氷の牙との戦いは想像以上だった。
鋭い氷槍が次々と生まれ、ユリエルの結界がきしむ。
ガルドは剣で受け流すが、腕が痺れているのがわかる。
リッドは素早い動きで背後から奇襲を試みるものの、氷の牙はまるで振り向かずに冷気を放ってくる。
「くっ……! 本当に強い……!」
「リサラ様、援護を!」
「まかせて!」
私は一気に踏み込み、剣を振り抜く。
刃が氷の鎧を砕き、彼の身体を貫いた。
氷の牙が呻き、崩れ落ちる。霧のような冷気が散り、山道に静寂が戻った。
「……やった……?」
リッドが息をつく。
ガルドも剣を杖代わりに立ち上がった。
ユリエルが眼鏡を押し上げながら慎重に近づく。
だが、そのとき。
氷の破片の中から、青白い光が集まり始めた。
空気が凍り、風が逆巻く。
砕けたはずの身体が、ゆっくりと、しかし確実に再生していく。
「……は?」
「え、ええええ!?倒したはずじゃ……!」
氷の牙が、何事もなかったかのように立ち上がった。傷ひとつない鎧、静かな瞳。
「魔族はな……不死身だ。」
その声は淡々としているのに、どこか誇りがあった。
「そ、そんなのアリ!?」
「理不尽だ……!」
私は剣を握り直した。だが氷の牙は手を上げて制した。
「安心しろ。俺はもう、お前たちに敵意はない。」
「……え?」
「魔族は弱肉強食。強者には絶対服従だ。」
その言葉に、風の音だけが響いた。
「お前は俺を倒した。ならば、俺はお前の命に従う。」
「……ほんとに?」
「嘘は言わん。人間を襲うなと言われれば、そのようにしよう。」
私は剣を少し下ろし、彼の瞳を見た。冷たい青の奥に、確かに従順さが宿っていた。
「じゃあ、約束して。これからは人間をむやみやたらに襲わないって。」
「誓おう。」
氷の牙は片膝をつき、頭を垂れた。その仕草は、戦場で敵に敗れた将のようで……どこか神聖なものすら感じる。
「必要とあらば、呼べ。俺は駆けつけよう。」
「……え、いいの?」
「俺にとって、強者の命令は絶対だ。」
ガルドが驚いた顔で私を見、ユリエルは何かを計算するように小さく頷き、リッドはぽかんと口を開けていた。
「……じゃあ、次の四天王退治に向かうわよ。」
「「「おーっ!!」」」
山道を下りながら、私は思わず笑った。
まさかこんな頼もしい仲間(?)が増えるなんて。
次はどんな出会いが待っているのだろう。
氷の牙の影が遠くで見守る中、私たちは次の目標へ向けて歩き出した。