町の宿屋の広間を借りて、私たちは向かい合って座っていた。
昼下がりの光が窓から差し込み、外では市場のざわめきがかすかに聞こえる。
なんだろう、すごく普通のお見合いみたいな空気だ。
「では……まずは好きな食べ物から、というのはどうでしょうか。」
ユリエルが提案すると、三人とも背筋を伸ばした。
まるで試験前の学生みたいに真剣だ。
「俺は……肉だな。焼いたやつも、煮込んだやつも好きだ。戦いのあとに食べると生きてるって実感する。」
ガルドががっしりした手で拳を握る。
頼もしさがあるけれど、その顔は照れくさそうだった。
「わ、私は甘いもの……昨日も言いましたけど、クッキーとかケーキとか……。」
「お菓子屋なら、この町の南通りが評判ですよ。」
ユリエルがさっとメモを取り出す姿が妙にまじめで、ちょっと笑いそうになる。
「俺は……干し肉とか、ナッツとか……携帯できるものが好きだな。旅が長いと、そういうのが便利でさ……。」
リッドがぽつりと答える。
案外実用的な趣味嗜好だ。
「じゃあ、趣味とかあります?」
私が聞くと、三人は少し考え込んだ。
「趣味……剣を磨くことかな。きれいにしてると気持ちが落ち着く。」
「僕は……本を読むことです。新しい魔法や歴史を知るのが好きで。」
「俺は……夜に星を見てるのが好きかな。誰もいないところで、じっとしてると落ち着くんだ。」
……なんだろう、三人とも戦う男って感じなのに、こういうの聞くとすごく普通だ。
「リサラ様は? 趣味は……?」
「え、私? ……んー……会社員時代は、たまに雑貨屋さんめぐりとかしてました。あと、カフェでのんびりとか……あ、こっちの世界でもできるかな……。」
少し想像して、思わず笑みがこぼれた。
町の小さなカフェでのんびりお茶を飲んでいる自分と、剣士・賢者・盗賊が隣でそれぞれの趣味の話をしている光景。うん、案外悪くない。
「じゃあ、将来の夢とか、あります?」私がふと口にした。
ガルドはきょとんとした後、真っ直ぐこちらを見た。
「俺は……魔王を倒したら、自分の鍛冶場を持ちたい。剣を作って、守るための道具を増やしていきたい。」
ユリエルは少し考えてから答える。
「僕は……魔法学校を作って、誰でも学べる場所を作りたいですね。知識は平和をもたらすと信じていますから。」
リッドは帽子をいじりながら、はにかむ。
「俺は……小さな店を開きたいな。便利な道具とか売って……ちゃんと人の役に立つ盗賊になりたいんだ。」
私も少し考えた。
「私は……強い家族を作りたいな。血を繋いで……たくさん笑って過ごせるような、そんな未来。」
言った瞬間、三人とも顔を赤くして俯いた。
いやいや、そんなに照れなくても……でも、心のどこかでうれしかった。
窓の外では、夕暮れが町をオレンジ色に染めている。
市場のざわめきが少しずつ落ち着き、宿屋の台所からは美味しそうなシチューの香りが漂ってきた。
「……なんか、すごく普通だな、俺たち。」リッドがぽつりとつぶやく。
「普通が一番ですよ。命を懸ける旅だからこそ、こういう時間が大事なんです。」ユリエルが眼鏡を押し上げて微笑む。
ガルドも大きくうなずいた。「俺、こういうの……いいと思う。」
そして私も、ほんのり頬を赤くしながら、そっと頷いた。
勇者リサラと童貞三勇士のお見合いは、案外普通で、けれど温かい時間だった。