次の目的地は、南方の湿地帯。
そこに四天王のひとり、「毒の花」がいるという噂を頼りに、一行は深い森へと足を踏み入れた。
森の奥は常に霧がかかり、鮮やかな花々が咲き乱れている。
だがその花の中心に、妖艶な美しさをたたえた女性が座っていた。
長い黒髪に紫の花を飾り、妖しい笑みを浮かべている。
瞳は夜の闇のように深く、ひと目で人を惑わせそうだ。
「……あなたが、毒の花?」
「ええ、勇者リサラさん。よくいらしたわね。」
その声は甘く、耳に絡みつくようだった。
戦闘が始まると、彼女は毒の花弁を飛ばし、幻惑する香気を放つ。
ガルドが剣を振るうも足元がふらつき、ユリエルが詠唱を誤り、リッドも影から影へ飛び移るがタイミングを外される。
「くっ……強い……!」
「でも……負けない!」
私は息を切らしながらも剣を握り直す。
視界が揺らぎ、意識が遠のきかけたその瞬間、胸の奥でなにかが燃え上がった。
「……はあああっ!」
渾身の一撃。
紫の花びらが宙を舞い、毒の花の身体が崩れ落ちた。
「や、やった……」
「リサラ様!」
三人が駆け寄る。
その瞬間――
「……ふふふ。」
倒れたはずの毒の花が、ゆっくりと目を開けた。
だが先ほどの妖艶な表情は消え、ただ潤んだ瞳で私を見ている。
「……参りました。私、あなたのものです。」
「……え?」
次の瞬間、彼女は私に飛びついてきた。
しなやかな腕が私の首に回り、花の香りが鼻先をくすぐる。
「ちょ、ちょっと待って!? なんで抱きつくの!?」
「だって、負けたら嫁がなきゃいけないんですもの。」
「…………え?」
私の後ろで、三人がぽかんと口を開けている。
「え、氷の牙はそんなこと言ってなかったよな?」
「ちょっと待ってください、じゃああの人も……?」
「……え? 俺たちって……?」
私も顔を真っ赤にしながら、抱きついて離れない毒の花を必死で引きはがそうとする。
「ま、待って! 私、そんなつもりで戦ったんじゃないから!!」
「でもこの森では、強者に敗れた者は嫁ぐのが古い掟なの。」
氷の牙が後ろからゆったりと現れて言った。
「この世界では多重婚は珍しくない。強者の血を増やすのは善とされているからな。」
「……え、まさか私……みんな……?」
ガルド、ユリエル、リッドがそれぞれ複雑な顔で私を見ている。
「リサラ様がそうお望みなら……俺は……」とガルド。
「……理論的には可能ですが、心の準備が……」とユリエル。
「お、俺も……いや、でも……いや、でも!」とリッド。
「ちょ、ちょっと待って!? そんなつもりじゃ……いや、でも……?」
頭がぐるぐるする。
毒の花は満足げに微笑み、氷の牙は無言でこちらを見ている。三人の仲間も妙にそわそわしていて……。
「……なんか、だんだんハーレムみたいになってない?」
私のつぶやきは、森の風にかき消された。