、一条リリス特務大佐です」と瑠璃子はリリスを紹介した。「明日の式典にゲストとして出席されます」
 士官たちは階級を聞いて緊張した表情になった。
「一条大佐は現役の軍人ではありませんが、第一次防衛戦争で大きな武勲をあげておられます」と瑠璃子。「失礼の無いように」
 士官たちは、鮮やかな赤色のダッフルコートを着た若い女性が一次戦争の退役軍人と聞いて驚いた顔をした。
「まだなにも話していないのですか?」とリリスは意外な顔をした。
「だいぶ話したのだけど、時間がかかるのよ」と瞳。「ごめんなさい。少し自己紹介をしてもらえないかしら」
「わかりました」とリリスは鋭い目を士官たちに向けた。「ただいま紹介に預かった一条リリスだ。肩書は大佐だが、今回の儀式参加のための一時的なものだ。一応軍歴についてだが、第一次防衛戦争で火星周回軌道での防衛任務に就いていた。終結時に諸事情あって戦線を離れた」
「リリス、涙の魔術師暗殺の話はしてあるから」と瞳が口を挟んだ。リリスが軽く頷いた。
「涙の魔術師暗殺の後に始まった魔女狩りを逃れるために、私は戦線を離脱した」とリリス。「それ以降、身を隠していた……。ああ、何を話していいのだろうか」とつぶやいて瞳の顔を見た。
「はい」と恵子が手をあげた。
「どうぞ」とリリス。
「一条大佐が魔女狩りを逃れたということは、大佐は魔女であられるのでしょうか?」と恵子。
「ああ、そうだが、聞いてなかったのか?」とリリス。
「ごめんなさい」と言ってから瞳は士官たちに向かって言った。「一条大佐は著名な魔女です。誘惑のリリスよ。みんな名前くらい知ってるでしょ」
 士官たちはひっと声をあげた。「火星軌道の魔女……、実在したのですか……」と恵子。
「リリス、ごめんなさい。後は私が話すわ」と瞳。リリスは後ろに下がった。瑠璃子に促されて、背もたれの無いカウンターの椅子に士官たちに向かって座った。
「涙の魔術師暗殺以来、魔女の存在も公式の記録から消されたの」と瞳。「だから噂しか残ってないけど、誘惑のリリスの話はほとんど事実よ。現在では名誉を回復されて、特務大佐としての任について頂いているの」
 士官たちは緊張に耐えられないという表情になった。
 瑠璃子がバーカウンターの椅子から立ち上がって言った。「あなたたち、椅子を持ってきて座りなさい」
 士官たちは動かせそうな椅子を持ってきて一列に並べた。
「大佐殿や司令の分も持ってきて丸く並べるんだ」と桐子。「ここは会議に向いてないよ」
「仕方ないでしょ。将官用の施設がここしか空いてなかったのよ」と瑠璃子。
「この調子で話していては、明日の式典に間に合わないのではないでしょうか」とリリス。
「そうね、この子たちに好きなように質問させてもいいかしら」と瑠璃子。
「もちろんかまいません」とリリス。